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砕かれるのは骨か魂か。

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その時高瀬は、確実に襲って来るだろう痛みに覚悟した。
頭を割られたら痛いどころの話ではないが、ギュッと目をつぶり、衝撃に備えーーーーーーー。

「タカ子!」

ドンッ……!!
シャン……!!

何が起きたか全くわからなかった。
けれど、気づけば高瀬は竜児の腕の中。
伸ばした手を掴まれ、かき抱くように抱きしめられていた。

「危ない真似を……!!」
「ご、ごめんね?」

今回ばかりは声が震えた。
本気で頭をカチ割られるかと思ったのだ。
そこに弁明の余地はない。

「寿命が縮むかと思いました」
「ごめん……」

抱きしめる力は強く、竜児の言葉はまごう事なき彼の本心だ。

「君は僕を殺す気ですか?」

君が死んだら僕も死にますよ、と。
当然のように告げる竜児。

「いや、憎まれっ子世に憚るって言うし竜児なら長生きできると思う」

冗談半分本気半分の高瀬のセリフに、「僕は本気ですよ」と耳元に囁く竜児。

「ーーーーー知ってる」
「ならば少しは気をつけなさい。いいですね?」
「うん」

大人しく肯けば、ポンポンと震える背中を優しく叩かれる。
彼らが穏やかなムードに浸っていられたのはそこまでだった。

「そ、そうだ、あのお坊さん………!!」

こんなことをしている場合ではない、早くこの場から逃げないとっ!!

「竜児っ……!!」
「ーーーーーー問題ありませんよ、君は何も心配しなくていい」
「は??」

それ、どいういう………。

グルルルルル…………!!!

「ーーーーーーおい、なんだあのでけぇのは!?」
「え?」

疑問符で頭がいっぱいの高瀬の耳に飛び込んできたのは、驚く男の声と、すぐ間近から聞こえる獰猛な獣の唸り声。

「ん?ーーーーー獣!?獣ってなに!?」

いや、さっきまでそんなものいなかったけど!?

「どっから獣なんて……!!」

竜児の胸に顔をうずめていた為、背後で何が起こっているのかを確認していなかった。
慌てて振り向こうとする高瀬だったが、竜児の腕はその拘束をとこうとはしない。

「ちょ、竜児!?」
「ーーーーーー心配ないと言ったでしょう。あれが君を傷つけることはありませんよ」
「はぁ!?詳しく説明求む……!?」

何が起きてんの、今!??

「獣?もしかしてアレクくんが来たの!?それともマルちゃん!?」

高瀬の味方で、尚且つ戦えそうな獣ときたらあの二匹しか思い浮かばない。
だが、「でけぇの」とは一体?
マルちゃんが巨大化でもしているというのか。

がルッツ……!!
『………!!!』

ドサッ……!!
シャンッ………!!


背後から聞こえる激しい戦闘の音。
恐らく僧侶が何かに応戦しているのだろう。
錫杖を振り回すような音が響くが、やがてボキッという音とともに、それも途絶えた。

「ーーーーーーすげぇな。なんだあの牙は」

ゴリッ····ゴリッ····ゴリッ。
ペチャ······。

「りゅ、竜児、なんか心を抉られるような音がするんだけど!?」

気になる。
めちゃくちゃ気になるけどこうなると最早見るのも怖い!

これって一体なんの音!?

戦く高瀬とは反対に「随分下品な」とポツリもらした竜児はあくまで冷静だ。

その間にも聞こえてくるのは、べちゃべちゃ、ぐちゃぐちゃ、という肉を噛み砕くような生々しい音。

いや下品とかそういう次元の問題じゃないよ!

というか·····。

「み、見ても大丈夫?」
「――――やめとけ。吐くぞ」

げ。

「そ、そこまで?」
「······心と言うより魂ごと噛み砕かれていそうだな」
「魂!?」

そりゃ大事である。

龍一までもがそういうと言うことは、もしやかなりの惨劇が······。
見ない方がいいというのはわかっているけれど。

「でもやっぱり気になる!」

えいや、と竜児の隙をついて腕から飛び降りる高瀬。
幸いにして、竜児が再度の拘束を試みる様子はない。

ということは、自主規制的な光景はもう終了した····?

恐る恐る後ろを振り返り、何が起こっているのかを確認しようとしたその時。
ぽふん、と何かに鼻先がぶつかった。

「········ん?」

なんだ、今の感触は。

「ん~??」

思わず両手をわしゃわしゃと動かし、目の前の物体の感触を確かめる。
ふさふさの体毛、これは。

「やっぱりマルちゃん!?」

近すぎて見えん!と少し離れた場所から改めてそれを見上げ―――高瀬は目を丸くして絶句した。

『くう~ん』
「··········は??」

そこにいたのは、見たこともない純白の体毛をした巨大な四つ足の獣。

なんかめっちゃ尻尾を振っているのだが。

――――君、どこの子?


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