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双子

10 収納鞄

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「どれにしようかな~? お前たち、どれが着たいとか、あるか?」

 俺が選びたいがなるべく意見は尊重してやらねば。自分が選んだ好きなものを着て、服は輝くのだ。

「「……」」

 当然のように話しかけられても、狸っ子たちは目を点にしてハテナを浮かべている。「この人誰?」といった顔だ。あらかた汚れが落ちたようで、さっきよりもよく顔が見える。
 なんだその可愛い表情は。ほっぺ伸ばすぞ。

「服だよ。好きなの選んでいいんだよ」

 エイオットが狸たちの前に立ち、えっへんと胸を張る。

「この服、いいでしょ? ごしゅじんさまが作ってくれたんだよ。君たちも、きれいな服を着て良いんだよ」

 エイオットが……俺の服を自慢してくれっ……ている……

「うおああああ……」
「どんだけ泣くんだ」

 老婆が呆れたように背中をソフトに叩いてくる。だってえ。嬉しいじゃんこんなの!

 おっとそうだ。魔女っ娘に戻るの忘れてた。
 隣の部屋へ行きシャッとカーテンを閉める。シャッとカーテンが開くとちまっとした魔女っ娘が出てきた。

「よし!」
「ちんちくりんに戻っちまったね……。せっかくの無駄なイケメンが消えちまったじゃないか」
「だから無駄ってなんだよ」

 あんなゲロ姿を褒めないでくれ。寒気がする。
 早く帰ってこの子達にご飯一杯食べさせたいぜ。五才になると身体がすらりとして成長してくる時期だからな。それよりもぷくぷくにしてくれるわ。うおおおお! 未成年が複数になったのでキッズルームを解放するぞおおおおっ。ポップな壁紙に転んでも痛くない床。前世のデパートなどになった子どもを遊ばせる広場をイメージして作った場所だ。はあはあはあ。早くエイオットと遊んでいる姿が見はあはあはあっ。

「よし帰ろう」

 三日月を呼び出し、帽子の中から巨大バスケットを取り出す。中にフカフカ毛布が敷き詰めてあり、子ども三人くらいなら余裕で入る。
 これを三日月君に縄で括りつけ、吊るせば出来上がりだ。
 俺とエイオットが三日月君に乗り、双子ちゃんはバスケットに入ってもらう。うふふ。可愛いだろうな。空中散歩、喜んでくれるかな~。
 作業しているとエイオットに帽子を取られた。興味深そうに中を覗き込んでいる。

「それは収納鞄だね」
「? 鞄……?」

 ヴァッサーが説明してくれているので、俺は縄の長さの調節を頑張ろう。長さが違って傾いたら大変だ。

「倉庫に繋がっていて、物を出し入れできるんだ……。倉庫が大きければ大きいほど、いっぱい入るよ。そいつは鞄じゃなくて、帽子の形にしているみたいだけどね……」
「えー。全然重たくないよ? 本当に入ってるの?」

 帽子を被ったり中を除いたり、ぶんぶん振ったりしている。かわいいなぁ……。

「魔法の力で倉庫の入り口とつなげているだけだからね。確かに名前が良くないね。勘違いしちまう」

 「ふーん」と、エイオットは帽子を握ったままヴァッサーを見上げる。

「ねえ、おばあちゃんは? 一緒に帰るの?」
「? いいや。私の家はここだ。このあと奴隷たちに飯をやって、水浴びもさせなきゃならんし……。どうしたんだい?」
「なーんだ」

 不満そうに狐耳を垂らしている。

「おばあちゃんと暮らせないの?」
「……」

 ヴァッサーが目を見開いている。

 なんだなんだ。エイオット。ヴァッサーが気に入ったのか。洋館に不足している母性を持っている貴重な人材だからか。

 ヴァッサーも目じりのしわを深くして小麦色の髪を撫でる。

「私は奴隷商人だからね……。本来なら関わらない方が良い人種さ。家に帰ったらもう、私のことは忘れな……」

 帽子を俺の頭に戻し、ぎゅっと黒いローブにしがみつく。

「また、遊びに来てもいい?」

 子どもが遊びに来るような場所ではないな。
 ヴァッサーはなんと言ったものかと焦っている。んもー。

 主人は腰をあげてエイオットを引き剥がす。

「ヴァッサー。いつでも、時間があれば洋館にお茶しに来い。エイオットが喜ぶ」
「……陽光知らずの森を、私が通り抜けられると思うかい?」
「転移陣を渡しておこう。洋館前にセットしてあるから、転移したらすぐに館の中に入れ。それなら大丈夫だろう」

 魔法陣が描かれた紙を渡す。

 受け取った紙片をじっと眺めている。エイオットがまたヴァッサーにくっつき尻尾を振る。

「どうした? 使い方忘れたか?」
「いや……。お茶請けは何を持って行こうかね」

 お茶請け考えていたのか。

「不要だ。帰りに土産をたくさん渡すから、大きい鞄か収納鞄だけ持って来い」

 服造りの材料をこれでもかと渡してやる。あー。仲間が増えるって幸せ。
 ヴァッサーは浅く頷く。

「あいよ。ま、暇が出来たらね……」
「構わん。さ、狸たち。待たせたな。このバスケットに入ってくれ」

 手招きするも、双子は身を寄せ合いじっとしている。

「どうした?」

 片方を抱き上げようと手を伸ばすと、もう片方が噛みついてくる。

「ファイアに触るなジジイ!」
「お腹空いているだろ? 帰って飯にしよう」
「騙されないぞ……そうやって毛皮を剥ぐ気だろ……?」

 歯を剥き出しにして睨んでくる。小さいが牙があって本当に可愛い。撫でたい。

「お前たちはこの変な奴に買われたんだよ……。言うことを聞きな」

 またもや箒で狸たちを転がし、バスケットの中にぺぺイと入れてしまう。手慣れているな。

「なにすんだよー!」
「……おなかすいた」

 ファイアがぼそっと本音を零すと、それが聞こえたアクアが「はっ!」となり必死にほっぺや耳をぺろぺろする。きっと今までもこうやって空腹を誤魔化していたのだろう。

 やるならやるって言ってよ! 心の準備ガハァ!

「大丈夫だからな! ファイア。俺がついてるからな」
「……うん。アクア。また会えてうれしいや……」

 ボロボロ泣き出し、お返しにとアクアの鼻も舐めていく。

「ん、ばか。(涙が)つめてーよ」
「アクアの声、ずっと聞こえてたよ。見すてないでくれて、ありがよ(と)」
「……ばかじゃねーの? 俺がファイアを見すてるわけないだろ」
「うん……うん」

 ふかふかのバスケットの中。ベッドに入ったように気が緩んだのだろう。堪えていたものが溢れ出したようだ。小さい手でアクアの服を握りしめ、アクアも苦しいほど抱きしめ返している。

「……っ、ぐ、はあ、はあ……。ぐ、が、あ……。さ、酸素……誰か酸素」
「ごしゅじんさま。どうしたの」

 萌えの過剰摂取で酸素不足になった。ちょっと呼吸するのも忘れて見入っていただけなのに。
 ヴァッサーはもう呆れて声も出ないと言った表情で、俺の帽子に適当な衣類をぎゅうぎゅうと詰め込み始めた。






🌙






 四人乗せても三日月は問題なく上昇する。

「ふう……。なんか天国にいた気がする。エイオット」

 お腹空いてないか? と聞こうとしたら下から三日月が揺れそうなほどの悲鳴が聞こえた。二人でギョッとして下を向くと、バスケットの中の双子が泣き叫んでいる。

「なんだ? どうした?」

 速度を緩めてそろそろと降下し、バスケットの底をちょんっと地面につける。

「エイオット。様子を見てきてくれ」



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