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ロリコン疑惑?

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問いかけては見たものの、正直きちんとした答えが返ってくるとは思っていなかった。
そして案の定。
「わかるわけないでしょ、そんなこと!!それよりあなた……本当に及川さんなの??」
「ですよね~~」
ブレない矢部先輩がここにきて心強く感じるのは何故だろう。
あはは、と笑いながら、「正真正銘及川高瀬です」とだけ自己申告しておく。
そのままじろじろと上から下まで眺められた挙句、ぽつりと漏らしたセリフが。
「ずるいわ」
「は?」
なんだか妙な怨念めいたモノを感じ聞き返すが、逆にきつい目つきで睨まれてしまった。
え、ずるいって、幼女が?
「……部長……実はロリコンの気でもあったんですか?」
「そこでなんで俺に振るんだ」
「え、だって明らかに矢部先輩は部長狙いでしょ」
ということは、この姿が羨ましい=部長は幼女好き。
うん、私間違ってない。
「部長に失礼なことを言わないでちょうだい!!部長がロリコンなんて、そんなことあるわけ無いでしょ!?」
いや、あなたの言動が怪すべての原因なんですけどね?と。
言おうとしたところで気づく、部長の真剣な顔。
取すがる矢部先輩など全く意にも止めず、まっすぐに高瀬を見つめている。
「部長?」
「――――何があった」
矢部先輩を振り切り、有無を言わさぬ様子で高瀬の前に立った部長。
「車内でアレキサンダーが突然消えた。ここで何かが起こったんだろう」
「あ……」
それで慌ててやってきてくれたのか、とようやく納得する高瀬。
「あ、じゃない……」
はぁ…とため息をついた部長に、えへへと誤魔化しの笑みを浮かべれば、今回ばかりは逃がさんと脇の下に腕を差し込まれ、ひょいと持ち上げられる。
「軽いな」
「そりゃ霊体ですから」
重さなんてあってないようなものです。
実際の幼女と比べたら霞のようなもんだろう。
子供というのは結構見た目よりも重く感じるものだ。
「というか部長、子供の扱いに慣れてません?」
なんというか、持ち上げる手つきが手馴れている。
そういえば、「姪の世話を頼まれたことがあるからな」と言われ納得した。
「例のハムちゃんの飼い主ですか」
「そうだ」
「ハムちゃんは今日も元気なので宜しくお伝えください」
「……どう伝えろと?」
「ん~?ニュアンスで?」
なんとなく言っては見たものの、真面目に返されると困る。
「なんなら一回ハムちゃんを連れて姪っ子さんのところに行ってみます?」
「やめておけ。あれが死んで、今は新しく猫を買っている」
「わお」
そりゃまずい。
というか、子供の興味というのは移り変わりが早いものだ。
残念だがやめておいたほうがいいなと思っていたところで強く「及川君」ともう一度名を呼ばれた。
そんな至近距離で呼ばなくても……と言いかけた高瀬のすぐ目の前にある、部長の顔。
鼻と鼻とが、くっつきそうな距離。
「何が、あったのかと聞いてるんだ」
誤魔化すな、と。
そう言われているのはわかるのだが、別にごまかしている意図は……まぁ、なかったとは言えない。
「そうしてると本当に幼女みたいだね、高瀬君」
「私的には捕まった宇宙人の気分ですが」
マルちゃんが中塚女史の手元に移ったため手持ち無沙汰になったのか、持ち上げられた高瀬を眺め、ポンポンとその頭を叩く主任。
「……って俺まで睨むなよ谷崎。とりあえず高瀬君の無事はわかったんだからいいだろ?」
また脱線か、ととじろりと睨まれた高瀬も、こればかりは主任に完全同意だ。
うんうんと首を縦に振れば、諦めたような溜息とともにようやく地面に下ろされた。
「主よ」
そこに何故かやってくるマルちゃん。
下ろされたばかりの高瀬を当たり前の顔をしてすくい上げ、腕の上に恭しく抱き上げる。
「あれ?中塚先輩の下にいたんじゃ……」
なぜ人型?と思えば、中塚先輩が残念そうな顔でこちらを見ている。
――――そうか、モフられるのが恥ずかしくなってきたか。
そして若干顔を赤らめているのは矢部先輩だ。
あんた顔が良ければなんでもいいのか。
「あれ、耳生えてないね?」
冷静に突っ込んだ主任に、耳が生えていたあたりの髪をツンツンと引っ張られ、赤くなるマルちゃん。
「あ、あれはっ……!!!」
焦るあまり高瀬を抱いていることを忘れそうになっている気がするので、ここはフォローをせねばなるまい。
「さっきの姿は本人的には不本意だったそうなので忘れてあげてください、主任」
「え~?なかなかインパクトのある姿だったから忘れられな~い」
あははと笑う主任は安定の性格の悪さだ。
「このっ……!!ただ人の分際で……!!」
とうとう高瀬のことを完全に忘れ、主任に掴みかかろうとしたマルちゃん。
「おっと……!」
地面に落とされる前に、当たり前のようにさっと高瀬を抱え上げたのは賢治だ。
うん、やっぱ落ち着く。
「なぁタカ子」
「ん?」
「ちょっと実験してみねぇか?」
耳元で囁かれた言葉に、ちょっと小首をかしげれば、こしょこしょこしょと。
「……あぁ、なるほどなるほど」
うんうんと納得し、賢治の首にしっかりと両腕を巻きつける高瀬。
目の前では主任に殴りかかろうとするマルちゃんと、ため息をつきながらもそれを止めようとする部長の姿が見えるが、それはさておき。
スタスタと部屋の真ん中を横切った賢治は、4人が入ってきた扉を片手で難なく開けると、高瀬を抱いたまま部屋の外に出てしまう。
突然の行動に、全員の視線がそこに集まった、次の瞬間。

「あら……?」

部長とマルちゃん以外の3人の様子が明らかに変わった。
全員の視線が賢治に集まっているのだが、どこか戸惑いが見える。

「高瀬君?」
問いかけたのは主任だ。
何故か目の前にいる高瀬のことが認識できない様子で、キョロキョロと辺りを見回している。
それは残りの二人の同じようで、彼らの目には高瀬の姿が突然掻き消えたようにみえたらしい。
逆に何ら影響を受けていない部長だけが、3人のその行動の意味を理解できず、困惑した様子だ。
マルちゃんは一人その様子を鼻で笑っているだけで、当然ながら高瀬が見えていないはずはない。
つまり、もともと霊能力を持つ存在にはなんら変化がないのだ。
変わったのは3人。
主任と中塚女史の二人は完全に高瀬を見失った様子だが、矢部先輩にはうっすらと何かが見えているらしく、高瀬がいるあたりを眉間にシワを寄せて凝視している。
これもはやり、霊能力の差か。
「なにかしたのか」とばかりにこちら高瀬に視線を向けられるのだが、そう言われても返答に困る。
実際高瀬は何もしていないのだ。
「やっぱりなぁ」
「……ケンちゃんの予想、当たりだね」
高瀬を腕に抱いたまま、己の予想が実証され、満足そうな賢治。
しかし、部屋の外に出て見て驚いた。
ここはホテルの一室ではなく、どうやらプレハブのような建物の中だったらしい。
後になって聞いたところによると、そういうタイプの作りを「モーテル」というそうな。
気づけば外で、日差しがやたらと眩しい。
幽霊だからといって太陽に弱いわけではないが、思わず目を細めると、それに気づいたケンちゃんが笑いながら、「んじゃ検証も済んだしもどるか」と再び室内に戻る。
その途端、突然消えたはずの高瀬が寸分たがわぬ位置に再び現れたことに驚く3人。
「……高瀬君、もしかしてずっとそこにいた?」
「いましたね」
賢治に床に下ろしてもらい、腕組みをしながら主任を見上げれば、眉根を寄せた主任が、「………ってことは」と。

「霊感のない人間でも、この部屋の中でなら霊が見えるようになってる……ってことか?」



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