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お互い嫌っていると思われていた俺の話

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―――ディランside


「の、飲むだけって、言った…!」

仕事を終えてルイスを迎えに行き、そのまま俺の部屋へと連れ込んだ。始終、そわそわと落ち着かないルイスは、俺が少し近付くだけで顔に赤みが差し、グラスを渡す時に指が触れても肩を揺らす。そんな如何にも意識していますと言わんばかりの可愛い反応をされて、何もしないやつがいるわけないだろう。

食事を終えた後、ワインと共にナッツやチーズを摘まみ、ゆっくり口説こうと思っていたのだが、これはどう考えてもルイスが悪い。

並んで座り、肩が触れたり、足が当たったりするだけで初々しい反応をされては、こちらも我慢などできる訳がない。ルイスがあまりにも可愛くて、早々に押し倒してしまった。両腕を顔の横に縫い付け、上から見下ろすと、ルイスは焦ったようにそう叫ぶが、頬は赤くなって羞恥心からか瞳も潤んでいる。もともと可愛い顔立ちのルイスのそんな表情に、思わず唇を舐める。

「ルイス、あなたの反応がいちいち可愛いのがいけないんですよ。それに、あんなことがあった後、俺の部屋に来るということは、少なからずそういうことがあるかもしれないと分かっていたでしょう?」

鼻先が触れ合うほど顔を近付け、目を細めてそう言うと、

「あっ、あれは、薬のせいで……っ!」

ルイスは至近距離で目が合うことが恥ずかしいのか、ギュっと目を瞑って叫ぶようにそう返してきた。

「私は薬を盛られていませんでしたよ。正気でした。」

「わ、分かってる、俺の、その、熱を逃がすのを、手伝ってくれたんだろ……。」

「えぇ、そうですね。ルイスを抱ける絶好のチャンスでしたので。本当に、一緒にいたのが俺で良かったです。もし別のやつがあなたを抱いたなんて聞いていたら、そいつの首を刎ねているところでした。」

「なっ、ど、どういう……。」

「分かりませんか。俺は、ずっとあなたに恋焦がれていたんですよ。それこそ、学生の頃からずっと。この腕で抱くのをどれほど想像したか。」

驚いたルイスが目を開けて、その緑に輝く瞳に俺が映った。


―――騎士学校で、首席を取るのはそこまで難しいことではなかった。だが、気を抜けば追い越されるだろうと、常に危機感を覚えながら真面目にいられたのはルイスの存在が大きい。

ルイスは友人が多く、どこで見掛けてもいつも人に囲まれて楽しそうだった。誰とでも気さくに話す彼は、学年を問わず人気があったのだ。俺は俺で、貴族子息との腹の探り合いや、悪友と気晴らしに賭場を荒らしたりと好きに過ごしていたんだが。

ひたむきに頑張っているルイスの存在は、どこか眩しいものがあった。

「なぁ、前にルイスと話したんだけどよ。」

悪友に、突然そう言われてひどく動揺したのが分かった。

「ルイスって、あのルイスですか?」

「どのルイスだよ。一人しかいねーだろ。」

可笑しそうに笑ってそう言われながら、ドクンドクンと心臓が脈打つのが分かったが素知らぬ振りをして続きを促す。

「いつか、お前を超えてやるんだって言ってたぜ。」

たった、それだけ。ルイスが俺に向けて言っていたであろう言葉。その後の下らない話なんてほとんど耳に入らず、ただ、ルイスが俺へ向けてそう言い放ったという事実に、何故か強い衝撃を受けたのだ。

……ルイスが、俺を。

今思えば、自分がトップになるという野望でしかないのだが、当時の俺は人気者のルイスが自分を気にしているのだと何処か優越感を抱いたのだ。騎士団から推薦を受けていた俺は、迷うことなくルイスと同じ隊を希望した。ルイスもまた、優秀な成績を修めていたため難なく希望の隊へ。

そこで、初めてルイスに話し掛けられたのだが、俺はどうやら間違ったらしい。言葉を返した瞬間に、表情が固まったルイスは、口を一文字に結ぶと、キッと睨み付けてきた。

そこからだ。ルイスと言い合ったり喧嘩したりするようになったのは。誰とでも仲良くなり人の懐に入り込むのが上手いルイスが、俺の前だと感情を露わにして食って掛かってくる。それに対しても、俺だけがルイスの中で特別な感じがして、その関係を保っていたのだ。

だが、やはり他の奴らと距離が近かったり、隊長に関しては上司として尊敬しているのが分かるが、頭を撫でられたり肩を組まれたりと慣れ慣れし過ぎる様子に苛立ち、我慢できず嫌味を言ってしまう。それで余計にルイスが怒って喰って掛かってくるのだが、その間は俺だけを見るため何度も同じようなことを繰り返し、全く関係性が進展しない。

そんな中で、潜入捜査をすることになった。用意されていた服はルイスに良く似合っていて思わずガン見してしまった。筋肉は付いていても、細身でしなやかな身体をしているルイスに合っていて、あちこちに付いているフリルも可愛い顔立ちと相まってどこかに閉じ込めておきたい衝動に駆られる。ただ、隊長が自ずから選んだものと聞いて、俺に対する嫌がらせだなと苛ついたが。

そして、あまり良くない噂のある貴族に絡まれたルイス。だが、今優先すべきは犯人の確保。ルイスも下手なことはしないだろうと、行けとの合図を見てさっさと捕まえて終わらせることを決めた。問題なく取引現場を押さえて犯人を捕まえ、隊に引き渡す。意外に早く済んだなと、夜会に戻るとルイスの姿がない。

使用人に声を掛けると、休憩室に行くのを見たと。ふざけるなよ。

あの絡んでいた貴族は色々と嫌な噂があり、その中でも可愛らしい顔立ちの青年がお気に入りであっちこっちで手を出していると有名だ。ルイスが連れ込まれたであろう部屋まで行くと、ノックもせずに入り、ルイスの上に跨り服に手を掛けようとしているそいつを見て腸が煮えくり返った。追い出してルイスに近付くと、ボーっと熱に浮かされたように俺を見つめてきて、荒い息を繰り返していた。そんなルイスに生唾を飲みながら、少し乱れているだけの服にホッとする。どうやら、間に合ったらしい。そして、頬に触れた瞬間、ルイスから甘い声が上がった。

……そこからは無我夢中でその身体を開き、己を刻み付け揺さぶった。唇を重ね、その中に割って入ると甘いルイスの唾液が舌で混ざり合って水音が響く。綺麗な身体に手を這わせ、ピンと主張して立つそれを舐めて転がし、ビクビクと跳ねるルイスの反応が可愛くて止められず。何度もその甘い身体を味わったのだ。

気を失ったルイスを腕に抱えた俺の胸中に広がるのは歓喜だった。ずっとずっと、手に入れたかったこの男を、ようやくこの腕で抱くことができたのだ。眠るルイスと唇を重ねて再度その甘さを味わい、素直に反応する身体を余すことなく可愛がる。ルイスを抱えて戻り、俺の部屋へと連れて帰る。ベッドに下ろすと、少し意識が戻ったルイスが、俺の名を呼んだ。それだけで欲が刺激され、そのままルイスを縫い付けて事に及んだ。

翌日、目が覚めたルイスが慌てたようにバタバタと出て行ってしまったが、真っ赤な顔をしていたこともあり、勝機はあると確信した。

そして、やっとまたルイスを俺の部屋に連れ込むことが出来たのだ。ここまでの過程を、一気にルイスに説明してやる。すると、ルイスは真っ赤になって、瞳を潤ませ、言葉が出ないのか口をパクパクし始める。それすらも可愛くて、少し開いた唇の間から舌を割り込んでやる。

「んむっ……んぁっ……!」

「あぁ、可愛いルイス。どこもかしこも甘いですね。」

「ひっ!ちょ、おま、やめっ……!」

服がはだけた隙間から見える肌に舌を這わせると、焦ったようにルイスが止めようとしてくる。

「ルイス、あなたが好きなんです。俺を受け入れて……。」

その手を取り、掌にキスを落とす。ルイスは真っ赤な顔で、困ったような泣きそうな表情で俺を見てくる。

「わ、分かんねぇよ、だって、俺、お前はすごいやつだけど、でも、ずっと嫌われてるって……。」

「誤解を招く言動をしたことは謝ります。あなたを好きであるが故の幼稚な独占欲ですよ。」

「す、好きって、何で、だって俺は……。」

「ルイス、あなたが好きで仕方ないんです。今は、流されて下さい、あなたが欲しくてたまらない。」

何かを言おうとするルイスの言葉を奪うように唇を合わせる。ルイスは、どうしたらいいのか分からないのだろう。だが、それでもキュッと俺の服を遠慮がちに握ってこられるのだからたまらない。押せば押すほど、ルイスは俺を意識してそういう存在だと思わざるを得なくなる。早くそうなればいい、可愛いルイスを俺だけのものにできれば、余すところなく愛してこの腕に囲える。

混乱しているルイスを急かす気はない。ただ、今はこの腕の中にいるルイスを愛したくて仕方ない。素直なルイスの反応を見ながら、何度も刺激を与えて優しく優しくぐずぐずに溶けるように身体を開いていく。熱に浮かされたルイスが俺を求めてきた時、理性が飛びそうになりながらもルイスの中を何度も突いて答える。しがみ付いてきたルイスが可愛くて、加減を忘れて揺さぶり、あちこちに俺の印を刻む。そうして、どれだけ俺が愛しているのかルイスの身体に残すのだ。

そして、ルイスの全てを手に入れるまで、あと……。



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