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まさかの二人。
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「しかし遅いな、中塚君」
「そう言われればそうですね…?」
すっかり空っぽの弁当箱を満足げに見下ろした所で、高瀬もようやくそのことに気づく。
中塚女史が出て行ってから、既に10分近くが経過している。
お昼休みも残すところあと数分だが、目の前に置かれたままの中塚女子の弁当箱にはまだ三分の二ほどが残されており、このままだと中途半端にお昼を終える羽目になりそうだ。
一体、なんの電話だったのだろう。
「気になる?気になるよね?」
「…う~ん??」
やたらと主任がつついてくるが、そこは個人のプライベート。
他人が勝手に立ち入って言い問題かどうか難しいラインだと思う。
「仕事の話とかじゃないんですかね…?」
「俺は違うと思うな。中塚君みたいなタイプは、プライベートの番号を仕事相手にはまず教えない。
でもさっきのは完全に、プライベート用の携帯だったろ」
そっちの番号は俺も知らないしね、と続けられちょっと意外だ。
「主任、私の番号は勝手に調べてませんでした?」
というか、自宅の住所まで勝手に調べられていたなとじろり視線を送れば、「それはそれこれはこれ」とまったくとりあえってももらえない。
「携帯を二台持ちしてるとか、まさにできる女って感じですよね」
「まぁ仕事用じゃなくても複数持ってる子はいるけどね」
「携帯ゲームとか、そんな感じですか?」
以前大流行したポケモンGOなどは、本気でハマると携帯が2台必要になるという話を聞いたことがあるなと思い答えれば「違う違う」と首を振る主任。
「・・・じゃなくて。浮気とか不倫とか、そっちの話だよ」
「不倫!?」
「こら、声が大きい」
「むぐ…っ」
主任の手に口を抑えられるが、そこまで大きな声を出した覚えのない高瀬としては大いに不満だ。
「あぐぐ…!」
「ちょ、普通上司の手を噛むか!?」
「むきーーーー!(だったら離してくださいよ!!)」
「わかったわかった、話すから暴れない!」
ぱっと手をどかされ、はぁと大きく一つ息を吸い込む。
「まったく、野生児じゃないんだからさぁ…」
「主任こそ、まったくもって女性の扱いがなってないと思います」
突然口を塞ぐなどもってのほかだと訴える高瀬に、大げさに手のひらを振り回しながらも、口ほど痛がる様子のない主任が、ワケアリげな流し目をよこす。
「女性扱い?本気で俺からそれをされたいの?ご希望なら…」
皆まで言わせず、即答で断った。
「いえ結構です。むしろ野生の生き物として扱ってください。
ちなみに野生の高瀬は餌付けOKですが、お持ち帰りは禁止です」
ついでにいえばお触り厳禁。
好物をもって一昨日来やがれ。
「……日光にいる猿よりもちょろそうな野生だねぇ…」
「失敬な!」
あんな、幼い子供の手からも情け容赦なく餌を強奪していくような集団と一緒にしてほしくはない。
「せめて猿軍団と言ってください」
「それ既に野生じゃないから」
「あ」
そういえばそうでした。
やっぱり野生よりペットが一番かもしれない。
「……で、何の話でしたっけ?」
「うん、ようやく戻ってきてくれて嬉しいけど、まぁもう別にいいや。
…時間的にそろそろ本人も戻ってきそうだしね?」
「あ、水ようかん!!まだ食べてませんよっ!!」
時計を見れば、更に時間は短く残り5分を切っている。
このままでは机の上に置かれたままの水ようかんが御預けになってしまうとキョロキョロ辺りを見回す高瀬。
「ちょっと様子を見てきますか?」
「今から言っても手遅れじゃない?」
帰ってくる頃にはもう休憩時間が終わってるよ、と。
「諦めて先食べてれば?」
「う~ん」
その言葉は魅力的だが、それに関してはちょっとためらいもある。
できることなら二人一緒に食べたいし、なんだかんだでやっぱり様子が気になった。
「…実は、中塚先輩にはちょっとした私のスパイがついてまして…」
様子を見ることならこの場からでもすぐにできると告げれば、即答で「じゃあ今やろう」との返答が。
「さっきも思いましたけど、なんで今日はやけに中塚女史を気にするんですか?」
「う~ん…。そこは男の勘とでも言っておこうかなぁ」
「男の勘…」
「これまでの経験に裏打ちされた予測とも言えるけど」
不吉なその言葉に嫌なものを感じながらも、「ほら、早く早く」と急かされ、高瀬はすっと目をつぶる。
今、中塚女史についているはずのマルちゃんと意識を同調させるのだ。
そうすれば今あちらの目に見えているものが、そのまま映し出されるはず……。
だったのだが。
「……ん??」
「どうしたの、高瀬君」
「……いや、なぜかハムちゃんが…」
「え、あの子が?」
正面でこちらを見上げている。
いや、むしろこちらがハムちゃんを見下ろしているのか。
覗き見しているこちらに気づいたわけではなかろうが、すぐにくるっと背を向けられてしまった。
「そういえば今日は一緒にいなかったけど、社内で放し飼いにでもしてたの?」
「そんな訳は…。ちょっといろいろあって、今日は竜児の元に預けてきたはずんですけど」
「彼の?」
なんでまた。
そう言いたい気持ちはわかるが、高瀬としても苦渋の選択だったのだ。
「………躾がなってないからしばらく預かっておくと言われて…」
「……………」
押し黙る二人。
まさか、本気で脳改造されそうになって逃げてきたわけじゃあるまいな。
それにしてはやけに元気そうではあったが……。
「んであの子が一体何をしてるって?」
「……ただ中塚女史を見てただけみたいですね。
霊感がないから、中塚女子にはハムちゃんは見えないはずだし、偶然って可能性も捨てきれませんけど」
高瀬を追ってこの会社までやってきたところ、たまたまマルちゃんと遭遇して睨み合っていただけというのも否定はできない。
そもそも新参者であるマルちゃんは、どこかハム太郎をライバル視している節があるのだ。
高瀬のいないところで縄張り争いをしていただけという可能性も十分ある。
「なにしてるんだろ…?」
「中塚君は?今どうしてるの」
「え~っと………」
いかん。ハムちゃんに夢中で本題を忘れるところだった。
「……既に通話は終わってるみたいですね…」
視界が動いた。
どうやらどこかへ向かって移動しはじめたらしい。
「こっちに戻ってきてるのかな…?でもそっちは受付の……」
カツカツと、聞こえるヒールの足音。
恐らくは肩口にでも乗っているのだろうマルちゃんの視界から見えたのは、先導するように前を走り出したハム太郎の姿と、受付の前に立つ見慣れた影。
……え?
「竜児…?」
「そう言われればそうですね…?」
すっかり空っぽの弁当箱を満足げに見下ろした所で、高瀬もようやくそのことに気づく。
中塚女史が出て行ってから、既に10分近くが経過している。
お昼休みも残すところあと数分だが、目の前に置かれたままの中塚女子の弁当箱にはまだ三分の二ほどが残されており、このままだと中途半端にお昼を終える羽目になりそうだ。
一体、なんの電話だったのだろう。
「気になる?気になるよね?」
「…う~ん??」
やたらと主任がつついてくるが、そこは個人のプライベート。
他人が勝手に立ち入って言い問題かどうか難しいラインだと思う。
「仕事の話とかじゃないんですかね…?」
「俺は違うと思うな。中塚君みたいなタイプは、プライベートの番号を仕事相手にはまず教えない。
でもさっきのは完全に、プライベート用の携帯だったろ」
そっちの番号は俺も知らないしね、と続けられちょっと意外だ。
「主任、私の番号は勝手に調べてませんでした?」
というか、自宅の住所まで勝手に調べられていたなとじろり視線を送れば、「それはそれこれはこれ」とまったくとりあえってももらえない。
「携帯を二台持ちしてるとか、まさにできる女って感じですよね」
「まぁ仕事用じゃなくても複数持ってる子はいるけどね」
「携帯ゲームとか、そんな感じですか?」
以前大流行したポケモンGOなどは、本気でハマると携帯が2台必要になるという話を聞いたことがあるなと思い答えれば「違う違う」と首を振る主任。
「・・・じゃなくて。浮気とか不倫とか、そっちの話だよ」
「不倫!?」
「こら、声が大きい」
「むぐ…っ」
主任の手に口を抑えられるが、そこまで大きな声を出した覚えのない高瀬としては大いに不満だ。
「あぐぐ…!」
「ちょ、普通上司の手を噛むか!?」
「むきーーーー!(だったら離してくださいよ!!)」
「わかったわかった、話すから暴れない!」
ぱっと手をどかされ、はぁと大きく一つ息を吸い込む。
「まったく、野生児じゃないんだからさぁ…」
「主任こそ、まったくもって女性の扱いがなってないと思います」
突然口を塞ぐなどもってのほかだと訴える高瀬に、大げさに手のひらを振り回しながらも、口ほど痛がる様子のない主任が、ワケアリげな流し目をよこす。
「女性扱い?本気で俺からそれをされたいの?ご希望なら…」
皆まで言わせず、即答で断った。
「いえ結構です。むしろ野生の生き物として扱ってください。
ちなみに野生の高瀬は餌付けOKですが、お持ち帰りは禁止です」
ついでにいえばお触り厳禁。
好物をもって一昨日来やがれ。
「……日光にいる猿よりもちょろそうな野生だねぇ…」
「失敬な!」
あんな、幼い子供の手からも情け容赦なく餌を強奪していくような集団と一緒にしてほしくはない。
「せめて猿軍団と言ってください」
「それ既に野生じゃないから」
「あ」
そういえばそうでした。
やっぱり野生よりペットが一番かもしれない。
「……で、何の話でしたっけ?」
「うん、ようやく戻ってきてくれて嬉しいけど、まぁもう別にいいや。
…時間的にそろそろ本人も戻ってきそうだしね?」
「あ、水ようかん!!まだ食べてませんよっ!!」
時計を見れば、更に時間は短く残り5分を切っている。
このままでは机の上に置かれたままの水ようかんが御預けになってしまうとキョロキョロ辺りを見回す高瀬。
「ちょっと様子を見てきますか?」
「今から言っても手遅れじゃない?」
帰ってくる頃にはもう休憩時間が終わってるよ、と。
「諦めて先食べてれば?」
「う~ん」
その言葉は魅力的だが、それに関してはちょっとためらいもある。
できることなら二人一緒に食べたいし、なんだかんだでやっぱり様子が気になった。
「…実は、中塚先輩にはちょっとした私のスパイがついてまして…」
様子を見ることならこの場からでもすぐにできると告げれば、即答で「じゃあ今やろう」との返答が。
「さっきも思いましたけど、なんで今日はやけに中塚女史を気にするんですか?」
「う~ん…。そこは男の勘とでも言っておこうかなぁ」
「男の勘…」
「これまでの経験に裏打ちされた予測とも言えるけど」
不吉なその言葉に嫌なものを感じながらも、「ほら、早く早く」と急かされ、高瀬はすっと目をつぶる。
今、中塚女史についているはずのマルちゃんと意識を同調させるのだ。
そうすれば今あちらの目に見えているものが、そのまま映し出されるはず……。
だったのだが。
「……ん??」
「どうしたの、高瀬君」
「……いや、なぜかハムちゃんが…」
「え、あの子が?」
正面でこちらを見上げている。
いや、むしろこちらがハムちゃんを見下ろしているのか。
覗き見しているこちらに気づいたわけではなかろうが、すぐにくるっと背を向けられてしまった。
「そういえば今日は一緒にいなかったけど、社内で放し飼いにでもしてたの?」
「そんな訳は…。ちょっといろいろあって、今日は竜児の元に預けてきたはずんですけど」
「彼の?」
なんでまた。
そう言いたい気持ちはわかるが、高瀬としても苦渋の選択だったのだ。
「………躾がなってないからしばらく預かっておくと言われて…」
「……………」
押し黙る二人。
まさか、本気で脳改造されそうになって逃げてきたわけじゃあるまいな。
それにしてはやけに元気そうではあったが……。
「んであの子が一体何をしてるって?」
「……ただ中塚女史を見てただけみたいですね。
霊感がないから、中塚女子にはハムちゃんは見えないはずだし、偶然って可能性も捨てきれませんけど」
高瀬を追ってこの会社までやってきたところ、たまたまマルちゃんと遭遇して睨み合っていただけというのも否定はできない。
そもそも新参者であるマルちゃんは、どこかハム太郎をライバル視している節があるのだ。
高瀬のいないところで縄張り争いをしていただけという可能性も十分ある。
「なにしてるんだろ…?」
「中塚君は?今どうしてるの」
「え~っと………」
いかん。ハムちゃんに夢中で本題を忘れるところだった。
「……既に通話は終わってるみたいですね…」
視界が動いた。
どうやらどこかへ向かって移動しはじめたらしい。
「こっちに戻ってきてるのかな…?でもそっちは受付の……」
カツカツと、聞こえるヒールの足音。
恐らくは肩口にでも乗っているのだろうマルちゃんの視界から見えたのは、先導するように前を走り出したハム太郎の姿と、受付の前に立つ見慣れた影。
……え?
「竜児…?」
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