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究極のわがままは爆散。

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常々、疑問に思っていたことがある。
先ほど賢治が口にした、「死とは終焉であり行き止まりである」と言うセリフが、果たして「私」という存在に適応されるのか、という実に根本的な問題である。
そもそも今のこの幽体離脱という状況は、片足をそっちの世界に突っ込みつつギリギリのところで踏みとどまっているような状態で。
逆に「死」という状態が確定した時こそ、「私」はようやくここに存在する全ての鎖から「解き放たれる」のではないのかと。
不思議なことに、まるで予備停止機能でも働いたかのように、私の思考はいつもそこでストップされるのだ。


――――――解き放たれるとは、一体どういう意味なのか。
「私」という存在は、果たして「人」であるのか――――


「……ん?」
なんか、今また妙なことが頭をよぎった気がする。
「どうした、タカ子?」
「いや……なんでも」
馬鹿げた――――いや、中二病めいた妄想だなと頭を振り、改めて目の前の話に意識を戻す。
いい笑顔で私より先には死なないと言い切ったケンちゃんにたじろぐ師匠。
まぁここは命より大切という言質を取りたかったのだろうが、少々考えが甘い。
そもそも私達の間には、そんなことよりも前に大前提が存在しているのだ。

つまりは。

「「死なば諸共だよな」ね」

これにつきる。
どちらが先に逝くかとか、誰を残していくかとか、そんな事を考える必要は初めからない。

「ケンちゃん意外とさみしがり屋だから…」
「いやいや、むしろ問題は竜児だろ。タカ子を残して死んだらそれこそ怨霊化するぞ」
悪霊から一気に怨霊へと格上げされるところがさすが竜児。
「そういや竜児って私に遺産を残してくれるって話だったんだけど、私より先に死ぬ気あると思う?」
「そりゃないな」
「だよね」
新手の詐欺か。うん、騙されるところだった。
「タカ子に葬式任せることほど無謀なことはないだろ」
「え、気にすんのそこ!?」
「騙されて遺産を奪われんの目に見えてるもんなぁ。
んで十中八九竜児に呪い殺されるんだろうな、そいつら」
南無南無、とまだ死んでもいないうちから両手を合わせて拝み始める賢治。
詳しいことは知らないが、竜児には結構厄介な身内とやらが存在しているらしい。
まぁそれなりに名家の人間として生まれた以上避けられない問題らしいが、逆に私やケンちゃんはそんな心配もなく気楽なものなので完全に他人事だ。
「そういや竜児と結婚した場合って親戚づきあいとかしなくちゃならないんだよね。うん、やっぱ無理だわ」
「そこは心配しなくても大丈夫じゃねぇ?竜児ならヘタに口出しさせるようなことはないだろ」
たとえ親族であろうと、弱みの一つや二つ握っているはずだというケンちゃんだが、その弱みを探ったのはむしろ君ではあるまいか。
「誰にでも人に知られたくないことの一つや二つや三つや四つあるってことだよな」と、いい笑顔で口にするケンちゃん。
うん、弱みいっぱい見つけたんだな。お疲れ様です。
「でも結婚するってことはさ、そういうお互いの付録的なものもよく考えなきゃいけないってことだよね」
「まぁ一般的にはな」
家族構成、懐具合、明るい家族計画、と。
「私部長のプロフィールほぼ知らないんだけど」
プロポーズされたことに対して実感がわかないのはそういう事情も大きいのではないかと推測する。
主任に関しては興味を持ったことすらなかったと言ったらちょっと酷すぎるだろうか。
「むしろ前のめりに興味を持ってる方が怖くねぇ?完全に金目当てって言ってるようなもんだろ」
「かと言ってまったくの無一文に嫁ぐってそれチャレンジャーすぎる」
「あぁ……愛があっても無理なことってあるよな、やっぱ」
「というかむしろ今まで何にお金を使ってたのかがものすごく気になる」
まっとうに働いていて無一文というのはどう考えても普通ではない。
何かしらとんでもない理由があるはずだ。
「でも部長ならあえてヒモ扱いにして私が養うというのもありかも知れない」
「その心は?」
「ただしイケメンに限る!!」
ぐっと握りこぶしを作り断言する高瀬に、「んじゃ俺と竜児は大丈夫だな~」と自らイケメン宣言をする賢治。
悔しいけど否定できません。
あ、安心してください。
一応主任もイケメンの範囲内です。(きっとガッツリ貯金はあると思いますが)

しかしそう考えてみると、四乃森龍一も間違いなくイケメン。
うん、これぞ正しくイケメンハーレム。
世の婦女子が羨む設定だが――――。

「ケンちゃん……ハーレムってアリだと思う?」
「自分の心に聞いてみろよ」
両手を胸に当てて聞いてみた。
「ごめん、ナシだって」
「即答か」
「うん、やっぱ即答だね」
二次元ならともかく、三次元の世界で考える余地は無しだった。


……と、いうことで。


「納得していただけました?師匠」
『むしろ今ので何を納得しろと言われているのかが疑問なんだけど』
「おぉ……!!」
すばらしい。
師匠がすっかり正気に戻ったらしく、喋り方が圧倒的に流暢になっている。
「つまりですね。愛というのはわがままなものということで」
『……?』
「ほら、師匠も言ってたじゃないですか。愛にはいくつも種類が存在すると」
『……確かに言ったわね』
「んで、私たちの場合は、お互いに究極のわがままを言い合えるのがその愛の証というか」
『……わがまま?』
何を言っているのかわからないという表情だが、まぁそれも当然だろう。
私たちの関係というのは、ある意味ひどく特殊である。

「だって、究極のわがままじゃありません?
――――自分が死ぬ時は一緒に死んでくれって」

『……!!』

自分の命よりも相手の方が大切、とか。
まぁ一般的にはそういうのを愛の形と呼ぶのかもしれないが。
それは私たちには当てはまらないというだけで。
つまりはこういうことだ。

『残すのも残されるのも嫌だからいっそ一緒に爆散しようぜ!』

骨まで木っ端微塵で混ざり合う、これぞ究極ではないか。

『あなたたち………一体どういう関係なの…?』
「だから幼馴染ですって」
『……普通じゃないわ』
「それでも関係としては幼馴染なんです」
何しろほかに名前を付けようがない。
恋人でもなく、ただの友人でもなく、家族で括るには血が足りない。
精神的な意味合いで「私たちは家族だ」と言い出す人間はいるが、それは法律的にはなんの意味もないもので。
たとえ死ぬまで一緒に暮らしたとしても、本人の死亡時にはなんの権利も持たない。
どんなに頼んでも遺骨のかけらすら分けてもらえない他人。

その点、まったくの赤の他人が家族となれる契約、それが婚姻であり、だからこそ竜児もあえてそこにこだわるのだろうが――――。


「あ、そうだタカ子。言い忘れてたけど、お前の婚姻届って現在凍結されてるぞ」

はい!?

「いつのまに!?」
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