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人生色々男も色々~相原サイド~
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「新しい………婚約者だと?」
谷崎の額で、青白く浮かび上がった血管がピクリと動いたのを相原は見た。
「いいお歳なのですから、この機会に身を固めてみてはいかがですか?」
「あぁ。そりゃいいな。なんなら今ここで祝詞の一つでもあげてやろうか」
(……歳の事を言うのはナシだろ、若造ども)
この中で最年長である相原は、そう大して変わらぬくせにと内心で毒づくが、敵の敵は味方とばかりに結託を見せる二人の男は、手を組んだとなると相当面倒な相手だ。
四乃森龍一だけなら力ずくてもなんとかなりそうなのだが、実は相原はどうにもこの目の前の若い弁護士が苦手だった。
正直彼女のーー高瀬の知り合いでなければ間違っても関わりあいになりたくないと感じる人種である。
まずもって何を考えているのかさっぱりわからないし、言葉で人を弄するタイプの人間には要注意だと今までの経験上身をもって学習していたからだ。
伊達に営業上がりから秘書課の主任にまでのしあがってはいない。
谷崎というコネクションがなかったとしても実力だけでその位置に立ち続ける自信が相原にはある。
むしろ谷崎がいたからこそ今の役職にとどまっているのであって、そうでなければ早々に自ら起業して社を去っていたことだろう。
先ほど高瀬に言ったことは冗談でもなんでもなく、学生時代に株で増やした貯金の総額は、既に現金でマイホームの一つや二つ直ぐ様買えるほどに増えている。
本来であればその稼ぎだけで働かずとも生きていける相原にとって、仕事とは半ば暇潰しの趣味のようなものなのだ。
適当に就職し、順当に出世した先で大学の後輩である谷崎と再会した。
そこで自ら出世コースを外れ、創業者の一族である谷崎の女房役を買ってでたのは、ただの気まぐれだ。
学生時代からなにかと注目を集めていた谷崎に興味を持ったのが最初だが、実際付き合ってみればその関係はやがて友人と呼びあえるまでに変化し、どうやら自分はナンバー2向きの人間だったらしいと、新しい発見をしたりもした。
一見お堅く見えて案外ざっくばらんな谷崎の性格が、相原にとってある種のツボにはまったのかもしれない。
その口から「俺は生き霊にとりつかれている」と聞いたときには冗談か本気か一瞬迷ったが、結局その発言を疑おうとは全く思わなかった。
(………まぁ、折角だから中塚君と共謀して色々試させてはもらったけど)
まさかその出来事に端を発し、困った谷崎が偶然にも「及川高瀬」というとんでもない隠れた才能の持ち主を見いだしてくるとは……人生どう転ぶかわからない。
ちなみに高瀬が谷崎の元に来てからというものの、相原は日々楽しくて仕方がない。
単純に彼女の存在そのものが愉快なのだが、それが谷崎とセットにすると何故か2倍になるのだ。
お気に入りの部下とお気に入りの友人に囲まれ、気分はまさに両手に花。
ーーーー色々話はそれたが結局何が言いたいかと言えば。
自分は、彼女を含めた今のこの環境を、心のそこから気に入っているという事で。
その環境を壊しかねない要因であるこの男の存在がどうにも気にくわないと、そういう話である。
(あぁ、なるほどなぁ………)
自分で自分の考えを整理してみて、改めてわかる事実というものは意外と多い。
そして今相原は改めて、自分がこの弁護士を嫌う本当の理由を思い知った。
「そっか、これが嫉妬か」
誰よりも高瀬に信頼されている、自分とは全く無関係な人間への嫉妬。
高瀬を手にいれるのが谷崎であれば、自分は今までと何ら変わらない距離感で彼らと付き合い続けることができるだろう。
これから先谷崎がどんな道を選んだとしても、その女房役を他人に譲る気などさらさらない。
ならばどこまでいこうとも、自分達は一心同体だ。
だがそれが自分とはなんの関係もない人間だとしたら話は変わってくる。
自分は彼女の一生になんの影響も与えられず、その姿を見ることもできなくなるのだとしたら………。
ーーーそりゃ、不愉快なはずだ。
龍一に対してやたらときつい対応になってしまうのも元を正せば理由は同じ。
幼馴染みとしてこれまで長い時間を過ごしてきたというならともかくとして。
自分達とほぼ同じような時期に出会い、自分達より遥かに彼女との付き合いの浅いあの男が、霊能力というただ一点において、いかにも彼女の事をよく理解しているという素振りを見せるのが気に入らない。
幸いにして高瀬もあの男に対しては最初から塩対応を貫いていたので、その分多少気持ちにも余裕がありはしたのだが、まぁ面白くないのは当然だ。
ぽっと出に取られるくらいなら自分が貰う。
それは谷崎に対しても同じことで。
お前が彼女を繋ぎ止められないというのなら、俺が手にいれても構わないだろう?と。
冗談めいた言動の裏に隠されたその真意を、谷崎が気づかぬわけもない。
まぁ、わかっていて発破をかけている部分もあるのだが。
思考の海に漂っていた相原は、「なんと言われようと発言を取り消すつもりはない」という谷崎のはっきりとした否定の言葉に、ハッと現状を把握する。
ーーーあぁ、危ない危ない。
考え事なんてしてる場合じゃないや。
女房役としては、潔く宣言した谷崎のフォローにまわるべきだろう。
そもそも婚約者という噂自体が偽物であることなどこの際どうでもいい。
大切なのは周知された事実だ。
「いい加減見苦しいんじゃないか?アイツはお前の事をただの上司としか見ていないはずだろう」
「部長、ですからね」
(あぁっと、それは………)
呼び名をつつかれると確かに痛い。
嘘がばれている以上、さすがの谷崎も反論する言葉がない。
何しろ高瀬が普段自分達を「部長」「主任」としか呼ばないのは明白で。
そもそも自分などフルネームで記憶されているかどうかがまず問題だ。
谷崎の名はしっかり覚えていたようだが、その理由が読み仮名がわからなかったから、では……。
「失敗したなぁ……」
彼女に自分達が恋愛対象として認識されるよう、もっと早くから色々動いておけばよかった。
そうすれば、せめて、プライベートではお互いに名前を呼びあうような関係に……。
今の現状ではただ一方的に相原が高瀬を呼び捨てているにすぎず、谷崎に至っては本人の前でろくに名前すら呼べていない。
この状況から、果たしてどう挽回していけばよいのか。
結構な難問に頭を抱えながらも、ソファに横たわったままの高瀬にちらりと視線を向け。
(早く帰っておいでよ、高瀬くん)
とりあえず高瀬が戻ってきたら、職務放棄の罰として色々遊ばせてもらわなくてはと心に決める。
例の婚姻届にサインをしろと再び迫るのも面白いかもしれない。
どちらにせよこれからはもっと派手に色々アピールしていこうと、高瀬にとってはた迷惑な決意を固めた相原に、どこかの誰かがくしゅんとくしゃみをしたとかしないとか。
まぁ………知らぬが仏とはよくいったものだ。
谷崎の額で、青白く浮かび上がった血管がピクリと動いたのを相原は見た。
「いいお歳なのですから、この機会に身を固めてみてはいかがですか?」
「あぁ。そりゃいいな。なんなら今ここで祝詞の一つでもあげてやろうか」
(……歳の事を言うのはナシだろ、若造ども)
この中で最年長である相原は、そう大して変わらぬくせにと内心で毒づくが、敵の敵は味方とばかりに結託を見せる二人の男は、手を組んだとなると相当面倒な相手だ。
四乃森龍一だけなら力ずくてもなんとかなりそうなのだが、実は相原はどうにもこの目の前の若い弁護士が苦手だった。
正直彼女のーー高瀬の知り合いでなければ間違っても関わりあいになりたくないと感じる人種である。
まずもって何を考えているのかさっぱりわからないし、言葉で人を弄するタイプの人間には要注意だと今までの経験上身をもって学習していたからだ。
伊達に営業上がりから秘書課の主任にまでのしあがってはいない。
谷崎というコネクションがなかったとしても実力だけでその位置に立ち続ける自信が相原にはある。
むしろ谷崎がいたからこそ今の役職にとどまっているのであって、そうでなければ早々に自ら起業して社を去っていたことだろう。
先ほど高瀬に言ったことは冗談でもなんでもなく、学生時代に株で増やした貯金の総額は、既に現金でマイホームの一つや二つ直ぐ様買えるほどに増えている。
本来であればその稼ぎだけで働かずとも生きていける相原にとって、仕事とは半ば暇潰しの趣味のようなものなのだ。
適当に就職し、順当に出世した先で大学の後輩である谷崎と再会した。
そこで自ら出世コースを外れ、創業者の一族である谷崎の女房役を買ってでたのは、ただの気まぐれだ。
学生時代からなにかと注目を集めていた谷崎に興味を持ったのが最初だが、実際付き合ってみればその関係はやがて友人と呼びあえるまでに変化し、どうやら自分はナンバー2向きの人間だったらしいと、新しい発見をしたりもした。
一見お堅く見えて案外ざっくばらんな谷崎の性格が、相原にとってある種のツボにはまったのかもしれない。
その口から「俺は生き霊にとりつかれている」と聞いたときには冗談か本気か一瞬迷ったが、結局その発言を疑おうとは全く思わなかった。
(………まぁ、折角だから中塚君と共謀して色々試させてはもらったけど)
まさかその出来事に端を発し、困った谷崎が偶然にも「及川高瀬」というとんでもない隠れた才能の持ち主を見いだしてくるとは……人生どう転ぶかわからない。
ちなみに高瀬が谷崎の元に来てからというものの、相原は日々楽しくて仕方がない。
単純に彼女の存在そのものが愉快なのだが、それが谷崎とセットにすると何故か2倍になるのだ。
お気に入りの部下とお気に入りの友人に囲まれ、気分はまさに両手に花。
ーーーー色々話はそれたが結局何が言いたいかと言えば。
自分は、彼女を含めた今のこの環境を、心のそこから気に入っているという事で。
その環境を壊しかねない要因であるこの男の存在がどうにも気にくわないと、そういう話である。
(あぁ、なるほどなぁ………)
自分で自分の考えを整理してみて、改めてわかる事実というものは意外と多い。
そして今相原は改めて、自分がこの弁護士を嫌う本当の理由を思い知った。
「そっか、これが嫉妬か」
誰よりも高瀬に信頼されている、自分とは全く無関係な人間への嫉妬。
高瀬を手にいれるのが谷崎であれば、自分は今までと何ら変わらない距離感で彼らと付き合い続けることができるだろう。
これから先谷崎がどんな道を選んだとしても、その女房役を他人に譲る気などさらさらない。
ならばどこまでいこうとも、自分達は一心同体だ。
だがそれが自分とはなんの関係もない人間だとしたら話は変わってくる。
自分は彼女の一生になんの影響も与えられず、その姿を見ることもできなくなるのだとしたら………。
ーーーそりゃ、不愉快なはずだ。
龍一に対してやたらときつい対応になってしまうのも元を正せば理由は同じ。
幼馴染みとしてこれまで長い時間を過ごしてきたというならともかくとして。
自分達とほぼ同じような時期に出会い、自分達より遥かに彼女との付き合いの浅いあの男が、霊能力というただ一点において、いかにも彼女の事をよく理解しているという素振りを見せるのが気に入らない。
幸いにして高瀬もあの男に対しては最初から塩対応を貫いていたので、その分多少気持ちにも余裕がありはしたのだが、まぁ面白くないのは当然だ。
ぽっと出に取られるくらいなら自分が貰う。
それは谷崎に対しても同じことで。
お前が彼女を繋ぎ止められないというのなら、俺が手にいれても構わないだろう?と。
冗談めいた言動の裏に隠されたその真意を、谷崎が気づかぬわけもない。
まぁ、わかっていて発破をかけている部分もあるのだが。
思考の海に漂っていた相原は、「なんと言われようと発言を取り消すつもりはない」という谷崎のはっきりとした否定の言葉に、ハッと現状を把握する。
ーーーあぁ、危ない危ない。
考え事なんてしてる場合じゃないや。
女房役としては、潔く宣言した谷崎のフォローにまわるべきだろう。
そもそも婚約者という噂自体が偽物であることなどこの際どうでもいい。
大切なのは周知された事実だ。
「いい加減見苦しいんじゃないか?アイツはお前の事をただの上司としか見ていないはずだろう」
「部長、ですからね」
(あぁっと、それは………)
呼び名をつつかれると確かに痛い。
嘘がばれている以上、さすがの谷崎も反論する言葉がない。
何しろ高瀬が普段自分達を「部長」「主任」としか呼ばないのは明白で。
そもそも自分などフルネームで記憶されているかどうかがまず問題だ。
谷崎の名はしっかり覚えていたようだが、その理由が読み仮名がわからなかったから、では……。
「失敗したなぁ……」
彼女に自分達が恋愛対象として認識されるよう、もっと早くから色々動いておけばよかった。
そうすれば、せめて、プライベートではお互いに名前を呼びあうような関係に……。
今の現状ではただ一方的に相原が高瀬を呼び捨てているにすぎず、谷崎に至っては本人の前でろくに名前すら呼べていない。
この状況から、果たしてどう挽回していけばよいのか。
結構な難問に頭を抱えながらも、ソファに横たわったままの高瀬にちらりと視線を向け。
(早く帰っておいでよ、高瀬くん)
とりあえず高瀬が戻ってきたら、職務放棄の罰として色々遊ばせてもらわなくてはと心に決める。
例の婚姻届にサインをしろと再び迫るのも面白いかもしれない。
どちらにせよこれからはもっと派手に色々アピールしていこうと、高瀬にとってはた迷惑な決意を固めた相原に、どこかの誰かがくしゅんとくしゃみをしたとかしないとか。
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