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今はまだ知らぬふり、それは執念深い生き物

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 四月の空は夏みたく日差しが強い訳でも冬みたいに日差しが弱い訳でもない。多分人間が一番過ごしやすい、そんな生暖かい日差しが空から降り注ぐ。

 あくびを溢しながらゆったりのんびりと学校への道のりを歩く。


「......だる」

 高校の門が見えてきたところで何故か、急に、めんどくさくなってきた。いや、でも誰でもこういうことってあると思うんだ、うん。

 特に校門に立っている先生達を見ると本当に行きたくなくなる。
 
気乗りしない時の行動は一つ、そこに行くのをやめることだ。
......というわけで180°進行方向を変えて通学路を逆戻り──────


「保栖ーーー!!! 帰ろうとすんなゴラァ! 見えてるぞーーー!!!」

 校門に背を向けた瞬間、校門で挨拶運動なるものをしていた担任の沢海が叫んでくる。 おかげで周りの注目の的になった。

 帰ろうとした俺が悪いけど注目されるのは好きじゃないんだ、勘弁してくれ。そして学校へも行きたくないから今日サボるのも勘弁してくれ。という感情を「センセ、ごめんなさーーーい!!!」と一言で片付けマッハで、マッハで通学路を逆走した。
 
 後ろで声を張り上げる沢海の声など耳には入っているはずもない。





「まぁ、みたいなことがあって、学校サボっちゃいました」
「ほっほっほ、若いうちはそういうこともあるもんじゃ。ほれコーヒー」
「ありがと、爺さん」
「爺と呼ぶな、マスターと言えマスターと」
「......無理すんなよ爺さん。爺さんにはマスターじゃなくて爺のほうが似合ってるから」
「口だけは達者じゃのぉ......。まぁ今日はゆっくりしてゆけ」

 そういうとマスターはカウンターから奥へと下がっていった。
 いや、ゆっくりしてけ、なんて言って格好つけて下がってったがここの店員あんた一人だろ。客来たらどうすんだよ。

 それに俺客なんですけど......。


 客を放置して豆の選別に向かったその年老いた背中を視線で追った。


 ここは内装も外装も古びた小さな喫茶店。
カフェと呼ぶにはお洒落さのたりないここは先ほどのマスターが一人で経営している本当にこじんまりとした場所。目立たない立地にある小汚ない外装の営業しているかどうかも怪しい喫茶店。
 
 狭いから客が三人以上入ると詰め詰めになるし、カウンターに客席二つしかないから座る場所ないし。
 よく営業できてるなこの店。


「......苦い」

 ズズっと珈琲を飲むもやっぱりこの苦さは俺の口には合わない。
 っていうかぶっちゃけここの珈琲不味くはないんだけど渋いんだよな。苦い味がくどくど口に残る感じ。 ここの爺には世話になってるから珈琲の一杯くらい金払って飲むけど。




 そうしてしばらく珈琲と格闘しながらのんびりと過ごしていた。
 カウンターの角砂糖やミルクを少し頂戴したのはマスターには秘密だ。あの爺馬鹿にしてくるんだよ、お子様舌だって。

 口につけるカップを傾けて最後の一口を飲みこんだ。

 と、同時にカランカランと古びた狭い扉が開く音がした。そちらに視線だけ向けると俺より少し歳上の男が立っていた。


「......どうも。爺さんならさっき買い出し行ったよ」



 ここを訪ねるってことは十中八九爺に用事があるってこと。間違ってもこんな店に珈琲を求めて来る奴なんていない。

 そしてその爺は10分ほど前に選別中の豆を全部ぶちまけて詰んだような顔をして豆を買い出しに行った。というわけで現在ここに居るのは俺一人。


「あ、まじ? じゃあマスター帰ってくるまで隣座っていい?」

「どーぞ」


 そう言うと男は隣の席へと腰を下ろした。見知らぬ校章の入ったスクールシャツに赤色のスタジャン、焦げ茶髪に同色の瞳が俺を見てくる。


「なぁに? 俺になんか用?」

「俺、上利郁十っていうんだけど、お前は?」


 これ会話になってるか? Questionに対してのAnswerが成り立っていない気がするのは俺だけだろうか。


「......オーケー上利ね、俺は保栖」

「ホズミはなんでここにいんの?」

「学校サボったから。そっちは?」

「ここのマスターに用事があってな。一応約束してたんだけど......」

「あー、ちょっと想定外のことがあったみたいで。もう少ししたら帰ってくるよ」



 そっか、と呟いた上利に雪嶺は立ち上がるとカウンタの反対側のキッチンに向かう。座る上利の対面に立った雪嶺。


「たしかここら辺に......」

 キッチンを見渡し保温機能がついたポットを取り出した。中にはまだお湯が残っていてそれはさっき爺が雪嶺に注いだ分の残りだ。まだ一人分くらいのお湯が残っているポットと棚から適当に紅茶のティーバッグを取り出す。

「紅茶飲める?」

「まぁ、飲めないことはないけど、でもいいのか? 勝手にそんなことして......」

「大丈夫大丈夫」

 カップにティーバッグを入れてお湯を注ぐ。あとは1分待つだけでかの有名なリ○トン紅茶の完成。カウンターにカップを差し出しながら、そこにある砂糖とミルクも使っていいから、とカウンターに置いてあるアンティーク調の入れ物を指差す。


「ありがとな、にしても紅茶なんて洒落たもんそんな飲んだことねぇよ」

「紅茶って言ってもインスタントだから味も癖ないから美味しいと思うよ」


 ミルクを少し追加して上利は紅茶を飲む。
 
 安心信頼保証付きのリ○トンさんだから紅茶を飲んだことない人にも受け付けられる味、だと思う。キッチン側に置いてあるカウンターチェアに腰を下ろして紅茶を飲む上利を見る。


「ん、めっちゃおいしい」

「よかったね。これを期に紅茶の世界へどうぞ」


 珈琲を売りにしているこの店で紅茶を勧めるのを聞いたら爺はぷんぷん怒るだろうけど、俺は珈琲より紅茶が好きだな、うん。
 紅茶を飲み干しカップを置いた上利にあ、と爺から頼まれたことを思い出した。


「ねぇ、上利。爺さんからの言伝てで「猫が怪しい」らしいよ」

「猫......? マスターが言ってたのはそれだけか?」


 先程とは一変、険しい顔をした上利に頷き返す。
 果たして猫が怪しいとは何のことやら。

 ここの爺さんが情報屋紛いのことをしているのは知っているが見ず知らずの一般人を巻き込むのはやめてほしいものだ、全く。


「猫、猫か。......ホズミごめん、用事出来たから今日は帰るわ」

「ん、またね」

「マスターにもよろしく言っといてくれ。またな」



 足早に店を出て行った上利。あの様子だとかなり大事な情報だったのだろう。族の幹部というのも大変な役割なのだろう。



───────────────────────

キリ悪いのですが文字数多くなっちゃうので......

そしてまたお気に入り増えとる...
ありがとうございます(本当にありがとうございます...!)

一応人物紹介
上利あがり 郁十いくと
どこかの族の幹部らしい...。

マスター
年相応の爺さん


次話もよろしくお願いします(ペコリ)
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