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 戦斧と盾を置き、岩山を駆け登っていると、ロックリザードが懲りもせず襲いかかってきたが、噛みつきをバックステップで避け、ハンマーのように右手を脳天に叩きつけると岩のような表皮は砕け、頭蓋を砕く音が聞こえ、ロックリザードは舌を出してぐったりと力なく倒れた。回収する数が増えてしまったけどラマツンがいるから大丈夫だろう。

 2体のロックリザードを回収すると、山間を薄いオレンジ色に染め上げながら太陽が昇ってきていた。そろそろラマツンも交代しているだろう。地面を慣らすように尻尾を持ってトカゲを引き摺りながら大急ぎで岩山を降りた。

 門に近づくと、ラマツンと交代した門番が目を丸くしながら口をあんぐりと開けていた。

「ラマツン、行くよ。」

「よ、よし行くか。回収したやつはアジャが見てくれるから、門の横に並べておこう。」

 交代した門番はアジャというらしい。ラマツンよりも小さいが

「お、おいラマツン。その怪力の女の子は彼女か?」

「ラマツンは僕の手下。」

「そう、私はケンザキ様の下僕……って違うだろ!」

「行くぞ我がラマツン。」

「だから違うって! 武器は持っていかないのか?」

 無視して山を登り始める。ラマツンはやれやれと首を振っているが、僕は早く終わらせて寝たい。

 上から順に回収していく。一往復で大体1時間半くらいかかり、僕が2体、ラマツンが1体の計3体
だと7往復で終わる計算だ。

 3往復し、4往復目に差し掛かるとラマツンが遅い。

「ラマツン遅い。」

「ぜぇ……はぁ……少し休憩しないか?」

「だからモテない。」

「な……。やるよ、やりますよ!」

 ラマツンが元気になったみたいだ。両頬を叩いて気合を入れているようだが、顔面蒼白で体調が悪そうだ。恐らくそれが巨人族の絶好調なのだと思う。

 途中ラマツンがロックリザードに襲われた。武器を持っておらず、疲れから反応できていない様子だったので、飛び上がって両足で口を無理やり閉じるようにロックリザードの頭を踏みつけた。

 すぐに頭から飛び降りたが、踏み潰した頭から溢れ出た血が靴に付着していまった。

「ラマツン、靴が汚れたから後で洗って。」

「あ、あぁ。ロックリザードを一撃……。しかも踏んだだけで……。は? お前の靴を俺が洗うのか?」

「返事した。」

「く、くそ! またしても……。」

 何がまたしてもなのか分からないが無視しておく。その後も何度かトカゲが襲ってきたけれど、全部叩き潰しておいた。

 結局最後は僕が3体、ラマツンが2体運び、8往復で全て回収することができた。ラマツンが魂の抜けたような顔で地面にへたり込んでいるが、この後は冒険者ギルドに買取を依頼しないといけない。

「ラマツン、次は冒険者ギルド。」

「ぐああああああ、そうだった。何故こんなことに……。」

 まずは冒険者登録をし、その後に買取依頼をすることになった。両肩を落とし、意気消沈といった様子のラマツンの後ろをついて行く。

 巨人族が生活する為か、僕が生活していた2倍以上の大きさの木造りの家屋が多く見られた。巨人は富裕層以外基本的に子供を1人しか作らないという。そのため、他の種族と比べると数が少ない。

 冒険者ギルドは街の中央にあった。コロシアムのような作りをしていて、円形の外周に受付や酒場、冒険者ショップ等があり、中央に魔物の解体場や闘技場がある。巨人族は力比べが好きなようで、闘技場で大怪我をしないように戦ったり、それについて賭けをしたりするみたい。

 ラマツンに案内されて受付に行くと、緑の髪をツインテールに結び、八重歯が特徴の5メートル以上ありそうな大柄な女性が対応してくれた。

「よおラマツン、彼女かい?」

「よおアマンダ、今日は付き添いだ。この子の冒険者登録を頼みたい。」

 アマンダは一重で切長な目を僕に向けると、登録用紙を渡してきた。名前と属性を書くだけの簡単な物だった。

「できた。」

「じゃあこの冒険者証に血を垂らしてくれ。」

「ラマツン、血を。」

「いやいや、ケンザキが自分でやるやつだから。」

 相変わらず冗談の通じない奴だ。アマンダから針を借りて親指の腹に刺し冒険者証に押し付けると、登録用紙と冒険者証が光を放った。

「アマンダ、このケンザキは俺より強い。ゴールド級以上の実力は間違いなくある、分かるだろ?」

「ははーん、なるほど力試しか。いいだろう、ギルド長に相談してきてやるよ!」

 闘技場で戦うことで実力を判定してもらい、飛び級のような形でいきなり上の階級から始められるシステムがあるようだ。

 奥からアマンダとギルド長と思われる口髭と顎髭を伸ばしに伸ばした6メートル近い筋骨隆々の大男がやってきた。

「ギルド長のガイモンである。ルールは木製武器を使用したスキル魔法なんでもありじゃ。ラマツンは審判じゃ!」

「え、俺!?」

「分かった。」

 まさかギルド長自ら試験官を担当するとは思わなかった。体が鈍ってはいけないと時々冒険者を捕まえては闘技場で力比べをしているらしい。

 闘技場は石壁で囲まれており、地面は丁寧に慣らし押し固められた砂地になっていた。僕は盾と片手剣を選び、ギルド長は長剣を肩に担いだ。

「ラマツン合図じゃ。」

「それでは、はじめっ!!」

 左手の盾を前面に構えてクローズドガードの姿勢になり攻撃に備える。剣は体の後方に隠すようにして持ち、ガードからのカウンターを叩き込む戦法だ。ギルド長は上段に構えてゆっくりと歩いてきている。

「そら!」

 気合いと共に一気に距離を詰めてきたギルド長は僕の脳天をかち割るように力一杯長剣を振り下ろした。

 僕はそれを真っ向から盾で受け止め、左手の盾で長剣を外側に払いのける力を推進力にして、右足を前に出すと同時に片手剣で腹部を狙った突きを繰り出したが、右にステップし躱されてしまう。

「ほう、ワシの一撃を止めよるか! これならどうじゃ!」

 息つく間もなく鋭い斬り下ろしと袈裟斬りの連打が襲ってくる。盾で必死にガードするが、木剣とはいえ一撃受ける度に肩までビリビリと電流が流れるような痺れが走る。

 力強くも速い連撃の隙を見つけられず打ち返すことができない。このままではいずれ腕に力が入らなくなり、ガードを崩されてしまう。バックステップをして距離をとり、相手に体の正面を向けるオープンガードに切り替えた。

 隙ありとばかりにギルド長が距離を詰め、唐竹割りに入ろうとしたので、ボクシングのワンツーのように左手の盾で振り下ろされる途中の長剣を殴りつけ、右手の剣で手首を狙ったが、バックステップで避けられてしまう。

 今度は僕が距離を詰めて右手の片手剣で攻撃する。ギルド長は長剣を体の正面に構え、危なげなく攻撃を捌いた。

「童、荒削りじゃがなかなかやるのう。どこで覚えた?」

「動画。」

 僕はタックルをするように盾で長剣ごとシールドバッシュでギルド長の体を押し込み、体制が崩れたところに飛び上がりからの左肩目掛けた強撃を放った。

 ギルド長が下から払いのけるように防ぐと、双方の武器が木片を散らして砕け散った。

「そこまで!」

 ラマツンから終了の号令がかかった。

「強い強い、この女子(おなご)やりおるわい。プラチナ級でもいいくらいじゃが、ゴールド級で冒険者の仕事を覚えてもらうかのう。」

「プラチナがいい。泣き虫ラマツンと同じは嫌。」

「おいおい……。」

「がはははははは。分かった、この気の強い童はプラチナ級じゃ! アマンダからプレートを貰っておけ。」

 さあ、受付で冒険者証を受け取ったら買取してもらわないとね。靴も洗ってもらわないとだし。

「ゆくぞ、我がラマツン。」

「それやめない?」

 プラチナ級とゴールド級の2人の冒険者は、街の人が呆気に取られる中ロックリザードを引き摺りながら街道を往復するのだった。
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