上 下
58 / 67

嫌だと言いましたけどね

しおりを挟む
 戦闘が終わると、兵士達が街道に散らばる緑の死体を一箇所に集め始めた。
 ゴブリンの死体は食べる訳にもいかず、放置しては腐敗による悪臭や他のモンスターを呼び寄せる原因にもなる為燃やすしかないらしい。
 魔法使いが火を放つと、肉の焼ける嫌な臭いが広がった。
 立ち昇る黒い煙がどこか怨念を含んでいるようで、背筋に寒気を覚えた俺は、その光景を見続ける事が出来なかった。

「わっ……私は、パパの顔って可愛い? ……と思いますけどねっ!」

 アルが気を遣って俺を励ましてくれたが、あんまり頭に入ってこなかった。
 
コメ:おい! 何か言うことがあるんじゃないか?
コメ:ふぅ。
コメ:勇太、見えてるんだろ?
コメ:リーダーどこー?
コメ:ふぅ。
コメ:緑色の勇太が居たなー? んー?
勇太:オレ ゴブリン オマエラ スマン
コメ:馬鹿馬鹿しくてワロタwww
コメ:しょうもなw
コメ:俺は結構好きwww

 俺の心に大きな傷を残した悲惨な事件があった気がするが、何事もなかったかのように行軍が再開された。

 馬車が森を抜けると、小高い丘の上にそびえ立つ巨大な城と、その麓に栄える街並みが見えた。
 これからは城下町に行く機会が増えるだろうし、タイキンさんのように商品紹介なんかをやってみるのもいいかもしれない。
 城での生活は長くなりそうだが、視聴者が楽しめるような企画を考えていくつもりだ。
 『王様にドッキリをしかけてみた』なんてどうだろうか?
 不敬すぎて首をねられるかもしれないな。
 さっきのゴブリンリーダーのように。

 馬車は跳ね橋を渡り、巨大な城門を潜り抜ける。
 そのまま街中を通り、緩やかな坂道を登っていく。
 石畳の広場で馬車が停止した。

「これより王に面会する! 部隊は解散せよ!」

 兵士達が俺に一礼しながら去って行く。
 中には俺に握手を求める者までいた。
 いよいよ、新しい生活の始まりを感じる。
 解散という事で、装備を持って行かなくてはならない。
 ノイマンが俺たちの衣服が入った鞄を背負ってくれている。
 ナタリアは魔剣ゲイルウィングを持ち、ランデルは大剣を肩に担ぎ、俺は両手にかせをはめられた。

 今回は、俺、アル、ナタリア、ランデル、ノイマンで王に面会する。
 アルと俺が正式な夫婦として国に認められたからだろう。

 長い坂道を登り、城の中に入ると、赤い絨毯の上でランデルとノイマンがひざまずいた。
 俺は、体が重すぎて膝を曲げたくないので立っていた。
 ナタリアはよく分からないという顔をしており、アルも当然のような顔で立っている。

「ネフィスアルバを倒し、戻って参りました!」

「報告は聞いておる! 場所を移動するとしよう!」

 ランデルの声に、大臣が馬鹿でかい声で応えた。
 伝令兵がスパイの存在を知らせた為か、別室で話す事になった。

 案内された部屋は、黒檀こくたんのような黒く艶のあるテーブルを囲うように、金の意匠を施された真っ赤なソファーが配置された応接間だった。
 一番奥の席に王が座り、その横に大臣が立っている。
 俺達は、王と向かい合うように座った。
 ノイマンだけは部屋の外に立ち、誰も寄せつけない警戒態勢のもと会議が始まった。

「大臣、あれを」

 王の指示で大臣が金色に縁取られた黒いさやを持って来た。
 俺は立たされ、腰の左側にその鞘をつけられた。
 剣を納めろと言われたが、重すぎて肘が曲がらない俺には無理な注文だ。
 考えた結果、盾を地面に置き、剣を両手で逆さに持ち、鞘に突き刺すような形で納刀した。
 聖宝剣ゲルバンダイが鞘に納まると、刀身から放たれていた光のオーラが消えた。

コメ:非力すぎて草
コメ:切腹かよw
コメ:ハラキリッ!w
コメ:動作の一つ一つがダサいんだよなぁ。
コメ:こんな勇者嫌だわwww

「ドラキュリオ皇帝に面会の約束を取り付けた。ランデルと勇者ユートルディスを護衛とし、その場で奴を討つ。アルテグラジーナとその娘は、城で待機して貰う。よいな?」

 王の発言に耳を疑った。
 ランデルの言っていた一年とはなんだったのか。
 ドラキュリオ帝国を包む闇の中ではアルよりも強いという闇皇帝キディス・メイガス・ドラキュリオに勝てる筈が無い。
 数カ国で同盟を組み、数で押した方がいいに決まっている。
 という事で、答えはノーだ。

「いやぢぇしゅ!」
※嫌です!

「はっはっはっ、実に頼もしい! イエスアイドゥ・・・・・・・とは、ご機嫌な返事を貰ったものだ! ランデル、すぐに出るぞ!」

「はっ!」

 俺は気を失った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...