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2話 なにもしないって何すればいいの?

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男に誘われて店内に入ると
そこは思ったよりも清潔なイメージの内装だった

と、いうよりも

「何もないところでしょう」

何もない、と思っているところで先ほどの店員と思われる男に先んじて言われてしまった
確かに物の少ない店内だ、小さなガラス張りのテーブルと椅子が二つ
カウンターと思われる所には病院にあるようなカルテと思わしきが並べられていた
もしあれがカルテだとしたら、こんな入り組んだ場所にあるこんな怪しいこんな愛想の無い店員のお店にしては
意外と繁盛しているのか?と思ってしまう

それにしては中には誰もおらず、なんというか、その

「あまり繁盛しているようには見えないですか?」

はい、その通りです。とてもじゃないが繁盛しているようには見えない
僕のようになんとなく迷い込んだ一見さんが多いのかもしれない

「それでは、そちらの椅子に座って待っていてください、担当の人間を呼んでまいりますので」

あ、はい。と頷くと僕は椅子に座る
あの男が一人で切り盛りしているわけではないのか

椅子に座り暫くして缶に入ったままの炭酸飲料を出された

「これでも飲んで待っていてください」

せめてコップか何かに注いで出すものではないのか?
こんな些細なことでもお店に入ってしまったことをちょっと後悔し始める
なんとなく全体的に怪しい雰囲気があることを否定できない

出された飲み物になかなか手を付けられずにいると
奥から長身で肩にかかるぐらいの髪をした男が現れた
不潔感はなく、うっすらとほほ笑んだ顔は爽やかさを感じる
先ほど案内してくれた男に比べたら大分とっつき易そうだったが
今はそれさえも怪しく見えてしまう、怪しいループとは一度はまってしまうとなかなか抜け出せないものだ、何もかもが怪しく見える

新しく出てきた男はこんにちはと軽く挨拶するとテーブルを挟んだ僕の向かい側の椅子に座った
年のころは三十にはいかないくらいであろうか

「どうも本日担当します平賀です、よろしくお願いしますね」

無駄に爽やかで怪しい笑顔でそういうと握手を求めてきた
恐る恐る手を差し出し握手にこたえる

それでは軽く質問していきますねと平賀と名乗った男が言うといくつか話を聞かれた

名前、どうしてここに来たか、趣味、最近記憶に残ってること

そんな感じの簡単な質問に答える
特に回答に迷うこともなくさらさらと答えていく

「ありがとうございます、それでは料金とかについて説明していこうかな」

これで凄く法外な値段だったらどうしよう、ええいいまさら考えたってどうしようもあるもんかと自分を奮わせる
でももし本当に法外な値段だったらその時は走って逃げ出そう、多分この優男とカウンターの男ぐらいならば死ぬ気になればなんとか押し飛ばして逃げられるだろう、多分

「簡単に説明させていただきますが、あなたの場合ですと30分コース1000円、そこからは10分ごとに500円になります、他にも一時間コースや3時間パックもありますが、初めてとのことなのでこちらのコースがよいかと」

あれ、思ったよりも普通な値段だ。他にこんなお店を知らないので相場なんてものはわからないが、まぁそれぐらいならばという値段だった

それじゃあ、そのコースでと答える
その時に二つ質問をしてみた、他に追加料金とかはないだろうなということ
そしてもう一つは、何もしないとは何をするのか?と
うっすらと笑った顔のまま平賀は答える

「追加料金はありません、でも追加時間があります。どのコースでも一律30分」

まぁこれは私の趣味も兼ねた時間で何もしなかった後あなたが感じた事など聞かせていただけたらなという時間です、強制ではありませんが、と続けた

「そしてあなたは少しおかしな事を言っていますね、何もしないといっているのに何をするのか?とは矛盾していませんか?」

ふふと笑いながら答える、最初は戸惑うかもしれませんがはじまればすぐにわかりますよ
たしかに言われてみれば矛盾している、のか?なにか釈然としない

質問も無いようでしたらそろそろ行きましょうかと促されて、とっさにハイと答える。やっぱり止めますという最後のチャンス逃してしまった
やはり僕は流されやすい性格なのだろうな

何もしない部屋というのはこの部屋ではない奥のスペースで行われるらしい
平賀が先に席を立ち、奥へと促される
その先導にぼくは頭の中に多少の疑問符を浮かべながらついていく
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