獣狂いの王子様【完】

おはぎ

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今の内に愛でたいです

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――――――



「アルエード、父上に何て報告すればいい?アルエードが手紙書いてくれない?」

「侍従が自国の陛下に手紙なんて気軽に出せるわけないじゃないですか。えぇ、えぇ、坊ちゃんが数年も我慢出来るわけないと分かっていましたとも。半年ももったのは奇跡です。」

アルエードには、陛下に僕の獣人嫌いは嘘であることがばれたとだけ伝えた。

僕の評価がぐんと下がったアルエードは、刺々しく言ってくる。何の役にも立っていない侍従の分際でとんだ言い草だ。主人のピンチに駆け付けてこそ侍従である。それが何だ、全部終わってから来て、挙句の果てに僕が悪いとばかりに責めてくる。

何だか腹が立ってきた僕です。内心では何人もの僕がティーカップをアルエードに見立てた人形に投げ付けている。

僕は、笑顔でアルエードをちょいちょいと指先で呼ぶ。すると、顔を青ざめさせて首をブンブン振りながら後退っていく。

「まずはティーカップを弁償しろ。」

「何の話ですか!?」

悲鳴のように叫んだアルエードを横目に、本当に父上になんと言えば良いだろうかと考える。ばれちゃいました。元々、無理があったんですよ。他の王族が見つかったんなら今すぐ交換できませんか?……どれもこれも怒られる気しかしない。

····それに、僕が陛下にされたようなことを、他の人がされるのを想像するとお腹辺りが少し気持ち悪くなる。何だろう、これ。ストレスが溜まってるんだろうか。

数日見ていない陛下は今、どこにいるのだろうか。王宮内にはおらず、出掛けているらしい。何か大切な用事があるのだとか。

僕は、その間休暇を与えられている。与えられているが、部屋から出ない、ミルを呼ばない、他の獣人を見ない、など色々と制限付きだ。

つまり、暇なのだ。この間に、父上への言い訳を考えなければならないのに何を言ってもそれ見た事かと怒られそうで、遅々として進まない。

···…うぅ~。僕だって、僕だって頑張ったんだ。

我慢して、王族として振る舞えるように気を張って、コレクションを眺めて欲望を押し殺して。他にも色々と頑張ったのだ。そう考えていくと段々と理不尽な気がしてきて、何で僕が怒られなければならないんだと不貞腐れる。そして、ばれてしまったのなら、もう隠す必要がないことに気付く。だって陛下はこの国のトップだ。トップにばれたならもういいんじゃないか?

がばっと俯かせていた顔を上げて、吹っ切れたように僕は扉へと向かう。

「ちょ、ちょ、ちょっとちょっと坊ちゃん!どこ行くんですか!」

アルエードは突然動き出した僕をぎょっとした様子で止めようと扉の前に走る。

「あ、そうだ。あれがいる。」

僕は踵を返して、ケースの中からブラシを取り出すと、扉の前で両手を広げているアルエードに言い放つ。

「僕、考えたんだ。どうせ連れ戻されるんだったら、その前に僕の望み一つぐらい叶えてもらってもいいんじゃないかって。」

そうだ、どうせ父上に報告すれば、すぐさま連れ戻されるに違いない。僕の特性がばれると危険人物に認定されるだろうと父上も言っていた。そうなると、王族を辞めても今後ジーン国に入れなくなる可能性がある。

…そんなことになるぐらいなら、今いる内に獣人たちを愛でたい!

僕はもうその考えが頭を占めてしまい、焦燥感に一刻も早く獣人に会わなければと気が急く。

「どうすればその考えに行きつくんですか!?正気ですか坊ちゃん!いや、正気じゃないですよね!獣人嫌いじゃないことがばれただけなんでしょう?ちょっと苦手だっただけだと言えばいいじゃないですか!狂人と呼ばれていることがばれた訳じゃないんでしょう!?」

絶対に扉の前から退けませんと踏ん張るアルエードに、そんな言い訳はケースの中を見られた時点で通じないに決まっているだろうと苛立つ。

あのケースに入っているのは飼っていた子たちにも使用していた一級品の物ばかりだ。あれらを見て、獣人や動物に並々ならぬ感情を抱いていると察知されていてもおかしくない。

だがまぁ、そのことはアルエードに言っていないため言い返すことはできない。

ふんっと顔を背けた時、アルエードの気が少し緩んだのが分かった。その隙を見逃さず、僕はアルエードの足を引っかけ転ばせると、扉を開け放った。





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