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世界統一編

第五十三話 国王領視察

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 銀行法が成立されネーザン中央銀行ができ、国王領は空前の好景気になった。もちろん私はバブルにならないよう、農地売買特別法と、土地売買均等法を成立させ、投資の抑制につなげる。

 日本がバブルになってはじけたのは、田中角栄元首相の日本列島改造論にある。彼は、日本が戦後、経済が上向きになり、人口が急激に増大する中、土木企業に勤めていた専門知識を生かして、日本の地方を開拓し、インフラ設備をととのえて、経済発展を成し遂げようとした。その大規模な構想が日本列島改造論だ。

 彼は地方をよく知っていた、日本を支えていたのは、地方からの農業資源、人口資源、また、森林資源、技術資源と考えた。それを新幹線でつなぎ、道を整えて、各地方にダムを作り、地方全体を発展させ、人口をバランスよく配置しようとしていた。

 人口増加になれば都会の資源が不足する、何故かと言うと、首都東京で消費されているものは、関東周辺だけではまかなえない、大都市の人口が増えれば作物もエネルギーも不足する。現在首都圏は原子力を廃す方向へ進んだ結果、深刻なエネルギー不足になっている。

 何故こうなったかと言うと、首都圏に偏った人口バランスにある。あの大規模な人口をまかなうほどの、エネルギーや資源が首都圏だけでは調達不可能なのだ。本来なら日本全体に国民をバランスよく暮らせるよう、政策が必要だった。

 日本列島改造論よると、首都圏中央から開拓し、地方へ投資し、またインフラ整備をして、資源の流通コストを下げる計画があり、その必要があった。しかし、銀行や投資家などによる過剰な投資により、首都圏など金になりやすい有用な土地だけの価格が上がり、首都圏の価値に見合わないほどの土地の高騰となった。

 だが、実体経済ではそれほど急に日本経済が上がるわけではなく、株価が笑い事のように毎日上がり、個人もどんどん投資し、投資価値に見合ってない、日経株価となった。

 本来なら、経済発展と共に緩やかにインフレすべき日本経済を、バブルが崩壊し、短期的な政策に終始し、地方は放っておかれ、首都圏だけ投資され、成長限界を迎え、もはや首都圏は開発しつくされたのに、なおも投資し続けたのだ。
 
 結果、首都圏周辺だけがインフラ整備がなされ、人の行き来が活発になった代わりに、地方から若い人材が仕事を求めて、投資しつくされた大都市に向かった。そして、いびつな経済、人口構造となり、日本列島改造論はバブル崩壊により停止され、地方はほっとかれたまま捨てられた状態だ。

 実はいまだ日本の地方は未開拓な土地がたくさんあり、インフラ整備や投資価値のある宝が山ほど眠っているが、短期的な利益を生むことができないため放置されている。

 長い不景気になり、地方はどんどん衰退し、若い人材が地方にはいなくなった。仕事がないからだ。投資が来ない以上、地方経済が活発化することはありえない、またインフラ整備も必要で、地方の資源を都市に運び、消費を刺激するための政策が必要だが、日本政府はそれをしない。

 理由は、日本は赤字だと財務省が騒ぎ、投資価値に見合わない株式市場に年金を突っ込み、短期的な利益を上げることしか興味がない。 

 日本の地方経済を活発化させれば、長期的な経済回復へむかうのは自明の理だ。効率的な投資、教育、研究投資、IT整備、人材育成、労働環境の改善、権利の平等など、改革しなければならないことが山ほどあるのに、都会の人間は余った金で、マネーゲームにいそしんでいる。

 これでは日本経済が発展しないのは当然だ。長くなったが、効率的な投資、人材育成、研究、インフラ整備なしでは、いずれ経済発展も長く続かず、ついには不景気になる。私はそんな愚を犯さない。

 積極的な改革を成し遂げて、来たる魔族との戦いに万全の態勢でのぞむつもりだ。国王領内だけの改革では、いずれ息が付き、日本のようなバブル崩壊となる。現に権利を求めて、地方領から、国王領にどんどん人材がこちらに舞い込んでくる。

 私はそれを教育して、地方を巻き込んで、国全体の改革を成し遂げなければならない、そのための第一歩として、国王領開拓をするのだ。改革なんて目に見えてわからないと、人は動かない。

 目の前に例があったほうが人はイメージしやすいのだ。発展を示すことが出来れば、おのずと、地方領も改革へと舵を切るだろう。

 私は王宮内府で数字とにらめっこしながら、ジャスミンに言った。

「ジャスミン、農地改革法と国土開発法はまとまった?」
「ええ、国務省と綿密な打ち合わせをして、農林水産省、国土交通省を作ることを決定しました。ミサ様がおっしゃるインフラ整備。

 そう、ダムや道路開拓による、農業の開拓や流通の促進と、消費がバランス良くいくように法整備を整えています」
「そうよ、今のままではいくら開拓しても都市で作物が消費できない。良い農作物を作っても消費されなければ意味がない。

 現在流通を握っているのはギルド、彼らの許可なしに作物は流通できないし、また都市で消費されるには、移動コストを下げなければならない。

 今まではいくつもの都市が中間にあって、どんどん関税が重なり、次に馬車をつかうため、馬の世話費が、何十日もかかって、悪路を進み、消費が激しい人口の多い都市に作物が向かうには、費用が積みに積もって、原価小麦一キロ10リーガンなのに、王都レスターでは1320リーガンになる。

 ドンドン開発が進み人口が増えていくと、急激な物不足になり、特に戦争など国全体で消費過剰になると、都市ではその人口をまかなう食料が一気に尽きる。

 だからこそインフラ整備と開拓を経済発展と共に必要になるのよ。大規模な構想なくして経済改革は成し遂げられない。

 この国丸ごと変えるつもりがないなら改革なんてやらない方がましになる。発展には経済の健康さが求められるからね」
「それについて閣下に具申したいことがございます」

「何、ジャスミン何でも言って、下の者の言うことを聞かないトップはすぐに滅ぶわ、部下は上司の鏡だからね。部下の言葉を聞かないと、自分の顔が見えないから、なにしても上手くいかなくなる。遠慮なく率直に言って」
「かしこまりました。どうやら、一部地域ではリーガン紙幣が使われてない模様」

「どういうこと?」
「詳細はわかりかねますが、書類によると、この地域や、この地域では数字が不透明です、これは明らかに閣下の意思を曲げる何かが存在します。数字はうそをつきません、人はうそをつきますが」

「わかった、国王領を視察するわ、王宮内だけでふんずり返ったままで、改革なんてあほらしいからね。まったく現実的ではない、さあ、動ける官僚を連れて行くわよ、ジャスミン貴方も来て」
「かしこまりました」

 そうして問題のある地域や、近場の国王領を査察して行った。道すがら眺めると私の指示通り、道の整備がどんどんなされていく、また関税撤廃により、どんどん農地から作物が運ばれていく。しかし、一部地域では未開拓のままで、どうも金貨で納税をしているらしいのだ。

 明らかに法律違反だ。私の問題のある村に、直接行った。そして徴税人に尋ねた。

「貴方は何故法を守らないの、紙幣による納税が義務とされているのに、一向にリーガン紙幣は流通していない。これはどういうことなの?」
「実はと言うと、農民たちの頭が固くて、紙切れよりも硬貨の方がありがたいから、硬貨を使いたいという申し出がありまして」

「わかったわ、私自身が見て回るわ」
「さ、宰相閣下!?」

 私は徴税人の制止を振り切って、村の市場を眺めた。確かに住民は硬貨を使っている。私は試しに商人に紙幣を出して物を買おうとすると拒否された。理由は言えないが、ここでは硬貨を使うのが当たり前だと。

 私はその言葉であることに気づき、村の皆を集めて、私は直に堂々と皆に問いただした。

「皆の者、税は紙幣で納めると法で決められている、また、紙幣の価値は中央銀行が管理している。安心して、紙幣を使って欲しい!」

 だが農民たちはそれに対し不安げな表情を浮かべただけで何も言わなかった。なら、私にも考えがある、伊達に口先だけの宰相と言われているわけじゃないのよ。

「そなたらは法を曲げている。このままだとそなたたちを罰しなければならない。古来より、人が黙るのは、上手くいってるときか、まったく上手くいってない時だけだ。

 そなたらは国王領の民、王家に忠義を尽くす義務がある、それなのに法を曲げて、なにも申さぬのは不忠の極み。

 君子に過ちがあれば、臣がただす。過ちを知りながら、そのまま見過ごすのは大罪なり。そなたらには三つの罪がある。一つ、国王の命に従わぬこと。二つ、国王を侮り、過ちを正さぬこと。三つ、それを見過ごし、何も言わず、国を亡ぼすことに加担したこと。

 どれをとっても重罪である。この村が滅ぼされても文句は言えまい!」

 私の言葉に恐れおののき、村人たちが口々に言い合った。だが誰も私に向かって、言おうとしなかった。それを見たある老人が、ひざまずき私に請い願った。

「宰相閣下、それはあんまりでございます、私たちは忠実なる王家の民です。貴女は硬貨をもって、納税とするとおっしゃったではありませんか。それなのにいきなり、紙幣を使わぬと罰するとはあんまりでございます」

「硬貨をもって納税とするとは誰に聞いた!?」
「村のお役人様方でございます」

 その言葉に私はすぐさま言った。

「ご老人、そなたこそ、王家随一の忠臣なり。今、誰に咎があるか理解できた。私は紙幣をもって納税とすると法を徹底させた。しかし、それをはばんでいるのはこの場にいる徴税人や役人どもだと明らかになった。

 人は悪いことがあれば口を閉ざすもの。そちらの方が言うより楽だからだ。そなたは、命を顧みず私に忠言した。追って褒賞あるべし、一族皆、誉れに満たされよう!」

 私はそう言った後、後ろにいた、この村の役人たちに言った。

「不忠者が誰かわかった。そなたらを捕縛する、観念いたせ!」

「なっ、お許しを!」
「宰相閣下!」

 驚く彼らに対しジャスミンは冷徹に言った。

「言い訳はあとできく、兵よこの者どもをさんざんに吐かせよ!」
「はっ!」

 私たちを護衛していた親衛隊が役人たちを捕まえる。彼らを厳しく尋問したところ、紙幣による納税をすると、税をごまかせないからだった。

 これまで毎回、決まった金額だけの硬貨を納税していた。しかし、それは商人たちと結託して、村人から、金の含有率の高い硬貨で納税させ、そのあと商人に金の含有率の低い硬貨と交換して、王宮に納税する習慣があったらしい。

 つまり、のこりの価値の高い金貨は手元に残り、それを商人と分け合って、一致団結して、実質、税をごまかして懐に入れていた、わかりづらい汚職だ。これが通用しなくなるから、商人たちは紙幣の使用を拒んでいたのだ。

 私は官僚たちに命じて、彼らを国王司法裁判所で裁かせた。これはおおやけに、罪だと認識させ、判例を作らせるためだ。かくして、汚職役人たちがごっそりと捕まり、恐れおののき、皆が紙幣を使うようになった。

 部下にきいてわからなければ、民衆にきけばいい。簡単なことだね!
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