208 / 211
マハロブ市街戦
第二百八話 浮気裁判②
しおりを挟む
僕が浮気をしたとしてメリッサに訴えられてしまった。なんでこんなことに!? しかもそこに現れた証人はララァだって!? やばい……!
僕の不安をよそにレイラは不思議そうに言った。
「あの……貴女はたしか、たまにいつの間にかあらわれる、変な人ですよね?」
「恋とは変なものですよ」
「恋は……変?」
ララァの発言にエイミアは不思議な顔をした。レイラは頭に疑問符を浮かべながら尋ねる。
「でも、失礼ですが大丈夫ですか? 私はいつも疑問だったんですが、この人誰なんですか? 私、全然まともに自己紹介とか受けてないんです。勝手に佑月さんが納得していただけで、私はどんなひとかさっぱり」
その言葉にユリアがさらりと答えた。
「彼女の名前は、さすらいの貴方の奴隷、ララァさん。年齢不詳、住所不定、職業不定、無職。趣味は妄想、徘徊。チャームポイントはちらりと見えるパンティーだそうです」
「ただの不審人物じゃないですか!」
「くっ!」
レイラのツッコミにユリアが打撃を受ける。よし、いいぞ、僕もララァをただの不審人物と思っていたからな。しかも厄介な。レイラは天然で心証をよくしてくれた。
「あの大丈夫なんですか……? 証人なんですよね?」
「それについては問題ありません、彼女は決定的な場面を見てしまったのです」
「ほう、それは面白そうね、ララァ、じゃなかった証人、証言をどうぞ」
ユリアの誘いに裁判長エイミアは乗り、ララァは静かに笑っている。なに、まさか……?
「聞きたいですか、私の話を……」
「ええ、決定的な証言をお願いします」
ユリアの勧めにララァは嬉しそうに証言を始めていった。
「それはある月の出ている夜でした、わたくしは静かにレモンティーをのんだ後、ベッドの小さな私のカラダを沈めたころです。何だか寝付けませんでした。わたくしは月を見ながら考えていたのです、佑月さんのことを……。
その時です……! 佑月さんがわたくしの部屋に押し入り、いきなり服をはだけ始めたのです。わたくしは怖くて叫びました。あの紳士的な、彼が、こんな月夜ではオオカミになるなんて……。わたくしは逃げ出そうとしても体が動きません!
そこを彼は狙ったのです! 彼はわたくしの服をびりびりに破りました! きゃあ助けて! でもわたくしの白い肌と乳首が丸出しになり、彼はそこをつまみ、言いました『お前はここが好きなんだろう』と……! やめて、そんなこと、……したらわたくし……!
その一瞬でした、彼はわたくしをひっくり返し、わたくしの小さいお尻のスカートをまくり、下着を破り、そう、お尻の方に彼の銃を突っ込んだのです! ケダモノのような佑月さん、そして、わたくしはだんだんそれが良くなっていき、喘ぎだしました! ついに絶頂に達したとき、彼は私の中に欲望を注いだのです!
──それが彼との馴れ初めでした」
「なんと!」
「えええええええぇえ!?」
エイミアとレイラは衝撃を受けた。いやいやいや、待て待て! まわりも騒然としている。違うんだ! そんなことは……ないと思う。
「うそ……れい……」
「まじか……」
「最低……」
「死ねばいいのに……」
「聞きましたか裁判長、明らかに佑月さんは浮気をしました、しかも強姦。これは百回死刑にしても足りないくらいです。では判決を」
「待った待った待った!」
ユリアの言葉に思わず叫び声をあげる。やはりおかしい、いやいや、ないからないから! しかしエイミアは興奮のあまりハンマーを荒ぶり激しく叩く。
「言い訳は見苦しい! これは罪は明らか、重罪です。よって池田佑月は死・け……」
「待った!」
エイミアの審判にギリギリのところで、レイラは制止をかけた! ふう、危機一髪だ。
「待ってください! 今回の浮気の件と関係ない証言じゃないですか! しかもこれ証拠がないですよ」
「異議あり! 強姦は重罪、死刑です。女性の勇気を出した真摯な言葉に女として心が震えないのですか?」
「でも……!」
レイラの食い下がりにユリアは反論をする。裁判所が荒れる中、ララァ平然と告げた。
「証拠ならありますよ……」
「えっ……」
「え……」
何でユリアまで驚いてるんだよ、いや、僕も驚いているけど。これがまかり通るなんて。だが、ララァは自信をもって言った。
「ええ、わたくしの夢の中に……」
「はい?」
レイラの言葉にエイミアも、
「はあ? 夢?」
と言う。そこでユリアはすかさずフォローする。
「証人は夢見がちな少女なのです、夜ならなおさら」
「ええ、ちなみに昼でも夢を見ます」
ユリアとララァの言葉にレイラはただあきれた様子だった。
「……それって、ただの妄想じゃないですか」
「証人は、さすらいの貴方の奴隷。年齢不詳、住所不定、職業不定、無職。趣味は妄想、徘徊、そして時には白昼夢……」
「だからただの不審人物じゃないですか!」
「くう!?」
レイラのツッコミにユリアが衝撃を受ける。あのねえ、なんだよこれは。エイミアはハンマーを叩いて言った。
「妄想は証言にはなりません。あのさあ、ララァ、こっちはこれ真面目にやってるのよ。本気で佑月を死刑にするかどうか迷っているんだから。アンタの与太話するんだったら、退席してもらうわよ。ということで、今の証言は採用されません」
「ちょっと、ララァさん話してくれた証言と違うじゃないですか、真面目にお願いしますよ……」
とユリアもあきれた様子だった。ララァは驚いた様子で口に手のひらを当てる。
「あらあら、わたくし大真面目なんですけど、仕方ありませんね、じゃあ証言しましょうか、クラリーナ姉さまと、彼……佑月さんのお話を」
「ちゃんと証言があるんですね、ではララァさん、お願いします」
くっ、まだ何かあるのか!? 僕の動揺にもかかわらず、エイミアの言葉に対しララァは興奮した様子で話し始めた。
「ええ昨日、昼も過ぎた頃でした、汗だくの佑月さんは、道に迷った様子でキョロキョロしておりました。わたくしは彼が愛おしくなって、抱き着いたのです。
彼は前、私がナオコ様の救出のために働いたことを頭をなでてほめてくれたのです。私が妄想を繰り広げていると、彼は言いました。『そんなことはいいから、クラリーナの屋敷を知っているだろう、案内してくれないか』と。私は驚きました。
クラリー姉さまとそんなに親しくなっていたなんて。そして彼は言ったのです。『彼女とディナーをしようと約束してるんだ。案内してくれ』と。
何と! クラリー姉さまと彼は結ばれようとしているのです! もちろん彼は興奮した様子でした。だから私は丁寧にクラリー姉さまのもとに案内したのです。
そのあと言わなくてもわかりますね、男と女が二人、夜を共に過ごした、ええ間違いありません」
くっ、今度は本気の証言だった。そうだ僕はララァに案内を頼んだんだ、クラリーナの屋敷へと。しまった、今更これがあだになるなんて、ほぼ決定的な証言だぞ、これは。
「えええええええぇぇ!?」
「どうしましたか? レイラ、これぞ完璧な証言です。貴女の勝ち目は最初から万に一つもなかったのです。どうです? 何か言いたいことはありますか?」
レイラは衝撃を受けて何も言えなくなっていたのに、ユリアは勝ち誇る。
「えっと……、えっと……」
とレイラはつぶやくだけだった。エイミアはすべてを決しハンマーを振り下ろした。
「これぞ決定的な証言です。もはや迷いはありません。今ここで判決を述べます、池田佑月を死・け……」
「異議あり!」
突如、レイラは口をはさむがその後の言葉が出てこない。レイラ……。
「どうしたのレイラ? なにに異議あるの」
「えっとその……」
「その……」
「……異議……ありません!」
「待った!」
ユリアに丸め込まれているレイラに僕が叫び声をあげる。
「ちょっと待ってレイラ、何で納得してるんだよ! 弁護してくれよ!」
「だって佑月さん、これ、決定的じゃないですか、やるなら証拠を残さないでくださいよ!」
「だからしてないって! 困ったときはゆさぶるんだ、何か違和感がある証言だったぞ、何か糸口が見つかるはず……!」
「ゆさぶる……!」
僕とレイラの答えが出ない会話にエイミアがハンマーで答えた。
「被告人、発言を求められていないのに、発言をしないでください。法廷侮辱罪で死刑にしますよ」
「待った!」
どうやらレイラは僕の言葉に冷静になったようだ、よしよし。
「もう一度、証人の証言をお願いできませんか? 被告人が何か違和感あると……これはなにかムジュンがあるはず……」
「見苦しいですよレイラ。いいわ、もう一度ララァさん証言をお願いします。それでとどめを刺しましょう」
「いやだから、ユリア、裁判長の私をほっておいて先に進めないでよ、まあいいか、証人、もう一度、証言をお願いします」
「ええ、わかりましたわ」
ララァは返事をした後、再度証言を始めたのだった。
「ええ昨日、昼も過ぎた頃でした、汗だくの佑月さんは、道に迷った様子でキョロキョロしておりました。わたくしは彼が愛おしくなって、抱き着いたのです。
彼は前、私がナオコ様の救出のために働いたことを頭をなでてほめてくれたのです。私が妄想を繰り広げていると、彼は言いました。『そんなことはいいから、クラリーナの屋敷を知っているだろう、案内してくれないか』と。私は驚きました。
クラリー姉さまとそんなに親しくなっていたなんて。そして彼は言ったのです。『彼女とディナーをしようと約束してるんだ。案内してくれ』と」
「待った!」
レイラは証言の途中で制止する。
「クラリー姉さま……? どういった関係なんです、ララァさんと、クラリーナさんは?」
「クラリー姉さまとですか? 従姉妹ですよ」
「え、従姉妹?」
「待った! 私が独自に教会団に問い合わせしたところ、二人が本当の親戚だと確認されました。何か問題がありますかレイラ?」
レイラとララァの会話にユリアが制止をかけた。彼女が明らかにした事実に、レイラは疲れた調子で言った。
「じゃあ、住所不定とか言わず、そう言えば彼女の身元が明らかじゃないですか……」
「ちなみに、年齢不詳、住所不定、職業不定、無職だととも確認が取れました」
「やっぱり不審人物……」
「証言を続けていいですか?」
「どうぞ」
ララァの質問にエイミアが答えた。そしてまたララァは証言を続ける。
「──何と! クラリー姉さまと彼は結ばれようとしているのです! もちろん彼は興奮した様子でした。だから私は丁寧にクラリー姉さまのもとに案内したのです。
そのあと言わなくてもわかりますね、男と女が二人、夜を共に過ごした、ええ間違いありません」
「待った!」
ここでレイラは制止をかけた。
「何故二人が夜と共にするとわかったのですか?」
「それはこの世界でディナーをとることは男と女がベッドインをすることですから」
「さっき明らかになったことじゃないですか、レイラ。今更悪あがきを……」
ユリアの言葉に確信を得たレイラは勝ち誇り静かに言った。
「なら、ララァさん、証言を変更してください。逃れられない真実のために……」
「ずいぶん含んだ言い方ですね。まあいいですわ。ええ、いいですよ」
彼女の要請にララァは証言を少し変更し話を続けた。
「──何と! クラリー姉さまと彼は結ばれようとしているのです! もちろん彼は興奮した様子でした。この世界では男と女がディナーをとることは、ベッドインすること。
もちろん二人はめでたく結ばれました。ご主人様とお姉さまのふしだらな堕落、すばらしいですね」
「異議あり!」
辺りは静まる、レイラの言葉に皆が驚いてしまった。まさか、レイラ、わかったのか、彼女の証言の穴を……!
「ララァさん、貴女は知らないでしょうけど、さっき明らかになった真実があるんですよ」
「明らかになった真実……?」
「──佑月さんはこの世界の習慣なんて知らなかったんですよ! もちろん男と女がディナーをとることはベッドインすることなんてね!」
「なんと!」
「ぐぅう!?」
エイミアとユリアが衝撃を受ける。そうだ僕はディナーをとることをそんな重要な意味だなんて知らなかった。だからクラリーナの屋敷に向かったんだった。そうだよ。だからこの証言はおかしい。
「確かに……」
「さっき言ってたな……」
「まさか……」
「じゃあ佑月さんはもしかして……」
傍聴人もこっちに心が動き始めた、いいぞ……! 明らかにされた真実にレイラは勝ち誇ったように言い始めた。
「だから、このあとララァさんは、二人がベッドインすることは確信できません。今の証言は明らかにムジュンしてます!」
「きゃああああぁ!?」
ララァ激しい衝撃を受けていた。明らかにされた真実にエイミアは納得のいった様子だった。
「確かに、この証人は妄想が激しい、なら、この証言は決定的とは言えません。困りましたね。冤罪で死刑はいけませんから」
「ぐっ……! レイラ……ふだん、アホの子のくせにこんな時だけ覚醒するなんて……、戦場でもそうだけど……」
「能ある鷹は垢を隠すのです」
「正確には能ある鷹は爪を隠す、よ」
「そうとも言います」
エイミアの言葉にユリアは屈辱を受け、レイラは勝利を確信した様子だった。だが、しかし──
「──あら、決定的な証拠ならありますよ」
とララァの言葉にエイミアは、
「何かあるんですか、他にも?」
と言ったのでララァは笑みを浮かべていた。
「ええ見てしまったんです、決定的な瞬間を……!」
……な、なんだって、まさか他にもあるのか……! くっ、やはりララァは厄介だ……! どうなる、この裁判……?
僕の不安をよそにレイラは不思議そうに言った。
「あの……貴女はたしか、たまにいつの間にかあらわれる、変な人ですよね?」
「恋とは変なものですよ」
「恋は……変?」
ララァの発言にエイミアは不思議な顔をした。レイラは頭に疑問符を浮かべながら尋ねる。
「でも、失礼ですが大丈夫ですか? 私はいつも疑問だったんですが、この人誰なんですか? 私、全然まともに自己紹介とか受けてないんです。勝手に佑月さんが納得していただけで、私はどんなひとかさっぱり」
その言葉にユリアがさらりと答えた。
「彼女の名前は、さすらいの貴方の奴隷、ララァさん。年齢不詳、住所不定、職業不定、無職。趣味は妄想、徘徊。チャームポイントはちらりと見えるパンティーだそうです」
「ただの不審人物じゃないですか!」
「くっ!」
レイラのツッコミにユリアが打撃を受ける。よし、いいぞ、僕もララァをただの不審人物と思っていたからな。しかも厄介な。レイラは天然で心証をよくしてくれた。
「あの大丈夫なんですか……? 証人なんですよね?」
「それについては問題ありません、彼女は決定的な場面を見てしまったのです」
「ほう、それは面白そうね、ララァ、じゃなかった証人、証言をどうぞ」
ユリアの誘いに裁判長エイミアは乗り、ララァは静かに笑っている。なに、まさか……?
「聞きたいですか、私の話を……」
「ええ、決定的な証言をお願いします」
ユリアの勧めにララァは嬉しそうに証言を始めていった。
「それはある月の出ている夜でした、わたくしは静かにレモンティーをのんだ後、ベッドの小さな私のカラダを沈めたころです。何だか寝付けませんでした。わたくしは月を見ながら考えていたのです、佑月さんのことを……。
その時です……! 佑月さんがわたくしの部屋に押し入り、いきなり服をはだけ始めたのです。わたくしは怖くて叫びました。あの紳士的な、彼が、こんな月夜ではオオカミになるなんて……。わたくしは逃げ出そうとしても体が動きません!
そこを彼は狙ったのです! 彼はわたくしの服をびりびりに破りました! きゃあ助けて! でもわたくしの白い肌と乳首が丸出しになり、彼はそこをつまみ、言いました『お前はここが好きなんだろう』と……! やめて、そんなこと、……したらわたくし……!
その一瞬でした、彼はわたくしをひっくり返し、わたくしの小さいお尻のスカートをまくり、下着を破り、そう、お尻の方に彼の銃を突っ込んだのです! ケダモノのような佑月さん、そして、わたくしはだんだんそれが良くなっていき、喘ぎだしました! ついに絶頂に達したとき、彼は私の中に欲望を注いだのです!
──それが彼との馴れ初めでした」
「なんと!」
「えええええええぇえ!?」
エイミアとレイラは衝撃を受けた。いやいやいや、待て待て! まわりも騒然としている。違うんだ! そんなことは……ないと思う。
「うそ……れい……」
「まじか……」
「最低……」
「死ねばいいのに……」
「聞きましたか裁判長、明らかに佑月さんは浮気をしました、しかも強姦。これは百回死刑にしても足りないくらいです。では判決を」
「待った待った待った!」
ユリアの言葉に思わず叫び声をあげる。やはりおかしい、いやいや、ないからないから! しかしエイミアは興奮のあまりハンマーを荒ぶり激しく叩く。
「言い訳は見苦しい! これは罪は明らか、重罪です。よって池田佑月は死・け……」
「待った!」
エイミアの審判にギリギリのところで、レイラは制止をかけた! ふう、危機一髪だ。
「待ってください! 今回の浮気の件と関係ない証言じゃないですか! しかもこれ証拠がないですよ」
「異議あり! 強姦は重罪、死刑です。女性の勇気を出した真摯な言葉に女として心が震えないのですか?」
「でも……!」
レイラの食い下がりにユリアは反論をする。裁判所が荒れる中、ララァ平然と告げた。
「証拠ならありますよ……」
「えっ……」
「え……」
何でユリアまで驚いてるんだよ、いや、僕も驚いているけど。これがまかり通るなんて。だが、ララァは自信をもって言った。
「ええ、わたくしの夢の中に……」
「はい?」
レイラの言葉にエイミアも、
「はあ? 夢?」
と言う。そこでユリアはすかさずフォローする。
「証人は夢見がちな少女なのです、夜ならなおさら」
「ええ、ちなみに昼でも夢を見ます」
ユリアとララァの言葉にレイラはただあきれた様子だった。
「……それって、ただの妄想じゃないですか」
「証人は、さすらいの貴方の奴隷。年齢不詳、住所不定、職業不定、無職。趣味は妄想、徘徊、そして時には白昼夢……」
「だからただの不審人物じゃないですか!」
「くう!?」
レイラのツッコミにユリアが衝撃を受ける。あのねえ、なんだよこれは。エイミアはハンマーを叩いて言った。
「妄想は証言にはなりません。あのさあ、ララァ、こっちはこれ真面目にやってるのよ。本気で佑月を死刑にするかどうか迷っているんだから。アンタの与太話するんだったら、退席してもらうわよ。ということで、今の証言は採用されません」
「ちょっと、ララァさん話してくれた証言と違うじゃないですか、真面目にお願いしますよ……」
とユリアもあきれた様子だった。ララァは驚いた様子で口に手のひらを当てる。
「あらあら、わたくし大真面目なんですけど、仕方ありませんね、じゃあ証言しましょうか、クラリーナ姉さまと、彼……佑月さんのお話を」
「ちゃんと証言があるんですね、ではララァさん、お願いします」
くっ、まだ何かあるのか!? 僕の動揺にもかかわらず、エイミアの言葉に対しララァは興奮した様子で話し始めた。
「ええ昨日、昼も過ぎた頃でした、汗だくの佑月さんは、道に迷った様子でキョロキョロしておりました。わたくしは彼が愛おしくなって、抱き着いたのです。
彼は前、私がナオコ様の救出のために働いたことを頭をなでてほめてくれたのです。私が妄想を繰り広げていると、彼は言いました。『そんなことはいいから、クラリーナの屋敷を知っているだろう、案内してくれないか』と。私は驚きました。
クラリー姉さまとそんなに親しくなっていたなんて。そして彼は言ったのです。『彼女とディナーをしようと約束してるんだ。案内してくれ』と。
何と! クラリー姉さまと彼は結ばれようとしているのです! もちろん彼は興奮した様子でした。だから私は丁寧にクラリー姉さまのもとに案内したのです。
そのあと言わなくてもわかりますね、男と女が二人、夜を共に過ごした、ええ間違いありません」
くっ、今度は本気の証言だった。そうだ僕はララァに案内を頼んだんだ、クラリーナの屋敷へと。しまった、今更これがあだになるなんて、ほぼ決定的な証言だぞ、これは。
「えええええええぇぇ!?」
「どうしましたか? レイラ、これぞ完璧な証言です。貴女の勝ち目は最初から万に一つもなかったのです。どうです? 何か言いたいことはありますか?」
レイラは衝撃を受けて何も言えなくなっていたのに、ユリアは勝ち誇る。
「えっと……、えっと……」
とレイラはつぶやくだけだった。エイミアはすべてを決しハンマーを振り下ろした。
「これぞ決定的な証言です。もはや迷いはありません。今ここで判決を述べます、池田佑月を死・け……」
「異議あり!」
突如、レイラは口をはさむがその後の言葉が出てこない。レイラ……。
「どうしたのレイラ? なにに異議あるの」
「えっとその……」
「その……」
「……異議……ありません!」
「待った!」
ユリアに丸め込まれているレイラに僕が叫び声をあげる。
「ちょっと待ってレイラ、何で納得してるんだよ! 弁護してくれよ!」
「だって佑月さん、これ、決定的じゃないですか、やるなら証拠を残さないでくださいよ!」
「だからしてないって! 困ったときはゆさぶるんだ、何か違和感がある証言だったぞ、何か糸口が見つかるはず……!」
「ゆさぶる……!」
僕とレイラの答えが出ない会話にエイミアがハンマーで答えた。
「被告人、発言を求められていないのに、発言をしないでください。法廷侮辱罪で死刑にしますよ」
「待った!」
どうやらレイラは僕の言葉に冷静になったようだ、よしよし。
「もう一度、証人の証言をお願いできませんか? 被告人が何か違和感あると……これはなにかムジュンがあるはず……」
「見苦しいですよレイラ。いいわ、もう一度ララァさん証言をお願いします。それでとどめを刺しましょう」
「いやだから、ユリア、裁判長の私をほっておいて先に進めないでよ、まあいいか、証人、もう一度、証言をお願いします」
「ええ、わかりましたわ」
ララァは返事をした後、再度証言を始めたのだった。
「ええ昨日、昼も過ぎた頃でした、汗だくの佑月さんは、道に迷った様子でキョロキョロしておりました。わたくしは彼が愛おしくなって、抱き着いたのです。
彼は前、私がナオコ様の救出のために働いたことを頭をなでてほめてくれたのです。私が妄想を繰り広げていると、彼は言いました。『そんなことはいいから、クラリーナの屋敷を知っているだろう、案内してくれないか』と。私は驚きました。
クラリー姉さまとそんなに親しくなっていたなんて。そして彼は言ったのです。『彼女とディナーをしようと約束してるんだ。案内してくれ』と」
「待った!」
レイラは証言の途中で制止する。
「クラリー姉さま……? どういった関係なんです、ララァさんと、クラリーナさんは?」
「クラリー姉さまとですか? 従姉妹ですよ」
「え、従姉妹?」
「待った! 私が独自に教会団に問い合わせしたところ、二人が本当の親戚だと確認されました。何か問題がありますかレイラ?」
レイラとララァの会話にユリアが制止をかけた。彼女が明らかにした事実に、レイラは疲れた調子で言った。
「じゃあ、住所不定とか言わず、そう言えば彼女の身元が明らかじゃないですか……」
「ちなみに、年齢不詳、住所不定、職業不定、無職だととも確認が取れました」
「やっぱり不審人物……」
「証言を続けていいですか?」
「どうぞ」
ララァの質問にエイミアが答えた。そしてまたララァは証言を続ける。
「──何と! クラリー姉さまと彼は結ばれようとしているのです! もちろん彼は興奮した様子でした。だから私は丁寧にクラリー姉さまのもとに案内したのです。
そのあと言わなくてもわかりますね、男と女が二人、夜を共に過ごした、ええ間違いありません」
「待った!」
ここでレイラは制止をかけた。
「何故二人が夜と共にするとわかったのですか?」
「それはこの世界でディナーをとることは男と女がベッドインをすることですから」
「さっき明らかになったことじゃないですか、レイラ。今更悪あがきを……」
ユリアの言葉に確信を得たレイラは勝ち誇り静かに言った。
「なら、ララァさん、証言を変更してください。逃れられない真実のために……」
「ずいぶん含んだ言い方ですね。まあいいですわ。ええ、いいですよ」
彼女の要請にララァは証言を少し変更し話を続けた。
「──何と! クラリー姉さまと彼は結ばれようとしているのです! もちろん彼は興奮した様子でした。この世界では男と女がディナーをとることは、ベッドインすること。
もちろん二人はめでたく結ばれました。ご主人様とお姉さまのふしだらな堕落、すばらしいですね」
「異議あり!」
辺りは静まる、レイラの言葉に皆が驚いてしまった。まさか、レイラ、わかったのか、彼女の証言の穴を……!
「ララァさん、貴女は知らないでしょうけど、さっき明らかになった真実があるんですよ」
「明らかになった真実……?」
「──佑月さんはこの世界の習慣なんて知らなかったんですよ! もちろん男と女がディナーをとることはベッドインすることなんてね!」
「なんと!」
「ぐぅう!?」
エイミアとユリアが衝撃を受ける。そうだ僕はディナーをとることをそんな重要な意味だなんて知らなかった。だからクラリーナの屋敷に向かったんだった。そうだよ。だからこの証言はおかしい。
「確かに……」
「さっき言ってたな……」
「まさか……」
「じゃあ佑月さんはもしかして……」
傍聴人もこっちに心が動き始めた、いいぞ……! 明らかにされた真実にレイラは勝ち誇ったように言い始めた。
「だから、このあとララァさんは、二人がベッドインすることは確信できません。今の証言は明らかにムジュンしてます!」
「きゃああああぁ!?」
ララァ激しい衝撃を受けていた。明らかにされた真実にエイミアは納得のいった様子だった。
「確かに、この証人は妄想が激しい、なら、この証言は決定的とは言えません。困りましたね。冤罪で死刑はいけませんから」
「ぐっ……! レイラ……ふだん、アホの子のくせにこんな時だけ覚醒するなんて……、戦場でもそうだけど……」
「能ある鷹は垢を隠すのです」
「正確には能ある鷹は爪を隠す、よ」
「そうとも言います」
エイミアの言葉にユリアは屈辱を受け、レイラは勝利を確信した様子だった。だが、しかし──
「──あら、決定的な証拠ならありますよ」
とララァの言葉にエイミアは、
「何かあるんですか、他にも?」
と言ったのでララァは笑みを浮かべていた。
「ええ見てしまったんです、決定的な瞬間を……!」
……な、なんだって、まさか他にもあるのか……! くっ、やはりララァは厄介だ……! どうなる、この裁判……?
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【R18】やがて犯される病
開き茄子(あきなす)
恋愛
『凌辱モノ』をテーマにした短編連作の男性向け18禁小説です。
女の子が男にレイプされたり凌辱されたりして可哀そうな目にあいます。
女の子側に救いのない話がメインとなるので、とにかく可哀そうでエロい話が好きな人向けです。
※ノクターンノベルスとpixivにも掲載しております。
内容に違いはありませんので、お好きなサイトでご覧下さい。
また、新シリーズとしてファンタジーものの長編小説(エロ)を企画中です。
更新準備が整いましたらこちらとTwitterでご報告させていただきます。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
上司に「これだから若い女は」「無能は辞めちまえ!」と言われた私ですが、睡眠時間をちゃんと取れば有能だったみたいですよ?
kieiku
ファンタジー
「君にもわかるように言ってやろう、無能は辞めちまえってことだよ!」そう言われても怒れないくらい、私はギリギリだった。まともになったのは帰ってぐっすり寝てから。
すっきりした頭で働いたら、あれ、なんだか良く褒められて、えっ、昇進!?
元上司は大変そうですねえ。ちゃんと睡眠は取った方がいいですよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる