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竜児、武闘派に目覚める。

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水子守 不比等みこもり   ふひと、あ~、年はいくつだったか?あいつの年なんざ興味ねぇが、多分アラフィフだアラフィフ。住所はあれだ、山奥だな」

えらい適当に。
しかしいとも容易く黒幕の名前をゲロった男。

「番地なんざ俺でもしらねぇな。とりあえず姉ちゃんの住んでる社の方にでも苦情いれりゃ出てくんじゃねぇか?
あとはなんだ、電話番号?電波なんざねぇぞ?あんな山奥」

社ってなんだ、姉ちゃんって誰だとか、じゃあ、あんたどうやってそいつから連絡を受けたんだとかいろいろ気になるところはあるが、まず一番気になったのは。

「……水子守?四乃森じゃなくて?」

ふひと、というのも随分変わった名前だ。

「水子守ってのは四乃森の分家だな。
あの家に生まれた子供の中で、実際に四乃森を名乗ることのできる子供は少ない。
今その名前を名乗ってんのはあいつを含めて3人、か?
後はそれぞれ別の名を名乗って分家を継いでいるはずだ」

「ーーーー随分四乃森の事情に詳しいようですね」

四乃森一族の情報というのは秘匿され、ほとんど表に出ることはない。
それをこうも簡単にペラペラと話す男に警戒をあらわす竜児。
何か裏があるのではないか、そう勘ぐるのは当然だ。
それを見越したように男は笑う。

「言っとくが、俺はあそこの人間ってわけじゃねぇぞ。
蛇の道は蛇、この業界はどこに行っても最後にゃあの家にたどり着く。
嬢ちゃんみてぇに自由気ままに動いてるフリーの同業者の方がよっぽど珍しいんだよ。
ーーーーま、どうやら嬢ちゃんに関しちゃ、あいつの涙ぐましい努力の成果もあるようだが」
「……努力?」
「その顔だと知らなかったみたいだな?四乃森は異能者ーーーー特に母体となることのできる女の異能者を血眼になってかき集めてるんだ。
嬢ちゃんが今までそいつらの目に止まらなかったのは、あいつが嬢ちゃんの存在を四乃森から秘匿してたからだろう」

ーーーーーー秘匿。つまり庇ってくれていた?龍一が?

「どんな手を使ってでも手に入れちまえばいいものを、結局は嬢ちゃんを守り通すことを優先したわけだ。
あいつは、四乃森の人間にしちゃまともすぎるんだな」

嘲笑しているのか、それとも同情しているのか。
それにはちょっと眉根をよせた竜児。

「愛した女をそんな魔窟のような場所に関わらせたくはないと考えるのはごく当然のことでしょう。
ーーーーー他人に見せるどころか、共有するなどとんでもない話です。囲い込むなら、誰にも見せず己の腕の中だけ。
そもそも結婚してしまえばこちらのものですから」

竜児の言葉に、途中まで「うんうん」と頷いていた高瀬だが、最後の最後にちょっと「ん?」と首を傾げる。

「……竜児?」
「なんですか?」
「いや……」
「こら、なぜ離れていこうとするんですか、君は。危険でしょう?」
「むしろ私の身の危険がーーーーー」
「忘れましたか?君の本体は今僕の部屋のベッドの上に転がっています」
「!!」
「この上なく安全でしょう?」

ね?と微笑まれても危機感は薄れるどころか高まる一方。

「専業主婦という名の監禁フラグがたったのは気のせい?」
「三食昼寝お小遣いにフリーWi-Fi付きですよ」

わぁい、って。おい。それで騙されるか!!

「俺もその意見にゃ同意するがーーー。
その当然が通じないのが四乃森の一族なんだよ。
あいつみてぇにまっすぐな馬鹿か、よっぽど頭のイカれた化物でなきゃ、あの一族に隠し事をしようなんざ考えられねぇ」
「ーーーー一族総出で生贄のごとく能力を持つ女性をかき集めてはしていたわけですか。大した女衒ぜげんですね」
「まったくな。皮肉にもなりゃしねぇよ」

言外にその通りだと認めたような男。
何やら知らぬうちに結構危機的な状況にあったようだが、怖いもの見たさという言葉もある。

「……その一族とやらに知られた女性は最後どうなるの?」
「身篭るまでは一族の種馬相手にひたすら股を開く生活。
身篭ってからは、まぁ、時間差はあれど大抵道は一つだな」

ーーーーーその一つ、ろくなものではあるまい。

「……その言い方じゃ、解放されるってわけじゃなさそうだね」
「当然だな。子を生んでなお生き残れるような優秀な母体を解放する理由がない。
それこそ腹が休む暇もないほど子を産まされる羽目になるだろうよ」
「……生き残る?」

その言い方ではまるで、子供を産む=母親の死を意味しているようだと訝しむ高瀬。

「奴らが霊力の高い女を求めているのもそれが理由だ。
強すぎる霊力を持つ子を身ごもった場合、母体の方がその霊力に耐え切れず先に自滅しちまうんだよ」
「ただ人では彼らが望むような力を持つ子は産めず、運良く腹に宿ったところで母子ともに死産というわけですか」
「実際にゃ、霊力の高い女でも生き残る例は希だけどな。
上手く生き残れたところで力のほとんどを吸い取られて寝たきりになって衰弱死、数年後には大抵死んじまう」
「!!」

とんでもない話を聞いてしまった。
貞操の危機どころか、生命の危機である。
ガクブルしながら竜児を見れば、わかっているとでも言うようにこくりと頷く竜児。

「つまりそんな厄介な連中に目をつけられない為にも、不要な口はさっさと封じる必要があるというわけですね。
ーーーーーー余計な事をペラペラと喋る男の口などは特に」

言わずもがな。
誰を示しているかなど、今更口にするまでもない。

「ーーーーーーちょっと待って竜児」
「ためらう暇はありませんよタカ子。やるなら今です。
幸い今なら遺棄する場所には困りませんし」

そうしてチラリと都合よくそこに存在する土砂の山に視線を向ける竜児。
同じようにそこに視線を向け、「あぁ」と共感したように頷く男。

「ーーーなるほど、確かに効率的かもな」
「納得した!?」

まさかの同意!!
建築中の建物の土台に遺体を遺棄してしまえば簡単に事は済む。
口封じ、ミッションコンプリート。

「じゃなくて……!!待って竜児、ストップ!!」

なんでまた今このタイミングでスタンガン取り出したの!?
ーーーーやるってまさか……!!?

「駄目に決まってるでしょーーーーーーーーーー!!!!」

弁護士が武力を行使しちゃいけませんっ!!

「殺るなら半殺しまで!!」

この際タコ殴りはセ―フとします!!
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