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青ランク
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「私や黒槌様とは普通に会話しているじゃないか。何がそんなに、何? 何が駄目なんだ?」
「……詩蓮は俺と会話してくれるじゃないか……」
「うん?」
「……」
え? それだけ? 会話してくれる? うん? なんだ? 難しい話か?
背もたれにもたれ、高さのある天井を見上げる。駄目だ。分からん。
偉そうに腕を組んでいると、声をかけられた。
「こんにちは。見ない顔だけど……依頼人かな?」
眼球だけを動かす。そこに立っていたのは銀の鎧を身に纏った男性だった。年齢は二十前後ほど。冒険者か。荒くれ者のイメージのある冒険者ギルド内にいて、さわやかな高原のような雰囲気を発している。裏地が青のマントもよく似合っており、騎士と言われても違和感のない風貌だ。
詩蓮は腕を組んだまま首を振る。
「登録に来た者です」
「あ……それは失敬。なんだか体調が悪そうに見えてね」
ちらっと、騎士風の男の瞳が晶利を見る。詩蓮はため息が出そうだった。
「お構いなく。そのうち復活するでしょうから……」
やれやれと肩を竦めながら言うと、騎士風の男は詩蓮の前で片膝をついた。アクアマリンのような瞳がまっすぐに見つめてくる。
「なにか?」
「いや。君は誰かとチームを組んでいるのかい? もしソロなら、僕のチームに入らないか? ちょうど魔法使いが欲しくてね」
チームと言いながら男は背後を振り返る。つられてそちらに目線を向けると、数人の男女がひとつのテーブルを囲っていた。詩蓮と目が合うと女性の一人が手を振ってくる。
「僕は水木月(みずきづき)。……仲間からは、うん。ツッキーと呼ばれているよ。あんまりかっこよくないけど」
わあ、かわいい。
「青ランクさ」
取り出した青いカードを見せてくる。詩蓮は目を瞠った。
魔法使いに等級があるように、冒険者にもランクがある。初心者が白。黒、赤と上がっていき、青になれるのはほんの一握り。この街にいたのか。それが驚きだ。
「私は白ランクですよ。ツッキーさんとは吊り合いません」
「おごっ……! い、いきなりツッキーさんはやめて……。心の準備が。ランクは白だが等級は四……いや、三はあるだろ?」
今度こそ緑の瞳を見開いた。横で死んだふりをして聞き耳を立てていた晶利も感心する。流石は青ランク。弱者のふりは通じないわけか。
「どうかな?」
「……」
パチンと嫌味なくウインクされる。
向き合うさわやか好青年と美少年。受付のお姉さま方がガン見してくる。上司っぽいおじさんが「こ、こら。仕事しろ」と肩を揺すっているが、彫像のように微動だにしない。
詩蓮は「申し訳ありませんが」と前置きする。
「この具合悪そうな男と組んでいるので、お断りします」
ざわっとギルド内が騒然となる。
「おい。あのガキ「青月(せいげつ)」の誘いを蹴りやがったぞ」「あれが美少女の力か」「男の子じゃね?」「うっそ。美少女だと思ってたのに……」「男か……。イケる」
なんだか耳障りな言葉も聞こえたが、目の前の男を鼻で笑う。
「青月って貴方のことですか?」
水木月は両手で顔を覆っていた。
「やめて……。恥ずかしい」
晶利が同情するような目を向ける。後ろの仲間たちも「見てられない」と顔を背けたり酒を一気飲みしたりしていた。
会話がひと段落着いたのを見計らってか、受付の丸眼鏡のお姉さんが近づいてくる。
「詩蓮様。晶利様。お待たせいたしました。冒険者の身分証でもある「冒険者カード」です」
盆に乗せて差し出される二枚の白いカード。新品の輝きを放っている。
詩蓮は礼を言って両方受け取る。
すこし固めのカードをカツカツと爪で叩いてると、ふと思い出す。
「……あの。魔物を倒す力があるかどうか、見るテスト的なやつはやらないんですか?」
「あ、はい。やりません。私はやった方が良いと思うのですが。冒険者の減少から「来るもの拒まず」になってしまったんですよ」
そうなのか。賑わっているし目の前に最上ランクとその仲間がいるせいで実感が湧きにくいが、やはり数は減ってきているようだ。
「ところで青月の水木月様。何をお話しされていたんですか?」
わくわくした瞳で話を振っているが、二つ名とセットで名を呼ばれた青ランクはもう倒れそうな顔の赤さだ。
「ちょっと……この子を誘っていただけさ。フラれちゃったけどね」
手で顔をぱたぱたあおぎながら、気まずそうな笑みを作る。
「僕は当分この街のギルドにいるから。気が変わったら声をかけてくれ。歓迎するよ」
「ええ」
詩蓮が頷くと去って行く。ほのかに魔物の血の匂いがした。
(殺しまくっているな……。あれは)
あれがベテラン冒険者か。それ以上のベテランが真横にいるが、風格というものを今の晶利からは感じないのでなんとも。
受付のお姉さんも仕事に戻っていく。青ランクに詩蓮もちょっとだけ緊張していたらしい。ふうと息を吐くと、ダウンしている男の背に手を多く。
「一回外、出るか?」
「いや。依頼を探そう」
背筋がまっすぐにならない男を支え依頼書が貼ってある掲示板へ移動する。端から見れば怪我人の介助をしているように思うのか、掲示板前に集っていた人たちが若干距離を空けてくれる。怪我人でもないのに申し訳ない。
魔法使いとしての等級がいくら高くとも冒険者ランクには関係がないため、詩蓮は初心者依頼しか受けることができない。初心者の依頼などだいたい決まっている。
お使い。ドブ掃除。害虫駆除。雑魚魔物の討伐。
「どれにする?」
得意な薬草採取がないのは残念だ。希少な花や植物を採取してくる依頼もあるが、それらは今のランクでは受けられない。
「どれが一番、人と関わらないと思う?」
依頼報酬額よりなにより、そこが基準なんだな。
「どれも関わるだろうけど、魔物退治か?」
「じゃあ、そうしよう……」
本当に大丈夫かこいつ。
依頼書を持ち晶利を引っ張って受付に歩いていく。両手が埋まっているため、杖は追尾モード(フヨフヨ浮いて勝手についてくる)にしておく。
「お願いします」
さっきの丸眼鏡のお姉さんが担当してくれる。
「はい。……「粘土土竜(ねんどもぐら)」の討伐、ですね。ここは粘土採掘場が近くにある街なので、粘土を食べる魔物が集まってくるので助かります」
「大きさはどのくらいですか?」
お姉さんは両手で「このくらい」と頑張って表現する。
「大人で約一メートル。子どもはその半分ほどですが、数が多いです。基本大人しいですが、ご飯を食べているところを邪魔されたり子どもに近づいたりすると凶暴になりますよ。お気をつけください!」
やけに色々教えてくれるな。受付のお姉さんの方が肩に力が入っている。冒険者の数を減らさないようにとの配慮だろうか。それにしてもこの依頼は失敗だったかもしれない。採掘場近くと言うことは、採掘している人が大勢いる可能性がある。
……まあ、いいか。
「ありがとうございます。行ってきます」
「ご帰還を祈っております」
優雅に腰を折って見送ってくれる。
「……詩蓮は俺と会話してくれるじゃないか……」
「うん?」
「……」
え? それだけ? 会話してくれる? うん? なんだ? 難しい話か?
背もたれにもたれ、高さのある天井を見上げる。駄目だ。分からん。
偉そうに腕を組んでいると、声をかけられた。
「こんにちは。見ない顔だけど……依頼人かな?」
眼球だけを動かす。そこに立っていたのは銀の鎧を身に纏った男性だった。年齢は二十前後ほど。冒険者か。荒くれ者のイメージのある冒険者ギルド内にいて、さわやかな高原のような雰囲気を発している。裏地が青のマントもよく似合っており、騎士と言われても違和感のない風貌だ。
詩蓮は腕を組んだまま首を振る。
「登録に来た者です」
「あ……それは失敬。なんだか体調が悪そうに見えてね」
ちらっと、騎士風の男の瞳が晶利を見る。詩蓮はため息が出そうだった。
「お構いなく。そのうち復活するでしょうから……」
やれやれと肩を竦めながら言うと、騎士風の男は詩蓮の前で片膝をついた。アクアマリンのような瞳がまっすぐに見つめてくる。
「なにか?」
「いや。君は誰かとチームを組んでいるのかい? もしソロなら、僕のチームに入らないか? ちょうど魔法使いが欲しくてね」
チームと言いながら男は背後を振り返る。つられてそちらに目線を向けると、数人の男女がひとつのテーブルを囲っていた。詩蓮と目が合うと女性の一人が手を振ってくる。
「僕は水木月(みずきづき)。……仲間からは、うん。ツッキーと呼ばれているよ。あんまりかっこよくないけど」
わあ、かわいい。
「青ランクさ」
取り出した青いカードを見せてくる。詩蓮は目を瞠った。
魔法使いに等級があるように、冒険者にもランクがある。初心者が白。黒、赤と上がっていき、青になれるのはほんの一握り。この街にいたのか。それが驚きだ。
「私は白ランクですよ。ツッキーさんとは吊り合いません」
「おごっ……! い、いきなりツッキーさんはやめて……。心の準備が。ランクは白だが等級は四……いや、三はあるだろ?」
今度こそ緑の瞳を見開いた。横で死んだふりをして聞き耳を立てていた晶利も感心する。流石は青ランク。弱者のふりは通じないわけか。
「どうかな?」
「……」
パチンと嫌味なくウインクされる。
向き合うさわやか好青年と美少年。受付のお姉さま方がガン見してくる。上司っぽいおじさんが「こ、こら。仕事しろ」と肩を揺すっているが、彫像のように微動だにしない。
詩蓮は「申し訳ありませんが」と前置きする。
「この具合悪そうな男と組んでいるので、お断りします」
ざわっとギルド内が騒然となる。
「おい。あのガキ「青月(せいげつ)」の誘いを蹴りやがったぞ」「あれが美少女の力か」「男の子じゃね?」「うっそ。美少女だと思ってたのに……」「男か……。イケる」
なんだか耳障りな言葉も聞こえたが、目の前の男を鼻で笑う。
「青月って貴方のことですか?」
水木月は両手で顔を覆っていた。
「やめて……。恥ずかしい」
晶利が同情するような目を向ける。後ろの仲間たちも「見てられない」と顔を背けたり酒を一気飲みしたりしていた。
会話がひと段落着いたのを見計らってか、受付の丸眼鏡のお姉さんが近づいてくる。
「詩蓮様。晶利様。お待たせいたしました。冒険者の身分証でもある「冒険者カード」です」
盆に乗せて差し出される二枚の白いカード。新品の輝きを放っている。
詩蓮は礼を言って両方受け取る。
すこし固めのカードをカツカツと爪で叩いてると、ふと思い出す。
「……あの。魔物を倒す力があるかどうか、見るテスト的なやつはやらないんですか?」
「あ、はい。やりません。私はやった方が良いと思うのですが。冒険者の減少から「来るもの拒まず」になってしまったんですよ」
そうなのか。賑わっているし目の前に最上ランクとその仲間がいるせいで実感が湧きにくいが、やはり数は減ってきているようだ。
「ところで青月の水木月様。何をお話しされていたんですか?」
わくわくした瞳で話を振っているが、二つ名とセットで名を呼ばれた青ランクはもう倒れそうな顔の赤さだ。
「ちょっと……この子を誘っていただけさ。フラれちゃったけどね」
手で顔をぱたぱたあおぎながら、気まずそうな笑みを作る。
「僕は当分この街のギルドにいるから。気が変わったら声をかけてくれ。歓迎するよ」
「ええ」
詩蓮が頷くと去って行く。ほのかに魔物の血の匂いがした。
(殺しまくっているな……。あれは)
あれがベテラン冒険者か。それ以上のベテランが真横にいるが、風格というものを今の晶利からは感じないのでなんとも。
受付のお姉さんも仕事に戻っていく。青ランクに詩蓮もちょっとだけ緊張していたらしい。ふうと息を吐くと、ダウンしている男の背に手を多く。
「一回外、出るか?」
「いや。依頼を探そう」
背筋がまっすぐにならない男を支え依頼書が貼ってある掲示板へ移動する。端から見れば怪我人の介助をしているように思うのか、掲示板前に集っていた人たちが若干距離を空けてくれる。怪我人でもないのに申し訳ない。
魔法使いとしての等級がいくら高くとも冒険者ランクには関係がないため、詩蓮は初心者依頼しか受けることができない。初心者の依頼などだいたい決まっている。
お使い。ドブ掃除。害虫駆除。雑魚魔物の討伐。
「どれにする?」
得意な薬草採取がないのは残念だ。希少な花や植物を採取してくる依頼もあるが、それらは今のランクでは受けられない。
「どれが一番、人と関わらないと思う?」
依頼報酬額よりなにより、そこが基準なんだな。
「どれも関わるだろうけど、魔物退治か?」
「じゃあ、そうしよう……」
本当に大丈夫かこいつ。
依頼書を持ち晶利を引っ張って受付に歩いていく。両手が埋まっているため、杖は追尾モード(フヨフヨ浮いて勝手についてくる)にしておく。
「お願いします」
さっきの丸眼鏡のお姉さんが担当してくれる。
「はい。……「粘土土竜(ねんどもぐら)」の討伐、ですね。ここは粘土採掘場が近くにある街なので、粘土を食べる魔物が集まってくるので助かります」
「大きさはどのくらいですか?」
お姉さんは両手で「このくらい」と頑張って表現する。
「大人で約一メートル。子どもはその半分ほどですが、数が多いです。基本大人しいですが、ご飯を食べているところを邪魔されたり子どもに近づいたりすると凶暴になりますよ。お気をつけください!」
やけに色々教えてくれるな。受付のお姉さんの方が肩に力が入っている。冒険者の数を減らさないようにとの配慮だろうか。それにしてもこの依頼は失敗だったかもしれない。採掘場近くと言うことは、採掘している人が大勢いる可能性がある。
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「ありがとうございます。行ってきます」
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