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序章 終わりの始まり
02 アインスの対症療法
しおりを挟むオルワルドにはいくつかの明確な法則が存在する。
そのひとつに魔物数保存の法則──名前はいま僕がつけた──がある。
要するに魔物が死んだら、オルワルドは魔素を消費し新しい魔物を追加するのだ。
その話を知ったとき、ゲームなんかで倒された魔物がリポップする現象に似ていると思った。
「マスター。例の対症療法の件ですが──」
対症療法とは僕が一時間前に使った、オルワルドという重病人に対するとりあえずの治療方針を指す言葉。
考え方はシンプルだ。魔素が増えて困るなら、減らせばいいということで。
僕はオルワルドの延命措置として、魔物の大量虐殺することにした。
そしてアインスはその実行に適した場所を報告しに来たのだ。
それにしても。
「え、もう場所は決まったの?」
地上の情報がほとんどない状態で。
さすがはうちの頭脳担当アインス。驚きの早さだ。
「はい、マスター。場所は西大陸の西端にある巨大湖です。その底に大穴を開ける、というのはいかがでしょうか?」
いまダンジョンの一層から四層には僕の作った魔物は配置していない。すべて地上からのお客さん──つまり、オルワルドが作った魔物が住み着いている。
なるほどね。アインスの狙いが見えてきた。
「自分のダンジョンを水責めにしようってことか、面白いね。でも水が足りないよね?」
自慢じゃないけど、僕のダンジョンは広大だ。
「巨大湖の水量は計算済みです。マスターには湖を中心とする区画を閉鎖していただきます」
「あ、そういうことね。もうどこで区切るか決めてるの?」
「はい、マスター」
アインスは流れ込む水圧を見事にコントロールし、細心の注意を払った計画の一端を披露した。
「じゃあ、さっさとやっちゃおうか」
「かしこまりました」
僕はアインスの指示に従い、西大陸の巨大湖を中心としたダンジョン区画を他の区画と分離するため、数多くのトラップ【特殊強化偽壁】を設置し。
作戦の舞台は整った。
「もう湖の底に穴を開けてもいい?」
「はい、お願いします」
アインスの言葉を待って、僕が魔素を使うと。
巨大湖の底に、地下迷宮へと続く大きな階段がぽっかりと口を開き。
湖の水が勢いよくダンジョンへ流れ込む。
まったくどうでもいい話だけど。
巨大な皿に盛られたスープがあり、わざわざ皿の底に穴をあけ、下からストローで吸う僕、という間抜けな構図を思い浮かべ。
ひとり苦笑していたらアインスに尋ねられ、そんなどうでもいい話を説明した。
「マスター、そろそろ皿のスープが空になります」
くすりと笑うアインス。
「……いじめるなって。それにしても、外が見えないのによくわかるな……あ、流れ込む水量か!」
「ご明察のとおりです」
クイズに正解したスッキリ感をちょっと味わい、僕は最終的に五本に増やしたストローでスープすべて飲み干し、皿の穴をふさいだ。
少し遡って、僕がスープ皿の話をアインスに説明していたころ。
ダンジョンでは。
流れ込む大量の水が暴力的な轟音のBGMに身を任せ、徘徊する魔物を蹂躙し。
巨大湖では。
多くの水棲魔物が抵抗むなしく地の底へ飲み込まれていた。
「マスター、状況はいかかでしょうか?」
「予定通り食事が始まったよ」
ダンジョンにある死骸はダンジョン内壁がすべて回収する。これを僕は食事と呼ぶ。
回収された死骸は魔素、経験値、素材、不用品に分別され。
魔素と経験値は僕の糧となり、素材と不要品は無限収納へ移され分類、保存される。
ダンジョンコアはダンジョンのあらゆる場所を見通す目を持っており。
僕は目視と糧の流入からダンジョン隔離区画の地獄絵図を正確に把握していた。
湖の水が尽き、ダンジョン入口を閉じてしばらくすると。
元々隔離区画内に住んでいた魔物はことごとく溺死し、少しすると糧の流入がピタリと止まった。
「ぼちぼち食事終了って感じかな……これで終わり?」
「いえ、もう一幕お付き合いください。次は隔離区画から水を回収してください」
「はいよ」
魔素を使い内壁から水を吸い上げ、しばらくすると。
「おお!」
僕は思わず感嘆の声をあげた。
僕はあえて計画のすべてを聞かなかった。それはアインスへの信頼と、結果を知らない方が面白いから。
僕の目に飛び込んできたのは、床の上でのたうち回る水棲魔物たち。得意な水中では無類の強さを誇る彼らも、不得手な陸上では呼吸すらできないものが多いらしい。
そして僕の食事タイムがまた始まった。
「これで仕上げです。ツヴァイを隔離区画へ送ってください」
残りは呼吸のできる水棲魔物の処理だけ。
僕は自分で作った魔物や守護者をダンジョン内の任意の場所へ配置することができる。
「うん。ツヴァイ準備はいい?」
守護者のひとり、ツヴァイ。
肩まであるチョコレート色の髪と瞳を持つ、いつもニコニコ笑顔の愛されお馬鹿キャラ。
チャームポイントは髪に隠れた垂れた犬耳とお尻のしっぽ。特に耳先としっぽの毛色が他より薄いのがポイントだ。
やっぱり犬はいい。癒される。
「いつでも行けますよぉ、マスター」
短剣を持った右手としっぽをブンブン振るツヴァイを隔離区画内へ転送した。
そしてツヴァイのもうひとつの顔がスピードとパワーをいかした近接戦闘だ。
陸に上がった水棲魔物たちをツヴァイが次々と片付けていき、僕の食事タイムがまた始まった。
作戦は成功裏に終わり、いわゆる魔物のリポップ現象によりオルワルドの貯め込んだ魔素は確かに吐き出された。
が、戦果は微々たるもの。
世界の寿命の一ヶ月分くらいは稼げるかなって期待していたけど、実際は一日分程度。これでは埒があかないし、こんな美味しい狩場は滅多に存在しないだろう。
わかってはいたけど、やはり僕たちには外の情報が致命的に足りてない。
外の情報さえあればアインスがなにか打開策を見つけてくれるに違いない。
僕はダンジョンコアとして生まれ、初めて自分の意思で外出することを決意した。
「そうだ。外へ行こう!」
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