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一触即発、だけどやっぱり締まらない。

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自身の分身を囮代わりに使い、襲撃者の背を踏みつける龍一。

高瀬がいなくなったことで自らが動く気になったのだろう。
そう考えると、先ほどの賢治の動きも襲撃者の気を引くための陽動だったのか。

そう思ってちらりと横を見れば、何とも言えない笑顔を浮かべる賢治。

ーーーーうん、間違いなくやる気だったね、ケンちゃん。


では参戦する気満々でいた主任たちはどうかと見れば、こちらはちょっと拍子抜けしながらも安堵した様子で。
さすがに良識人は違うなとちょっと安心する。

まぁなんにせよ良かった。
ホッと息をついていた高瀬だったが、男を足蹴にする龍一に「こいこい」と手招きされ「ん?」とその場で首をかしげた。

「え。力仕事とか無理だけど」

まさか縄で縛れとか言うんじゃなかろうな、と警戒していれば、「誰がそんなことをお前に頼むか」と呆れた表情の龍一。

「わざわざ縛るまでもない。この木偶を壊すぞ。力を貸せ」
「……壊す?」

この、どう見ても人間にしか見えないモノを?

ーーーーーー壊す。

「イメージがわかないというのなら、この肉体から魂を解き放つと考えろ。
どちらにせよ、このまま長くこの体に居続ければ男は死ぬぞ」
「!!」
「おい、それどういうことだよ!?」

慌てた顔で説明を求める主任を煩わしげにみやる龍一。

「そもそもな、生霊を飛ばすというのは己の命を削っていることに等しい行為なんだよ。
無意識に生霊を飛ばす人間もいるが、そういう場合は知らず知らずうちに肉体が疲弊しているものだ。
肉体が既に瀕死の状態でそんなことをすれば、やがて肉体の方が先に限界を迎える」

つまり、早く決着をつけねば人が死ぬ。

「まぁ、どちらにせよ既に時間の問題かもしれんがな」

俺はどちらでも構わんと、薄情なセリフを吐く龍一は、しかし高瀬に視線を送ると、「どうする?」というようにその手を差し伸べる。

「選ぶのはお前だ」

力を貸すか、拒むか。
勿論、そこには既に他の選択肢など存在するはずもなく。

「力を貸すって言ったって………どうやって?」

そもそもやり方がわからない。
イメージをしろと言われてなんとなくそれらしきものは出来たが、そこからどうすればいいのか。
いつもならば力技でなんとか解決するところだが……。

「お前の力で強引に破壊すれば、器ごと魂までも吹っ飛ぶぞ」
「う」

高瀬の思考回路などお見通しの龍一に釘を刺され、困った。

「だから言ったろう。俺に力を貸せと。
俺がお前の力を媒介してこの器だけを破壊する」

わかったらさっさと俺の手を取れ、と。
そういう龍一の目は真剣で。

一瞬ちらっと見た賢治も、「この場合は仕方ない」というようにこくりと頷き。
さすがの主任も自身の力ではどうにもできない状況にお手上げ状態。
女性二人に関しては、固唾を飲んで事態を見守っている。

納得がいかないという態度なのは、この場でたった一人。

「ーーーーー情けないな」

「……なんだと?」

眉間にシワを寄せていた部長から飛び出した言葉に、ぴくりと反応する龍一。

「あれだけの大口を叩いておきながら、最後は彼女任せか」
「!!」
「随分偉そうな態度をしているが、碌な力は持っていないようだな」
「……そちらこそ。ーーーー高みの見物の分際で、随分な口を叩くじゃないか」

「ぐぅっ!!」と。
龍一の怒りを表すように、龍一の足元で殊更強く踏みにじられた男が苦痛のうめき声をあげる。

「守られるばかりの、口先だけの無能の分際で何ができる?」

顎を持ち上げ、部長を挑発する龍一。
思わぬところで一触即発の事態だ。

割り込めぬ空気に息を呑む高瀬。


ーーーーーだが。

やはり、空気を読まぬ男はいるもので。

「……なぁなぁタカ子。
こうなりゃもう、こっそりここでトドメ刺しちまわねぇ?」

スタンガンを手にしたまま、いつの間にかこっそり背後にやってきていた賢治。
そっと耳元で物騒な提案してくるが、狭い室内で当然ながらその黒い会話は丸聞こえです。

矢部先輩ドン引き。

まぁ、気持ちはわかる。

「ケンちゃん、ハウス!」

そのスタンガンは床に置いといて!
今多分、部長の見せ場だからきっと!

「残念そうな顔しない!」

せっかく持ってきたを使ってみたい気持ちはわかるが、もうちょっと真剣味が欲しい。
案の定、呆れた顔でこちらを見ている部長。
龍一としても出鼻をくじかれた形だ。

「ま、どうやら俺の出番はもう終わったみたいだけどな」

「……え?」

ボソリとつぶやかれた言葉に、どういう意味かと不思議に思っていれば。

「何をやってるんですか、君達は」

開け放たれた扉の先に、魔王竜児が立っていた。
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