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ママ

第七十八話 守るべきもの②

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「ヴィオネス様! 武器をお換えください。地上戦では不利です!」
「そうか、あれがあったな」

 ──なにぃ!? 僕は必死に怒りを抑えつつ、なるべく事態を冷静に観察していた。奴が手をかかげるとどんどんヴィオネス達の地面が盛り上がっていく。

 何事かと銃を構えた。奴にはしかるべき罰を加える。子どもをいたぶった罪、僕のメリッサを傷つけ罪。その身であがなってもらう。

 ──だが、突如、バチリと電気が弾ける音を上げ雷光が迫ってくる。僕は電流を受けないように、道の端に身を張りつけた。

 雷光は家の残骸に当たり、大きな弾ける音をさせ、赤くほのおが燃え上がる。

 乗り物にのったヴィオネスは、空気抵抗と風を受けながら揺れて空へ舞い上がっていく。その乗り物は、直径10メートルほどの楕円形の地盤に、丸い亀の甲羅こうらのようなものが底についており、前方には尖った角が四個ついている。

 その真ん中には、丸い円形状にえぐり取られていた。

 四つの角が光り輝きバチバチと音を立て、円形の中心部へと一つの雷光となって集まる。そこから赤い線が出ると、レーザーポイントとなり稲妻が走っていく。

 僕は雷の横を走り抜けて、天空にいるヴィオネスへと銃を構える。──くっ! 丸い底部に隠れて奴が見えない。試しに底部の甲羅に銃を放つがびくともしなかった。

「どうだ驚いたか。この武器はアルキメデキスと俺が名付けた。天空に羽ばたくその姿、透明の光の羽根、愚かな地面をうアリどもを焼き尽くす雷光。まさに俺にふさわしい無敵の武器だ!」

「流石ヴィオネス様! カッコいいです!」

 説明をどうもありがとう。お前を殺すには、天空にいるバカに弾が届く位置まで移動しなければならないわけか。よくわかったよ……!

 しかし、困ったことに性能は非常に高い。角が輝きいかずちの光が走ってくる、しまった、こっちに来る! ……そう思ったが明後日の方向に、雷光が投げ打たれた。──もしかして、あんなに空高く上がったら真下が影になって、地上がまともに見えないんじゃないのか……。

 ……どうやら、危険性が低いことを確認すると、僕は急いでメリッサへと駆け寄った。

「メリッサ、大丈夫か!」
「このくらいたいしたことない、うっ!」

 彼女は気高い返事をしたのだが、腹や胸からおびただしい血が出ていた。

「メリッサ……この娘といっしょに下がっていてくれ、僕があいつをなんとかする」
「おじさん……」

 少女は心配そうに、目をうるませ僕のほうを見つめていた。僕は幼い女の子の頭に手を当てる。そして──

「……大丈夫だ、僕には守るべきものがあるからね」

 と言いながら僕は微笑んだ。僕の決意を聞くと、まるでろうそくの炎が揺らめくように、メリッサは立ち上がった。

「わかった、後は任せるぞ、佑月。いくぞ、お前」
「わかった、ママ~!」

 メリッサは女の子の肩に手を当て、フラフラとしながら女の子と避難した。

 大丈夫君が受けた痛みは千倍にして返す。よし、では、仕事をさっさと終わらせるか。僕はアルキメデキスに向かって銃を撃ち、飛行体と家々の影から外へ出て相手に姿が見えるようにした。

「ん! 奴め、あんなところにいたのか。ほら、俺の力を見よ!」

 雷光が僕に向かって駆けていく。観察してみたが、中央のくぼんだ部分から出る赤い線が、誘導していて雷を放っていた。当然発射した時、誘導した場所と走って移動した場所とは距離があるのだ。

 直線に走っていれば何もしなくても、レーザーポイントから逃れられて、雷光は外れる。下は地面だ、電流は拡散され、破壊する威力を持っている最初の一撃をかわせばなんてことはない。

 僕は急いで街の中央の教会へと向かう。教会は大きく、高さ8メートルもある。アルキメデキスの巨体はこちらへ近づいてきた。

「ほら! ほら! 逃げろ! ははは、これは愉快だ」
「ヴィオネス様! 敵が教会の裏へと逃げてしまいます」

「何? 全速力で追っかけるぞ。ゆくぞアルキメデキス!」

 ヴィオネスは下を見つめていたため、正面に教会の鐘楼搭しょうろうとうが迫っていることに気づいていない。……ばかなやつ。

「ヴィオネス様! 前を見てください前を」
「うあああぁぁ────!!」

 教会の鐘塔しょうとうへと派手に突っ込むアルキメデキス。大きく傾き、ずるずるとヴィオネスが落ちそうになった。

「くそっ! 早くアルキメデキスの体勢を元に戻せ!」
「ヴィオネス様! 巨体であるため、急に元に戻そうとすると反動が! きゃああ――!」

 例えば半分に切ったスイカを大きく傾かせると、反対側へと大きく傾く。その反動で同じことを繰り返す。そうやって徐々に重心が安定する角度に落ち着くものだ。

 ヴィオネスが落ちてきたところを狙撃するつもりだったが、奴は運が良い。なんとかへばりついて、こちらへと姿を現さなかった。

 武器を変える必要があるな……。

 ため息をついて、バカがバカやっている間、メリッサを探した。

「メリッサ! 大丈夫か」
「──大丈夫だ。時間稼いでくれたおかげで大分回復したぞ」

 脇道に倒れ込んで休んでいるメリッサを見つけ出し、僕が駆け寄る。女の子も一緒だ。

 辺りで雷光が弾け飛ぶ轟音が鳴り響く。メリッサは怪訝けげんそうに僕を見つめ状況がわからないようだった。

「あのエインヘリャルはどうした。まだ倒してないのか?」
「ああ、おつむのほうは残念だが、能力は一級品だ。だから、ちょっと武器が交換したくてきたんだ」

 遠くから巨大な岩が地面にたたきつけられたような大きな音が聴こえてきた。

「きゃあ!」

 おそらく町民の女の子が悲鳴を上げた、きっと雷が落ちた音だろう。メリッサは不思議そうな顔をして、

「お前がいないのに何であいつは攻撃してるんだ?」
「たぶん、敵を見失ったので、似ている服を着た一般人を攻撃しているのだろう。高い上空から見えにくいからな。影になって」

「なんてはた迷惑な奴だ。最低だな」

 メリッサがふうっとため息をつきながら、右手を頭に当てる。

「メリッサ。武器を交換したい、いいか」
「無論問題ない」

「――メリッサ・ヴァルキュリア、僕に力を貸せ」
「――イメージしろ。お前は何を思い描く――」

 ──二人の契約のやり取りの後、僕の手にはL118A1がある。スナイパーライフルの遠距離射撃なら上空にいようと角度的に届き易々とあいつを仕留められる威力がある。

「後は僕に任せて、メリッサはここで休んでいてくれ」

「頑張るんだぞ!」
「がんばって、おじさん~!」

「任せてくれ!」

 僕には新しい家族ができた。そして、温かい声援に送られて、力強く駆け出し、戦場へと向かうのは非常に心地よかった。
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