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サクリファイスの行方②

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「……って、ことはですよ?」

まさか。

「今回の事は元々、師匠の復讐のためにその彼が始めたものだった、ってことですか」

師匠ーーーーいや、高木真理子さんは恐らくその事が原因で仕事の退職を余儀なくされ。
しかもかつての恋人にまでその件を知られてしまい、なかばヤケになって自虐的な行為に走り、その結果命を落とした。
未だに彼女を愛していたのならば、激しい後悔に襲われていたであろう彼。
そして彼にとって敵とすべき相手は、あまりに身近に存在していた。


…………ねぇ、そういうことなんですか、師匠。

あの、最後に見せた悲しげな表情の理由はこれだったのか。

「でもそれなら彼は………復讐のためにあえて令嬢との結婚を選んだってことか」


例えそれが理由で自身もまた呪いに巻き込まれ、命を落とそうと構わなかった。

「自己犠牲…………」

ぼそりと呟いた矢部先輩の言葉に皆が一様に押し黙る。

「まぁ、自爆覚悟だったってのは間違いないだろうな」

んで、見事ドッカンいったわけだ、と空気を読まずに告げた賢治。

「こっちでもその辺りの調べはついたんだが、問題はここからだ」

「問題……?」

「そう。事を穏便に済ませたくても、何しろ依頼者本人が生死の境をさ迷ってるような状態でな。
話し合いどころじゃないって状況なのはわかるだろ?」

「……確かに」

いくら高瀬といえど、瀕死の人間的を物理的にどうこうしてしまうわけにはいかない。

「んで、これがまた死んじまったら死んじまったでまた大問題。
その辺はそっちの専門家の方が詳しいだろうが、要はその男の死が、呪いを成就させるための生け贄のような扱いになっちまうらしいんだ」

『記請文』ってわかるか?と問いかけられ、その返答に困った。

きしょうもん、とはなんぞや。

知っていそうな人物を探すべく視線をさ迷わせれば、目についたのは、むしろなぜすぐ俺を頼らないんだと言わんばかりの偉そうな態度の龍一。

「きしょうもん、って何?」

なんだか構って欲しそうな気配を感じ、たまにはいいかと子首をかしげて尋ねれば、「起請文は、簡単に言えば神に対する願掛けの文書だ」と、実にシンプルな返答が戻ってきた。

「有名なのは、熊野誓紙と呼ばれる特殊な護符だな。
札の裏面に誓いを行う人間の名を記入し、いわゆる願掛けを行う」

「ほぉ~」

気の抜けた返事をする高瀬を一瞥しつつ、話を続ける龍一。

「ただし、普通の願掛けとは違い、この護符を使った誓いには大きなリスクが存在する」

誓いが破られた際には、神への契約不履行の代償として、その命を対価に求められるのだ。

「対価……」

「誓いを破った誓願者は、血を吐いて悶え苦しみ、そのまま地獄へ落ちる」

命を担保とした、神との契約。

「元来神には善も悪もない。
もしその男が、自身の死をも呪詛の一部として組み込んでいた場合ーー神との契約は、その時点で締結されたことになるわけだ」

それがどういうことなのか。

「つまりその時点で、俺達は神を敵に回さねばならなくなるということだ」
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