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世界統一編
第七十一話 憲法審議会、普通法編②
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はー、憲法審議会が始まったはいいものの、エロとウンコで盛り上がった気がするわ。なんだかなあ、人間の本質的な取り決めが多いから、中世には。宗教が絡んでいるから、めんどくさいったらありゃしない。
そういえば、ウェル・グリードとオリヴィアが、酒を一緒に飲みに行ったらしいけど、どうなったかしら、他人のプライバシーのこととはいえ気になる。別にウェル・グリードを男性的に見ているわけじゃないけど、なんつーか、下世話なんだけど、私も女だもん。他人の恋愛事とか気になるし。
で、次の日憲法審議会があったので、例のメンバーが集まると、グリードが青ざめた顔で、気持ち悪そうにしていた。不思議に思って、私はグリードに尋ねた。
「どうしたの、グリード。気分が悪いの?」
「申し訳ない閣下、昨日オリヴィア君と酒を飲んで、ちょっと……」
「?」
私はオリヴィアの方を見ると、彼女はケロッとしていた。
「あー昨日楽しかったねー、いやあ、飲んだ飲んだ」
「君は飲みすぎだし、酒癖が悪すぎだ。人に無理やり酒を勧めるわ、酒場で暴れるわ、服を脱ごうとするわ、散々だったよ。男で酒癖悪い相手と飲んだことはあるが、女性でこんなに酒癖が悪いのは君が初めてだ」
「そうです? 私普通ですけど?」
「君みたいな普通がいてたまるか! 今後、絶対に君とは酒を飲まない!」
「あーら残念、ふられちゃったー」
どうやら上手くいかなかったらしい。流石に酒癖悪い女性と付き合うのは男として嫌だろう。私も気を付けなきゃ。とりあえずオリヴィアとは酒を飲まないことにしとこう。グリードがまた一ついけにえとなってくれた。南無……。
さて、そろそろ始めるか。
「では審議したい判例を紹介します。
事件番号 王歴771年(G)455
事件名 賭博による契約違反の金額返却請求
判事事項 賭博による、明確にルールに基づかない結果の正当性の有無
裁判要旨 aとvは事前に明らかとなっているダイスの賭博を行った際、vはそのダイスに磁石を埋め込み、ダイスの目を自由に操った。
結果aはvに金貨30枚を支払ったが、あとで、公平性に欠けると判明し、aはvに金貨30枚の返還を求む。
しかし、賭博は王歴651年の政令で禁止されており、賭博自体が違法なので、aはvに請求権がない。よって本件を棄却する」
「当たり前じゃねえか」
私が全部判例文を述べると、グリースはすぐさま言い放った。だが、それにカーディフ侯爵が異論を唱える。
「いやいや、イカサマではないか。それなのに賭けが成立しており、明らかにフェアではなかろう」
「しかし、賭博は違法だし、教会も禁止している。ギャンブルなんて神の意志を試すような真似をした罰だ」
それに対し、グリードは注釈をつける。
「この判例は、あくまでギャンブルに対する裁判所の立場を表した判決であって、ギャンブル自体をやってはいけないというわけではない。そもそも貴族でも平民でもギャンブルはどこでも行われているし、賭け事を上から禁止しても誰もやめようとしない。
つまり止められないんだ。一部の人では。ギャンブル中毒となった国民はたくさんいるし、それをイカサマして、法で保護されないことを良いことに、無垢な民衆から金を巻き上げているのが現状だ。
これに対してこれまで内府は禁令を出す以外行動を起こさなかった。だが、むしろ禁令を課すことで、より違法の取引になり、その犯罪によって、反政府組織や、違法組織の資金源となっている。
だから宰相閣下はこの判例を持ち出したのでしょう?」
「ええ、そうよ。私の前の世界の故郷の国でもギャンブルは禁止してたけど、逆に違法なギャンブルである、パチンコや裏カジノが流行って、治安組織の警察が違法組織と半ば手を組んで、無垢な市民の財産を奪っている、これについて皆さんはどう思うかの意見が欲しかったの」
私の言葉にジェラードは悩みだす。
「んーギャンブルか、私もするが、最近カード賭博が流行ってきてな、あれは意外と面白い。頭も使うし、金がかかっている以上、本気になるし、禁止されると余計に流行ると思うんだが……」
それに対しカンビアスは言った。
「しかしグリード議員が申した通り、ギャンブル中毒となって、中には全財産を奪われ、服も奪われて、裸で路上に捨てられるとか事例があったのですよ。
議会が禁止するよう求めるのが当然だと思います」
「だがなあ、カンビアス卿、止めろと言っても止めないのが実態だからな。かえって余計にややこしくなっているのではないか?」
とのマンチェスター卿の意見。うーん、みんな考え込んでいる。これはかなり難しい問題だ。治安に関わる以上、どっちとも取れないのが内府立場なんだけど、介入しないと、ギャンブル中毒が増えるし、禁止すると、違法組織で、違法なギャンブルが行われる。
人間の本質的な欲に関わる問題だから。珍しくオリヴィアが周りの空気を読んで私に尋ねた。
「ミサ様の世界ではどうなってるんです? ギャンブル問題」
「そうね、国によってさまざまだけど、むしろ国が管理して、公営ギャンブルとなってるものもあるわ。私の国でも宝くじや、競馬、競輪は国が管理してる。
むしろその方がいいかもね、他の裏組織にカネを回すより、税金みたいにして国のための財源になるしね」
「おいおい、それじゃあギャンブル中毒者はどうするんだ?」
と私にグリースが異論を出す。私はそれをくみ取りながら話を続ける。
「基本的に公営ギャンブル以外は禁止して、その代わり、ギャンブルに使う金銭の量を月収の3分の1までとするとしたらどうかしら?」
「ん? 月収がわかるのか?」
私に質問をしたのがウェリントンなんでちょっとびっくりした。ああそうか言ってなかったんだった。
「実は陛下、私が宰相となってから、戸籍管理を徹底しており、行政府が国民の収入を把握できるよう、内府で資料を管理しております。
というのも、正しい税をとるためには国民の収入の把握が急務であったため、まだ完全ではありませんが、特に国王領では、すべて把握しております」
「そうなのか……、いつの間にか進んでおったのだな」
私の答えにグリースは納得したようだった。
「なら、賭博問題は内府が管理してくれ。下手に教会や、議会が口出しするとややこしくなるし、内府の対応がおかしかったら、そこで議会で審査すればいい」
「わかった、そうするわ、では議決をとります……」
票をとった結果、内府に任すが10票で決まった。ふう、ギャンブルねえ、ガチャはやめられないんだなあ、イケメンキャラにはお布施しないと……。
次々とこの国の法がまとめられていく。しかし、難しい問題があるのは事実。それをあえてつつみ隠さずに私は公の場で議論することにした。もちろん紛糾したが、それを望んでいる。国を作るとはそういうことだ。
私は静かに判例を述べた。
「事件番号 王歴1021年(Y)622
事件名 婦女暴行に対する損害請求
判事事項 婦女に対する性的暴行に対し法的に保護されるかの有無
裁判要旨 女Uは貴族Sと売春契約を結び、夜を共にするも、貴族Sに激しく暴行が加えられ、過剰な性的奉仕を強制された。
女Uは顔の形が変わるほど殴られ、のちに妊娠が発覚。しかし、女Uは普段から違法である売春行為を行っているため、この売春契約は違法であり、法的保護を受ける権利はない。
よってこの賠償請求を棄却する」
「はー!?」
ブチギレたのはオリヴィアだ、私もこの判決にムカムカ来ていたため同じ女性である、オリヴィアも当然だろう。それに対し平然とカンビアスは言った。
「売春行為はネーザン国で禁止されています。これは内府見解も、教会の見解も一致しています。当然の判決かと」
「ちょっとまってください! 売春していたとはいえ性的暴行を加えられたうえに顔の形が変わって妊娠!? 貴族だからそれが許されるんですか! この後のこの女性の人生はどうなるんですか!
売春する娘なんて食い詰めて、体を売らざるを得ない状況で、仕方なくやってるのに、法的保護を受けられない!? これが当たり前なんですか! この国は!」
「いやだから売春を禁止してるんだろ、ある意味この判例はいい教訓になるかもしれない。売春する奴は神の意思に反する。そのざまがこれだ」
グリースの反論にウェル・グリードがそれに対しなお反論を述べる。
「違う、これは違法だからこそ、起こり得る痛ましい事件なんだ!」
彼の言葉にみんなが注目する。流石こういう関連には人権派弁護士であったグリードは詳しいし開明的だわ。彼はこう続けた。
「内府や教会が禁止すればするほど、売春労働者。つまりセックスワーカーの地位は下がり、余計にアングラ化して、こんな事件が起こり、被害者の彼女の名誉は奪われ、彼女らに対する擁護や手を差し伸べるものもなく、泣き寝入りして、さらに厳しい待遇に陥る。
古来、売春は公的に管理されたものだった。しかし、それを教会が不道徳だと決めつけ、彼女たちを厳しく非難し、セックスワーカーに対する、差別の目が向けられるようになった。
これは何度も内府が禁令を出しているにもかかわらず、一向に改善することなくむしろ、禁止すればするほど彼女に対して、性奴隷のように扱われているのが現状だ!」
「だからといって、女が体売るんだぜ? 性について、厳しい教会が認めるわけないし、そもそも売春するような状況に入らないよう、教会および内府が……」
「ちょっとまって!」
グリースの反論にオリヴィアが激しく抗議する。
「ちがう! 彼女たち、まあセックスワーカーっていうならそれでいいけど、セックスワーカーになるのは理由がある。私の友達がそうなんだけど、みんな女性が貧しいのは一緒、それなのに、金貸し家が彼女たちをだまして、売春に手を染めさせているのが真実よ。
性産業はずっとあるしどこでもある。禁止しても意味ないし、むしろ、違法化されているからこそ、わざと違法組織が容姿が優れている娘をさがしだして、罠にはめて、売春に手を染めさせる。
一度売春に手を染めると、二度とはい上がれない、だって違法だから。この事件みたいに、最悪なことになっても誰も助けてくれない。だって違法だから。売春婦だから。
その子の年齢わかる? 13歳よ13歳。まともに判断できるわけないでしょ、子どもなのに。それでも、彼女は騙されて、なお生きようと体を売っても借金返そうと頑張ったわ。でも、性病にかかって死んじゃったわよ!
結果借金だけが残って、妹も売り飛ばされたわ。そのときは 私が金を持っていたから、妹だけは救ったけど、友達は救えなかった!
これが神が定めたことなの! 神の救いなの! なら私は神なんていらない! その娘はまじめでいい娘だったのに! あんまりじゃない!」
「感情論はやめてもらえないでしょうか?」
カンビアスは冷徹に彼女の涙ながらの訴えを投げ捨てる。だがグリードはそれに食らいついた。
「その感情論で女性が被害になっているのが問題なのです! 感情的に売春婦は悪ときめつけられて、結果被害に遭う可能性の方が高いのです。
これはこれまでの内府の怠慢であり、この国の怠慢です! 違法化すればいいというものではない。
それならばセックスワーカーを合法化して、国の管理のもとに置いたほうがましだ!」
「おいおい神の教えを曲げるつもりか?」
グリースは聖職者らしい反論をする。だがしかしグリードはあきらめなかった。
「逆です、神はセックスワーカーを救わないと誰が決めたのですか!? 私は修道院学校にいたが、聖書には売春婦こそ天国に近く救われるべきだと書いていました。勝手に教会が決めたことではないのですか!
信仰よりも人権です! 私はこの件に関して譲歩するつもりはない!」
「ふむ難しいな、お互い平行線だ……」
とジェラードがつぶやく。私はあえてジェラードにきいてみた。
「貴族として領主として貴方はどう思うの、ジェラード」
「教会の教えは確かに大事だ。人々の道徳や、素晴らしい教えがある。しかし、領主として、男として、女性が困っているのに手を差し伸べられない状況は変えるべきなのではと考える」
「おいおい、性病問題や感染病とか、夫婦間の婚姻の維持問題にもかかわるぞ、売春問題は」
「それに性風俗を認めると、女性のモラルの低下や売春で稼ぐなど、性奉仕をシンプルに考えて、手を染める女性も増えるでしょう。それをどうするんですか?」
と、グリースと、カンビアスの意見だ。全体で話し合っているが、どこまで行っても平行線だ。私はウェリントンの方をちらりと見ていた。私の方をじっと見ている。わかりました、こうなるのは予想してた。
なら私が動きましょう。
「内府案として、提案申し上げます。売春を禁止するのではなく、賭博のように、公営以外のセックスワーカーを認めないとする方法です。
国に登録して、免許制にし、病気や体調を内府組織で管理。また、民間調査団体も立ち上げます。暴行などもってのほか、避妊の徹底、過度の性接待など禁止。セックスワーカーも立派な職業です。
そして厳しい目の中で、セックスワーカーの待遇をよくするよう、公的年金制度や、再就職のあっせんなどを行います。
また、買春は独身者のみに制限します。
国がセックスワーカーたちを責任もって管理することで、この件は収めてもらえないでしょうか?」
辺りが静まり返る。わかってるお互い引けないことを。とりあえず議論は煮詰まったから、採決するか。
私の案に賛成8票、反対5票だった。名誉のために彼らがどっちに入れたかは言わないけど、こうして公的売春制の法整備が始まった。
普通法編纂審議が進んでもう一か月も過ぎている。慣習法を実際に意見を交わし合って、ああすればいいじゃないかと、それぞれの立場で貴重な意見も飛んでくる。私から予想もしない、意見も飛び出してくるもあった。それがこれだ。
「裁判番号 王歴634年(L)105
事件名 決闘裁判による結果賠償請求
判事事項 国民の名誉回復にもとづいて決闘者の賠償責任の有無
裁判要旨 騎士rと騎士xによる、裁判の結果、審議不能とみなし、神判において、rとxは決闘裁判によってxが死亡。rの名誉が回復する。
しかしその後、xの妻が裁判に偽証があったとして、rに対し夫が殺されたとし、賠償額金貨530枚を請求。しかし、裁判の手続きは正当な物であり、偽証があったとしても、決闘裁判による結果責任を問うことはできない。よって、本件を棄却する」
「えっ、決闘裁判?」
オリヴィアがびっくりして、目を見開いている。平民だから知らなくて当然だ。グリードが彼女に対して注釈をつける。
「裁判の過程によって、決着がつかないことがあるんだ。その場合神の意思として、神判、つまり、熱湯裁判、熱鉄裁判、冷水裁判、決闘裁判などで、決着をつけることがある。
これは裁判において、重要なことで、本件の場合、決闘してでも、名誉を回復したいのか? と裁判所に問われるということだ。普通は大体、他の審判も示談になる。命がけでやって証明したいなら、裁判所としてどうぞってことだ。
ちなみにどの神判も明確なルールの元、命がけで、争うことになる。こういうことがたまにあるんだよ、実際」
中世ヨーロッパの慣習法として、結構有名な類の奴だ。もちろん私は反対だ、話し合いで解決しろよっと思う。彼も同意見なのかグリースは私見を述べた。
「聖職者の立場としてなんだが、これ全部馬鹿らしいんだよな、そもそも神の意志を仰ごうなんて、聖書に反する。俺は神判による決着は反対だ」
「私も同意見です、野蛮な裁判は、人権を大事にすべきこの国の未来にふさわしくない」
「賛成です。夫が決闘で死ぬとかやだもん」
と、グリースとオリヴィアの平民らしい意見だった。しかし、思わぬところで、これに対し擁護意見が飛び出した。ジェラードだ。
「ちょっと待って欲しい、他の審判については私もそう思うが、決闘裁判は残すべきだ」
「へっ?」
思わず私が聞き返してしまった。えっ、なんで、野蛮じゃんそれ、力ずくって。ウェリントンが珍しく口を出した。
「決闘裁判は騎士たちにとって最後の名誉回復手段なのだ。これが認められない場合、騎士はいったいどうするかというと、私戦を挑む、つまり戦争になる」
あーそうか忘れていた。中世ヨーロッパの貴族にはあったんだ、私戦つまりフェーデが。じつは、中世は自力救済が当たり前だったから、親族が殺されたり、領地が横領されたり、名誉侵害をされた場合、一族をかけて名誉回復しないとならない。
実はこれは国家権力が弱いからの習慣だ。現代みたいに警察や科学捜査なんてないから、偽証し放題なんだ、この時代。治安組織が完全整備されていれば不要な概念だけど、私戦はそれほど重要な意味を持つ。
その権利を捨てる代わりにルールにのっとって、決闘裁判に挑むっていう経緯があったのだ。あー、これは、今の段階で禁止するのはまずいな、反乱し放題になるから、逆に治安が悪化する。
だが、議論を聞く限り、貴族派と平民派で意見が真っ二つだ。グリースは聖職者として反対だけど。やべっ軽々しく持ち出すんじゃなかった。
私は慌てて頭を巡らし、これを上手く軟着陸しようと試みる。
「えー、そう! これは野蛮だから決闘裁判は慎重に行われなければならない、うん。ということで、決闘裁判の開催の是非は国王の判断にゆだねるというのはどうでしょうか?」
「うーん、確かにな」
とウェリントンの意見。カンビアスやマンチェスター卿や、ジェラード、カーディフ侯爵も同意見のようだった。
「確かに命がけの戦いである以上、国王の裁量を仰ぐべきだ」
「そうだな」
「確かに」
「そうです、こんな野蛮なこと、頻繁に起こされると困るし」
とのオリヴィアの意見。その中唯一煮え切らないのが、グリードだった。
「……このままだと、国王権が拡大してしまう……」
まあ、共和派の立場の彼からするとそうだろうね。まあ仕方ない。ということで議決とったら、私の意見に賛成12票だった。ふうーあぶなかった。意見仰いで良かった。
みんなも普通法審議について、満足感を得ているのか各々に達成感のある反応だ。良かった、国民代表に聞いて。一人で決めると独裁的になって、危険な判断もうっかりしてしまうから。
グリースは気分が盛り上がってか、首を回しながら両手を交差しながら上げて言った。
「あー今日も疲れた。誰か飲みに行かねえか、聖職者ばかりじゃあ辛気臭いしな」
「はあ、それなら、グリース殿と売春制度について、酒を飲み交わしながら、じっくり話し合いたいのですが……」
とウェル・グリードが食いついた。まて、それは罠だぞ……! ジェラードは危機を察したのか冷静に断った。
「私は領地問題で片付ける書類があるので失礼する」
上手い逃げ方。他もササっと逃げていく。グリースはがっかりそうにした。
「なんだよつれねーな、おい、ウェルよお、イこうっか?」
「すみません、しきりに尻を揉むのはやめてもらえますか」
「気にすんな、はははっは……」
こうして彼らは夜の街に消えていったのだった……。グリードよ、貴方の犠牲は無駄にしないわ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……。
そういえば、ウェル・グリードとオリヴィアが、酒を一緒に飲みに行ったらしいけど、どうなったかしら、他人のプライバシーのこととはいえ気になる。別にウェル・グリードを男性的に見ているわけじゃないけど、なんつーか、下世話なんだけど、私も女だもん。他人の恋愛事とか気になるし。
で、次の日憲法審議会があったので、例のメンバーが集まると、グリードが青ざめた顔で、気持ち悪そうにしていた。不思議に思って、私はグリードに尋ねた。
「どうしたの、グリード。気分が悪いの?」
「申し訳ない閣下、昨日オリヴィア君と酒を飲んで、ちょっと……」
「?」
私はオリヴィアの方を見ると、彼女はケロッとしていた。
「あー昨日楽しかったねー、いやあ、飲んだ飲んだ」
「君は飲みすぎだし、酒癖が悪すぎだ。人に無理やり酒を勧めるわ、酒場で暴れるわ、服を脱ごうとするわ、散々だったよ。男で酒癖悪い相手と飲んだことはあるが、女性でこんなに酒癖が悪いのは君が初めてだ」
「そうです? 私普通ですけど?」
「君みたいな普通がいてたまるか! 今後、絶対に君とは酒を飲まない!」
「あーら残念、ふられちゃったー」
どうやら上手くいかなかったらしい。流石に酒癖悪い女性と付き合うのは男として嫌だろう。私も気を付けなきゃ。とりあえずオリヴィアとは酒を飲まないことにしとこう。グリードがまた一ついけにえとなってくれた。南無……。
さて、そろそろ始めるか。
「では審議したい判例を紹介します。
事件番号 王歴771年(G)455
事件名 賭博による契約違反の金額返却請求
判事事項 賭博による、明確にルールに基づかない結果の正当性の有無
裁判要旨 aとvは事前に明らかとなっているダイスの賭博を行った際、vはそのダイスに磁石を埋め込み、ダイスの目を自由に操った。
結果aはvに金貨30枚を支払ったが、あとで、公平性に欠けると判明し、aはvに金貨30枚の返還を求む。
しかし、賭博は王歴651年の政令で禁止されており、賭博自体が違法なので、aはvに請求権がない。よって本件を棄却する」
「当たり前じゃねえか」
私が全部判例文を述べると、グリースはすぐさま言い放った。だが、それにカーディフ侯爵が異論を唱える。
「いやいや、イカサマではないか。それなのに賭けが成立しており、明らかにフェアではなかろう」
「しかし、賭博は違法だし、教会も禁止している。ギャンブルなんて神の意志を試すような真似をした罰だ」
それに対し、グリードは注釈をつける。
「この判例は、あくまでギャンブルに対する裁判所の立場を表した判決であって、ギャンブル自体をやってはいけないというわけではない。そもそも貴族でも平民でもギャンブルはどこでも行われているし、賭け事を上から禁止しても誰もやめようとしない。
つまり止められないんだ。一部の人では。ギャンブル中毒となった国民はたくさんいるし、それをイカサマして、法で保護されないことを良いことに、無垢な民衆から金を巻き上げているのが現状だ。
これに対してこれまで内府は禁令を出す以外行動を起こさなかった。だが、むしろ禁令を課すことで、より違法の取引になり、その犯罪によって、反政府組織や、違法組織の資金源となっている。
だから宰相閣下はこの判例を持ち出したのでしょう?」
「ええ、そうよ。私の前の世界の故郷の国でもギャンブルは禁止してたけど、逆に違法なギャンブルである、パチンコや裏カジノが流行って、治安組織の警察が違法組織と半ば手を組んで、無垢な市民の財産を奪っている、これについて皆さんはどう思うかの意見が欲しかったの」
私の言葉にジェラードは悩みだす。
「んーギャンブルか、私もするが、最近カード賭博が流行ってきてな、あれは意外と面白い。頭も使うし、金がかかっている以上、本気になるし、禁止されると余計に流行ると思うんだが……」
それに対しカンビアスは言った。
「しかしグリード議員が申した通り、ギャンブル中毒となって、中には全財産を奪われ、服も奪われて、裸で路上に捨てられるとか事例があったのですよ。
議会が禁止するよう求めるのが当然だと思います」
「だがなあ、カンビアス卿、止めろと言っても止めないのが実態だからな。かえって余計にややこしくなっているのではないか?」
とのマンチェスター卿の意見。うーん、みんな考え込んでいる。これはかなり難しい問題だ。治安に関わる以上、どっちとも取れないのが内府立場なんだけど、介入しないと、ギャンブル中毒が増えるし、禁止すると、違法組織で、違法なギャンブルが行われる。
人間の本質的な欲に関わる問題だから。珍しくオリヴィアが周りの空気を読んで私に尋ねた。
「ミサ様の世界ではどうなってるんです? ギャンブル問題」
「そうね、国によってさまざまだけど、むしろ国が管理して、公営ギャンブルとなってるものもあるわ。私の国でも宝くじや、競馬、競輪は国が管理してる。
むしろその方がいいかもね、他の裏組織にカネを回すより、税金みたいにして国のための財源になるしね」
「おいおい、それじゃあギャンブル中毒者はどうするんだ?」
と私にグリースが異論を出す。私はそれをくみ取りながら話を続ける。
「基本的に公営ギャンブル以外は禁止して、その代わり、ギャンブルに使う金銭の量を月収の3分の1までとするとしたらどうかしら?」
「ん? 月収がわかるのか?」
私に質問をしたのがウェリントンなんでちょっとびっくりした。ああそうか言ってなかったんだった。
「実は陛下、私が宰相となってから、戸籍管理を徹底しており、行政府が国民の収入を把握できるよう、内府で資料を管理しております。
というのも、正しい税をとるためには国民の収入の把握が急務であったため、まだ完全ではありませんが、特に国王領では、すべて把握しております」
「そうなのか……、いつの間にか進んでおったのだな」
私の答えにグリースは納得したようだった。
「なら、賭博問題は内府が管理してくれ。下手に教会や、議会が口出しするとややこしくなるし、内府の対応がおかしかったら、そこで議会で審査すればいい」
「わかった、そうするわ、では議決をとります……」
票をとった結果、内府に任すが10票で決まった。ふう、ギャンブルねえ、ガチャはやめられないんだなあ、イケメンキャラにはお布施しないと……。
次々とこの国の法がまとめられていく。しかし、難しい問題があるのは事実。それをあえてつつみ隠さずに私は公の場で議論することにした。もちろん紛糾したが、それを望んでいる。国を作るとはそういうことだ。
私は静かに判例を述べた。
「事件番号 王歴1021年(Y)622
事件名 婦女暴行に対する損害請求
判事事項 婦女に対する性的暴行に対し法的に保護されるかの有無
裁判要旨 女Uは貴族Sと売春契約を結び、夜を共にするも、貴族Sに激しく暴行が加えられ、過剰な性的奉仕を強制された。
女Uは顔の形が変わるほど殴られ、のちに妊娠が発覚。しかし、女Uは普段から違法である売春行為を行っているため、この売春契約は違法であり、法的保護を受ける権利はない。
よってこの賠償請求を棄却する」
「はー!?」
ブチギレたのはオリヴィアだ、私もこの判決にムカムカ来ていたため同じ女性である、オリヴィアも当然だろう。それに対し平然とカンビアスは言った。
「売春行為はネーザン国で禁止されています。これは内府見解も、教会の見解も一致しています。当然の判決かと」
「ちょっとまってください! 売春していたとはいえ性的暴行を加えられたうえに顔の形が変わって妊娠!? 貴族だからそれが許されるんですか! この後のこの女性の人生はどうなるんですか!
売春する娘なんて食い詰めて、体を売らざるを得ない状況で、仕方なくやってるのに、法的保護を受けられない!? これが当たり前なんですか! この国は!」
「いやだから売春を禁止してるんだろ、ある意味この判例はいい教訓になるかもしれない。売春する奴は神の意思に反する。そのざまがこれだ」
グリースの反論にウェル・グリードがそれに対しなお反論を述べる。
「違う、これは違法だからこそ、起こり得る痛ましい事件なんだ!」
彼の言葉にみんなが注目する。流石こういう関連には人権派弁護士であったグリードは詳しいし開明的だわ。彼はこう続けた。
「内府や教会が禁止すればするほど、売春労働者。つまりセックスワーカーの地位は下がり、余計にアングラ化して、こんな事件が起こり、被害者の彼女の名誉は奪われ、彼女らに対する擁護や手を差し伸べるものもなく、泣き寝入りして、さらに厳しい待遇に陥る。
古来、売春は公的に管理されたものだった。しかし、それを教会が不道徳だと決めつけ、彼女たちを厳しく非難し、セックスワーカーに対する、差別の目が向けられるようになった。
これは何度も内府が禁令を出しているにもかかわらず、一向に改善することなくむしろ、禁止すればするほど彼女に対して、性奴隷のように扱われているのが現状だ!」
「だからといって、女が体売るんだぜ? 性について、厳しい教会が認めるわけないし、そもそも売春するような状況に入らないよう、教会および内府が……」
「ちょっとまって!」
グリースの反論にオリヴィアが激しく抗議する。
「ちがう! 彼女たち、まあセックスワーカーっていうならそれでいいけど、セックスワーカーになるのは理由がある。私の友達がそうなんだけど、みんな女性が貧しいのは一緒、それなのに、金貸し家が彼女たちをだまして、売春に手を染めさせているのが真実よ。
性産業はずっとあるしどこでもある。禁止しても意味ないし、むしろ、違法化されているからこそ、わざと違法組織が容姿が優れている娘をさがしだして、罠にはめて、売春に手を染めさせる。
一度売春に手を染めると、二度とはい上がれない、だって違法だから。この事件みたいに、最悪なことになっても誰も助けてくれない。だって違法だから。売春婦だから。
その子の年齢わかる? 13歳よ13歳。まともに判断できるわけないでしょ、子どもなのに。それでも、彼女は騙されて、なお生きようと体を売っても借金返そうと頑張ったわ。でも、性病にかかって死んじゃったわよ!
結果借金だけが残って、妹も売り飛ばされたわ。そのときは 私が金を持っていたから、妹だけは救ったけど、友達は救えなかった!
これが神が定めたことなの! 神の救いなの! なら私は神なんていらない! その娘はまじめでいい娘だったのに! あんまりじゃない!」
「感情論はやめてもらえないでしょうか?」
カンビアスは冷徹に彼女の涙ながらの訴えを投げ捨てる。だがグリードはそれに食らいついた。
「その感情論で女性が被害になっているのが問題なのです! 感情的に売春婦は悪ときめつけられて、結果被害に遭う可能性の方が高いのです。
これはこれまでの内府の怠慢であり、この国の怠慢です! 違法化すればいいというものではない。
それならばセックスワーカーを合法化して、国の管理のもとに置いたほうがましだ!」
「おいおい神の教えを曲げるつもりか?」
グリースは聖職者らしい反論をする。だがしかしグリードはあきらめなかった。
「逆です、神はセックスワーカーを救わないと誰が決めたのですか!? 私は修道院学校にいたが、聖書には売春婦こそ天国に近く救われるべきだと書いていました。勝手に教会が決めたことではないのですか!
信仰よりも人権です! 私はこの件に関して譲歩するつもりはない!」
「ふむ難しいな、お互い平行線だ……」
とジェラードがつぶやく。私はあえてジェラードにきいてみた。
「貴族として領主として貴方はどう思うの、ジェラード」
「教会の教えは確かに大事だ。人々の道徳や、素晴らしい教えがある。しかし、領主として、男として、女性が困っているのに手を差し伸べられない状況は変えるべきなのではと考える」
「おいおい、性病問題や感染病とか、夫婦間の婚姻の維持問題にもかかわるぞ、売春問題は」
「それに性風俗を認めると、女性のモラルの低下や売春で稼ぐなど、性奉仕をシンプルに考えて、手を染める女性も増えるでしょう。それをどうするんですか?」
と、グリースと、カンビアスの意見だ。全体で話し合っているが、どこまで行っても平行線だ。私はウェリントンの方をちらりと見ていた。私の方をじっと見ている。わかりました、こうなるのは予想してた。
なら私が動きましょう。
「内府案として、提案申し上げます。売春を禁止するのではなく、賭博のように、公営以外のセックスワーカーを認めないとする方法です。
国に登録して、免許制にし、病気や体調を内府組織で管理。また、民間調査団体も立ち上げます。暴行などもってのほか、避妊の徹底、過度の性接待など禁止。セックスワーカーも立派な職業です。
そして厳しい目の中で、セックスワーカーの待遇をよくするよう、公的年金制度や、再就職のあっせんなどを行います。
また、買春は独身者のみに制限します。
国がセックスワーカーたちを責任もって管理することで、この件は収めてもらえないでしょうか?」
辺りが静まり返る。わかってるお互い引けないことを。とりあえず議論は煮詰まったから、採決するか。
私の案に賛成8票、反対5票だった。名誉のために彼らがどっちに入れたかは言わないけど、こうして公的売春制の法整備が始まった。
普通法編纂審議が進んでもう一か月も過ぎている。慣習法を実際に意見を交わし合って、ああすればいいじゃないかと、それぞれの立場で貴重な意見も飛んでくる。私から予想もしない、意見も飛び出してくるもあった。それがこれだ。
「裁判番号 王歴634年(L)105
事件名 決闘裁判による結果賠償請求
判事事項 国民の名誉回復にもとづいて決闘者の賠償責任の有無
裁判要旨 騎士rと騎士xによる、裁判の結果、審議不能とみなし、神判において、rとxは決闘裁判によってxが死亡。rの名誉が回復する。
しかしその後、xの妻が裁判に偽証があったとして、rに対し夫が殺されたとし、賠償額金貨530枚を請求。しかし、裁判の手続きは正当な物であり、偽証があったとしても、決闘裁判による結果責任を問うことはできない。よって、本件を棄却する」
「えっ、決闘裁判?」
オリヴィアがびっくりして、目を見開いている。平民だから知らなくて当然だ。グリードが彼女に対して注釈をつける。
「裁判の過程によって、決着がつかないことがあるんだ。その場合神の意思として、神判、つまり、熱湯裁判、熱鉄裁判、冷水裁判、決闘裁判などで、決着をつけることがある。
これは裁判において、重要なことで、本件の場合、決闘してでも、名誉を回復したいのか? と裁判所に問われるということだ。普通は大体、他の審判も示談になる。命がけでやって証明したいなら、裁判所としてどうぞってことだ。
ちなみにどの神判も明確なルールの元、命がけで、争うことになる。こういうことがたまにあるんだよ、実際」
中世ヨーロッパの慣習法として、結構有名な類の奴だ。もちろん私は反対だ、話し合いで解決しろよっと思う。彼も同意見なのかグリースは私見を述べた。
「聖職者の立場としてなんだが、これ全部馬鹿らしいんだよな、そもそも神の意志を仰ごうなんて、聖書に反する。俺は神判による決着は反対だ」
「私も同意見です、野蛮な裁判は、人権を大事にすべきこの国の未来にふさわしくない」
「賛成です。夫が決闘で死ぬとかやだもん」
と、グリースとオリヴィアの平民らしい意見だった。しかし、思わぬところで、これに対し擁護意見が飛び出した。ジェラードだ。
「ちょっと待って欲しい、他の審判については私もそう思うが、決闘裁判は残すべきだ」
「へっ?」
思わず私が聞き返してしまった。えっ、なんで、野蛮じゃんそれ、力ずくって。ウェリントンが珍しく口を出した。
「決闘裁判は騎士たちにとって最後の名誉回復手段なのだ。これが認められない場合、騎士はいったいどうするかというと、私戦を挑む、つまり戦争になる」
あーそうか忘れていた。中世ヨーロッパの貴族にはあったんだ、私戦つまりフェーデが。じつは、中世は自力救済が当たり前だったから、親族が殺されたり、領地が横領されたり、名誉侵害をされた場合、一族をかけて名誉回復しないとならない。
実はこれは国家権力が弱いからの習慣だ。現代みたいに警察や科学捜査なんてないから、偽証し放題なんだ、この時代。治安組織が完全整備されていれば不要な概念だけど、私戦はそれほど重要な意味を持つ。
その権利を捨てる代わりにルールにのっとって、決闘裁判に挑むっていう経緯があったのだ。あー、これは、今の段階で禁止するのはまずいな、反乱し放題になるから、逆に治安が悪化する。
だが、議論を聞く限り、貴族派と平民派で意見が真っ二つだ。グリースは聖職者として反対だけど。やべっ軽々しく持ち出すんじゃなかった。
私は慌てて頭を巡らし、これを上手く軟着陸しようと試みる。
「えー、そう! これは野蛮だから決闘裁判は慎重に行われなければならない、うん。ということで、決闘裁判の開催の是非は国王の判断にゆだねるというのはどうでしょうか?」
「うーん、確かにな」
とウェリントンの意見。カンビアスやマンチェスター卿や、ジェラード、カーディフ侯爵も同意見のようだった。
「確かに命がけの戦いである以上、国王の裁量を仰ぐべきだ」
「そうだな」
「確かに」
「そうです、こんな野蛮なこと、頻繁に起こされると困るし」
とのオリヴィアの意見。その中唯一煮え切らないのが、グリードだった。
「……このままだと、国王権が拡大してしまう……」
まあ、共和派の立場の彼からするとそうだろうね。まあ仕方ない。ということで議決とったら、私の意見に賛成12票だった。ふうーあぶなかった。意見仰いで良かった。
みんなも普通法審議について、満足感を得ているのか各々に達成感のある反応だ。良かった、国民代表に聞いて。一人で決めると独裁的になって、危険な判断もうっかりしてしまうから。
グリースは気分が盛り上がってか、首を回しながら両手を交差しながら上げて言った。
「あー今日も疲れた。誰か飲みに行かねえか、聖職者ばかりじゃあ辛気臭いしな」
「はあ、それなら、グリース殿と売春制度について、酒を飲み交わしながら、じっくり話し合いたいのですが……」
とウェル・グリードが食いついた。まて、それは罠だぞ……! ジェラードは危機を察したのか冷静に断った。
「私は領地問題で片付ける書類があるので失礼する」
上手い逃げ方。他もササっと逃げていく。グリースはがっかりそうにした。
「なんだよつれねーな、おい、ウェルよお、イこうっか?」
「すみません、しきりに尻を揉むのはやめてもらえますか」
「気にすんな、はははっは……」
こうして彼らは夜の街に消えていったのだった……。グリードよ、貴方の犠牲は無駄にしないわ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……。
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