あなたにおすすめの小説
わたしは花瓶。呪文のように言い聞かせる。
からした火南
現代文学
◇主体性の剥奪への渇望こそがマゾヒストの本質だとかね……そういう話だよ。
「サキのタトゥー、好き……」
「可愛いでしょ。お気に入りなんだ」
たわれるように舞う二匹のジャコウアゲハ。一目で魅了されてしまった。蝶の羽を描いている繊細なグラデーションに、いつも目を奪われる。
「ワタシもタトゥー入れたいな。サキと同じヤツ」
「やめときな。痛いよ」
そう言った後で、サキは何かに思い至って吹き出した。
「あんた、タトゥーより痛そうなの、いっぱい入れてんじゃん」
この気づかいのなさが好きだ。思わずつられて笑ってしまう。
虎藤虎太郎
八尾倖生
現代文学
ある日、虎藤虎太郎という名の男が、朝にアパートの部屋を出たきり戻ってこなくなり、そのまま行方不明となった──。
その話をアパートの大家から聞かされた二人の男は、縁もゆかりもない虎藤虎太郎を捜し出すために日常を捧げた。一人の男はひたすらに虎藤虎太郎の足跡を追い、もう一人の男は、名前以外、顔も人柄も知らない虎藤虎太郎の頭の中を理解しようとした。アパートの部屋が隣同士だった二人は、次第に接触する機会が増え、次第にお互いを虎藤虎太郎に関連する「何か」だと思い込むようになった。
それでも虎藤虎太郎の存在を知る人間は、二人以外、世界のどこにもいなかった。
二人が探している虎藤虎太郎とは、追い求めている虎藤虎太郎とは、一体誰なのだろうか?
子供おばさん
はと
現代文学
始めてあったのは三十年前、
嫌気が差して離れたものの
縁あってまた再会。昔とちっとも変わっていない。むしろそれ以上に悪い。本人は真剣だが、ちょっと笑っちゃう子供おばさんの話。