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「あー、これだわ。ジャイアントルーパーだこれ。目が可愛いもの……。」

 噛みつかれたらそのまま飲み込まれてしまいそうだ。歯はないようだが、足や腕が挟まれたら骨折するだろうし、体であれば最悪の場合内臓破裂だろう。常に動き回り撹乱し、頭の動きに注意しながら後方に回り込み、飛びかかって脳をシャドークローで破壊したい。

(両手 シャドークロー)

 距離をとりながら時計回りに動く。バタバタと手足を動かしながら、ジャイアントルーパーがこちらの動きに反応する。時折威嚇するように噛み付くような真似をしてくるのが怖い。 

「地上では速く動けないみたいだな。」

 服を着ていると、シャドークローのバフは1箇所あたりステータスが1しか上昇しなかったが、裸の今なら25ずつ上昇している。オークより弱いという話なら、両手の発動でも十分なはずだ。

 別の1匹が飛び出してくる可能性があるので、水際に近づかないよう注意しながら、少しずつ間合いを狭める。

 ジャイアントルーパーが威嚇行動をとった。

(チャンス!)

 素早く背後をとり、頭目掛けて飛び掛かろうとしたその時、

 ビュンッ

 目の前をムチのようにしならせた尾ビレが通過する。ヘビー級のムエタイ選手がミドルキックを振り抜いたかのような威力に、全身から嫌な汗が噴き出てきた。

(あ、危なかった……。)

 当たれば無事ではいられないだろう。事実、シルバー級に上がりたての冒険者は、噛みつきに注意するあまり、尾ビレの攻撃で大怪我を負うことが多い。ヨールは作戦を変更する事にした。

「オークより強いぞこいつ! 何か簡単に倒せるいい方法があるって事?」

 一般的な倒し方として、素早い動きで相手を撹乱するデコイ役が注意を引き、火属性や風属性のスキルで遠距離から攻撃すると、動きが遅く単調な攻撃しかないので、それほど苦戦することはない。

 しかし、ヨールのように至近距離で戦う必要がある場合、強力な噛みつきと尾ビレのムチが脅威となり、オークよりも強敵となってしまうのだ。

(逆に正面から行くか? 噛みつきを躱して即反撃で……思いついたぞ!)

(シャドークロー)

 俺は両手と両足のカカトにスキルを発動した。手は万が一の防御に、カカトは攻撃を避けた後に、より頭上から浴びせ蹴りのような形で脳天を突き刺すためだ。カカトから伸びた爪は上向きなので、移動に支障はない。

 ジリジリと距離を詰める。

(いくぞ、いくぞ、行くぞ!)

 ジャイアントルーパーの目の前にステップで近づく。

 ジャイアントルーパーは、首を少し引き、前に出るように大きく口を開け噛み付いてきた。

(ここだ!!)

 すかさずバックステップで躱し、目標をしっかり見据え、斜め上に飛び上がり、頭を抱え込むように前方に回転し、右足カカトを振り下ろした。

 グサッ

 見事攻撃は命中した! 地面に……。

「ヒィィィ!」

 慌ててスキルを解除し、山椒魚のように手足を使ってジタバタとその場から距離を取る。どうやらジャイアントルーパーの頭よりも大分前方に攻撃を仕掛けていたようだ。

(慣れないことをやったらダメだ。これで食べられてたらダサすぎるでしょ……。)

 今度は両耳と両手にスキルを発動させ再挑戦。モミアゲ戦士はいつも通り手を使う事にした。

 作戦は先程と同じだ。どうやら素早く数回噛み付くなんて事は出来ないようだ。おそらく、ワニのように口を開く力が弱いからだろう。一撃を躱せば問題なくこちらの攻撃が通るはずだ。
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