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世界統一編

第六十二話 貴族議会分裂

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「ミ・サ・さ・ま。朝ですよー良いお天気ですねー」
「ほげー」

 いきなりカーテンを開けられて、私は日差しがまぶしくて目が覚めた。うーんなんか調子悪い。だるい……。

「ミサ様昨日飲んでいらしたので、頭がボケているんじゃないですか、飲みすぎは良くないです」
「誰がボケてるって。私そんな年じゃないから、レオ!」

「はい? ミサ様は若いじゃないですか子どもの僕よりも」
「あ……」

 そういやあ私幼女だった。つい年のことになるといつもの癖が、こういうのが年寄り臭いって言われるんだよね、あーやだやだ。私が目を覚ましたのを確認して、レオはティーセットと新聞を持ってきた。

「ミサ様、昨日は大変でしたね」
「ああ、そうだった……」

 昨日貴族議会で、ホワイトローズ王国党の党首ラットフォール公爵が国王批判をしたんだった。あまりもの異常事態に、新聞にびっしり書かれている。ネーザン国分裂か!? とか見出し書いて。やめてよ、そういうの、マスコミって新聞売ることしか考えてないんだから。

 本当にこの国が分裂したら、出版社なんて真っ先に焼かれるわよ。新聞の内容を確認すると、ただの昨日の演説内容と各党の反応だけであった。おおむね、公爵に対し批判的だった。流石に三部会で、国王批判は前代未聞すぎるから。まあ、それが狙いなんだろうけど。

 どうやら新聞は見出しだけで内容はまともだったので目を通した後、紅茶で喉をうるおした。それを見たレオは優しく言った。

「どうやら体調は大丈夫そうですね、ミサ様。今日の予定は大丈夫ですか?」
「え、今日休みじゃなかったっけ?」

「人と会うお約束じゃないですか、えーと、あのグリース神父とジェラードさんと、それと……、この人初めての人ですね、オリヴィアさんです」
「あー、はいはい、頭がすっきりしてきた。そうそう、議会運営について各身分ごとに指示を頼もうとしているんだった。すっかり忘れてた、ありがと、レオ、貴方がいて助かるわ」

「いえいえ、僕はミサ様が頑張ってる姿が大好きですから、そのささやかなお助けをしたいだけです」
「うんうん」

 うーんレオったら可愛い子、私がもうちょっと若かったら……って私もう6歳かそこらへんだから、別にレオと付き合ってもおかしくないというか、周りから見れば、ウェリントンやジェラードと付き合うよりも自然だよね、よく考えてみたら……。

 そう思って、レオの顔を見つめてしまい、かわいい男の子に対するショタコン心がうずいて、顔が熱くなったので、目を背けた。いかんいかん、今は国の大事、恋愛はその後、ね! はあー、だから結婚できなかったのかなー?

 自分のクソ真面目な部分に嫌になって、食事をすまし、まずグリースが館にやってきた。私は彼を客室に通したのだった。

「よお、昨日は大変だったらしいな」
「ええ、大変も大変、下手したら反逆事件になるかもね」

 私はグリースと対面してソファーに座った。

「下手したら……ということは、今は事を荒立てるつもりはねえ。そういうことか?」
「何事にも準備が必要よ、相手が公爵でしかも、陛下と従兄弟であらせられるから、簡単に消すってわけにはいかないのよ」

「おいおい怖え話になったな」
「できるなら、穏便にすましたいところよ、そうなるときは陛下にうかがう必要もあるしね。今の段階ではまだ、そのつもりはないわ、時が来れば……」

「時が来れば……?」
「未来はあくまで予定よ、変わることもあるかもしれないけど、一応考えて行動しとかないとね」

「ふふ、流石宰相だ、腹の中が黒そうだ」
「私は心まで真っ白よ、私はね」

「はいはい、そうだろうとも、で、俺はどうすればいい、そういや俺は神学自由党で幹事長を任せられたぜ」
「おめでとう、祝辞演説が認められたのね、よくできた文だったわ」

「どういたしまして、で? 議会運営の話だろ」
「ああ、そのことなら、聖職者議会はあくまで真っ当な議会であるべきだわ」

「つまり、あの堅物のジジイどもと仲良く、穏便に上手くやれと?」
「できるでしょ、貴方なら」

「期待に応えるのは別に構わねえぞ、だが結果がどうなるかは俺は保証できるつもりはねえぞ」
「どうぞどうぞ、そういう時こそ、宰相の出番だから。あくまで、議会は議員によって運営されるべきよ」

「ふ、なかなか汚い奴だな」
「綺麗よ私、見てわからない?」

「ははは……」
「ははは……」

 そんな中レオが客室の中に入ってきた。密談なので、彼はもしもの時のために遠慮してもらってるのだ。

「ミサ様―?」
「おお、あの時の坊主じゃねえか」

「げっ……、ミサ様、ジェラードさんが来ましたよ」

 レオはグリースに嫌な顔をした後、私に言った。好き嫌いは良くない、あとで叱っておこう、子どもは正直すぎるから。そしてジェラードがやってきた。

「ミサ大丈夫か?」
「え?」
「昨日飲みまくったろ、ホワイトローズの公爵が気に入らないとか……、おっと、失礼」

 ジェラードは横にいたグリースに視線を送って、遠慮したらしい。私はジェラードにグリースを紹介した。

「彼はサウスウィンツ大聖堂のグリース神父、神学自由党の幹事長をしているの。彼は私と協力してるから、大丈夫よ。グリース、彼はテットベリー伯、貴族議会の国王民主党の議員よ」

 彼らに紹介が終わったので、ジェラードとグリースは握手した。

「ジェラード・オブ・ブレマーだ、グリース神父」
「あんたたしか、前の議員当選日のときの屋敷にいたな……。グリースで良い、テットベリー伯。アンタ……」

「ん……?」
「……アンタいい男だな……」

「うわわわわ、と、とりあえず、自己紹介が済んだらおしまい、うんおしまい!」

 グリースが不穏な視線を醸し出したので、私は慌てて止めて、ジェラードに本題を話す。

「ジェラード、昨日はありがとう、愚痴聞いてもらって」
「ミサ気をつけろ、酒の場とはいえ酔いが進んで、不穏なことをあまり言うなよ。国王民主党で酒宴の席とは言え、酒におぼれて、公爵を批判するなど、宰相の身では危険だ。

 私が酔いが回っているのを感じて、みんなに聞かれる前に、別室に連れて行って、二人だけで飲みなおしたはいいものの、あのままでは放っておけなかったしな」

 あっ、思い出した。公爵ぶっ潰す、とかわめいていたんだった、酒の席とは言え、リヴィングストン荘事件もあったことだし、私も気を付けないと。

「ごめんごめん、今グリースと議会運営のことを話し合っていたのよ」
「ん? 議会運営? 昨日、貴族議会ではホワイトローズ王国党と対決姿勢を保てではなかったのか?」

「あら、もう言っちゃってたの? そう、その通りよ」
「おいおい事を荒立てるな、じゃなかったのか?」

 それにグリースが口をはさんでくる。私は冷静に言った。

「それは聖職者議会でのこと、貴族議会では分裂覚悟で、国王民主党とホワイトローズ王国党は争ってもらうわ、旗幟きしを鮮明にしない議員も多いことから、わかりやすくね」
「……ふっ、なるほどね」

 グリースは納得いったようで、少し笑みを浮かべる。そう、あくまで、敵は必要よ、そう、民衆の敵がね。私が笑みを浮かべていると、またレオがこちらにやってきた。

「オリヴィアさんがいらっしゃいましたよ」
「こちらに通してちょうだい」

「あ、はい!」

 そうしてレオがオリヴィアという女性を連れてきた。歳は若く少女を抜けてすぐといった幼さも持ち合わせた雰囲気だ、そして、短い杖を自分の頭に叩いてその娘は笑った。

「どうもどうも、はじめましてー。自由党の副党首オリヴィアでーす。宰相閣下にお目通りいただき光栄ですです」
「……あ、私はミサ・エチゴよ。宰相をやってる」

「うわー、本当に幼女が宰相してるなんて! すばらしいです。私、国王領の平民ですけど、レスターとは遠いですからねー。初めて見てびっくり仰天、あら不思議です」

「君、ほんとに議員なのかい?」
「ミサ様、こちらの金髪のイケメンはどちらの方です?」

 ジェラードとオリヴィアが不思議そうに尋ねたので、私は応えた。

「こちら、テットベリー伯、私と親しい国王民主党の貴族議員さんよ」

「うわー、テットベリー伯! ケーリング会戦の立役者のトットブリー伯ですね、知ってます知ってます、よろしくお願いいたします。オリヴィア・ウェインですー。

 ウチのお父さん、ギルドで職人やっていて、印刷機を開発して、印刷機の会社建てたんですよ。

 おかげでがっぽがっぽもうかって、もうかって、それでまた、議員になれってお父さんに言われて、うわーほんとに議員になっちゃったーどうしよーって感じです」

「そ、そう……」

 ジェラードは圧倒されて、自己紹介すらする気がなさそうだ。グリースは驚いて言った。

「おいおい、こいつが自由党の副党首だって!? 平民議会の与党だろう自由党は! こんな小娘で大丈夫かよ」
「こちらはどなたです? ミサ様?」

「この人はサウスウィンツ大聖堂のグリース神父。神学自由党の幹事長をやっているわ」
「なるほどー、とりあえず、ミサ様はホワイトローズ王国党の国王批判の対策として、各身分議会の与党との連携を深めようというのですねー。流石宰相閣下、頭いいですねー、私、オリヴィアです。どうもどうも」

「ああ……俺はグリースだ。頭は悪くないみたいだな……」
「ええ、ええ、もう、近所からオリヴィアちゃんは賢い子だって、猫に言われたことがあるとかないとか、あれ、犬だっけ。ミサ様―、知ってます?」

「知らないわよ……」

 私はため息をついて、このオリヴィアという騒がしい娘の相手をしなきゃならないことにどっと疲れが出た。

「えっと、ジェラード、グリース。私はオリヴィアと話があるの、別室で待っててくれる?」

「あ、ああ……、今後の議会について話し合う必要がありそうだしな……」
「そうだな、テットベリー伯。しっぽりと、親しく話そうじゃないか……」

 不穏なことを言い始めたグリースに、引きつった顔をしてしまったことに、私もまだまだ修行が足りないと感じた。

 私は気を取り直して、オリヴィアにきいた。

「貴方たち、自由党は平民議会の国王民主党と連携を組んで、改革を推し進めたい、そう先方からうかがったけど、正しい?」
「えーえーもちろんですとも。私たち富裕層は宰相閣下の改革のおかげで、もうけががっぽがっぽ……」

「それはいいから、返事は?」
「はい! はい! そうです!」

「そう……ならいいわ。ところでどう思う?」
「ええさっきのお二人ともハンサムでしたねー、さっきの男の子も可愛くて、ミサ様の趣味の良さがわかりますー」

「そんなことじゃないわ、共和党のことよ」
「えーえー、彼、ウェル・グリードもイケメンですね。さっすがミサ様、お目が高い!」

「だからそうじゃなくて……」
「大丈夫ですよ、ウェルくんとは友人ですから」

「え……?」
「私、印刷会社の令嬢やってるせいか、よく富裕層で読まれる新聞で、彼と会う機会がありましてね、ついでにお友達に―って、ええ、だって彼はイケメンですから」

「あんた……相当ね」
「なんのことですー? ミサ様はウェルくんの協力が後々必要になるから、自由党の誰かを呼んだんですよね。だから私が来たんですよー」

「なるほど……。歳は若く言動には問題があるけど、貴女は私と同じ種類の人間のようね、そのようによろしく頼むわ」
「いやーほめられちゃったー、ではでは後で、ウェルくんによく言っておきますね。それではさっきの方々とお話ししないとですね」

「話が遅いようで、早くて助かるわ」

 どうやら、かなり切れ者の娘らしい。副党首というのも顔が良いだけというわけではなさそうだ。これで下準備は済んだ。

 さて問題は次の貴族議会ね……。私は宰相として質疑応答に応えることとなった。はじめは事前の打ち合わせ通り、ジェラードで議会調整をしている。これが、カーディフ侯爵とか大物のときに、ラットフォール公爵に行動を起こされたら困る。大ごとになるから。

 さて、公爵はどう出るか……。私は慎重にホワイトローズ王国党の動向を見る。しかし彼らは動かなかった。あれー予想と違う。そしてジェラードの質問が終わりそうになる。

「……と改革案の説明通りなら、貴族の権利を侵害することに当たらず、また貴族にも利益が十二分にある税制改革だと私は感じました。

 よって、また、昨日の王国党による、国王批判は極めて不適切な行動と思われますが、宰相閣下はいかがお考えか、この場にてお聞かせください」

 そして私の応答の番だった、ホワイトローズ王国党が動き出す。皆が話しを始め何やら、行動を起こしそうだ。なるほど、私の時に動くか、そっちの方が効果的ね、さて……。

「ブレマー卿のご質問にお答えします。まず改革案は本来……」

 その時だ、続々と、王国党が立ち上がり始め、そして、議会から退場をし始めた。……ちっ、審議拒否か、しかも当てつけに私の演説中にそれやるの? えげつないわね。ほうほう、面白いじゃない。つまり明確に私にケンカ売るってことね。いいじゃん、楽しくなってきたわね。

 周りは騒然として、与党の国王民主党は不適切だと騒ぎ始め、場内が騒然とする。私は声を大にして言った。

「と申す通り、改革案は全国民に必要であり! 極めて、ホワイトローズ王国党の行為は不適切であり、まことに王宮内府として遺憾であり! 王宮より抗議を申し立てます!」

 私が言い切るのを待ってラットフォール公爵は私にウィンクを送る。ほう……、私が貴方たちが行動を起こすのを知ってるのをわかっていて、行動してると! その上で私に勝負を挑むと、そういうことね! ふふふ、いいじゃん! いいじゃん! 私、ケンカ好きだよ。

 どっちが血を流すか楽しみね、ふふふ……。私は笑みを浮かべながら、静かになった場内をにらみつける。これからが政治闘争。どれだけ被害が出るか、どちらが先に倒れるか、楽しみだわ。
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