上 下
4 / 4

4話 何もしなかったあとで

しおりを挟む
僕たちは一番最初の部屋に戻ってきた
蛍光灯のうっすら黄ばんだ光が目に優しい、こちらの方がよっぽど何も考えないでいられるのではないかと思った

さてさて、最初に言っていたお話のお時間ですと平賀が仕切りなおす

「その前にお食事はどうですか?簡単なものしかお出しできませんが」

先ほどお買い物に行く途中だったと伺ったのでと繋げると、お代をいただいたりはしませんよとも言った

ありがたくいただくことにする、卵サンドだった

「お口にあうかはわかりませんが」

ふふっと笑う、なんとなくイラっとしたのでおいしかったのだがまぁまぁかなと返事をしておいた

それで、初めて何もしてみなくて感想はどうでしたか?と聞かれ、正直に思ったことを返す
あの沈んだ気持ちや沸き上がった感情を洗いざらい話したすると平賀は
そうでしょうねぇとまた笑った

「人間何もするなと言われると難しいものです、何もしないと思っても何かをしてしまっている、だって人間寝ている時でも脳は動いているし、心臓も鼓動をしている、それを起きているときになにもしない、と考えても余計色々な事を思ってしまうものです」

確かに、実際にさっきはそうだったなと思い返す
しかしそう断言されると何か悔しいものがある、ぼくは案外負けず嫌いな人間だったのかもしれない、とは言っても反論出来ることもないので思うだけに留まったが

だけどもそんな事をいってしまったらさっきの事は無駄だったのか?と聞いてみる
出来もしないことをする場所を提供するのがこのお店なのか?と

「無駄、とは違いますかね。僕は無になろうとしたときに思っていることには人間の本質や、強く思っていることが出てくるとおもっています、ここはそういう事に気付くための場所なんです」

「そうしてその時思ったことを、今こうしているように訪ねて纏める。ゆくゆくは本にできたらいいなぁなんて考えてもいますがね」

だから完全にこの時間は僕の趣味の時間と言ってもいいかもしれません、そのようなことをあの薄ら笑いを笑顔に進化させながら語っていた
本当になんか、食えない男だなとおもったが口に出すのはギリギリ踏みとどまった

「本当はもっと色々と聞きたいのですがね、約束していた時間になってしまった
これ以上は悪いですからね、お帰りになって結構ですよ。もし機会があればまたお話し聞かせてくださいね」

僕としてはもう少し話をしていてもよかったのだが、あちらからそう言われてしまうと居座るのもバツが悪い
なので僕は決められた金額を支払い、またのお越しをの声にもう来ないかも知れませんがと笑いながら返してお店を後にした

お店を出て数十メートル進んだとこで振り返り先ほどの事を思い返し妙に頭の中がスッキリしている感覚と共に、また来てみるかな何てことを思っていた

来た道を思い出しながら帰路に就こうとすると、後ろからさっきまで話していた声でおーいと呼び止められた
なにか忘れ物をしたかな?と思いながらなんですかと?と再び振り返る

「君の後ろ姿を見ていたらね、なんとなくね僕の勘がねいうんだよ」

はぁ、いまいち話がわからない

「もしよかったらさ、君ココで働かない?丁度求職中なのだろう?」

それだけ言うと平賀という男は興味がわいたら連絡してくれと言って
頭の中に本日何度目かの疑問符を浮かべるぼくに電話番号を書いた紙を握らせると返事も聞かずにまたお店のほうにと戻って行ってしまった

いや、うん。確かに求職中ではあるのだが、あの男の勘がいっていたように、僕の勘もいっている、あそこはなんかまずいと・・・・・・
伸るか反るか、気持ちは八割反る方に傾いている
そして空は僕の気持ちと同じぐらい傾いていた
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

無垢で透明

はぎわら歓
現代文学
 真琴は奨学金の返済のために会社勤めをしながら夜、水商売のバイトをしている。苦学生だった頃から一日中働きづくめだった。夜の店で、過去の恩人に似ている葵と出会う。葵は真琴を気に入ったようで、初めて店外デートをすることになった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
現代文学
「さて、ここで解け落ちた氷の話をしよう。氷から解け落ちた雫の話をしようじゃないか」 解け落ちた氷は、社会からあぶれ外れてしまう姿によく似ている。もともと同一の存在であったはずなのに、一度解けてしまえばつららのように垂れさがっている氷にはなることはできない。 「解け落ちた氷」と言える彼らは、何かを探し求めながら高校生活を謳歌する。吃音症を患った女の子、どこか雰囲気が異なってしまった幼馴染、そして密かに禁忌の愛を紡ぐ主人公とその妹。 そんな人たちとの関わりの中で、主人公が「本当」を探していくお話です。 ※この物語は近親愛を題材にした恋愛・現代ドラマの作品です。 5月からしばらく毎日4話以上の更新が入ります。よろしくお願いします。 関連作品:『彩る季節を選べたら』:https://www.alphapolis.co.jp/novel/114384109/903870270 「解け落ちた氷のその行方」の別世界線のお話。完結済み。見ておくと、よりこの作品を楽しめるかもしれません。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...