上 下
30 / 211
僕とメリッサの戦い

第三十話 戦慄③

しおりを挟む
 ずしん、ずしんと音を立てて地面が揺れていく、ラミディの足音が近づくたびに地響きが鳴った。──臆するな、それが致命傷になる。

 僕はSG552を構え狙いを定めた、ラミディがうなり雄叫びが響き渡り、迫り来る重圧感。手が震えそうだった、でも僕が戦うんだ、メリッサのため自分のために相手が強敵だろうと……! 僕は必死に心を静めて引き金を絞る。

 SG552から小気味よく3発銃弾が解き放たれていく、うなる銃声、確実に相手をとらえた。──どうだ! 3発にうち2発頭部に命中、だが、表面上は何も起こらない。頼む、僕の感が正しければ効いているはず。──ラミディは頭を抱え少しうなだれている、やはり効いている……!

 大男は叫びながらこちらに向かってくる、なんだと!? 以前よりも早い! 僕は体を投げ出し全力で回避した、あと数センチの所でかわすとラミディの腕が壁に突き刺さり発泡スチロールが砕けるがごとく石造りの壁を簡単にバラバラにした。

 今、僕がいる場所は狭い道だ、下手によけると壁にぶち当たる、冷静に恐怖を鎮めろ。僕は体制を立て直し頭部に向けてバースト射撃をおこなう。

 3発命中するとラミディはのけぞっていく──効いているな。奴の種明かしをするとこうだ、筋肉を硬化させることは不可能だ、なぜなら体を動かすには骨と筋肉が必要で、筋肉が柔らかく伸び縮みすることで人間が複雑な動きができる。筋肉に柔軟性がないと体は動かせない。なら奴はどうやって銃弾の貫通を防いでいるのか。

 それは全身の筋肉の表面を柔らかくクッションのように強化して貫通力を抑え弾は残った運動エネルギーで外にそれる、だが、直線上に伝わる弾の運動エネルギーは相手に伝わる。その運動エネルギーは大男の筋肉や骨にダメージを蓄積させて身体の内部を損傷させる。

 この理論に基づくと頭部に撃つとどうなるか。激しく伝わる弾の運動エネルギーは頭部をゆらせ、やつは脳しんとう状態になる。表面上何も変わらなくても相手のバランス感覚、判断力、運動能力に確実にダメージを与えられる、そこが狙い目だ……。

 僕は距離を取りながら頭部に向けて精密射撃を行う。ラミディは腕を盾にしてこちらに向かってきた、奴はひるむことなく僕の足に向かって攻撃してくる、僕は間合いを取ってかわす。よし、少し余裕が出てきた、相手の動きが鈍くなってきたんだ。ラミディのガードがなくなった頭部にもう一度精密射撃を行った。

 大男は大きく頭を抱えてグラつく、そして体をフラフラとさせて起き上がった。

 いける……!

 ──その時だった! ラミディは右手を高く上げて僕の左肩を手刀で骨を粉々に砕いてしまった、声にならない叫び、走る激痛、とぎれ引きちぎられる腕の感覚。

 なっ……?

 一瞬何が起こったのかわからなかった。

 気づいたら最後、僕の左肩が潰されて肉が引きちぎられており、肩から腕が離れて地面に落ちていた、くっ油断していた。勝利を確信するのにはまだ早かったんだ!

 当たれば一撃で場面がひっくり返る、そういう敵の恐ろしさを思い知った、だがもう遅い。筋肉の表面を柔らかくするのが可能なら表面を刃のように鋭くするのも可能なのか。クソ! 甘く見た! 張り詰めた緊張の糸がほぐれ、痛みと頭痛でまともに考えがまとまらない。

 僕はSG552のショルダーストックをたたみ片手撃ちで構えた。ラミディに向かって銃を放つが銃声は泣いていた。ダメだ、僕の握力じゃ片手では銃の反動で命中が定まらない、僕はラミディから距離を取り、なんとか打開策を考える。

 何かないか? 何かないか? ……そう無計画に逃げていると銃弾が残り少ないことに気づく。SG552の弾倉マガジンは半透明になっており、残りの弾が一目でわかるようにできている。そんな状況でも容赦なくラミディは襲ってくる、身体からわき出る震えが止まらない、僕は下がりながら銃を撃つが途中で引き金が引けなくなる。

 しまった! 弾切れ!?

 ……僕は全力で逃げた、せめて武器の交換をしないと。周りをよくみると、僕は知らない道に迷い込んでいた、まただ……! また、メリッサと大分離れてしまった。

 僕は立ち回り方を間違っていた、メリッサのそばにいなければ僕の能力は発揮できないというのに。ラミディは僕の抵抗がないぶん遠慮なく襲ってくる、触れば一撃死という恐怖、抵抗できないという恐怖、僕はストレスで自暴自棄になっていた。

 抵抗ができないというのはこれほどストレスになるのか、ふとメリッサのことをを思い浮かべる。メリッサやヴァルキュリアはこんな重圧に耐えなければならないないのか。

 今日メリッサがおかしかった理由がわかった。無抵抗は、人間をおかしくする、戦えなければ人はまともに立っていられない、戦えるなら喜んで戦う、戦士ならなおさらだ。

 僕はもはや恐怖で何も考えることができず、でたらめに逃げ出した。大通りに出て人混みの中に無理やり入っていく。正直僕自身、他人を盾にするような、そんなことが平気でできる最低な男だとは僕も思ってなかった。

 ラミディが襲ってくれば他人を突き飛ばして自分の安全を図った。最低のクズ。自分でわかっていながら、助かるためなら何でもした。息が切れ、ストレスでまともに立っていられない。フラフラになりながら道を歩く。僕はここまでなのか……。

 すまないメリッサ、僕は相変わらずダメな男だよ、君の期待に応えることができなかった。足下に何かの物につまずき、僕は派手に転ぶ。大の字で空を眺める、空はよく晴れきれいだ。雲がゆっくりと流れている、青いキャンバスは静かにぼやけていき、僕から目を開く力さえ奪っていく。

 ──ふと、誰かの足音が近づいてくる。

「ずいぶんと派手にやられたな」

 ああ、僕は無様だよ。

「それではこの先生き残っていけないぞ」

 わかっているさ、次があればもっとまともに戦ってみせる。

「目は死んでいないな、なら可能性がある。ゆくぞパートナー」

 そうかありがとう、メリッサ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

追放された付与術士、別の職業に就く

志位斗 茂家波
ファンタジー
「…‥‥レーラ。君はもう、このパーティから出て行ってくれないか?」 ……その一言で、私、付与術士のレーラは冒険者パーティから追放された。 けれども、別にそういう事はどうでもいい。なぜならば、別の就職先なら用意してあるもの。 とは言え、これで明暗が分かれるとは……人生とは不思議である。 たまにやる短編。今回は流行りの追放系を取り入れて見ました。作者の他作品のキャラも出す予定デス。 作者の連載作品「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」より、一部出していますので、興味があればそちらもどうぞ。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉
ファンタジー
『世界を救うために王を目指せ? そんなの絶対にお断りだ!』  ある日めざめたら大好きなゲームの世界にいた。  しかし、転生したのはアクションRPGの中でも、死にゲーと分類されるゲームの世界だった。  死にゲーと呼ばれるほどの過酷な世界で生活していくなんて無理すぎる!  目の前にいた見覚えのあるノンプレイヤーキャラクター(NPC)に必死で縋りついた。 「あなたと一緒に、この世界で平和に暮らしたい!」  死にたくない一心で放った言葉を、NPCはあっさりと受け入れてくれた。  ただし、一緒に暮らす条件として婚約者のふりをしろという。  婚約者のふりをするだけで殺伐とした世界で衣食住の保障がされるならかまわない。  死にゲーが恋愛シミュレーションゲームに変わっただけだ!   ※第17回ファンタジー小説大賞にエントリー中です。  よろしければ投票をしていただけると嬉しいです。  感想、ハートもお待ちしております!

処理中です...