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嫌っていたはずの相手が変わって戸惑う俺の話
しおりを挟む例の一件があってから、ディランの様子が一変した。あの時の事は、薬を盛られていたとはいえ鮮明に覚えており、気を抜くと転がり回ってのたうち回りたくなるぐらい恥ずかしい記憶だ。
身体に籠る熱を発散したくて、触れられるがまま受け入れてあられもない姿を披露してしまった……。
「ああああ~っ!」
思い出すだけで無理だ、思いっきり窓から飛び降りたい、湖の真ん中に飛び込みたい衝動に駆られる。
ディランの触れる手が優しくて、どこもかしこも気持ち良くて。普段の気品のある振る舞いをするディランからは想像もつかない雄の部分をぶつけられ、ギラついた熱を帯びた瞳に射抜かれるともう駄目だった。
絡み合う身体に、何度達したか分からない。気が付いた時は、自分がどこにいるのかも分からないまま、また組み敷かれて熱を共有した。熱が治まって、スッキリして起きたらお互い裸のままで、何をしていたのか思い出すと血が噴き出るんじゃないかというぐらい顔が熱くなった。ディランを起こさないように気を付けながらも慌てて服をひっつかんでその場から逃げた。
自分の部屋に戻って、ベッドに潜り込んで頭から布団を被る。ディランの触れる手を、唇を、重なった熱を、思い出しては顔が熱くなって転がり回った。
よし、忘れよう。冷たい水を全身に浴びて、頬をパンッと叩き、そう頷いたのだ。それなのに……。
「ルイス、おはようございます。身体は大丈夫でしたか?」
扉を開け、さぁ仕事に行くかと気持ちを切り替えて出たところに何故かディランが待ち伏せていたのだ。扉横の壁にもたれかかってそう言ってきたディランを見て、一瞬であの時のことが蘇った俺は顔に熱が集まったのが分かってバッと逸らした。
「なっ、べ、別に……!」
まともに顔を見られず、叫ぶようにそう言ってその場からさっさと立ち去ろうとしたのだが、ガシッと腕を掴まれてたたらを踏む。
「なら良かった。ルイス、先に隊長に報告を。公爵家から謝礼も出るそうですよ。」
耳元で言われ、ビクっと肩が揺れる。馬鹿にされる!と思ってキッと睨み付けると、そこにはあの時のように熱を含んだ瞳で見下ろされて、ゴクッと息を飲んだ。そして、スルッと腰に手を回されて、エスコートされるように足を進まされる。
「ちょ、な、何だよ!自分で歩ける!」
ディランにそう言うと、
「あなたに触れたいだけなので、気にしないで下さい。」
さらっとそう言われて固まる。
なっ、何なんだよ……!
それに対し、何を言えばいいのか分からず、口を結んだ俺。そのまま隊長のところまで連れて行かれた。さすがに離すだろうと思っていたのに、腰を抱かれたまま隊長の前まで連れてこられる。それに対し、隊長が驚いたように目を見開いたのが分かって咄嗟に言い訳しようとした。
「ちがっ、こいつが……!」
「隊長、こういうことですので、必要以上にルイスに触れるのは止めて下さいね。」
俺を遮ってそう言ったディランに、唖然と口を開ける。何を言ってるんだこいつ!?
だが、そう思ったのは俺だけだったらしい。隊長はガシガシと頭を掻くと、
「あんまり暴走すんなよ?……昨日の件だが、当たりだったらしく捕まえたやつから情報が出て来てな。お手柄だった。あと、場と機会を設けてくれた公爵様から謝礼が出ている。次の……。」
そう続け出して、俺の状況に関してはそれ以上何も言ってこなかった。俺だけが、この状況についていけず、隊長の話も全然頭に入って来ないのだった。
それから、ディランは会う度に絡んでくるのだが、以前とは違って飯の誘いや、さりげなく触れてきたりとまるで俺に気があるかのような素振りを見せてくるため大いに戸惑っている。俺はディランが絡んでくる度にあのことを思い出して身体が熱くなったり、嫌なことを言ってこないディランに食って掛かることも出来ず、変な返しをしてしまうのだ。
そんな中、明日は休みか、という時にディランから飲みの誘いを受けた。まぁ、せっかくの良いワインなら、美味しい内に飲まないといけないし……と言い訳を考えながら、仕事を終わらせる。一度部屋に戻るかと思ったところでディランと鉢合わせし、そのままディランの部屋に連れて行かれる。ディランの匂いがいっぱいで、その中に自分がいるとどうも近くにいるような感覚に陥ってまた思い出してしまう。落ち着け、落ち着け、と思いながら座ると、何故かディランも横に座ってきて、肩や足が触れ合っただけで身体をビクつかせてしまい、いたたまれなくなってしまった。
意識し過ぎだろ俺!と思いながらも、熱くなる顔を止めることなんて出来るはずもなく。とりあえず飲んで酔いたい、と酒に逃げようとすると、その手を掴まれて身体を押され、その場で倒れると上からディランが覆い被さってきた。
「の、飲むだけって言った……!」
焦りながら出た言葉に、薄く笑ったディランが顔を近付けてきて、赤面するようなことを話される。俺は呆気に取られながらも、俺を好きだと、欲しくてたまらないのだと言うディランに、身体が熱を帯び始める。突然の告白に、自分の気持ちが分からない俺は返すことが出来ず、ただ流されてくれというディランの言葉に甘えて、再び身体を重ねてしまった。
敏感なところを触れられ、熱い息を溢しながら俺の身体を這い回るディランの手に、何度も声を上げてしまう。唇を合わせて舌を絡め取られながら、身体を貫かれ揺さぶられる。気持ち良さに思わずディランにしがみ付くと、噛み付くようなキスに変わって、達したにも関わらず強制的に熱を上げられては刺激を与えられた。快感に何も考えられなくなって、ディランにされるがまま身体を絡み合ったのだった。
「……!」
「どこに行くんです?もう少し、ゆっくりしていって下さい。」
目が覚めた時、俺は眠っているディランをそのままに、静かに部屋を出ようとしたのだが、腕を掴まれて引き寄せられると、ポスンとベッドに逆戻りしてしまった。そして、薄く目を開けたディランが綺麗に微笑み、肘をついて俺を見下ろしながらそう言った。
「お、俺、えっと、昨日は……。」
「ルイス、昨夜もとても可愛かった。加減が出来ず申し訳ありません。」
俺の頬に手を当てると、俺の言葉を遮って言うディランに、思い出してまた顔が熱くなる。
「いや、俺も、その……き、気持ち、良かったし……
」
謝られるのは違うよな、と思ってしどろもどろに帰すと、
「良かった。ルイス、返事は急ぎませんが、俺はもう我慢しませんのでそのつもりで。」
ディランは俺の額に唇を落とすと、
「……ルイス、愛しています。」
耳元で熱を帯びた声で囁くように言って、赤面し口をパクパクする俺を見て笑ったのだった。
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