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世界統一編

第三十八話 宰相襲撃③

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 私とメアリーとウェリントンはジェラードの屋敷で、彼とディナーをとることにした。ダイニングルームで、私たちの目の前に広げられる、テットベリーの郷土料理グルメ。余りものおいしそうな匂いに私は目を輝かせてしまった。

 ウェリントンとメアリーの間の席に私は座らされて、目の前の料理を見てジェラードに尋ねた。

「ねえこの白い肉は何?」
「これはサーロと言い、白豚肉の塩漬けだ、なかなか美味だぞ」

「それじゃあ、いただくね」

 私は、サーロをナイフで刺して、口に運んだ。うん! 生の豚肉の甘みと脂身の旨味がぎっしり込められた上質な味に、ピリリとした塩の味がスパイシーで美味い! さらりとジューシーな食感で、ワインと、パンに合う!

「おいしー!」
「良いわねサーロ、ちょっと脂分が多いのが女性として気になるけど、週に一回ぐらい食べると非常に幸せな気分になるわ」
「私もだ、これは酒がぐんぐん進む、肉の旨味とさわやかなワインに非常に合う。ふむ、これは王宮でも取り入れるべきだな」

 メアリーとウェリントンはご満悦の様子なので、ジェラードも嬉しそうに言った。

「気に入っていただけると幸いです」

 次に私はスライスされた肉をスープにつけているのを見つけて、ジェラードに尋ねた。

「ねえねえ、この料理って何?」
「ああ、ミサ、クルシェニキと言ってな、牛肉をスライスし、ソテーにしたものだ、非常に美味だぞ」

「そうなの! いただきまーす!」

 うん! ソテーにされた牛肉が旨味たっぷりで、よく火の通された肉汁が肉に閉じられながらも、噛めば噛むほど、ジワリ広がる肉の甘さ、それがキノコとの相性が抜群、サワークリームソースの乳製品の甘さとほんのりとした優しい味がよく合う!

「これもおいしー!」
「うん、肉のしつこさがないし、サワークリームとの相性がよく、さらりとした甘みの口どけがいい!」
「うーん、エジンバラの料理を北の果てだと甘く見ていたが、してやられたな、こんなに美味いとは、実に酒に合う! よし、これも王宮料理に採用だ!」

 メアリーとウェリントンの言葉で、誇らしげにジェラードは嬉しそうだった。

「お気に召していただき嬉しい限りです」

 最後に私は赤いスープを目にして、あっ、これもしかしてと思って彼に尋ねた。

「ねえ、このスープってもしかして」
「ああ、ボルシチだ。長時間、具と紅いビーツとトマトペーストを煮詰めたものだ、独特の味わいがあるシチューだぞ!」

「やっぱり! いただきます!」

 うーん! じっくりコトコトに煮られた野菜と肉は、口に運ぶとあっちあっちのスープに囲まれながらじんわり広がる、野菜と肉の甘み。酸味があって、刺激的なスープが、食欲をそそる。上にのせられた、サワークリームとの相性が抜群! 美味い! 食材の奥深さを感じる。

「うわあ、おいしい! 最高だよ、ジェラード!」
「うん、独特のスープとよく煮込まれた具材が口に広がっていくわ、口が幸せねー」
「この濃厚なスープの刺激的な見た目と味。素晴らしいな酒が進む。ふむ、これも王宮で採用だ!」

「気に入っていただけましたか、我が国の料理を?」

「うん、もちろんだよ!」
「ええ、悔しいけど美味しいわ!」
「ああ、シェフを王宮によこしてくれ、私も頻繁ひんぱんに食べてみたいぞ!」

 そうして私たちは笑い合った。食後のワインを楽しんだ後、私たちはテーブルを囲んで談笑した。

「それでミサが来た時どう思った?」
「正直私は、戸惑いましたね、論理的に諭されながら、怒りを感じながらも、ミサの言うことに納得している私がいました。彼女の最後の言葉が刺さりました。世界を変える力がその手にあると。

 騎士としてこれ以上奮い立つ言葉はありませんよ。悩みましたが、陛下のもとで戦うことを決めました」

 ウェリントンとジェラードは大陸同盟戦争の話を繰り広げていた。男同士だから戦争の話で盛り上がっていたけど、女の私は少し退屈だった。メアリーも同じ様子だった。

「ねえ、ジェラード、女が二人いるのよ、もっと気の利いた話ないの?」

 とのメアリーの言葉に、ジェラードはほのかに笑みを浮かべた。

「これは失礼、レディ二人がいながら血なまぐさい話を。ではこういう話はどうでしょう。エジンバラの王家の恋の物語」

「え、ジェラード、そんなのあるの、私聞きたい聞きたい!」
「うん、私も小説のネタになるし聞きたいわ」

 私たちが前のめりになったので、彼は軽やかに語り始めた。

「昔の話です。ある落ちぶれた貴族の令嬢がいました。昔の栄華はともかく、彼女の家は貧しくなり、屋敷も荒れ果ててしまい、暮らしに不自由していました。ある時、一人の王子が、戦争の疲れをいやすため、そのご令嬢の屋敷で休んだそうです。

 王子は彼女に一目ぼれしました。あでやかな黒髪に、黒の瞳、ブラックサファイアに等しきうるおった彼女の目を見つめた瞬間、王子は恋に落ちました。その日から二人は、友人になりました。

 王子はあらゆる手段を使いながら、レディーの気を引こうとしても、彼女の憂いの表情は解けませんでした。どうしたのかと尋ねると、彼女はこのまま落ちぶれて、寂れた古い家とともに年を老いていくのは、悲しいと。

 その時王子はレディーの手を取りました。君をきっと幸せにする、だから私を信じてくれないかと。神に誓って君を幸せにすると。その時彼女に光が当たったかのように初めての笑顔を浮かべました。それが王子は愛おしくて愛しくて、彼女の手を放しませんでした。そして王子は彼女の唇を奪ったのです。

 永遠の誓い、また、二人は夜の契りを結んだのです。確かなる二人の絆。幸せの絶頂でした」

「良い話……」
「ちょっと姫の私も感動してきた、落ちぶれた貴族ってひどいものね、名前だけあって、農民と変わらないもの」

 私とメアリーの言葉に彼は静かに話をつづけた。

「しかし、王子には時間がありませんでした。エジンバラは戦争なくして民を食わせることが難しい。彼は心ならずも彼女のもとを離れました。戦いに向かう約束の彼の背中を見ながら、彼女は不安に駆られました。しかし、それを見送ることしかできませんでした。

 王子は戦いに明け暮れました。幾日幾日も、戦いに疲れていき、王宮に戻ったときは呆然自失の状態でした。その時です、父の王から、ある姫君と結婚しろとの命令でした。王子の母親は、貴族の後ろ盾がなく、父王の命令を渋々飲むしか他に方法はありませんでした。

 これが貴族の運命、貴族の宿命です。悲しい話ですね」

「え、その後どうなったの、そのご令嬢は!?」
「まあ、ミサ、この話には続きがあるんだ。そして婚約式の中、とある姫君と誓いのキスを行おうとしました。別に姫として不足があったわけじゃない、財産も土地も持っている。顔も悪くない。でも、その姫君の顔を見た瞬間、王子は思い出したのです。

 あの愛しい黒の瞳を、恋してやまない約束の女性を。王子はその場から逃げ出し、すぐさま、レディーのもとに馬を走らせました。三日三晩休まずに、王子はあのご令嬢のもとに急ぎました。何度も馬を潰し、それでも会いたかったのです。愛しい彼の姫君に。

 そして、ついにあの寂れた屋敷につきました。ご令嬢は、王子の婚約を知ったとき泣き崩れ、部屋にこもっていました。王子が目の前に現れるまで、現実が受け入れられませんでした。まるで悪い魔女の魔法にかかったよう。しかし黒の瞳のレディーの魔法は解けるのです。王子の永遠のキスで……」

「うっそー、選んだの黒の令嬢を、その王子様」
「貴族では珍しい、ラブロマンスね、それで、ジェラード、続きはあるの?」

「ええありますよ、姫君。彼はそのご令嬢を王宮に連れて行きました。みすぼらしいドレスに周りの貴族は反対しました。しかし、王子は彼女に恋の魔法をかけました。美しいドレスに、綺麗な装飾品、王家にふさわしい美貌に王宮はひっくり返りました。

 大貴族の反対を押し切って、王子はその黒のご令嬢と結婚しました。そして王子は王太子でありませんでしたが、王位継承戦争で勝ち抜き、見事エジンバラ王になりました。それが現在のエジンバラ王です。

 ──どうです? 面白かったでしょう?」

「うっそー、あの王様、そんなラブい話あったの!? あの顔で!?」
「いやあ、いい話だわ、黒の瞳のレディーの物語として一冊本が書けそうね」

 私たちが驚く中ウェリントンは納得した様子だった。

「その王子があのエジンバラ王とは驚きだが、実に騎士らしい話だ、すばらしいじゃないか、神との約束の姫君と添い遂げる、騎士としてほまれだ」

「どうです陛下、貴方は、約束の姫君はいらっしゃいますか?」
「ここにおるぞ」

「へっ⁉」

 私たち女二人はびっくりした。そしてウェリントンは私の肩を抱いた。

「ミサだ。ジェラードお前はどうする?」
「それはそれは、騎士としての決闘の誘い、ぜひ受け入れましょう」

「えっ!? えっ!?」

 二人が火花を散らす中、メアリーが参戦する。

「ちょっと待ちなさいよ、私のミサを勝手に取らないでよ、ミサは私と結婚するんだから、ねー」

「これはこれは強敵が参戦いたしましたか、陛下どういたします?」
「むー、ジェラード一人でも手ごわいのに、メアリー姉上までか……。エジンバラとの戦争の方が楽だったかな」

 その言葉に私以外みんなが笑った。

「はははは……」

 私はもう、何が何だかわからず真っ赤になってしまった。そうやって楽しく話していると夜も更けてしまった。私はしまったと思った。夜危ないじゃん。カンビアスの件もあるし。でも明日のこと考えると、一度、屋敷に帰らないと。

 私がウェリントンと相談すると、彼は、

「では我が王家の手練れの騎士をつけよう。それならミサも安心だ」

 と言ったので、安心して、夜中、馬車を走らせて帰ることにした。それがまずかったのだ。私がゴトゴト揺れる中で、疲れてうたたねをしてると、いきなり男の叫び声が聞こえて馬車が止まった。

 何事かと思って外に顔を出すと、馬車を動かしているウチの召使が叫んだ。

「いけません! 閣下!」
「ミサ宰相だな! その首、取らせてもらおう!」

 周りを見ると、知らない男たちに囲まれていた。し、しまった──。やばい──!
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