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〈ゼロ〉
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「ただいま」
薄暗い玄関で、下足を確認すると、母親が帰っていることが分かった。
だから、少女は挨拶だけして、自室に直行しようとしたのだが、すぐに母親が呼び止める声がした。
「ちょっと、こっちに来な。早いじゃないか」
少女は諦めて、居間に向かった。
「なんだ、今日は、キョウコちゃんと遊ばないのかい」
「うん、キョウコちゃん、塾に通うことになったんだって」
「へえ、あの家、そんな余裕があったかね。お前は出来が良いから、塾なんか行くことないだろ。ええ。そんなことより、面白い話がある。そこに座りな」
少女は仕方なく、ぺちゃんこの座布団に正座した。
炬燵に入らないのは、早くして、の気持ちだった。
母親は、構わず、大きい茶封筒から、ポラロイド写真を一枚取り出して、少女に渡してよこした。
少女は、写真を覗き込むように見た。
男と女が抱き合って、横たわっていた。
男の方は、およそ、その一年前に、失踪した少女の父親であった。
女は、少女の父親よりも相当若く、知らない顔だった。
「まったく、いい気なもんだよ。こっちは食うや食わずでやってるってのにさあ。女と駆け落ちして、挙げ句のはてに心中。今朝、お前が学校に行った後に、電話で叩き起こされて、行ってみればこのザマ。後で、うちの常連の刑事さんが持ってきてくれたんだよ。内緒だってさあ」
父親は、笑みを浮かべているように、少女には見えた。
女の方も、穏やかな死に顔。
「ようく、見ておきな。こういう馬鹿な男にだけは、つかまるんじゃないよ、お前は」
二人とも、ほっぺが桜色だった。
なぜか、幸せな二人に見えた。
それが、少女が最後に見た父親の姿であった。
薄暗い玄関で、下足を確認すると、母親が帰っていることが分かった。
だから、少女は挨拶だけして、自室に直行しようとしたのだが、すぐに母親が呼び止める声がした。
「ちょっと、こっちに来な。早いじゃないか」
少女は諦めて、居間に向かった。
「なんだ、今日は、キョウコちゃんと遊ばないのかい」
「うん、キョウコちゃん、塾に通うことになったんだって」
「へえ、あの家、そんな余裕があったかね。お前は出来が良いから、塾なんか行くことないだろ。ええ。そんなことより、面白い話がある。そこに座りな」
少女は仕方なく、ぺちゃんこの座布団に正座した。
炬燵に入らないのは、早くして、の気持ちだった。
母親は、構わず、大きい茶封筒から、ポラロイド写真を一枚取り出して、少女に渡してよこした。
少女は、写真を覗き込むように見た。
男と女が抱き合って、横たわっていた。
男の方は、およそ、その一年前に、失踪した少女の父親であった。
女は、少女の父親よりも相当若く、知らない顔だった。
「まったく、いい気なもんだよ。こっちは食うや食わずでやってるってのにさあ。女と駆け落ちして、挙げ句のはてに心中。今朝、お前が学校に行った後に、電話で叩き起こされて、行ってみればこのザマ。後で、うちの常連の刑事さんが持ってきてくれたんだよ。内緒だってさあ」
父親は、笑みを浮かべているように、少女には見えた。
女の方も、穏やかな死に顔。
「ようく、見ておきな。こういう馬鹿な男にだけは、つかまるんじゃないよ、お前は」
二人とも、ほっぺが桜色だった。
なぜか、幸せな二人に見えた。
それが、少女が最後に見た父親の姿であった。
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