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紅い月のもとで
第九話 リッカの攻防戦②
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喉から止めどなく血が流れる、息が……息ができない、僕は呼吸困難になりその場に倒れ込みもがく。
老婆は僕のみじめな姿を嘲笑し、距離を縮めとどめを刺そうと僕に対して斬りかかる。
閃光のようにきらめく光の刃――、僕は必死の思いでかわそうとするも逃れきれず、太ももを軽く切った、ズボンに血が広がり布が紅く染まる。くそっ、喉から血が止まらない、上着は血まみれになり胴体部分は真っ赤だ。なんだか、頭がクラクラする、それにしても喉が焦げたように熱い。
まともに頭に血が回らず必死の思いでこの場から逃げようとするが、視界すら覚束ない、もう、出血多量でぼんやりしてくる。
まわりの人だかりは僕の様子を見て、道を空け僕から距離を取り口々に叫びだす。だが、誰も助けようとはしない。これが……、自力救済か……。彼らはただ、何やら悲鳴を上げ近づかないようにしていた。
しばらく逃げるようにふらふら歩いた、そして、違和感に気づく、──何故だ、何故老婆が追ってこない。後ろを振り返るが老婆はいない、いったいどういうことなんだ?
とどめを刺すチャンスなのに何故来ない? いったい何を考えている? 思考をめぐらすが何も思いつかない、それほど僕は弱っていた。どんどん足がふらつき絡まりながら僕は必死にメリッサを探した。
盾になるとか言ったくせに肝心なときにメリッサはいない、ああ、もう、よくわからない。僕は今の状態を他人のせいにしてしまうほど、取り乱し、またそうであっても神経を尖らせ冷静さを取り戻そうと集中しようとした。
僕の姿を見れば、人だかりは道を空けてくれるが、後ろを振り向く人は半々。誰も助けちゃあくれない、その肉の厚い壁どもにぶつかりながら前に進んでいく。
だが、心が徐々に落ち着いてくる、理由はわからない、戦いになれてきたのか……? しかしあることに気づく、もしかしてこの場所はたいへん危険ではないのか?
あの老婆がせまい人混みに紛れて僕を襲えば、たやすく致命傷を負わせられるのではないだろうか。奴は背が小さい、人にまぎれてしまえば視界に入りにくい。しかも、相手の武器は体に忍ばせやすいショートソードだ。こちらから確認しづらい。そうか……!
――今、僕に危険が迫っている。
僕はそう認識し直すと、大きく一呼吸をおき、相手の攻撃に備える、それが功を奏したのだ、見ると怪しく人がいきなり僕に近寄ってきた。咄嗟にその場から飛び上がり、近づいてきた人から距離を取り、光る刃を猛襲から避難した。
──やはり、あの老婆だ。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 簡単な獲物だと思ったのに、意外にしっかりした坊やだ」
良く見ると老婆はしっかり腰にショートソードを構えていた、かわさなかったら、おそらく僕は死んでいただろう、くっ、冷静に事を運ばねば、距離を遠ざけるため力を振り絞って思いっきり老婆を蹴りつけた。
「ひゃっ!?」
相手がひるんだところで僕は間合いを取って、後ずさりをし、その場から全力で逃げ出した。やはり大通りは危険だ、脇道に入り裏路地に入る、あたりを見渡すと、とりあえず木箱が並んだ物陰に僕は隠れることにした。
相変わらず喉からの出血が止まらない。くそ! 八方ふさがりだ、どうする? あらためて周りを確認する、そびえ立つ壁は二階から三階建ての石造りの建物で丈夫にできていた、他にはそこらかしこに道具が並べられている、また空を見上げると昼間だが少し薄暗い。
僕の周りには血だまりができて、ここにやってきた道には点々と血が付いており、それを引きずってまっすぐに伸ばされていたり、血が吹き出て血だまりになっているところがあり、それが僕の足下につづき居場所を示していた。
しまった、これでは血の跡で僕の居所がわかってしまう。ここから逃げ回らなければ……。いや、まてよ逃げ回ってどうなる、残り少ない体力を消耗するだけだ。もっと冷静に考えろ、相手はこちらに大きな傷を負わせたことを知っている、当然逃げると考えるだろう。なら、そこが狙い目だ。
つまり、ここで反撃して、相手を動けなくすれば簡単にこの危機を脱せるのではないか。
敵は老婆だ、メリッサはエインヘリャルは筋力は生前のままだと言っていた、ならまともに戦えば大の男の僕のほうが腕力がある、まず勝てるだろう。よし、腹を決めた、武器を探すため周りを見渡すと古びた斧があった。これにするか?
いやだめだ、リーチが短い、懐に入られると一巻の終わりだ、もっと他にいい物はないのか? つぶさに調べてみると長い木の棒の先に、フォーク状の四つ股のかぎ爪が付いた棒があった、これは農作物や厩の飼い葉を運ぶ物だろう、世界史の教科書で見たことがある。
僕はそれを握りしめ敵が来るのをじっと待った。
しばらくすると小さな影がこちらへとゆっくり伸びてきた、足音はしない、そうして静かに僕の元へ影が近づいてくる。
そして光る刃が太陽にさらされ煌めき、こちらへ襲ってきた―!。
僕は突然道に飛び出し、大声を上げ、フォークを振りかぶり、そのかぎ爪を老婆の肩に刺した、奴は突然の反撃に戸惑うが、冷静にかぎ爪部分と木の柄部分を光の刃で切り離す。
この老婆、戦い慣れている――。
老婆がショートソードを振りかぶろうとしたので、またもや僕は老婆を蹴り距離を取った。だが、老婆は僕が残した血の跡で足を滑らし転んでしまう、しめた、チャンスだ──! どうやら確かに反射神経や身体能力は生前のままのようだ、しかし奴のほうが早かった、なんとか体勢を立て直した老婆は僕を覆い被さり、とどめを刺そうとする。くっ、危ない!
そのとき――
僕はすぐさまにフォークの先が切れた木の棒を尖がった切れ端側に老婆の方向に、そして狙いすまして、喉元に突き刺した。
「ぎゃえぇぇ──!!」
老婆が痛みに悶絶する間に速やかに僕はここを立ち去った、ふう、危なかった……! どれほど走っただろうか、わからない。だが、突然、低いハスキーヴォイスの女の声が後ろからかかってくる。
「佑月!」
どうやら心配そうにメリッサが駆け寄ってきた、良かったこれで何とか助……かったのか。その瞬間だ、僕の張り詰めていたいっきに神経が緩み、視界がぼやけて意識が途絶えた。だが、きっと僕は助かったのだ……!
老婆は僕のみじめな姿を嘲笑し、距離を縮めとどめを刺そうと僕に対して斬りかかる。
閃光のようにきらめく光の刃――、僕は必死の思いでかわそうとするも逃れきれず、太ももを軽く切った、ズボンに血が広がり布が紅く染まる。くそっ、喉から血が止まらない、上着は血まみれになり胴体部分は真っ赤だ。なんだか、頭がクラクラする、それにしても喉が焦げたように熱い。
まともに頭に血が回らず必死の思いでこの場から逃げようとするが、視界すら覚束ない、もう、出血多量でぼんやりしてくる。
まわりの人だかりは僕の様子を見て、道を空け僕から距離を取り口々に叫びだす。だが、誰も助けようとはしない。これが……、自力救済か……。彼らはただ、何やら悲鳴を上げ近づかないようにしていた。
しばらく逃げるようにふらふら歩いた、そして、違和感に気づく、──何故だ、何故老婆が追ってこない。後ろを振り返るが老婆はいない、いったいどういうことなんだ?
とどめを刺すチャンスなのに何故来ない? いったい何を考えている? 思考をめぐらすが何も思いつかない、それほど僕は弱っていた。どんどん足がふらつき絡まりながら僕は必死にメリッサを探した。
盾になるとか言ったくせに肝心なときにメリッサはいない、ああ、もう、よくわからない。僕は今の状態を他人のせいにしてしまうほど、取り乱し、またそうであっても神経を尖らせ冷静さを取り戻そうと集中しようとした。
僕の姿を見れば、人だかりは道を空けてくれるが、後ろを振り向く人は半々。誰も助けちゃあくれない、その肉の厚い壁どもにぶつかりながら前に進んでいく。
だが、心が徐々に落ち着いてくる、理由はわからない、戦いになれてきたのか……? しかしあることに気づく、もしかしてこの場所はたいへん危険ではないのか?
あの老婆がせまい人混みに紛れて僕を襲えば、たやすく致命傷を負わせられるのではないだろうか。奴は背が小さい、人にまぎれてしまえば視界に入りにくい。しかも、相手の武器は体に忍ばせやすいショートソードだ。こちらから確認しづらい。そうか……!
――今、僕に危険が迫っている。
僕はそう認識し直すと、大きく一呼吸をおき、相手の攻撃に備える、それが功を奏したのだ、見ると怪しく人がいきなり僕に近寄ってきた。咄嗟にその場から飛び上がり、近づいてきた人から距離を取り、光る刃を猛襲から避難した。
──やはり、あの老婆だ。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 簡単な獲物だと思ったのに、意外にしっかりした坊やだ」
良く見ると老婆はしっかり腰にショートソードを構えていた、かわさなかったら、おそらく僕は死んでいただろう、くっ、冷静に事を運ばねば、距離を遠ざけるため力を振り絞って思いっきり老婆を蹴りつけた。
「ひゃっ!?」
相手がひるんだところで僕は間合いを取って、後ずさりをし、その場から全力で逃げ出した。やはり大通りは危険だ、脇道に入り裏路地に入る、あたりを見渡すと、とりあえず木箱が並んだ物陰に僕は隠れることにした。
相変わらず喉からの出血が止まらない。くそ! 八方ふさがりだ、どうする? あらためて周りを確認する、そびえ立つ壁は二階から三階建ての石造りの建物で丈夫にできていた、他にはそこらかしこに道具が並べられている、また空を見上げると昼間だが少し薄暗い。
僕の周りには血だまりができて、ここにやってきた道には点々と血が付いており、それを引きずってまっすぐに伸ばされていたり、血が吹き出て血だまりになっているところがあり、それが僕の足下につづき居場所を示していた。
しまった、これでは血の跡で僕の居所がわかってしまう。ここから逃げ回らなければ……。いや、まてよ逃げ回ってどうなる、残り少ない体力を消耗するだけだ。もっと冷静に考えろ、相手はこちらに大きな傷を負わせたことを知っている、当然逃げると考えるだろう。なら、そこが狙い目だ。
つまり、ここで反撃して、相手を動けなくすれば簡単にこの危機を脱せるのではないか。
敵は老婆だ、メリッサはエインヘリャルは筋力は生前のままだと言っていた、ならまともに戦えば大の男の僕のほうが腕力がある、まず勝てるだろう。よし、腹を決めた、武器を探すため周りを見渡すと古びた斧があった。これにするか?
いやだめだ、リーチが短い、懐に入られると一巻の終わりだ、もっと他にいい物はないのか? つぶさに調べてみると長い木の棒の先に、フォーク状の四つ股のかぎ爪が付いた棒があった、これは農作物や厩の飼い葉を運ぶ物だろう、世界史の教科書で見たことがある。
僕はそれを握りしめ敵が来るのをじっと待った。
しばらくすると小さな影がこちらへとゆっくり伸びてきた、足音はしない、そうして静かに僕の元へ影が近づいてくる。
そして光る刃が太陽にさらされ煌めき、こちらへ襲ってきた―!。
僕は突然道に飛び出し、大声を上げ、フォークを振りかぶり、そのかぎ爪を老婆の肩に刺した、奴は突然の反撃に戸惑うが、冷静にかぎ爪部分と木の柄部分を光の刃で切り離す。
この老婆、戦い慣れている――。
老婆がショートソードを振りかぶろうとしたので、またもや僕は老婆を蹴り距離を取った。だが、老婆は僕が残した血の跡で足を滑らし転んでしまう、しめた、チャンスだ──! どうやら確かに反射神経や身体能力は生前のままのようだ、しかし奴のほうが早かった、なんとか体勢を立て直した老婆は僕を覆い被さり、とどめを刺そうとする。くっ、危ない!
そのとき――
僕はすぐさまにフォークの先が切れた木の棒を尖がった切れ端側に老婆の方向に、そして狙いすまして、喉元に突き刺した。
「ぎゃえぇぇ──!!」
老婆が痛みに悶絶する間に速やかに僕はここを立ち去った、ふう、危なかった……! どれほど走っただろうか、わからない。だが、突然、低いハスキーヴォイスの女の声が後ろからかかってくる。
「佑月!」
どうやら心配そうにメリッサが駆け寄ってきた、良かったこれで何とか助……かったのか。その瞬間だ、僕の張り詰めていたいっきに神経が緩み、視界がぼやけて意識が途絶えた。だが、きっと僕は助かったのだ……!
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