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魔族大戦

第百五話 魔王対ヴェルドー

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 ふー疲れる。私は魔王ちゃんである、エターリアのそばで置物として、ゴスロリ服で魔王の仕事を見守ることになった。それはいい、どうせネーザン国でも、宰相としてさんざんやったことだから。

 でも……。この服暑い! 黒の生地で、残暑に南方地方のウェストヘイムでただ立っているだけで、汗がだらだら出てくる。エアコンとかないし、マジで地獄。ロリータ伯爵はよく白の生地とはいえ汗一つ流さずいられるよね。

 あーあ超スカートむれるー! 休憩室で、私はスカートをバタバタめくって、スカートの中に新鮮な空気を送っていた。そのときだ、私にこんな厄介なものを送り付けた、ロリータ伯爵こと、ナターシャが、ずんずんとハリセンをもってやってきた。

 そして有無を言わさずに、彼女にハリセンでぱしーんとはたかれてしまった。

「あほか! スカートでパタパタすんなや!!!」
「いったー、なにすんのよ」

「あんたロリータをなめてらしゃるの!? せっかく可愛く仕上がっているというのに、ロリータにあるまじき振る舞い、同じロリータとして、伯爵として、そんな破廉恥な行為は許せませんわ!」
「いいじゃん、暑いんだもん、スカートの中むれるし、ぱたぱたーと」
「だからすんなや!」

 また頭をハリセンでパシーンとはたかれた。ええーだめなのー。

「いいですこと! ロリータは心から始まるの! 動作立ち居振る舞いが、淑女として、美しくないと真のロリータになれませんわよ!」
「いいもん、男なんて、くそくらえですわ! ぱたぱたー」

「女子中学生か!」

 とまたもやパシーンとはたかれた。やたらボケを拾ってくれるから、ナターシャの前でボケ甲斐がある。

「まったく、貴女にはロリータとしての教育が必要なようね」
「こう見えても国立大学卒なんだけど」

「貴女、大卒ですの?」
「あ、やべ。まあ、とりあえず、ぱたぱたー」

「やめんか!」

 となんとか私はごまかして、ハリセンに頭を出した。そんなこんなで、私はロリータ漫才を堪能した後、次の魔王ちゃんの謁見に付き合うことにした。

 というのも、午後は私は何としてでも参加したいと思っていた。エターリアのヴェルドーへの詰問がこれから始まる。レクスから聞いた話だと、ヴェルドーは魔王の命令を無視して、勝手に暴れていたということになる。私は事の次第とヴェルドーの真意を知りたかった。

 フェニックスヒルの謁見室にヴェルドーは堂々と歩いてきた、それを冷たい目で、エターリアは見ていた。だが、ヴェルドーは膝をつくことなく、悪態をつきながら、魔王であるエターリアに言った。

「これはこれは、俺が、前線で戦っている中、つまらぬ言葉で、俺様を呼ぶとは、戦いが上手くいかず狼狽ろうばいしたか、魔王」
「貴様が、前線を勝手に推し進めた結果だ。私はワックスリバーの攻略を命じたはずだ。なのにこのウェストヘイムに攻め込むとはな、結果王城を落とせたものの、補給線が伸び切り、もはや戦線が膠着こうちゃくしてしまっているではないか、ヴェルドー」

「俺がこの城を落とせたから、今ここにいるのだろう、魔王。ニンゲンどもが小細工をして、輸送部隊を襲っているから、こうなっただけで、特に侵攻に問題はない」
「たわけ! 貴様のしりぬぐいのために私がどれだけ奔走ほんそうしたか! 貴様にききたいことがある」

 どうやら、エターリアとヴェルドーには確執があるようだ。計画の考え方の違いが感じ取れる。そして、エターリアの詰問が始まった。

「まず、ウェストヘイムの国王夫妻の殺害、これはなんだ! のちの統治計画のために、私は生かして捕らえろと命じたはずだ。これについて説明をしてもらおうか!」
「ふん! 知れたことを。ウェストヘイムを落とすために、貴族どもの旗頭の首をへし折ってやっただけだ」

「そのせいで、ウェストヘイムの騎士たちが、頑強に抵抗しているではないか。いまだウェストヘイム全土を制圧できないのはこのためだ。貴様、私に逆らう気か!」
「王族はニンゲンどもの汚物そのものだ。この世界から根絶やしにすれば、人類どもの教育とやらも簡単だろう」

「ふざけたことを。貴様の私情での行動だろ、ヴェルドー。次に統治計画の話だ。私は人間どもを導くために、再教育計画の一環として、労働管理をしている。しかしだ、貴様は無駄に人間どものみならず、味方である魔族を抑圧し、恐怖統治を行っている。これはどういうことだ」

「当り前だ。戦争状態で、軍の元に力を集結しないと、反乱がおこり、統治など夢のまた夢だ」
「そのせいで、人間たちや、貴様の部下たちまで関係にひびが入っている。結果、思ったほどの成果をあげられず、この場で足止めを食らっている。これは明らかに貴様の責任だ」

「次第に抵抗などやむ、殺し尽くせば、剣をとるものもいなくなるだろう」
「そのあと何が残る。我ら魔族だけで、人間たちを統治できるほど、組織も、人材も足りないぞ。貴様の行動は私の考えと明らかに反する。

 次に、ワックスリバーの攻略についてだ。なぜ制圧せずに地形が厳しい、ウェストヘイム制圧に向かった。おかげで、物資が枯渇し始めている。貴様が急ぎすぎたせいだ」
「戦さには、流れというものがある、勢いのまま、ネーザンを制圧してしまえば、この戦争も簡単に終わらせられる。ワックスリバーなど、あとで制圧すればいい。問題はネーザン、リッチフォードだ。

 ここを制圧しない限り長期戦になる。短期戦で、決着つけるには、スピードが重要だ」
「誰がそれを命じた! ええい、貴様の自分勝手な判断は目に余る。もういい、ヴェルドー、貴様は東部戦線に行け、私がワックスリバーを攻略し、ウェストヘイムの反乱を鎮圧して、西部、東部同時に、ネーザン、リッチフォードを攻略する。

 話は以上だ! とっとと行け!」
「ちっ、くだらぬことを。長期戦になるぞ。まあいい、お前が魔王だ。命令には従ってやろう。お前ら行くぞ」

 と、ヴェルドーは部下に言って、この場から立ち去った。エターリアはかなり、怒っているようで、まあ、計画が全部ご破算にされてしまったから当然だけど、ヴェルドーの後ろ姿に言った。

「ヴェルドー、貴様、何を考えている……!」

 やっぱり、エターリアと、ヴェルドーは明らかに性格が合わない。ヴェルドーの言い分も一理あるけど、魔王である、エターリアはのちの統治のことを考えており、王家を残したほうが政治的に有利だ。政治家と、将軍の確執を私は目の当たりにした気分だった。

 今日の魔王の仕事が済み、私はエターリアとミリシアとともに休憩をとっていた。その中いきなりエターリアは私に抱き着いた。

「ミサちゃん! 今日もいい子にしてたね。えらいわ、貴女はとても賢くていい子。貴女がいるだけで嫌なことも忘れられる気分だよ。えらいえらい」
「ははは……」

 私たちは笑い返した。魔王ちゃんギャップ可愛い。仕事はバリバリのキャリアウーマンだけど、休みになると、ママさんになる。ぐっとくるわー。ミリシアはエターリアに尋ねた。

「ヴェルドーはどうするの、エターリア?」
「心外だが、あれでも部下の中には信頼をしている奴らもいるし、将軍として有能なのは確かだ。なんとか手綱をとって見せる」

「大変ね」
「しかたない、様々な人材が必要だ。なにぶん、軍をまとめる人材が不足しているから、背に腹は代えられない」

「ね、ねえ、魔王ちゃん」

 私は気になっていることをエターリアに尋ねた。

「レクスやレミィはどうなるの? 訴えた内容はほぼ間違いないと確認されたと思うけど……」
「軍律違反をした以上不問に処すわけにはいかない。しかし、情状酌量の余地もあるし、内部告発の功もある。当分は謹慎処分として、ヴェルドー軍から外し、そうだな、私直属の軍にレクス隊をまわすか」

「よかった……」

 彼らが害されることがなくてよかった。二人とも友達だし。そういえば、わたしこれからどうなるんだろう。そのこともエターリアにきいてみた。

「ねえ、私どうなるの?」
「ミサがネーザン宰相だということは人間たちを調べていて、ほぼ間違いないと私は解釈した。だが、安心して、危害を加えるつもりはないから。この戦争が終わったら、ネーザンのもとに返してあげる。

 まあ、体のいい人質だと思ってくれていいわ、何かに使う気はないけど、貴女がいるだけで、ネーザンの行動を鈍らせることができる。ごめんね」
「うん……当然だと思う」

 ほぼここ最近のネーザンの政治権力を握っていた私が、魔族側にとって、邪魔になるのは当たり前。だいぶ譲歩していると思う。本来なら消されておかしくない。とりあえず私は様子を見ながら、これからの行動を決めないと。

 そういった中、ロリータ伯爵が、この部屋に入ってきた。

「魔王様、ご機嫌が麗しく幸いでございますわ。ちょっとミサを借りてよろしいかしら?」
「なに、ナターシャ。貴女もミサと遊びたいの?」

「彼女には、ロリータの素養がありますわ! わたくしがぜひ磨いて差し上げたいと思いまして。完全なるロリータの道はまず一歩から、歩き方から、スプーンの持ち方まで指導して差し上げますわ!」

「げっ!?」

 私は思わず声をあげたが、だれの承諾もなく私はロリータ伯爵に連れ去られていく。ちょ、ちょっとこの娘、力強くない!? 流石魔族と人間のハーフ。それを和やかにエターリアとミリシアは見送っていた。

「仲のいい友達ができてよかったね、ミサ」
「ええ、私たちも一安心だわ」

 いや、私の処女消失の危機なんだけど。自分で思って意味がわからないけど。その夕方、私はロリータ伯爵のロリータ特訓でしばかれて、疲れたまま、城に帰っていた。私は一言帰ったことをエターリアに告げようとしたら、エターリアとミリシアの声が聞こえてきた。

「ミリシア、相変わらずお前の肌は白いな」
「貴女の唇はとても素敵よ……」

「ミリシア……!」
「エターリア……」

 まってまって、そういうこと!? そういうことなの!? 私は体が熱くなって、逃げるようにこの場から去って、自室で、顔を突っ伏した。魔族の人間関係複雑すぎるよお……。
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