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世界統一編

第七十七話 統一王選挙②

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 時は過ぎていく。私は政府執務室で、ジャスミンに統一王選挙の成り行きを聞いた。

「どう? ワックスリバー側は納得してくれた?」
「残念ながら、色よい返事はもらえませんでした」

「わかった、私が出るしかなさそうね」
「本来ならば、外務省だけで解決したかったのですが……」

「こうなっては致し方ないわ、対立候補を立てられては、統一後の先行きが不安。私が何とかするしかないわ。それと、国務省官僚と話し合って決めたことだけど、この案の資料どう思う?」
「……! こうなっては、ワックスリバーは対応せざるを得ないでしょうね、わかりました、この資料を総務省に回しておきます」

「頼むわ、あとワックスリバーの外相と直接対談をセッティングして」
「かしこまりました」

 サウザック王の擁立をとりやめるよう、ワックスリバー外務卿ブレアを我が国の会場ミッドウェーに呼び出した。私たちは握手を交わし、そしてテーブルをはさんで席に着く。ブレアは言った。

「高名なミサ宰相閣下に会えて光栄です」
「こちらこそ、ようこそネーザンへ、ブレア外務卿」

「ご用向きをうかがいたいのですが」
「まさか、ご存じのはず。再三、我々が申していることなので」

「ほう……もしや、我が国のサウザック王支持の事でしょうか、統一王選挙で」
「ええ、そうです。われわれの立場としては、大陸大同盟戦争で功績がある、我がネーザン国王の支持をお願いしたいのです」

「これはこれは、奇妙な申し出でございますな」
「何か?」

「これは選挙ですよ、どこの王を支持するかは各国の王がお決めになることでしょう」
「サウザック王で統一王になることが可能だと?」

「可能かどうかは選挙の行方を見ないと、ですなあ」
「その資格がの王にあると」

「何をおっしゃります。サウザック王家は過去三度、統一王になられました。ネーザン王家は過去たったの一回。歴史を見て伝統のあるサウザックにその資格がないとは暴言に等しいですな」
「それは過去の話、今はネーザンが最盛国。国力が違いすぎる」

「別に富で、王が決まるわけでもありますまい」
「……何が不満?」

「ほう、我らに言い分がないとおっしゃりますか?」
「聞こうかしら」

「我らワックスリバーは、大陸同盟戦争で、当事国であり、戦災を受けました。女は犯され、男は殺され、我が領に対し暴虐を尽くしたのですよ、反大陸同盟どもは」
「それは、我が国が立て替えて、復興資金として、貴方の国に投資していることだし、賠償金も獲得したはず」

「足りませぬな」
「何が?」

「我が国に対し特にエジンバラ王は十分な謝罪をしておりませぬ」
「そのための賠償金よ」

「ですが、余りにも足りない、我が国が流した血の涙はあれっぽっちの賠償金ではぬぐえませぬよ」
「……わがままを言ってもらっては困るわ」

「は……?」

 私の声が厚みを増したことにブレアは目頭を押さえて、とぼけ始める。

「あなた方ワックスリバーを我が国は尊重しました。復興資金も十分に回しております。我々国民の税金で。その復興資金の返還資金分の期限を過ぎているのにまだ、10%ほどしか受け取っていないわ。貴方の国はどういうつもりなの、まさか恩義のある我がネーザンに対し仇で返すと?」
「いえ……けっしてそのような……」

「返す気がないのかしら?」
「けっして……」

「何が不足なの? もう一度言ってみて」
「我が国にもメンツというものが……」

「なら、開発資金として我が国から借款しゃっかんを申し出ましょう、我が国は先進国ですから。で、もう一度言ってみて、何が、不満なの?」
「……」

「どうぞ何でもおっしゃってください、我が国は自由の国ですから、ええ、貴方の国が魔族に襲われた場合、我々が援軍に向かうことになってますからね、あなた方が我が国を尊重する限り」
「……まさか、軍事同盟を反故にすると……?」

「貴方がたの出方しだいだわ、何せ恩義のある我が国をおとしめめて、他の王を擁立しようと貴方がたは申し出ているのですから……」
「お待ちください! 少々時間をいただけないでしょうか!? 我が国にも立場が──」

「急いだ方がいいわね、統一王選挙はもう一か月後に迫っているのだから」
「……失礼いたします」

 そうしてブレア外相は速足で、この場から立ち去った。私はそれを冷たいまなざしで見送る。外交は言葉とナイフよ、さて、やる気があるなら、かかってきなさい。これが、政治よ。

 時が過ぎ、ワックスリバー側は私を王宮に招きたいと申し出があった。わかった、会ってやろうじゃない直接ワックスリバー王に。

 こうして、私はワックスリバー王に謁見することとなった。

「お久しゅうございます、ネーザン宰相、ミサ・エチゴ・オブ・リーガンでございます。私をお呼びということではるばる南の国ネーザンからやって参りました。王自ら、私に会いたいと。して、ご用件を承りとうございます」
「うむ、ミサ宰相はご健在のようだ」

「ええ、元気が有り余っております。何せ15日間悪路をはるばる、馬車で乗り継いできたのですから、しかも統一王選挙で慌ただしい中」
「……どうやら、我が外務卿が失礼をしたようだ。宰相殿が叱責したとか。震えて青くなっておったぞ」

「ひどいいわれのない誹謗中傷ですね。私はとくとワックスリバー側に利益と我が国の立場を申したまでの事」

 私が静かに言うと、謁見室がしんと静まる。その中ワックスリバー王が突然笑い出した。

「ははは……相変わらず気丈なお方だなミサ殿。いや、わが国でも色々あってな、ぐずっていただけだ。戯言よ、戯言よ。ははは……」
「はっ……?」

「我が国もネーザン国王の恩恵を十二分受けている。わしがサウザック王を擁立するのではないかとの風聞にネーザン国王殿はお怒りかな?」
「我が国王陛下は海よりも深いお心と、険峻けんしゅんな山よりも高き志をお持ちの方。如何にして、卑小なる私が、陛下の御心みこころを知ることが出来ましょうか」

「そうか、そうか……。なるほど……。うむ、実はな、私はな、直接ミサ殿に会いたかっただけじゃ。なんの裏表もない、わしの我がままじゃ、あははは」
「……!」

 なるほど、擁立を進めたはいいものの、こちら側の強い反発で、なんとか矛を収めたいけど、メンツが邪魔してたから、私を呼びつけることで、とりあえず形だけでもワックスリバー王家の威厳を示したかった、そういうことか。

 私はワックスリバー王に合わせて笑った。

「ははは、そのようなこと、我が国王が統一王になった暁には、気軽に、ワックスリバー国王陛下に私自ら会いに行きましょう!」
「そうか! それはいいな、よし! ……我が国はネーザン国王を支持する。皆の者よいな!」

「……ははっ!」

 みんな顔が真っ青だ。こっちのきついボディーブローが利いたようだ。周りが口をふさぐ中、私とワックスリバー王は笑い続けた。

「ははは……」
「ははは……」

 宴会があったあと、ネーザンへの帰路のなか、ジャスミンは私に告げた。

「ミサ様、ワックスリバー側は正式に我が国の支持を表明しました。脅しと、利益を解いたおかげですね。手はず通り、開発機関基金を補正予算に通します」
「おけー。手間かけさせるんじゃないわよ。まったく、みんな子どもなんだから」

「はっ? いや、これは参りましたな、ははは……」
「あはは……」

 票は固めた。あとは投票だけだ。こういう成り行きで、私は帰り、そのまま直接、統一王選挙会場に向かったのだった。
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