上 下
241 / 290

竜児、武闘派に目覚める。

しおりを挟む
水子守 不比等みこもり   ふひと、あ~、年はいくつだったか?あいつの年なんざ興味ねぇが、多分アラフィフだアラフィフ。住所はあれだ、山奥だな」

えらい適当に。
しかしいとも容易く黒幕の名前をゲロった男。

「番地なんざ俺でもしらねぇな。とりあえず姉ちゃんの住んでる社の方にでも苦情いれりゃ出てくんじゃねぇか?
あとはなんだ、電話番号?電波なんざねぇぞ?あんな山奥」

社ってなんだ、姉ちゃんって誰だとか、じゃあ、あんたどうやってそいつから連絡を受けたんだとかいろいろ気になるところはあるが、まず一番気になったのは。

「……水子守?四乃森じゃなくて?」

ふひと、というのも随分変わった名前だ。

「水子守ってのは四乃森の分家だな。
あの家に生まれた子供の中で、実際に四乃森を名乗ることのできる子供は少ない。
今その名前を名乗ってんのはあいつを含めて3人、か?
後はそれぞれ別の名を名乗って分家を継いでいるはずだ」

「ーーーー随分四乃森の事情に詳しいようですね」

四乃森一族の情報というのは秘匿され、ほとんど表に出ることはない。
それをこうも簡単にペラペラと話す男に警戒をあらわす竜児。
何か裏があるのではないか、そう勘ぐるのは当然だ。
それを見越したように男は笑う。

「言っとくが、俺はあそこの人間ってわけじゃねぇぞ。
蛇の道は蛇、この業界はどこに行っても最後にゃあの家にたどり着く。
嬢ちゃんみてぇに自由気ままに動いてるフリーの同業者の方がよっぽど珍しいんだよ。
ーーーーま、どうやら嬢ちゃんに関しちゃ、あいつの涙ぐましい努力の成果もあるようだが」
「……努力?」
「その顔だと知らなかったみたいだな?四乃森は異能者ーーーー特に母体となることのできる女の異能者を血眼になってかき集めてるんだ。
嬢ちゃんが今までそいつらの目に止まらなかったのは、あいつが嬢ちゃんの存在を四乃森から秘匿してたからだろう」

ーーーーーー秘匿。つまり庇ってくれていた?龍一が?

「どんな手を使ってでも手に入れちまえばいいものを、結局は嬢ちゃんを守り通すことを優先したわけだ。
あいつは、四乃森の人間にしちゃまともすぎるんだな」

嘲笑しているのか、それとも同情しているのか。
それにはちょっと眉根をよせた竜児。

「愛した女をそんな魔窟のような場所に関わらせたくはないと考えるのはごく当然のことでしょう。
ーーーーー他人に見せるどころか、共有するなどとんでもない話です。囲い込むなら、誰にも見せず己の腕の中だけ。
そもそも結婚してしまえばこちらのものですから」

竜児の言葉に、途中まで「うんうん」と頷いていた高瀬だが、最後の最後にちょっと「ん?」と首を傾げる。

「……竜児?」
「なんですか?」
「いや……」
「こら、なぜ離れていこうとするんですか、君は。危険でしょう?」
「むしろ私の身の危険がーーーーー」
「忘れましたか?君の本体は今僕の部屋のベッドの上に転がっています」
「!!」
「この上なく安全でしょう?」

ね?と微笑まれても危機感は薄れるどころか高まる一方。

「専業主婦という名の監禁フラグがたったのは気のせい?」
「三食昼寝お小遣いにフリーWi-Fi付きですよ」

わぁい、って。おい。それで騙されるか!!

「俺もその意見にゃ同意するがーーー。
その当然が通じないのが四乃森の一族なんだよ。
あいつみてぇにまっすぐな馬鹿か、よっぽど頭のイカれた化物でなきゃ、あの一族に隠し事をしようなんざ考えられねぇ」
「ーーーー一族総出で生贄のごとく能力を持つ女性をかき集めてはしていたわけですか。大した女衒ぜげんですね」
「まったくな。皮肉にもなりゃしねぇよ」

言外にその通りだと認めたような男。
何やら知らぬうちに結構危機的な状況にあったようだが、怖いもの見たさという言葉もある。

「……その一族とやらに知られた女性は最後どうなるの?」
「身篭るまでは一族の種馬相手にひたすら股を開く生活。
身篭ってからは、まぁ、時間差はあれど大抵道は一つだな」

ーーーーーその一つ、ろくなものではあるまい。

「……その言い方じゃ、解放されるってわけじゃなさそうだね」
「当然だな。子を生んでなお生き残れるような優秀な母体を解放する理由がない。
それこそ腹が休む暇もないほど子を産まされる羽目になるだろうよ」
「……生き残る?」

その言い方ではまるで、子供を産む=母親の死を意味しているようだと訝しむ高瀬。

「奴らが霊力の高い女を求めているのもそれが理由だ。
強すぎる霊力を持つ子を身ごもった場合、母体の方がその霊力に耐え切れず先に自滅しちまうんだよ」
「ただ人では彼らが望むような力を持つ子は産めず、運良く腹に宿ったところで母子ともに死産というわけですか」
「実際にゃ、霊力の高い女でも生き残る例は希だけどな。
上手く生き残れたところで力のほとんどを吸い取られて寝たきりになって衰弱死、数年後には大抵死んじまう」
「!!」

とんでもない話を聞いてしまった。
貞操の危機どころか、生命の危機である。
ガクブルしながら竜児を見れば、わかっているとでも言うようにこくりと頷く竜児。

「つまりそんな厄介な連中に目をつけられない為にも、不要な口はさっさと封じる必要があるというわけですね。
ーーーーーー余計な事をペラペラと喋る男の口などは特に」

言わずもがな。
誰を示しているかなど、今更口にするまでもない。

「ーーーーーーちょっと待って竜児」
「ためらう暇はありませんよタカ子。やるなら今です。
幸い今なら遺棄する場所には困りませんし」

そうしてチラリと都合よくそこに存在する土砂の山に視線を向ける竜児。
同じようにそこに視線を向け、「あぁ」と共感したように頷く男。

「ーーーなるほど、確かに効率的かもな」
「納得した!?」

まさかの同意!!
建築中の建物の土台に遺体を遺棄してしまえば簡単に事は済む。
口封じ、ミッションコンプリート。

「じゃなくて……!!待って竜児、ストップ!!」

なんでまた今このタイミングでスタンガン取り出したの!?
ーーーーやるってまさか……!!?

「駄目に決まってるでしょーーーーーーーーーー!!!!」

弁護士が武力を行使しちゃいけませんっ!!

「殺るなら半殺しまで!!」

この際タコ殴りはセ―フとします!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

嫁にするなら訳あり地味子に限る!

登夢
恋愛
ブランド好きの独身エリートの主人公にはほろ苦い恋愛の経験があった。ふとしたことがきっかけで地味な女子社員を部下にまわしてもらったが、地味子に惹かれた主人公は交際を申し込む。悲しい失恋をしたことのある地味子は躊躇するが、公私を分けてデートを休日に限る約束をして交際を受け入れる。主人公は一日一日を大切にしたいという地味子とデートをかさねてゆく。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?

おじ専が異世界転生したらイケおじ達に囲まれて心臓が持ちません

一条弥生
恋愛
神凪楓は、おじ様が恋愛対象のオジ専の28歳。 ある日、推しのデキ婚に失意の中、暴漢に襲われる。 必死に逃げた先で、謎の人物に、「元の世界に帰ろう」と言われ、現代に魔法が存在する異世界に転移してしまう。 何が何だか分からない楓を保護したのは、バリトンボイスのイケおじ、イケてるオジ様だった! 「君がいなければ魔法が消え去り世界が崩壊する。」 その日から、帯刀したスーツのオジ様、コミュ障な白衣のオジ様、プレイボーイなちょいワルオジ様...趣味に突き刺さりまくるオジ様達との、心臓に悪いドタバタ生活が始まる! オジ専が主人公の現代魔法ファンタジー! ※オジ様を守り守られ戦います ※途中それぞれのオジ様との分岐ルート制作予定です ※この小説は「小説家になろう」様にも連載しています

処理中です...