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お互い嫌っていると思っていたのは俺だけだったらしい

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「俺だけでも行けます!」

「無理だろーが、お前だけだと。ちゃんと考えろ。」

「っでも……!」

「うるせぇ。命令だ、二人で行って来い。」

そう隊長に言われて、歯を食いしばり下を向く。すると、隊長が立ち上がった気配がして顔を上げようとすると、

「うわっ!」

「ルイス、仕事に私情を挟むな。上手くやったら、飲みに連れて行ってやるから、な?」

そう言って乱暴に俺の頭を撫でてきた。

「――隊長、時間では?会議に遅れますよ、早く行った方が良いのでは?」

突然、第3者の声がして驚いていると、隊長は荒々しく俺の頭を撫でていた手を退けて、

「へいへい、俺にまで当たんなっての。じゃあそういうことだからよろしくな。」

そう言うと部屋を出て行ってしまった。

「で、あなたは何をしているんです?隊長と二人っきりで、こんな密室で。私が入って来たことにも気付いていないようでしたが、もしかしてお邪魔しちゃいましたか?」

厭味ったらしく言ってくるそいつを睨みつけると、ふん!と顔を背けて俺も出て行こうと扉に向かって足を進めると、

「隊長があなたなんて相手にするはずないでしょう。」

すれ違う時にそう言われ、思わず止まって睨みつける。

「お前には関係ないだろ!」

怒鳴るようにそう言い放つと、同じ部屋にいるだけでも腹が立つため、走って出て行った。


―――ディラン・エドワーズ、騎士学校で同じ学年だったそいつは、成績も剣術も全て主席を取るようなやつだった。どれだけ頑張っても、ディランには勝つことが出来ず、それでも何とか食らいついて2位の座を守り通してきた俺。また、俺は庶民だがディランは貴族。そこでもすでに差が生まれていたが、俺はディランを勝手にライバルだと思っていたんだ。

だが、向こうはそうじゃなかったらしく。

同じ騎士団に配属になったため挨拶すると、

「あぁ、初めまして。こちらこそよろしく。」

と返ってきたのだ。分かっている、勝手に俺がライバルだと思っていただけだってことは。ディランにとっては取るに足らない相手で、2位を死守していたとしても、俺とは歴然とした差があるってことくらいは。だが、それでも俺のプライドが折られるのには十分で。

そこからはお互い言い合いや喧嘩は日常茶飯事。いつの間にか仲の悪さは騎士団の中でも知れ渡っており、面白がって隊を組まされたこともある。だが、さすがに騎士としての腕はいいため、悔しいが実力を認めざるを得ない。それもまた腹が立つのだが。

「お、ルイス。隊長、何だって?」

同僚のレニーが声を掛けてきたため、立ち止まる。

「……ディランと、潜入捜査しろって。」

「あ?潜入って……。あ、薬の取引のやつか。あーまぁ、適任だろうな……。」

苦笑されたが、俺は憮然として納得していないとレニーを睨む。

今回、隊長に呼び出されたのは、薬物の取引が行われるという夜会への潜入捜査だ。貴族が絡んでいるとあって、行われているのは夜会だという情報を入手した騎士団。だが、貴族たちが集まる所で筋骨隆々の騎士がいては相手も警戒するだろう。そこで俺たちに白羽の矢が立ったのだ。ディランは、まぁ、悔しいが分かる。引き締まった身体をしているし、鼻筋も通ってキリッとした顔立ちをしており貴族ばかりの中にいても浮かない。何より、貴族籍を持つため、貴族連中の中でも上手くやるだろう。ディランが選ばれるのは、仕方ないがまぁそうだろうなとは思っていた。だが、そのペアに何故か俺が選ばれたのだ。ディランと二人で仲良く潜入捜査なんて出来るわけがない。そう思った俺は、一か八か隊長に掛け合ったのだ。貴族のマナーも暗黙の了解も立ち振る舞いも、全て叩き込んでいくから俺だけで行かせてくれと。だが、やはり一蹴されてしまった。しかも、その場をディランに見られた。重ねて最悪だ。

「何で俺なんだよ……。」

頭を抱えると、

「いやまぁ、俺達の中じゃ一番チビだしなお前。それに顔も、あーっと、ほら、若々しいっていうか……。」

レニーが言葉を選びながら言っているのが分かって睨む。

「うるせぇ!どうせ俺はチビで童顔だよ!」

「そんなはっきり言ってねぇだろ。まぁ自覚あんなら大丈夫だって。」

レニーは、そんな俺に面白そうに言って、肩を叩いて行ってしまった。くそっ、薄情なやつめ!

だが、異論を唱えていても仕方ない。やることはいっぱいあるんだから。いつまでもグダグダ言っている訳にはいかないため、腹を括ったのだった。

そして、潜入捜査当日。

「へぇ……。いいじゃないですか、良く似合ってますよ。」

「うるせぇよ、さっさと済ませるぞ。」

何故か俺に用意されていた服には、そこかしこにフリルみたいなやつがついていて、ヒラヒラと鬱陶しい。可愛らしい見た目の服に顔が引き攣ったが、今日だけの我慢だと意を決して着たのだ。待ち合わせたディランは、俺とは違い、スマートで紳士的な落ち着いた装い。おい、どうしてこんなに俺のやつと違うんだよ。イラッとするものの、ここで掴みかかっている場合じゃない、と深呼吸して落ち着かせる。

「……何だよ。」

こんな服を着ているため、居心地が悪くて仕方ない。似合っていないことぐらい自分が一番分かっているため、見られるのは気分の良いものじゃない。それなのに、ジッと見られる視線に、ディランを睨み付けた。

「いえ。……それは、誰が選んだんです。」

「は?隊長に決まってんだろ。わざわざ言ってきたしな。」

あのニヤニヤと面白がるような顔を思い出したら腹が立ってきた。俺が思い出しては湧き上がってくる怒りを抑え込んでいると、

「ほぅ、隊長が、選んだ……。隊長が選んだものなら、着るんですね。」

何故か突っかかって来るディラン。

「あ?仕方ねぇだろ、これしかねぇんだから。」

「そんなこと言って、本当は嬉しいんじゃないんですか?隊長自ら選んで用意したものなんですから。」

何処か苛立ったようにそう言われて、顔を顰める。何だこいつ、嬉しいわけねーだろーが、こんなフリルの着せれられて。

俺も反論しようとした時、会場に着いた。俺は何とか言おうとしていた言葉を飲み込むと、ディランに続いて中へと入っていったのだった。

「……あれか。」

犯人は、すぐに見つけることができた。そもそも、すでに顔は割れており、後は現行犯で捕まえるだけだったのだ。この夜会を開催している公爵家は協力者のため、融通が利く。

俺達はすぐに犯人に近付き、周りで目を光らせる。すると、すぐに動きがあった。若い貴婦人に声を掛けたそいつは、何やら耳打ちをすると、傍にいた使用人に休憩室まで案内するように伝えたのだ。俺たちは、そいつが行くのを横目で見ながら、さりげなく後を追おうとすると、

「君、見ない顔だね。夜会は初めてかい?」

別の貴族に話し掛けられてしまった。ディランが視線だけで俺を見たのが分かり、さりげなく手で追え、と合図する。一瞬、躊躇うように止まったが、ディランは犯人を追っていった。

「どこの御子息かな。君みたいに可愛い人、僕が見逃すはずないんだけど。」

絡んできた貴族はそう言うと、俺の腰に手を回してきて、スルッと撫でてくる。俺はぞわっと肌が粟立つのを感じながら、引き攣った顔で笑みを返す。

「すみません、お、僕、緊張してしまって……。」

あー!犯人を捕まえるのにもうちょっとだったのに!これじゃ、ディランに全部いいとこ持ってかれちまう!と内心では頭を抱えながらそう誤魔化していると、

「それは良くないな。まだ口を付けていないから、飲むといい。スッキリできるよ。」

そう言われてグラスを渡される。それを受け取ると、少し口に含んだ。

……何だ、これ。甘ったるい味と匂いが口に広がり、思わず顔を顰めた。

「おや?お口に合わなかったかな。もう一口飲んでごらん。」

「いえ、もう僕はこれで……。」

そう言って切り抜けようとするが、腰に回った手が離れない。力尽くで振りほどいてもいいのだが、貴族を敵に回すとやっかいだ。とりあえず、曖昧に微笑んでみるが一向に離れず。

「もう一口だけ飲んでみて。きっと、癖になるから。」

しつこくそう言われ、仕方ねぇ、ともう一口飲む。すると、

「うっ……。」

ぐらっと視界が揺れて、ふらつく。

「おっと、これはいけないね。君、休憩室に案内して。」

グイッと腰に回っていた腕で引き寄せられ、強制的に歩かされる。力が入り辛く、半ば引き摺るようにして連れて行かれ、部屋に入るとソファに寝かされた。

「ふふふ、可愛いね、素直に飲んでしまうなんて。君も欲求不満だったのかな?」

ボタンを外されながら、首筋を撫でられて、ビクッと身体が反応してしまった。何だ、これ、身体が、熱い……!

はぁ、はぁ、と息が荒くなって、脱がされた上着が、肌に触れて擦られただけで声が出てしまい、一体どうなっているんだと、ボーっと火照った頭で考える。

「あぁ、可愛いね。一体どこの子だろう。でももう俺のものになる、君も嬉しいだろう?」

上に乗られ、シャツの中に手を入れられかけた時。

――ガチャッ。

「……トリス様、一体、何をなさっているのですか?」

扉が開くやいなや、聞いたことのある声が聞こえた。

「なっ!無礼だぞ!突然…!?」

「この者は私の連れです。無礼なのはあなたですよ。……汚い身体を、そこからさっさと退けろ。」

低い声がそう言ったかと思うと、

「あ、あ、え、エドワーズ家の…!し、失礼、私はこれで…!」

俺の上に乗っていたそいつは、慌てて叫ぶようにそう言うと、バタバタと音を立てながら出て行ったのが分かった。それとは反対に、ゆっくりと近付いて来る影。

「で、ディラ……ン……。」

無表情で俺を見下ろすディラン。犯人は、捕まえたんだろうか、夜会はどうなったんだ?あの、声を掛けられていた貴婦人は?隊長に、報告を……。色々と聞きたいことがあるはずなのに、頭が回らず、口に出ない。

「……触られたんですか?」

無表情のままそう言われるが、何のことだ?と俺の荒い息だけが響く。

「んぁっ!」

ディランの手が、俺の頬に触れ、電気が走ったかのような刺激に声が上がる。

「っルイス、すみません。」

「ぇ?……んっ……ぁ……。」

突然、謝られたかと思うと、視界がディランいっぱいになり、口に触れた柔らかいもので、キスされているのだと分かった。力が入らない腕で、ディランを押し返そうとしたのだが、俺は何故かねだるように首に腕を回した。すると、唇を割って入ってきたディランの舌が、俺の口内を貪り、俺のそれを絡め取る。

「はっ、あ…ん……。」

水音が響くが、気持ち良さに俺も夢中になって絡めていると、ゴリっと硬いものが下半身に押し付けられ、俺の身体がビクつく。

「ルイス、可愛い……。あぁ、ルイス……。」

「んんっ、ぁ、あ、ディ、ラン、そこっ、あぁっ!」

深くキスされながら、服を脱がされ、指で胸の飾りをコリコリと弄られ、その度に反応する俺の身体。立ち上がっている足の間のそれを、ディランは自分のものと一緒に擦り合わせてくる。それに呆気なく達するも、すぐに舐められたり指でいじられている間に再び熱を帯びる素直な身体。胸に顔を埋めて舌で押し潰したり口の中で転がしたりと刺激されながら、後ろを解される。そして、十分緩んだそこに、ディランの熱く硬くなったものを押し入れられた。

「あぁっ!んんっ……!あっ、そこ、気、持ち、いい……!」

腰を掴まれて揺さぶられながら、良いところを突いてくるディランに、与えられる刺激に溺れるように何度も達してはその腕に囲われるのだった。






―――






「で、何だあれは。」

「俺は知りませんよ~。」

そう話している二人の視線の先には。

「ルイス、明日は非番ですよね。俺の部屋で飲みませんか。」

「は、はぁ!?い、行かねぇよ!」

「珍しいワインを手に入れたんです。3日で味が落ちてしまうので、早く飲まないといけないんですよ。捨てるのは忍びないでしょう?手伝って下さい。」

「ま、まぁ、そういうことなら……。行ってやらねぇこともねぇけど……。」

「では、仕事が終わると迎えに行きますので。」

そう言ったディランは、満足そうにルイスの頬を撫でると、持ち場に戻って行った。ルイスは、真っ赤な顔をしているしで、あいつら分かりやすいなと苦笑する。

まぁ、ディランの方はもうずっとルイスにお熱だったがな。俺とルイスが話しているだけで突っかかってきてたし、何なら睨んできてたしな。知らぬは本人だけ、ルイスがクソ鈍感っていうのもあるんだろうが。

そもそも、ルイスは誤解している。

ディランが初めましてと言ったのが許せないって話だったが、在学中、一度も話をしたことがなかったらしいじゃねーか。ディランいわく、ルイスは常に友人に囲まれていたし、自分も面倒臭いが貴族の子息との付き合いもあり、話掛けることができなかったと。しかし、騎士団に所属することはお互い決まっていたため、そこで仲良くなればいいと思ったのに、挨拶を返したら怒らせてしまったと。だが、ルイスにはそうやって喧嘩するような相手なんていなかったため、何処か優越感を感じてそのまま乗ってしまったらしい。ディランは、まぁ初めからルイスが気になっていたんだろうし、ルイスはルイスでディランがすごいやつっていうのは認めていたから、仲直りしたら良いコンビになるだろうと思っていたのだが。どうやら、違う方向に行っちまったようだな。

ディランがルイスを見る目に熱が含まれていることは騎士団のやつらは全員が知っていた。だが、ルイスも頑固なところがあるため、道のりは遠いだろうなと思っていたのにこれだ。一体、何があったのやら。知るは本人たちだけってか。

たが、ここでいちゃついてんじゃねぇ、他所でやれや馬鹿どもめ。

問題児2人を抱える隊長は仕方ねぇなと思いながら苦笑したのだった。





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