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矢部先輩の事情
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「整理すると……?」
うまくまとめてくれるのかと期待して主任を見れば「う~ん?」と一言。
「まだよくわからないことが多いね?」
「期待はずれです!!」
がっかり感が半端ない。
「ごめんごめん、だってさぁ。話をまとめるにもまだピースがかなりの数不足してるというか…」
「――――現時点でまだはっきりしない事が多すぎる」
「そうそう!」
それな、と部長の尻馬に乗る主任。
だったら訳知り顔でまとめに入らないでいただきたいものだと思っていれば、どうやらそれは単なる前置きだったらしい。
「ってことで聞いちゃうけど。つい最近その”人殺しかも知れない”身内にわざわざ会いに行ったのはなんで?」
冗談めかした口調ながら、主任の目が鋭く矢部先輩を射抜く。
「ちなみに先日君が例の男とあって騒ぎを起こしたっていうのはこの場の人間の共通認識だからさ。正直に教えてくれる?」
今更隠したって無駄だよ?とひたすら攻める。
「隠すつもりなんて……!!あれは偶然ですっ!!たまたま街であの子を見つけて……!」
「あの子?」
あの子って誰ですか、矢部先輩。
どう考えても例の男性を「あの子」呼ばわりするとは思えませんが。
今更ハッとした顔をしてももう遅い。
そこで思いつく関係者はたった一人。
「……もしかして、寺尾さんちの息子さんのことですか?」
「………」
再び舞い落ちる沈黙。
だがこれは都合の悪いことを隠したいというよりは相手をかばっているように見える。
「沈黙は何よりの肯定と受け取るよ?」
「……それは……」
救いを求めるように部長を見るが、際しい表情は変わらない。
そこでようやく、何らかの諦めがついたのだろう。
矢部先輩はついでとばかりに高瀬をじろりと睨みつけると、ひとつ大きな溜息を吐き、全てを話し始めた。
「私があの子を最初に見たのは、調査会社が送ってきた報告書の写真でした」
「つまり、その息子さんね」
「ええ…。気が強く癇癪持ちの母親に、父親は最低の屑、なんて可哀想な子だろうと……」
「おぅ」
同情してるんでしょうが、言い方がひどいです言い方が。
「でも、そのうちにあることに気づいて……」
「あること?」
「――――――あの子、妙なものに取り憑かれているみたいだったのよ」
「……は?」
「だから、及川さんにも一度見てもらえないかと思って……」
「私に?……って、もしかして」
あの、部長後光が差してます事件の時の事か!
「会社が呪われてるんじゃないかとか言ってランチに誘われたことがありましたね!」
今更妙なことを言うなとは思ったのだが…。
「もしかして会社云々は建前で、本題はそっちだったってことですか」
「……やっぱり無神経ね、あなたって」
「え~」
助けを求める相手をさりげに貶す矢部先輩もどうかと思いますが。
「だが、今の流れから言うとそういうことなんだな?」
「……はい」
行けいけ部長、いいぞ部長!
高瀬相手には強気になれても、部長が相手ではショボンと素直に頷く矢部先輩。
「でも私、流石に写真見ただけで呪われてるかどうかなんて把握できませんよ?」
「できないの?」
なぜそこで驚く。
問い返されてちょっと困った高瀬は、こてんと首を横に振り、一言。
「どうでしょう……?」
「何よその曖昧な……!」
「こらこら、矢部君……」
はっきりしないさいよ!と怒鳴りつけようとしたところで、「君さ、今そんなこと言える立場じゃないよね?」と主任から諭され、一気に勢いを失う矢部先輩。
「曖昧と言われると微妙なんですけど、なんというか……」
正直なところ、出来るかもしれないけどあえてやろうと思ったことがない、が正解だ。
「例えばですよ?テレビドラマを見ながら、『あ、あの人幽霊にとりつかれてる!』とか『あそこに幽霊がいる!』とかいちいち気にしてたら気が散るし面倒じゃないですか?映画の宣伝ポスターに幽霊が写りこんでるかどうかとか、わざわざ知りたくないでしょ」
だから、気にしたことがない。
「あ~。なるほど。本来霊感が強すぎるとそういうことになるのか」
ふんふん、と納得する主任。
「気が散るって……それで済む問題なの…?」
理解できない、といった表情の矢部先輩。
その口ぶりからすると、霊視というのは本来、そこまで上手く切り替えができるものではないらしい。
「俺が思うに、だがな」
高瀬のいい加減な説明に補足を加える賢治。
「タカ子は普段、無意識に能力のオンオフを使ってるんじゃないかと思う。
じゃなきゃ、見るもの全て幽霊で溢れかえってまともな生活なんて送れないだろ?」
「……確かに」
――――――さすがケンちゃん。
「ここにきてまさかのやる気スイッチ発覚!!」
思わぬところで既にスイッチ実装中でした。
意外と本人気づかないものだなぁ。
でもそう言われるとそうかもしれない。
「こちらに対して特に何も働きかけをするつもりのない霊や、悪意を持って近づこうとしている霊は無条件にシャットアウトしてるはずだ。
出なかったら今頃、そこの部長さんみたいに取り憑かれまくってるはずだしな」
「………」
視線を向けられ、実に気まずそうな部長。
部長こそ、是非やる気スイッチを習得してもらいたいものだ。
「ちなみに部長は動画や静止画を見て幽霊の目視とかできます?」
「……まれに頭痛がする事はあるが……」
はっきり見えることは滅多にないとのこと。
「多少は切り替えが働いてるってことなのかな?」
「この場合、単に能力の問題って気もするけどなぁ」
専門家じゃないし、そこまでは知らんと適当なケンちゃん。
「で、そう言うからには矢部先輩は写真を見れば幽霊が取り憑いているかどうかわかるんですよね?」
話を元に戻して問いかければ、うっと答えに詰まる矢部先輩……って……え?
「見えるんじゃないんですか!?」
今の前提、そう言う話だったよね!?
「……見えるというよりは、私も部長と同じよ。頭痛がしたり、めまいを感じたり……」
「はっきりとした姿が見えるってわけじゃないってことですか……」
部長と同じ、といったところでちょっと嬉しそうですね、矢部先輩。
そのブレないところ、嫌いじゃないです。
「でも、あの子の時だけははっきり見えた」
「え?」
――――それは……。
「あの子に取り憑いてるのは、僧侶の姿をした髑髏よ」
うまくまとめてくれるのかと期待して主任を見れば「う~ん?」と一言。
「まだよくわからないことが多いね?」
「期待はずれです!!」
がっかり感が半端ない。
「ごめんごめん、だってさぁ。話をまとめるにもまだピースがかなりの数不足してるというか…」
「――――現時点でまだはっきりしない事が多すぎる」
「そうそう!」
それな、と部長の尻馬に乗る主任。
だったら訳知り顔でまとめに入らないでいただきたいものだと思っていれば、どうやらそれは単なる前置きだったらしい。
「ってことで聞いちゃうけど。つい最近その”人殺しかも知れない”身内にわざわざ会いに行ったのはなんで?」
冗談めかした口調ながら、主任の目が鋭く矢部先輩を射抜く。
「ちなみに先日君が例の男とあって騒ぎを起こしたっていうのはこの場の人間の共通認識だからさ。正直に教えてくれる?」
今更隠したって無駄だよ?とひたすら攻める。
「隠すつもりなんて……!!あれは偶然ですっ!!たまたま街であの子を見つけて……!」
「あの子?」
あの子って誰ですか、矢部先輩。
どう考えても例の男性を「あの子」呼ばわりするとは思えませんが。
今更ハッとした顔をしてももう遅い。
そこで思いつく関係者はたった一人。
「……もしかして、寺尾さんちの息子さんのことですか?」
「………」
再び舞い落ちる沈黙。
だがこれは都合の悪いことを隠したいというよりは相手をかばっているように見える。
「沈黙は何よりの肯定と受け取るよ?」
「……それは……」
救いを求めるように部長を見るが、際しい表情は変わらない。
そこでようやく、何らかの諦めがついたのだろう。
矢部先輩はついでとばかりに高瀬をじろりと睨みつけると、ひとつ大きな溜息を吐き、全てを話し始めた。
「私があの子を最初に見たのは、調査会社が送ってきた報告書の写真でした」
「つまり、その息子さんね」
「ええ…。気が強く癇癪持ちの母親に、父親は最低の屑、なんて可哀想な子だろうと……」
「おぅ」
同情してるんでしょうが、言い方がひどいです言い方が。
「でも、そのうちにあることに気づいて……」
「あること?」
「――――――あの子、妙なものに取り憑かれているみたいだったのよ」
「……は?」
「だから、及川さんにも一度見てもらえないかと思って……」
「私に?……って、もしかして」
あの、部長後光が差してます事件の時の事か!
「会社が呪われてるんじゃないかとか言ってランチに誘われたことがありましたね!」
今更妙なことを言うなとは思ったのだが…。
「もしかして会社云々は建前で、本題はそっちだったってことですか」
「……やっぱり無神経ね、あなたって」
「え~」
助けを求める相手をさりげに貶す矢部先輩もどうかと思いますが。
「だが、今の流れから言うとそういうことなんだな?」
「……はい」
行けいけ部長、いいぞ部長!
高瀬相手には強気になれても、部長が相手ではショボンと素直に頷く矢部先輩。
「でも私、流石に写真見ただけで呪われてるかどうかなんて把握できませんよ?」
「できないの?」
なぜそこで驚く。
問い返されてちょっと困った高瀬は、こてんと首を横に振り、一言。
「どうでしょう……?」
「何よその曖昧な……!」
「こらこら、矢部君……」
はっきりしないさいよ!と怒鳴りつけようとしたところで、「君さ、今そんなこと言える立場じゃないよね?」と主任から諭され、一気に勢いを失う矢部先輩。
「曖昧と言われると微妙なんですけど、なんというか……」
正直なところ、出来るかもしれないけどあえてやろうと思ったことがない、が正解だ。
「例えばですよ?テレビドラマを見ながら、『あ、あの人幽霊にとりつかれてる!』とか『あそこに幽霊がいる!』とかいちいち気にしてたら気が散るし面倒じゃないですか?映画の宣伝ポスターに幽霊が写りこんでるかどうかとか、わざわざ知りたくないでしょ」
だから、気にしたことがない。
「あ~。なるほど。本来霊感が強すぎるとそういうことになるのか」
ふんふん、と納得する主任。
「気が散るって……それで済む問題なの…?」
理解できない、といった表情の矢部先輩。
その口ぶりからすると、霊視というのは本来、そこまで上手く切り替えができるものではないらしい。
「俺が思うに、だがな」
高瀬のいい加減な説明に補足を加える賢治。
「タカ子は普段、無意識に能力のオンオフを使ってるんじゃないかと思う。
じゃなきゃ、見るもの全て幽霊で溢れかえってまともな生活なんて送れないだろ?」
「……確かに」
――――――さすがケンちゃん。
「ここにきてまさかのやる気スイッチ発覚!!」
思わぬところで既にスイッチ実装中でした。
意外と本人気づかないものだなぁ。
でもそう言われるとそうかもしれない。
「こちらに対して特に何も働きかけをするつもりのない霊や、悪意を持って近づこうとしている霊は無条件にシャットアウトしてるはずだ。
出なかったら今頃、そこの部長さんみたいに取り憑かれまくってるはずだしな」
「………」
視線を向けられ、実に気まずそうな部長。
部長こそ、是非やる気スイッチを習得してもらいたいものだ。
「ちなみに部長は動画や静止画を見て幽霊の目視とかできます?」
「……まれに頭痛がする事はあるが……」
はっきり見えることは滅多にないとのこと。
「多少は切り替えが働いてるってことなのかな?」
「この場合、単に能力の問題って気もするけどなぁ」
専門家じゃないし、そこまでは知らんと適当なケンちゃん。
「で、そう言うからには矢部先輩は写真を見れば幽霊が取り憑いているかどうかわかるんですよね?」
話を元に戻して問いかければ、うっと答えに詰まる矢部先輩……って……え?
「見えるんじゃないんですか!?」
今の前提、そう言う話だったよね!?
「……見えるというよりは、私も部長と同じよ。頭痛がしたり、めまいを感じたり……」
「はっきりとした姿が見えるってわけじゃないってことですか……」
部長と同じ、といったところでちょっと嬉しそうですね、矢部先輩。
そのブレないところ、嫌いじゃないです。
「でも、あの子の時だけははっきり見えた」
「え?」
――――それは……。
「あの子に取り憑いてるのは、僧侶の姿をした髑髏よ」
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