上 下
201 / 290

霊道とは。

しおりを挟む
この部屋の中でなら、霊感がなくても霊体を目視することが出来る。
「そりゃ、霊の目撃証言も多いはずだよな」と、賢治は納得したように言うが、果たしてそれはどうだろう?
「今までこの部屋で起きてた怪奇現象って、基本的には髪の毛が落ちてるとかそういうタイプで、霊の姿を直接見た、とかじゃなかったよね?」
「確かにそうだな」
「だったらそれ、おかしくない?」
「…………………だな」
幽霊が見える部屋なら、もっと多く人間が師匠を目撃していなければ変だ。
当然の話だが、師匠はずっとこの場所に居たのだから。
「それってさ、霊道とか言うやつなんじゃないの?」
「え?」
「だからさ、この場所だけ何か特別な力が働いてるってことだろ?
詳しくは知らないけど、前なんかの心霊番組で見たよ」
「霊道……………」
「え、そんな検討違いなこと言った?俺?」
いまいちピンと来ていない様子の高瀬に、あれ?と首を傾げ主任。
「……どう思いますか部長」
賢治を見ても特に反応はなく、唯一話が通じそうな霊感持ちの部長に話を持っていけば、一周部屋の中をぐるりと見渡した後で、一言断言する。
「違うだろうな」
「私もそう思います」
二人の意見は無事一致を見た。
「あの……レイドウ……ってなにかしら?それほど一般的なものなの?」
中塚女史が戸惑い気味に尋ねてくるのに対し、高瀬が「いやそんなことは…」と返答をしようとしたのだが。
「一般的かどうかは知らないけど、霊道ってのは幽霊をあの世へ運ぶためのエスカレーターみたいなものでしょ」
「正解です、矢部先輩」
そのものずばり回答が出たので、パチパチと拍手したら睨まれた。
「馬鹿にしてるの?」
「いえいえそんな」
「うんうん、馬鹿にしてなんてないよね。それが高瀬君の通常運転だもんね」
「フォローありがとうございます主任っ」
半笑いで言ったって全く何の役にも経ってないけどな!!
「簡単に言っちゃえばさっきの矢部先輩の言葉に集約されるんですけど、要するに霊がいっぱい集まる大通りとでも考えてもらえれば。幽霊に今ある道の区切りなんて通じませんから、それが場合によっては家の中を通っていたりすることも稀に有るんです。そうなると、幽霊がしょっちゅう家の中を出入りしてるわけですから、いわくつき物件扱いされるわけで……」
「幽霊がよく見えるパワースポットみたいな感じかしら?」
「あながち間違ってはいないかと」
頷きながらも、一応注釈をつけておく。
「主任同様心霊番組の受け売りですけど」
「?そうなの?」
「あい」
子供の頃は夏場になると竜児達3人でよく見たなぁ「あなたの知らない○界」。
大人になってオカルトがリアルになってからはそういう話から逆に随分遠ざかったが。
「一応私は霊体ではあっても幽霊じゃないんで……」
霊道に出入りしたことはない。
それらしきものを目撃したことはあるのだが、近くに寄ろうと思ったことはなかった。
下手に近寄ってそのままあの世まで引率されたらそれこそ大惨事だ。
「ーーー部長は?」
なにか補足はあるかと振り返れば、「以前それらしきものを見たことがあるが、この部屋とは随分様子が違った」とのこと。
「それらしきもの……ですか?一体いつ……」
やっぱりそこが気になりますよね、中塚女史。
部長の言葉に引っ掛かりを覚えた所で、全員の視線をあび、仕方なさそうに部長が説明する。
「……以前、部下の一人に相談を受けたんだ。
単身赴任で引越しをしてから体調がおかしい、夜中に大勢の声がして眠れない、寝ていると誰かに覗き込まれているような気がすると」
その部下はもはや鬱寸前の状態だったらしい。
部長にそれをこぼしたのは偶然だったようだが、それを聞いて無視することもできず現場に実際に足を運んでみたところ……。
「行列がいた」
「………行列?」
「あぁ。部下の部屋に向かって一直線に霊が行列をなしているんだ。彼の部屋を通り抜けて、国道をずっと進んでいた」
ぞろぞろぞろぞろと、それは正しく行列と言えるものだったらしい。
「相手に気づかれたくはないからすぐに撤退して、部下には新しい部屋を用意した」
その部屋はきちんと部長が下見をして選んだ”安全な部屋”だったらしい。
おかげで部下は元気を取り戻したんだそうな。
「その部下の人は霊感とかはなかったんですよね?」
「……逆を言えばなかったからこそ少しの間だけとは言えあの部屋に住むことができたんだろうな」
げんなりとした部長の様子から見るに、相当すごい状態だったのだろう。
「後から調べて、あれが「霊道」と呼ばれるものだというのがわかったが……この部屋にはそんな様子は全くない」
「確かに、行列はありませんね」
そもそもあの世への一本道なんてものが開かれていれば、真っ先に師匠が飲み込まれていただろう。
「マルちゃんは心当たりないの?」
「ございませぬが、確かにこの部屋には妙な力が満ちておりますな。
我がこの姿を保てるのも、今はまだこの部屋だけのことでございましょう」
試しにマルちゃんがひょこっと部屋の外に出てみると、人型から見慣れた狐型に一瞬にして戻ってしまった。
しっぽの数はなぜか1本減って2本になっている。
「あれ?ケモ耳君が消えたよ?」
「やっぱり部屋を出ると見えなくなるんですね……」
ケモ耳、と呼ばれたことに対し、嫌そうに目を細めるマルちゃん。
この短時間で、主任はマルちゃんにとっての天敵として認定されたらしい。
「しっぽの数が霊力のバロメーターなんだ」
『いかにも。無理をすれば先程と同じ3つになることもできましょうが、今はまだ……』
無理をするほどの理由がなかったので、人化することがなかったそうだ。
むしろずっとそのままでいいと言ったら泣かれたが。
「その狐って……もしかして」
外に出たことではっきりとした姿は見えなくなったらしいが、そのことによって逆に心当たりが生まれた矢部先輩。
中塚女史にちらりと視線をやり、次に薄ぼんやりと見えているのだろうマルちゃんにも視線を向ける。
そして。
「やっぱり………貴方にずっとついてた霊じゃない」
「え?」
「あ」
勿論、「え?」が中塚女史で、「あ」が高瀬のセリフである。

バレてーら。

「私にずっとついていた……?」
きょとんとした目でマルちゃんがいると思しき場所を見る中塚女史。
居心地が悪そうな顔をしたマルちゃんが、ややゆっくりと室内に戻ってくると、一直線に中塚女史の足元に赴き、そのふわふわのしっぽをくるりんと中塚女史の足に絡める。
それに対し、くすぐったそうに「ふふ」とこぼす中塚女史。
よし、つかみはOK。
あざとい技で誤魔化そうとしているのはバレバレだが、いいぞマルちゃんその調子だ。
心の底で応援していたところで、不意に中塚女史の視線がこちらへ向けられた。
中腰になって片手をマルちゃんの頭に乗せたまま、ちょっと小首をかしげて。
「もしかして、及川さん……」
ぎくり。

「あなたがこの子を私につけてくれていたの?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

縦ロールをやめたら愛されました。

えんどう
恋愛
 縦ロールは令嬢の命!!と頑なにその髪型を守ってきた公爵令嬢のシャルロット。 「お前を愛することはない。これは政略結婚だ、余計なものを求めてくれるな」 ──そう言っていた婚約者が結婚して縦ロールをやめた途端に急に甘ったるい視線を向けて愛を囁くようになったのは何故? これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。 追記:3.21 忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

喧嘩の後の塩彼氏

moco
恋愛
陽菜(ひな)の恋人の唯人(ゆいと)は普段から仕事一番の塩彼氏。でもそんな彼の持つ温かくて優しい一面をよく知る陽菜は幸せな毎日を送っていたはずなのに、友達の一言がきっかけで、小さな不満をぶつけてしまい唯人と些細なことで喧嘩をしてしまう。本当は想いあっている二人の小さなすれ違いから始まる甘い夜。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師としていざという時の為に自立を目指します〜

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
恋愛
政略結婚の夫との冷えきった関係。義母は私が気に入らないらしく、しきりに夫に私と別れて再婚するようほのめかしてくる。 それを否定もしない夫。伯爵夫人の地位を狙って夫をあからさまに誘惑するメイドたち。私の心は限界だった。 なんとか自立するために仕事を始めようとするけれど、夫は自分の仕事につながる社交以外を認めてくれない。 そんな時に出会った画材工房で、私は絵を描く喜びに目覚めた。 そして気付いたのだ。今貴族女性でもつくことの出来る数少ない仕事のひとつである、魔法絵師としての力が私にあることに。 このまま絵を描き続けて、いざという時の為に自立しよう! そう思っていた矢先、高価な魔石の粉末入りの絵の具を夫に捨てられてしまう。 絶望した私は、初めて夫に反抗した。 私の態度に驚いた夫だったけれど、私が絵を描く姿を見てから、なんだか夫の様子が変わってきて……? そして新たに私の前に現れた5人の男性。 宮廷に出入りする化粧師。 新進気鋭の若手魔法絵師。 王弟の子息の魔塔の賢者。 工房長の孫の絵の具職人。 引退した元第一騎士団長。 何故か彼らに口説かれだした私。 このまま自立?再構築? どちらにしても私、一人でも生きていけるように変わりたい! コメントの人気投票で、どのヒーローと結ばれるかが変わるかも?

処理中です...