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宝物 4
しおりを挟む―――使用人side
「あぁ、ルアン様、そっちは宰相様のお部屋ですよ。こちらに行きましょう。」
ニアノール様の侍従で、今はルアン様の世話係でもあるアルエードが、とことこ歩いて行くルアン様の後を慌てて追い掛けている。
王宮内ではもう見慣れた光景だ。
ニアノール様が妊娠し、お産となった時は、皆固唾をのんで祈ったものだ。だが、皆の心配も吹き飛ばすほどの安産で、思わず拍手が出た。そして、あとお二人もお子を産んだニアノール様。もはやこの国でのニアノール様は聖母のごとく敬われている。
そして何より、お子様3人ともとてもお可愛らしい。ニアノール様が子どもたちと過ごすことが多いからか、子どもたちは皆、ニアノール様の話し方や雰囲気に似ている。ニアノール様がそもそもお可愛らしいため、そんな方に似ている子どもたちは余計に可愛いのだ。
陛下の美貌に美しい色の毛並みを受け継いだルアン様とフラン様。可愛らしく庇護欲を掻き立てるニアノール様の容貌と珍しい紺色の毛並みと瞳を受け継いだノエル様。ノエル様は特に、ニアノール様譲りの魔力量をお持ちだと分かった。
皆お揃いの服で、小さな正装を着こなす三人を市井でお披露目した後は、しばらく聖母が天使を産んだと囁かれ、その三人の可愛らしさは瞬く間に皆の知ることとなった。
「こっちは?これは何?あれは?アル、あっち行こ?」
好奇心が強いルアン様は、アルエードを振り返りその手を一生懸命引いている。アルエードは緩みまくった顔で、そんなルアン様に引かれるまま歩いて行った。
……可愛いなぁ。獣耳がピルピルとあちらこちらの音を拾って動き、好奇心旺盛な様子でルアン様はよく部屋から出てくるのだ。二人の後ろ姿を微笑ましく見守っていると、
―――くんっ。
服を引っ張られる感覚に、そちらに目を向ける。
「かー様、どこぉ?」
フラン様が私の服を引っ張り、首を傾げて私を見上げていた。
私はあまりの可愛らしさに動きが止まり、はっとし慌ててしゃがみ込んだ。傍には、フラン様の世話係が立ち、微笑みを浮かべながらフラン様を見ている。
「ニアノール様は、今は来客のお相手をされていますよ。」
今日は、陛下の友人が来ており、その奥方のお相手をなさっているのだ。そう言うと、首を傾げるフラン様。
「かー様、お外?」
……んんっ。可愛らしい……。
ゴホン、と一つ咳払いをする。
「ニアノール様は、お仕事ですよ。」
再度、そう伝えると、フラン様は今は会えないということが分かったのか、獣耳と尻尾を垂れさせて私を見上げた。
「かー様、いない?とー様?」
……どうすればいいのでしょう。今すぐ、ニアノール様か陛下の元へと抱き上げて連れて行って差し上げたいのですが。
そんな私の様子に世話係は、ルアン様はいらっしゃいますよ、捜しに行きましょうとフラン様に優しく言った。フラン様は、それを聞いて耳と尻尾を立たせると、私に手を振り、笑顔で歩いて行った。
王宮内で子どもたちを見掛けるのはすでに日常茶飯事になりつつある。皆、ニアノール様に似たのか部屋から出てくるのだ。
そんな天使が現れるこの王宮で、使用人として働けている幸福は計り知れない。
王宮に勤めるには、高難度の試験を突破しないといけない。試験は合格しても、始まる研修は試験など目ではないほどの激務に高性能な技術を要求される。それを経て、初めて王宮で使用人として働くことができるのだ。そんな超難関であるにも関わらず、王宮に勤めたい者は後を絶たない。ニアノール様がこの国を愛してくれているように、皆もまた、ニアノール様とその子たちを愛し、その力になれるならと願い出てくる者が多数だ。
そんな中で、私は王宮の使用人として誇りを持ち働いている。
ニアノール様もよく陛下に回収されていたが、今はルアン様とフラン様もよく回収されている。その度、ルアン様とフラン様は嬉しそうにきゃっきゃと笑い声を上げながら、陛下に抱き着きぐりぐりと頭をこすりつけるのだ。
その様子を見たニアノール様が真顔で「あの光景は何?僕、神様と結婚して天使を産んだんだっけ?」と呟いており、私は思わず頷きそうになった。
そういうニアノール様も聖母と呼ばれているのですよ、私たちからすればあなた様も妖精のような可愛らしさですよ、と言いたい気持ちを抑える。
以前、ニアノール様を褒めた使用人が、逆に我々獣人の素晴らしさを褒め称えられ、いかに愛らしく愛しい存在なのかを語られてしまい、その者は真っ赤になり腰砕けになったのだそう。
ニアノール様は、そんな様子にも可愛い!と褒めるのを止めず。
その後、ニアノール様は陛下に回収され、その者は私たち使用人が回収するに至った。それ以来、我々がニアノール様を褒める上では、厳重な注意をするようにとお触れが回った。
そんなシュナベルト一家の子どもたちは、すくすくと思い思いに過ごし健やかに成長している。
私たち使用人は、この命が、身体が動くまでは、この王宮で見守っていきたいとそう思いながら、今日もまた聞こえてくる賑やかな声に頬を緩めるのだった。
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