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クライマックス加速中!!

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「くだらない自己憐憫など何の役にも立ちませんね」
「ちょ、竜児……」

いとも容易く切り捨てた竜児は、「さて」と。

「タカ子。君は一体いつまでこのような場所に居るつもりですか?」
「へ?」

いつまで、と言われても。

「問題の霊は既にここにはなく、こうして見る限り、相手の手駒も既に尽きた模様。
これ以上この場所に留まる理由が何かありますか?」

そうしてちらりと視線を向けるのは、もはや風化し塵となる寸前の木片。
先ほどハム太郎によって破壊された木偶の成れの果てだ。

「手駒…」
「君に使いを破壊され、最終手段で自ら乗り込んできたはいいが返り討ちにあった。
目に見える愚かさの象徴ですね」
「う……」

つまり、あれか。
猫蟲による高瀬達の強制排除に失敗した黒幕が、焦れてとうとう本体を送りつけてきた。
ーーーーーそしてあっさりハム太郎に敗北。

「木偶自体はいくらでも代用の効く代物でしょうが、一度通用しなかった手をそう何度も使ってくるとは思えません。
考えられるとすれば、あちらの仕上げを急ぐことくらいでしょう」
「……?」

それは、どういうことか。

そう疑問に思ったその瞬間だった。


「「うっ……!!」」

「中塚先輩、矢部先輩っ……!!」
「おい、どうしたんだ!?大丈夫か二人共!!」

突如胸を押さえ、苦しみ出す2人。

「ちょ…!!フラグ回収が早すぎでしょ!?竜児、これどういうこと!?」
「それは僕よりもあちらに聞いてみたらいかがです?どうやらのほうも、今のあなたと大差のない無能だったようですね」
「はぁ!?だからそれどういう意味だって……!!」

わけがわからん!けど一大事だ!!と焦る高瀬の目の前で、さらに事態は悪化する。

苦り切った表情でなにかを言いかけた龍一が、先ほどの分身同様、その場から影も形もなくあっという間に消え失せたのだ。

「は……!?」

あまりに突然の消失。
それは本人の意図したことであるとは思えなかった。

と、いうことはつまり。

「本体の方で何かあったってこと………!?」

こちらは式神を使った分身体で、本体は別にあると最初に語っていたのは龍一だ。
だとしたら、その本体が今いるのは・・・・・。

「マルちゃん!!龍一をどこから連れてきたのかちゃんと覚えてる!?」

龍一を連れてきたのはマルちゃん。
ということは、間違いなくその居場所を知っているはず。
鋭いその質問に帰ってきたのは、何とも歯切れの悪いセリフでーーーーー。

『………あの男でしたら、例の、あの場所にーーーーーーー』
「例の!?って、もしかして今、あの工事現場に一人で!?」

バカじゃないの、あいつっ!!

「さきほどあの男がタカ子の力を借りようとしたのは、本体の方が別の問題で手一杯だったからーーーでしょうね」

あの木偶も、本来であれば彼一人で十分対処できるはずの相手だったという竜児。
そこを高瀬の力を借りようとしたのは、つまり。


「それだけ切羽詰ってたってこと……!」

やばいじゃないか。
それ、絶対何かあったってことじゃないか!!!

「なんでそれを先に言わないの!?」
「言えなかったの間違いでしょうね。君を危険から遠ざけて一人で始末しようとした挙句、結局は自らの手に余る事態になったわけですから」

自業自得。

そうあっさり言うが、ことはここに来てそれだけではすまされなくなってきている。

「部長、主任!!救急車!!救急車呼んでくださいっ!!」

とりあえず二人を安全な場所へ!

「もう連絡はしたよ!でも、ここに到着するまでに20分はかかるって……」
「20分!?」

かかりすぎだ。

このままここで苦しむのを見ていろというのか。

「俺の車で彼女たちを載せて病院へーーーーーーーーー」

少なくともただ迎えを待つよりは早いと選択した主任。
車の鍵を手に、今にも走りだしそうな勢いだ。
緊急事態であれば、確かにそのほうが早い。
幸い二人共女性。
男性が4人もいるこの現場なら、車まで運び込むことは容易い。

「う……いやぁ……!!」
「しっかりしてください、中塚先輩っ!!」

胸元を手で押さえながらも、見えない何かに怯えるように首を振る中塚女子。
矢部先輩は恐怖に目を見開き、呼吸すら満足に吸えぬ様子で過呼吸を起こしかけている。

「おいタカ子、これ」
「!わかった!」

賢治に差し出された室内設置のゴミ袋を手に取ると、それを必死に矢部先輩の口元に当てる。
だが、体を抑えられたことで恐怖を起こしたのか、暴れだす矢部先輩に幼児体の高瀬が打つ手はない。

「替われ」

そう言って高瀬の背中を押したのは部長。
何をする気だ。
そう思ってみていれば、部長は矢部先輩の体を横抱きにし、暴れるその顔を固定すると、自らの唇をーーーーー。


「なるほど、口で口を塞いだわけか」
「僕らでは理解していてもやりたくはありませんがね」


部長の行動の意図を理解しながらも、あくまで勝手なことをほざく幼馴染2人。

だが、部長効果が幸いしたのか、それとも口を塞がれたことで呼吸が安定したのか。
苦しそうなことには変わりないが、少し矢部先輩の様子が落ち着いてきたように思える。

よし。

これならもしかしたら、いけるかもしれない。
うまくいくかどうかなんてわからない。
だが確実に、時間稼ぎくらいにはなるだろう。

「アレクくんは部長と一緒に矢部先輩っ!!マルちゃんは中塚先輩!!」

ビシッと指を指してそれぞれの相手を示すと、高瀬は厳かに告げた。

「それぞれの相手にとり憑いて、内側からその肉体を守れ!!」
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