上 下
75 / 211
ママ

第七十五話 挑戦者

しおりを挟む
 蒼い空に顔を向けるととんびに似た鳥が羽ばたき鳴いた。まぶしい日差しに金髪を照らし十代後半だろう、長い髪の毛を後ろにくくった少年が大きな家の屋根に上っていた。顔は逆光で陰になって見えないが、隣には鎧をまとった女性がいた、間違いないエインヘリャルとヴァルキュリアだ。

 一歩進み、こちらの様子をのぞいたようで、陰で見えにくいがカーマインの上着に装飾が施され白い服ですらっとしたズボンを履いていたのが見えた。どうやら中世ヨーロッパの服ではない、違う素材でできている。
 
 近くには、長い赤い髪を風に任せている美しい少女がいた、金色の鎧を着ており豪勢な装飾をほどこされた剣を抜く、なるほどやる気か、なら、こちらも手加減の必要はあるまい。

 少年は開口一番、「殺戮さつりくの女皇帝と言うのはお前たちか!」と、メリッサのほうを指さす。彼女はすでに武装をしており剣と盾を構えていたが、虚を突かれたようで、しかめっ面をする。
 
「ヴィオネス様そちらはおそらく、ヴァルキュリアでしょう。エインヘリャルは、そちらのやや若い中年の方です」

 金色の鎧のヴァルキュリアはSG552を構えた僕を指さす。

「なんだ男ではないか、人違いかつまらん。ここいらに、あの日向直子ひゅうがなおこがいると聞いたが、雑魚が相手とはな」

 日向さん……? 何のことだ。彼女の名前が何故出てくる。

「日向直子を知っているのか!」

 メリッサは五十メートルほど離れたエインヘリャルとヴァルキュリアに呼びかける、声はよく通っており、ハスキーがかった声調、それも張りがあり、民衆を畏怖させる効果があった、周りの人々はこちらを見てざわめいている。

「当たり前だ! 三千人ほどのエインヘリャルを虐殺した女帝のエインヘリャルだ。この世界に来て、何度もその名前を聞かされた」

 少年は叫ぶ。なるほど彼女の戦果をかんがみれば納得のいく話だ、そこまで殺せば流石にその筋の奴らに名前が広まってもおかしくない。

「そうか残念だったな、日向直子はこの男に倒されたぞ!」

 僕に手のひらを向け誇らしそうにするメリッサ。何故、敵を挑発するのか理解できない、彼女が戦士としてプライドを持っているためだろうか、名の通ったものを倒したと自慢したいのだろうか、一庶民であった僕にはわからない感覚だ。

「なんだと! 嘘をつくな!」

 少年が見るからに慌てていた。赤い髪のヴァルキュリアが、何やらコソコソと少年に語りかけている。メリッサはというと誇らしげに、にやついている。やめてくれ、僕は日陰の人間なんだ。

「よし、いいだろう。どうせ日向直子に挑戦する気だったんだ。その力本物かどうか試してやる」

 ヴィオネスと呼ばれた少年は右手を天にかざす。光が集まり、彼の手元に長い槍が現れる。二メートルほどだろう、それを美しいフォームでこちらに投げつけてきた。

 なるほど、あれが奴の能力か! 僕は姿勢を下げ、道の右手にいたところを、左の角に移動する。槍はどんどん加速していき、地面に刺さった頃には、深々と刺さり、周りをへこませている。

 見るからに威力は死に至らしめるのに十分だ。目の前で構えて投げつけてくれたため楽によけられたが、後ろからグサリと行けば、1発でヴァルハラへ直行だ、様子見に僕は立ち撃ちでヴィオネスの心臓を狙った、勢いよく銃弾が飛び出ていった。

 しかし、どうやら、バースト射撃で雑に狙っただけなので、肩に1発当たっただけだ。左肩の一部が跳ね飛ぶ、相手が屋根に居座っている以上高低差がある、目視では当てにくく、少々ぶれたか、難しいな修正せねば。

「貴様ぁ――――――――!」

 またもや長槍を投げつけてくる。そして屋根を左手側につたっていく、ならばと、僕は足下にセミオートで弾を置いていく。いつものように相手の行動範囲を束縛して狙撃体制に入った。

 すぐさま照準リアサイトで狙いを定めたが、その間に赤い髪のヴァルキュリアがはばんできた、一瞬ためらったが僕はかまわず撃った。

「キャッ!」
「グッ!」

 弾はヴァルキュリアの左肩を貫通し、ヴィオネスの右の背中を貫通していった、少年はうずくまりながら何の策もなく長槍を放ってきた!

 しかし、あれだけ大きな槍だ直撃コースであろうと上手く立ち回れる。ヴィオネスは眉間にしわを寄せ、「二度までも……! 許さん」とつぶやく。

「ヴィオネス様、武器をお換えください。相手はどうやら遠距離に特化した武器のようです、故にこのままだと不利です」

 武器を変える、まさか僕と同じ系統の能力なのか。赤い光線が集まり、ヴィオネスは右手を掲げ武器を形作っていく。

 あれは……!

 ──少年の手に光が集まり、徐々に物質化していく。光からかたどった物体は僕と同じSG552だった──!

「自分の武器で死ね!」

 弾をこちらへと乱発する。僕は低い姿勢で距離をとり、あちらの屋根の部分から、見えない位置に身を隠す。

「見たか! これが俺の力、ミラーだ! 相手と同じ武器を生成する。どうだ驚いたか!」

 ……少年よ、気持ちはわかるが、敵に手の内を明かすのはどうかと思うよ、これが若さか。僕も若かったら、あんなこと、言っていたのだろうか、自分の中学生時代を思い出して恥ずかしいな。

「ほら! ほら! ほら!」

 調子に乗って銃をフルオートで弾をばらまく。そして、三十発を使い果たす。

「何! 攻撃できないぞ、なんだこれは!」

 弾切れになってロックがかかった。その間、僕は身を乗り出し、奴にとどめの一発をお見舞いしようとする。

「ヴィオネス様! 離れてください」

 またもや赤いヴァルキュリアが視界をさえぎり、その影に隠れてヴィオネスがその場から離れる、おいおいヴァルキュリアは戦闘に関与できないんじゃなかったか、なんてあいまいなルールだ。

 その内にもう一度、奴はSG552を生成する。敵の武器を確認し、素早く木箱の後ろに身を隠した。困ったなあ、これじゃあ堂々巡りだな……!
 
「ほら! 当たれ! 当たれよ!」

 まーたフルオートで弾をばらまいてるよ、下品な奴だな。まあ、奴の方が武器の交換が有利なのはわかった、邪魔しているヴァルキュリアをどうにかするか。

 待っているだけですぐに三十発使い果たす。僕が構えるとまた赤い髪のヴァルキュリアが邪魔をするので、かまわずバースト射撃で胸を撃った。

「キャァァァ――――!!」
「ルリア!」

 あの赤いヴァルキュリアはルリアというのか。知ったところで別段、何の意味もないが、苦笑をしながらも、敵の動向確認はおこたらない。

「絶対に、ヴィオネス様をやらせない!」

 血まみれで視界をさえぎるルリア、少女を撃つ趣味はないが仕方ないと女を盾にする男をうとんじる僕は一つため息をつく。薄目で相手を見やっていると、介入してきた、メリッサが。

「誰か忘れてないか──!」

 メリッサが矮躯わいくで素早く屋根の上へと駆け上がりルリアに襲いかかる、その速度に赤い髪のヴァルキリアが動揺を隠せない様子だ。

「くっ、これほどの傷を負って戦うことが……!」
「ルリア! 戦法を変える、行くぞ!」

 奴らは距離をとって、SG552の弾をばらまく。メリッサは弾を受けないように後退し、情勢を見るや否や僕はすぐさまメリッサと合流した。

「あれをどう見る」
「冗談で戦っているのか、何かしらの策があるのかわからん」

 左眉尻を上げながら苦笑するメリッサ。似たような感覚を得た僕は、「まずは様子見だな、手の内が読めない」といって神経を鋭敏にさせたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

処理中です...