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その頃の彼女は。

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「………やればできる子だったんだな、私」
「僕が君にできないことをやれと言ったことがありましたか?」

できるに決まっているでしょうと、当然のように告げる竜児。

いえすあいきゃん!!

自分で自分に感動した。

二人で転移できちゃたよと、涼しい表情の竜児に抱かれたまま、新たなる自身の可能性について考えを巡らせる高瀬。
目の前に広がるのは、既に日暮れ近くの薄暗い工事現場。

転移に成功したことは間違いない。

残念ながら龍一の姿はまだ見当たらないが、必ずこのどこかにいるはず。
探さなければ。

「……しかし自分で言っててなんだけど、この能力便利すぎない?」
「それは使いこなせればの話でしょう?そもそもこの手段で移動できるとすれば僕と賢治…………」
「ケンちゃんと?」
「後は君の所の位なものでしょうね」
「部長?」

ーーーなぜに?

竜児がいけるなら賢治も、というのは何となく理解できる話なのだが、なぜそこに部長が加わるのか。
早く探さなくてはと思う一方、話の意味も気になって仕方ない。

とにかくここにいても仕方ないと、龍児に抱かれたまま移動を開始する高瀬。
気がつけばハム太郎の姿は既にどこにもない。
先に龍一を探してくれているのであればよいが………。

「ちなみち主任は駄目なの?」
「普通の人間が同じことをした場合、下手をすれば行ったきり帰ってこられなくなるでしょうね」

抱えられつつ移動しながら聞けば、帰ってきたのは恐ろしい答え。

って、それじゃあまるで主任以外は普通じゃないみたいな………」

竜児達はともかく、主任と部長の違いは霊感があるかないかの一点。
だがそれだけならば先程上げた名の中に龍一がいないのはおかしい。
ただ単に龍一が眼中になかっただけと言う可能性もないでもないが、本当にそれだけなのだろうか?

「しかも帰れないってどこから?」
「例えるならば次元の狭間、とでも言うべき場所でしょうか」
「………次元の狭間」
「君が普段無意識に行き来しているのはそう呼ばれる場所です。普通の人間が生身で入りこめば、まず帰ってはこれない」

無意識とはいえ、とんでもないことをしていたんだなと言うことは何となく理解できた。
しかしだ。

「じゃあなんで竜児は平気なの?」
「僕は君の一部として認識されているからですよ」

あの時言ったでしょう?と言われ、そう言えばそんなことを言われたなと思い出す。

「でもさ、その設定無理があると思うんだけど……」
「問題ありません。実際可能だったと言うことはそういうことでしょう?」
「う~む」
「一心同体が自他共に認められたと言うことです。
素晴らしい話では?」
「それで言うとケンちゃんと部長も含めて四身一体になるんじゃ………?」
「実際に認められたのは僕だけですから、何も問題ありません」

都合の悪い話はさらっと聞き流す竜児。

「………昔から、お供は三匹と決まってるんですよ」

西遊記しかり、桃太郎しかり。

「いつだって、僕達の主人は君しかいないんですから」

―――――主人?

それはどういう意味だと聞きただそうとしたその時、ピタリと竜児の足が止まった。

「竜児?」

どうしたの、と首をかしげる暇もなく。

ーーーーみゃあ。

「……蟲が」

突然の台詞と共に竜児が懐から何かを取り出し、自らの背後に向かってそれを思いきり振り下ろした。

バチバチッ!!
『ぎゃああああああ!!!』
「な、何!?」

慌てて振り向いた高瀬。
辺りに漂うのは肉を焼く焦げ臭い臭い。

ハッと気づいた。

「……!まさかそれ、ケンちゃんのーー!?」
「どれ程の力かと思いましたが、大したことはありませんでしたね」
「いやいや焦げてる!焦げてるから!!」

なにやってくれちゃってんの!?

しかもケンちゃん、とんでもないものを使おうとしてたね!
これ絶対人に当てちゃ不味いやつ!!


「賢治から預かったの話ではありませんよ。
僕が言っているのはそこにいるの話です」
「虫」

虫なんてどこに………?

恐る恐る見下ろしたそこには、焼け焦げた小さな猫の遺骸。
殺してしまったのかと驚くが、竜児が理由なくそんなことをするはずもない。
ではやはりこの猫も。

「猫蟲………」

高瀬達を狙う、敵だ――――。

「ーーー完成してもこの程度の能力とは、術者の腕もたかが知れていますね」

痛ましげな表情の高瀬とは真逆に、自らが叩き落としたを見下ろし、鼻で笑う竜児。

「そういってくれるなよ。
こっちにだって色々事情ってものがあってな」
「誰!?」

なんの気配もなかった。
けれど、どこかで聞き覚えのある声。

「見覚えのある顔だな?
そうか、あんたらもだった訳か。
こないだは邪魔して悪かったな?」

現れた男に高瀬は驚いた。

「嘘っ!?の……!!」
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