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「初めての依頼だ。ワクワクするなー。」

 鼻歌まじりに森の中を進む。広く開けた道になっており、視界は良好だった。湖を見ながらパンを食べようと考えていたヨールは、はやる気持ちがそうさせるのか、歩く速度もつられてあがる。

 1時間ほど歩いた頃、右前方の森の中から唸り声が聞こえた。

 グルルルル……

 太い木の後ろから、覗き見るように1頭のミドルハウンドがこちらを威嚇していた。

(シャドークロー)

 両手と両耳に闇の爪を纏わせ、巨大なモミアゲの童顔な少年は、目を逸らすことなくゆっくりと後退する。

(バフがあれば問題なくやれる筈だ。)

(ステータス)

 黒川 夜
 レベル:11
 属性:闇

 HP:13
 MP:13
 攻撃力:10
 防御力:10
 敏捷性:10
 魔力:10

「ちょ、待っ……!?」

 期待を裏切られたステータスに思わず声を出してしまう。ミドルハウンドがこちらに駆け出した。

(ま、まずい!)

 慌ててスキルを解除し、服を脱ぐ。靴を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、上着を脱いだ時には、巨体の犬はこちらに飛びかかってきていた。首を庇うように咄嗟に右腕を前に出すと、獣の牙が皮膚を突き破る痛みに脳が悲鳴を上げた。

「ぐあああああ……」

 獣に噛まれた時は、無理に腕を振り払ってはいけない。獣の牙は、手前から後方にかけて薄く鋭くなっている。振り払う事で後方への力がかかると、ナイフを突き立て引き裂いたように、裂傷の面積が増えてしまう。

 ヨールは痛みを堪え、格闘技のパウンドのように、握りしめた左手を何度も急所の鼻に上方から叩きつけた。

 ギャン! と悲鳴をあげ、怯んだ隙に牙が離れた。すかさずシャドークローを発動し、ミドルパウンドの頭を斬り飛ばした。

(やばかった……、今のはまじで危なかった。)

 売ることを考え、靴下等をバッグにしまっていた事が幸いした。裸になり、ステータスが上方していなければ、恐らく右腕は食い千切られていただろう。

 野生の獣の爪牙によって傷ついた箇所は化膿しやすく、破傷風にかかる心配もある。この世界でも同様であるかは分からないが、解毒ポーションを振りかけ、ポーションを飲むと、牙が突き刺さった傷跡がみるみるうちに塞がっていった。

「異世界すげぇ……。」

 潰れたミドルハウンドの鼻を切り取り、それ以外の部位はシャドークローで消滅させた。骨のナイフは切れ味がそこそこで、刃先も短く使い勝手があまりよろしくなかったことから、作業はほぼ全てスキルで行った。
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