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霊道とは。

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この部屋の中でなら、霊感がなくても霊体を目視することが出来る。
「そりゃ、霊の目撃証言も多いはずだよな」と、賢治は納得したように言うが、果たしてそれはどうだろう?
「今までこの部屋で起きてた怪奇現象って、基本的には髪の毛が落ちてるとかそういうタイプで、霊の姿を直接見た、とかじゃなかったよね?」
「確かにそうだな」
「だったらそれ、おかしくない?」
「…………………だな」
幽霊が見える部屋なら、もっと多く人間が師匠を目撃していなければ変だ。
当然の話だが、師匠はずっとこの場所に居たのだから。
「それってさ、霊道とか言うやつなんじゃないの?」
「え?」
「だからさ、この場所だけ何か特別な力が働いてるってことだろ?
詳しくは知らないけど、前なんかの心霊番組で見たよ」
「霊道……………」
「え、そんな検討違いなこと言った?俺?」
いまいちピンと来ていない様子の高瀬に、あれ?と首を傾げ主任。
「……どう思いますか部長」
賢治を見ても特に反応はなく、唯一話が通じそうな霊感持ちの部長に話を持っていけば、一周部屋の中をぐるりと見渡した後で、一言断言する。
「違うだろうな」
「私もそう思います」
二人の意見は無事一致を見た。
「あの……レイドウ……ってなにかしら?それほど一般的なものなの?」
中塚女史が戸惑い気味に尋ねてくるのに対し、高瀬が「いやそんなことは…」と返答をしようとしたのだが。
「一般的かどうかは知らないけど、霊道ってのは幽霊をあの世へ運ぶためのエスカレーターみたいなものでしょ」
「正解です、矢部先輩」
そのものずばり回答が出たので、パチパチと拍手したら睨まれた。
「馬鹿にしてるの?」
「いえいえそんな」
「うんうん、馬鹿にしてなんてないよね。それが高瀬君の通常運転だもんね」
「フォローありがとうございます主任っ」
半笑いで言ったって全く何の役にも経ってないけどな!!
「簡単に言っちゃえばさっきの矢部先輩の言葉に集約されるんですけど、要するに霊がいっぱい集まる大通りとでも考えてもらえれば。幽霊に今ある道の区切りなんて通じませんから、それが場合によっては家の中を通っていたりすることも稀に有るんです。そうなると、幽霊がしょっちゅう家の中を出入りしてるわけですから、いわくつき物件扱いされるわけで……」
「幽霊がよく見えるパワースポットみたいな感じかしら?」
「あながち間違ってはいないかと」
頷きながらも、一応注釈をつけておく。
「主任同様心霊番組の受け売りですけど」
「?そうなの?」
「あい」
子供の頃は夏場になると竜児達3人でよく見たなぁ「あなたの知らない○界」。
大人になってオカルトがリアルになってからはそういう話から逆に随分遠ざかったが。
「一応私は霊体ではあっても幽霊じゃないんで……」
霊道に出入りしたことはない。
それらしきものを目撃したことはあるのだが、近くに寄ろうと思ったことはなかった。
下手に近寄ってそのままあの世まで引率されたらそれこそ大惨事だ。
「ーーー部長は?」
なにか補足はあるかと振り返れば、「以前それらしきものを見たことがあるが、この部屋とは随分様子が違った」とのこと。
「それらしきもの……ですか?一体いつ……」
やっぱりそこが気になりますよね、中塚女史。
部長の言葉に引っ掛かりを覚えた所で、全員の視線をあび、仕方なさそうに部長が説明する。
「……以前、部下の一人に相談を受けたんだ。
単身赴任で引越しをしてから体調がおかしい、夜中に大勢の声がして眠れない、寝ていると誰かに覗き込まれているような気がすると」
その部下はもはや鬱寸前の状態だったらしい。
部長にそれをこぼしたのは偶然だったようだが、それを聞いて無視することもできず現場に実際に足を運んでみたところ……。
「行列がいた」
「………行列?」
「あぁ。部下の部屋に向かって一直線に霊が行列をなしているんだ。彼の部屋を通り抜けて、国道をずっと進んでいた」
ぞろぞろぞろぞろと、それは正しく行列と言えるものだったらしい。
「相手に気づかれたくはないからすぐに撤退して、部下には新しい部屋を用意した」
その部屋はきちんと部長が下見をして選んだ”安全な部屋”だったらしい。
おかげで部下は元気を取り戻したんだそうな。
「その部下の人は霊感とかはなかったんですよね?」
「……逆を言えばなかったからこそ少しの間だけとは言えあの部屋に住むことができたんだろうな」
げんなりとした部長の様子から見るに、相当すごい状態だったのだろう。
「後から調べて、あれが「霊道」と呼ばれるものだというのがわかったが……この部屋にはそんな様子は全くない」
「確かに、行列はありませんね」
そもそもあの世への一本道なんてものが開かれていれば、真っ先に師匠が飲み込まれていただろう。
「マルちゃんは心当たりないの?」
「ございませぬが、確かにこの部屋には妙な力が満ちておりますな。
我がこの姿を保てるのも、今はまだこの部屋だけのことでございましょう」
試しにマルちゃんがひょこっと部屋の外に出てみると、人型から見慣れた狐型に一瞬にして戻ってしまった。
しっぽの数はなぜか1本減って2本になっている。
「あれ?ケモ耳君が消えたよ?」
「やっぱり部屋を出ると見えなくなるんですね……」
ケモ耳、と呼ばれたことに対し、嫌そうに目を細めるマルちゃん。
この短時間で、主任はマルちゃんにとっての天敵として認定されたらしい。
「しっぽの数が霊力のバロメーターなんだ」
『いかにも。無理をすれば先程と同じ3つになることもできましょうが、今はまだ……』
無理をするほどの理由がなかったので、人化することがなかったそうだ。
むしろずっとそのままでいいと言ったら泣かれたが。
「その狐って……もしかして」
外に出たことではっきりとした姿は見えなくなったらしいが、そのことによって逆に心当たりが生まれた矢部先輩。
中塚女史にちらりと視線をやり、次に薄ぼんやりと見えているのだろうマルちゃんにも視線を向ける。
そして。
「やっぱり………貴方にずっとついてた霊じゃない」
「え?」
「あ」
勿論、「え?」が中塚女史で、「あ」が高瀬のセリフである。

バレてーら。

「私にずっとついていた……?」
きょとんとした目でマルちゃんがいると思しき場所を見る中塚女史。
居心地が悪そうな顔をしたマルちゃんが、ややゆっくりと室内に戻ってくると、一直線に中塚女史の足元に赴き、そのふわふわのしっぽをくるりんと中塚女史の足に絡める。
それに対し、くすぐったそうに「ふふ」とこぼす中塚女史。
よし、つかみはOK。
あざとい技で誤魔化そうとしているのはバレバレだが、いいぞマルちゃんその調子だ。
心の底で応援していたところで、不意に中塚女史の視線がこちらへ向けられた。
中腰になって片手をマルちゃんの頭に乗せたまま、ちょっと小首をかしげて。
「もしかして、及川さん……」
ぎくり。

「あなたがこの子を私につけてくれていたの?」
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