38 / 178
世界統一編
第三十八話 宰相襲撃③
しおりを挟む
私とメアリーとウェリントンはジェラードの屋敷で、彼とディナーをとることにした。ダイニングルームで、私たちの目の前に広げられる、テットベリーの郷土料理グルメ。余りものおいしそうな匂いに私は目を輝かせてしまった。
ウェリントンとメアリーの間の席に私は座らされて、目の前の料理を見てジェラードに尋ねた。
「ねえこの白い肉は何?」
「これはサーロと言い、白豚肉の塩漬けだ、なかなか美味だぞ」
「それじゃあ、いただくね」
私は、サーロをナイフで刺して、口に運んだ。うん! 生の豚肉の甘みと脂身の旨味がぎっしり込められた上質な味に、ピリリとした塩の味がスパイシーで美味い! さらりとジューシーな食感で、ワインと、パンに合う!
「おいしー!」
「良いわねサーロ、ちょっと脂分が多いのが女性として気になるけど、週に一回ぐらい食べると非常に幸せな気分になるわ」
「私もだ、これは酒がぐんぐん進む、肉の旨味とさわやかなワインに非常に合う。ふむ、これは王宮でも取り入れるべきだな」
メアリーとウェリントンはご満悦の様子なので、ジェラードも嬉しそうに言った。
「気に入っていただけると幸いです」
次に私はスライスされた肉をスープにつけているのを見つけて、ジェラードに尋ねた。
「ねえねえ、この料理って何?」
「ああ、ミサ、クルシェニキと言ってな、牛肉をスライスし、ソテーにしたものだ、非常に美味だぞ」
「そうなの! いただきまーす!」
うん! ソテーにされた牛肉が旨味たっぷりで、よく火の通された肉汁が肉に閉じられながらも、噛めば噛むほど、ジワリ広がる肉の甘さ、それがキノコとの相性が抜群、サワークリームソースの乳製品の甘さとほんのりとした優しい味がよく合う!
「これもおいしー!」
「うん、肉のしつこさがないし、サワークリームとの相性がよく、さらりとした甘みの口どけがいい!」
「うーん、エジンバラの料理を北の果てだと甘く見ていたが、してやられたな、こんなに美味いとは、実に酒に合う! よし、これも王宮料理に採用だ!」
メアリーとウェリントンの言葉で、誇らしげにジェラードは嬉しそうだった。
「お気に召していただき嬉しい限りです」
最後に私は赤いスープを目にして、あっ、これもしかしてと思って彼に尋ねた。
「ねえ、このスープってもしかして」
「ああ、ボルシチだ。長時間、具と紅いビーツとトマトペーストを煮詰めたものだ、独特の味わいがあるシチューだぞ!」
「やっぱり! いただきます!」
うーん! じっくりコトコトに煮られた野菜と肉は、口に運ぶとあっちあっちのスープに囲まれながらじんわり広がる、野菜と肉の甘み。酸味があって、刺激的なスープが、食欲をそそる。上にのせられた、サワークリームとの相性が抜群! 美味い! 食材の奥深さを感じる。
「うわあ、おいしい! 最高だよ、ジェラード!」
「うん、独特のスープとよく煮込まれた具材が口に広がっていくわ、口が幸せねー」
「この濃厚なスープの刺激的な見た目と味。素晴らしいな酒が進む。ふむ、これも王宮で採用だ!」
「気に入っていただけましたか、我が国の料理を?」
「うん、もちろんだよ!」
「ええ、悔しいけど美味しいわ!」
「ああ、シェフを王宮によこしてくれ、私も頻繁に食べてみたいぞ!」
そうして私たちは笑い合った。食後のワインを楽しんだ後、私たちはテーブルを囲んで談笑した。
「それでミサが来た時どう思った?」
「正直私は、戸惑いましたね、論理的に諭されながら、怒りを感じながらも、ミサの言うことに納得している私がいました。彼女の最後の言葉が刺さりました。世界を変える力がその手にあると。
騎士としてこれ以上奮い立つ言葉はありませんよ。悩みましたが、陛下のもとで戦うことを決めました」
ウェリントンとジェラードは大陸同盟戦争の話を繰り広げていた。男同士だから戦争の話で盛り上がっていたけど、女の私は少し退屈だった。メアリーも同じ様子だった。
「ねえ、ジェラード、女が二人いるのよ、もっと気の利いた話ないの?」
とのメアリーの言葉に、ジェラードはほのかに笑みを浮かべた。
「これは失礼、レディ二人がいながら血なまぐさい話を。ではこういう話はどうでしょう。エジンバラの王家の恋の物語」
「え、ジェラード、そんなのあるの、私聞きたい聞きたい!」
「うん、私も小説のネタになるし聞きたいわ」
私たちが前のめりになったので、彼は軽やかに語り始めた。
「昔の話です。ある落ちぶれた貴族の令嬢がいました。昔の栄華はともかく、彼女の家は貧しくなり、屋敷も荒れ果ててしまい、暮らしに不自由していました。ある時、一人の王子が、戦争の疲れをいやすため、そのご令嬢の屋敷で休んだそうです。
王子は彼女に一目ぼれしました。艶やかな黒髪に、黒の瞳、ブラックサファイアに等しきうるおった彼女の目を見つめた瞬間、王子は恋に落ちました。その日から二人は、友人になりました。
王子はあらゆる手段を使いながら、レディーの気を引こうとしても、彼女の憂いの表情は解けませんでした。どうしたのかと尋ねると、彼女はこのまま落ちぶれて、寂れた古い家とともに年を老いていくのは、悲しいと。
その時王子はレディーの手を取りました。君をきっと幸せにする、だから私を信じてくれないかと。神に誓って君を幸せにすると。その時彼女に光が当たったかのように初めての笑顔を浮かべました。それが王子は愛おしくて愛しくて、彼女の手を放しませんでした。そして王子は彼女の唇を奪ったのです。
永遠の誓い、また、二人は夜の契りを結んだのです。確かなる二人の絆。幸せの絶頂でした」
「良い話……」
「ちょっと姫の私も感動してきた、落ちぶれた貴族ってひどいものね、名前だけあって、農民と変わらないもの」
私とメアリーの言葉に彼は静かに話をつづけた。
「しかし、王子には時間がありませんでした。エジンバラは戦争なくして民を食わせることが難しい。彼は心ならずも彼女のもとを離れました。戦いに向かう約束の彼の背中を見ながら、彼女は不安に駆られました。しかし、それを見送ることしかできませんでした。
王子は戦いに明け暮れました。幾日幾日も、戦いに疲れていき、王宮に戻ったときは呆然自失の状態でした。その時です、父の王から、ある姫君と結婚しろとの命令でした。王子の母親は、貴族の後ろ盾がなく、父王の命令を渋々飲むしか他に方法はありませんでした。
これが貴族の運命、貴族の宿命です。悲しい話ですね」
「え、その後どうなったの、そのご令嬢は!?」
「まあ、ミサ、この話には続きがあるんだ。そして婚約式の中、とある姫君と誓いのキスを行おうとしました。別に姫として不足があったわけじゃない、財産も土地も持っている。顔も悪くない。でも、その姫君の顔を見た瞬間、王子は思い出したのです。
あの愛しい黒の瞳を、恋してやまない約束の女性を。王子はその場から逃げ出し、すぐさま、レディーのもとに馬を走らせました。三日三晩休まずに、王子はあのご令嬢のもとに急ぎました。何度も馬を潰し、それでも会いたかったのです。愛しい彼の姫君に。
そして、ついにあの寂れた屋敷につきました。ご令嬢は、王子の婚約を知ったとき泣き崩れ、部屋にこもっていました。王子が目の前に現れるまで、現実が受け入れられませんでした。まるで悪い魔女の魔法にかかったよう。しかし黒の瞳のレディーの魔法は解けるのです。王子の永遠のキスで……」
「うっそー、選んだの黒の令嬢を、その王子様」
「貴族では珍しい、ラブロマンスね、それで、ジェラード、続きはあるの?」
「ええありますよ、姫君。彼はそのご令嬢を王宮に連れて行きました。みすぼらしいドレスに周りの貴族は反対しました。しかし、王子は彼女に恋の魔法をかけました。美しいドレスに、綺麗な装飾品、王家にふさわしい美貌に王宮はひっくり返りました。
大貴族の反対を押し切って、王子はその黒のご令嬢と結婚しました。そして王子は王太子でありませんでしたが、王位継承戦争で勝ち抜き、見事エジンバラ王になりました。それが現在のエジンバラ王です。
──どうです? 面白かったでしょう?」
「うっそー、あの王様、そんなラブい話あったの!? あの顔で!?」
「いやあ、いい話だわ、黒の瞳のレディーの物語として一冊本が書けそうね」
私たちが驚く中ウェリントンは納得した様子だった。
「その王子があのエジンバラ王とは驚きだが、実に騎士らしい話だ、すばらしいじゃないか、神との約束の姫君と添い遂げる、騎士として誉れだ」
「どうです陛下、貴方は、約束の姫君はいらっしゃいますか?」
「ここにおるぞ」
「へっ⁉」
私たち女二人はびっくりした。そしてウェリントンは私の肩を抱いた。
「ミサだ。ジェラードお前はどうする?」
「それはそれは、騎士としての決闘の誘い、ぜひ受け入れましょう」
「えっ!? えっ!?」
二人が火花を散らす中、メアリーが参戦する。
「ちょっと待ちなさいよ、私のミサを勝手に取らないでよ、ミサは私と結婚するんだから、ねー」
「これはこれは強敵が参戦いたしましたか、陛下どういたします?」
「むー、ジェラード一人でも手ごわいのに、メアリー姉上までか……。エジンバラとの戦争の方が楽だったかな」
その言葉に私以外みんなが笑った。
「はははは……」
私はもう、何が何だかわからず真っ赤になってしまった。そうやって楽しく話していると夜も更けてしまった。私はしまったと思った。夜危ないじゃん。カンビアスの件もあるし。でも明日のこと考えると、一度、屋敷に帰らないと。
私がウェリントンと相談すると、彼は、
「では我が王家の手練れの騎士をつけよう。それならミサも安心だ」
と言ったので、安心して、夜中、馬車を走らせて帰ることにした。それがまずかったのだ。私がゴトゴト揺れる中で、疲れてうたたねをしてると、いきなり男の叫び声が聞こえて馬車が止まった。
何事かと思って外に顔を出すと、馬車を動かしているウチの召使が叫んだ。
「いけません! 閣下!」
「ミサ宰相だな! その首、取らせてもらおう!」
周りを見ると、知らない男たちに囲まれていた。し、しまった──。やばい──!
ウェリントンとメアリーの間の席に私は座らされて、目の前の料理を見てジェラードに尋ねた。
「ねえこの白い肉は何?」
「これはサーロと言い、白豚肉の塩漬けだ、なかなか美味だぞ」
「それじゃあ、いただくね」
私は、サーロをナイフで刺して、口に運んだ。うん! 生の豚肉の甘みと脂身の旨味がぎっしり込められた上質な味に、ピリリとした塩の味がスパイシーで美味い! さらりとジューシーな食感で、ワインと、パンに合う!
「おいしー!」
「良いわねサーロ、ちょっと脂分が多いのが女性として気になるけど、週に一回ぐらい食べると非常に幸せな気分になるわ」
「私もだ、これは酒がぐんぐん進む、肉の旨味とさわやかなワインに非常に合う。ふむ、これは王宮でも取り入れるべきだな」
メアリーとウェリントンはご満悦の様子なので、ジェラードも嬉しそうに言った。
「気に入っていただけると幸いです」
次に私はスライスされた肉をスープにつけているのを見つけて、ジェラードに尋ねた。
「ねえねえ、この料理って何?」
「ああ、ミサ、クルシェニキと言ってな、牛肉をスライスし、ソテーにしたものだ、非常に美味だぞ」
「そうなの! いただきまーす!」
うん! ソテーにされた牛肉が旨味たっぷりで、よく火の通された肉汁が肉に閉じられながらも、噛めば噛むほど、ジワリ広がる肉の甘さ、それがキノコとの相性が抜群、サワークリームソースの乳製品の甘さとほんのりとした優しい味がよく合う!
「これもおいしー!」
「うん、肉のしつこさがないし、サワークリームとの相性がよく、さらりとした甘みの口どけがいい!」
「うーん、エジンバラの料理を北の果てだと甘く見ていたが、してやられたな、こんなに美味いとは、実に酒に合う! よし、これも王宮料理に採用だ!」
メアリーとウェリントンの言葉で、誇らしげにジェラードは嬉しそうだった。
「お気に召していただき嬉しい限りです」
最後に私は赤いスープを目にして、あっ、これもしかしてと思って彼に尋ねた。
「ねえ、このスープってもしかして」
「ああ、ボルシチだ。長時間、具と紅いビーツとトマトペーストを煮詰めたものだ、独特の味わいがあるシチューだぞ!」
「やっぱり! いただきます!」
うーん! じっくりコトコトに煮られた野菜と肉は、口に運ぶとあっちあっちのスープに囲まれながらじんわり広がる、野菜と肉の甘み。酸味があって、刺激的なスープが、食欲をそそる。上にのせられた、サワークリームとの相性が抜群! 美味い! 食材の奥深さを感じる。
「うわあ、おいしい! 最高だよ、ジェラード!」
「うん、独特のスープとよく煮込まれた具材が口に広がっていくわ、口が幸せねー」
「この濃厚なスープの刺激的な見た目と味。素晴らしいな酒が進む。ふむ、これも王宮で採用だ!」
「気に入っていただけましたか、我が国の料理を?」
「うん、もちろんだよ!」
「ええ、悔しいけど美味しいわ!」
「ああ、シェフを王宮によこしてくれ、私も頻繁に食べてみたいぞ!」
そうして私たちは笑い合った。食後のワインを楽しんだ後、私たちはテーブルを囲んで談笑した。
「それでミサが来た時どう思った?」
「正直私は、戸惑いましたね、論理的に諭されながら、怒りを感じながらも、ミサの言うことに納得している私がいました。彼女の最後の言葉が刺さりました。世界を変える力がその手にあると。
騎士としてこれ以上奮い立つ言葉はありませんよ。悩みましたが、陛下のもとで戦うことを決めました」
ウェリントンとジェラードは大陸同盟戦争の話を繰り広げていた。男同士だから戦争の話で盛り上がっていたけど、女の私は少し退屈だった。メアリーも同じ様子だった。
「ねえ、ジェラード、女が二人いるのよ、もっと気の利いた話ないの?」
とのメアリーの言葉に、ジェラードはほのかに笑みを浮かべた。
「これは失礼、レディ二人がいながら血なまぐさい話を。ではこういう話はどうでしょう。エジンバラの王家の恋の物語」
「え、ジェラード、そんなのあるの、私聞きたい聞きたい!」
「うん、私も小説のネタになるし聞きたいわ」
私たちが前のめりになったので、彼は軽やかに語り始めた。
「昔の話です。ある落ちぶれた貴族の令嬢がいました。昔の栄華はともかく、彼女の家は貧しくなり、屋敷も荒れ果ててしまい、暮らしに不自由していました。ある時、一人の王子が、戦争の疲れをいやすため、そのご令嬢の屋敷で休んだそうです。
王子は彼女に一目ぼれしました。艶やかな黒髪に、黒の瞳、ブラックサファイアに等しきうるおった彼女の目を見つめた瞬間、王子は恋に落ちました。その日から二人は、友人になりました。
王子はあらゆる手段を使いながら、レディーの気を引こうとしても、彼女の憂いの表情は解けませんでした。どうしたのかと尋ねると、彼女はこのまま落ちぶれて、寂れた古い家とともに年を老いていくのは、悲しいと。
その時王子はレディーの手を取りました。君をきっと幸せにする、だから私を信じてくれないかと。神に誓って君を幸せにすると。その時彼女に光が当たったかのように初めての笑顔を浮かべました。それが王子は愛おしくて愛しくて、彼女の手を放しませんでした。そして王子は彼女の唇を奪ったのです。
永遠の誓い、また、二人は夜の契りを結んだのです。確かなる二人の絆。幸せの絶頂でした」
「良い話……」
「ちょっと姫の私も感動してきた、落ちぶれた貴族ってひどいものね、名前だけあって、農民と変わらないもの」
私とメアリーの言葉に彼は静かに話をつづけた。
「しかし、王子には時間がありませんでした。エジンバラは戦争なくして民を食わせることが難しい。彼は心ならずも彼女のもとを離れました。戦いに向かう約束の彼の背中を見ながら、彼女は不安に駆られました。しかし、それを見送ることしかできませんでした。
王子は戦いに明け暮れました。幾日幾日も、戦いに疲れていき、王宮に戻ったときは呆然自失の状態でした。その時です、父の王から、ある姫君と結婚しろとの命令でした。王子の母親は、貴族の後ろ盾がなく、父王の命令を渋々飲むしか他に方法はありませんでした。
これが貴族の運命、貴族の宿命です。悲しい話ですね」
「え、その後どうなったの、そのご令嬢は!?」
「まあ、ミサ、この話には続きがあるんだ。そして婚約式の中、とある姫君と誓いのキスを行おうとしました。別に姫として不足があったわけじゃない、財産も土地も持っている。顔も悪くない。でも、その姫君の顔を見た瞬間、王子は思い出したのです。
あの愛しい黒の瞳を、恋してやまない約束の女性を。王子はその場から逃げ出し、すぐさま、レディーのもとに馬を走らせました。三日三晩休まずに、王子はあのご令嬢のもとに急ぎました。何度も馬を潰し、それでも会いたかったのです。愛しい彼の姫君に。
そして、ついにあの寂れた屋敷につきました。ご令嬢は、王子の婚約を知ったとき泣き崩れ、部屋にこもっていました。王子が目の前に現れるまで、現実が受け入れられませんでした。まるで悪い魔女の魔法にかかったよう。しかし黒の瞳のレディーの魔法は解けるのです。王子の永遠のキスで……」
「うっそー、選んだの黒の令嬢を、その王子様」
「貴族では珍しい、ラブロマンスね、それで、ジェラード、続きはあるの?」
「ええありますよ、姫君。彼はそのご令嬢を王宮に連れて行きました。みすぼらしいドレスに周りの貴族は反対しました。しかし、王子は彼女に恋の魔法をかけました。美しいドレスに、綺麗な装飾品、王家にふさわしい美貌に王宮はひっくり返りました。
大貴族の反対を押し切って、王子はその黒のご令嬢と結婚しました。そして王子は王太子でありませんでしたが、王位継承戦争で勝ち抜き、見事エジンバラ王になりました。それが現在のエジンバラ王です。
──どうです? 面白かったでしょう?」
「うっそー、あの王様、そんなラブい話あったの!? あの顔で!?」
「いやあ、いい話だわ、黒の瞳のレディーの物語として一冊本が書けそうね」
私たちが驚く中ウェリントンは納得した様子だった。
「その王子があのエジンバラ王とは驚きだが、実に騎士らしい話だ、すばらしいじゃないか、神との約束の姫君と添い遂げる、騎士として誉れだ」
「どうです陛下、貴方は、約束の姫君はいらっしゃいますか?」
「ここにおるぞ」
「へっ⁉」
私たち女二人はびっくりした。そしてウェリントンは私の肩を抱いた。
「ミサだ。ジェラードお前はどうする?」
「それはそれは、騎士としての決闘の誘い、ぜひ受け入れましょう」
「えっ!? えっ!?」
二人が火花を散らす中、メアリーが参戦する。
「ちょっと待ちなさいよ、私のミサを勝手に取らないでよ、ミサは私と結婚するんだから、ねー」
「これはこれは強敵が参戦いたしましたか、陛下どういたします?」
「むー、ジェラード一人でも手ごわいのに、メアリー姉上までか……。エジンバラとの戦争の方が楽だったかな」
その言葉に私以外みんなが笑った。
「はははは……」
私はもう、何が何だかわからず真っ赤になってしまった。そうやって楽しく話していると夜も更けてしまった。私はしまったと思った。夜危ないじゃん。カンビアスの件もあるし。でも明日のこと考えると、一度、屋敷に帰らないと。
私がウェリントンと相談すると、彼は、
「では我が王家の手練れの騎士をつけよう。それならミサも安心だ」
と言ったので、安心して、夜中、馬車を走らせて帰ることにした。それがまずかったのだ。私がゴトゴト揺れる中で、疲れてうたたねをしてると、いきなり男の叫び声が聞こえて馬車が止まった。
何事かと思って外に顔を出すと、馬車を動かしているウチの召使が叫んだ。
「いけません! 閣下!」
「ミサ宰相だな! その首、取らせてもらおう!」
周りを見ると、知らない男たちに囲まれていた。し、しまった──。やばい──!
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません
おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。
ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。
さらっとハッピーエンド。
ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。
死に戻った逆行皇女は中継ぎ皇帝を目指します!~四度目の人生、今度こそ生き延びてみせます~
Na20
恋愛
(国のために役に立ちたかった…)
国のため敵国に嫁ぐことを決めたアンゼリーヌは敵国に向かう道中で襲われ剣で胸を貫かれてしまう。そして薄れゆく意識の中で思い出すのは父と母、それに大切な従者のこと。
(もしもあの時違う道を選んでいたら…)
そう強く想いながら息を引き取ったはずだったが、目を覚ませば十歳の誕生日に戻っていたのだった。
※恋愛要素薄目です
※設定はゆるくご都合主義ですのでご了承ください
※小説になろう様にも掲載してます
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる