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今日は木の上にいたらしい。葉っぱで一見してはその姿が確認できない場所に赤い髪がちらりと見える。あの体格を乗せて折れない木だからまあまあの高さがある大木だ。
その体が横になって寝そべっているのが、渡り廊下から上を向くと伺える。
結子が見上げてウィルと目が合うと二階の高さくらいある枝からウィルがやすやすと飛び降りる。
それなりの高さがあるものだから結子は驚いて短い悲鳴を上げるが当人はなんともないらしい。
足を痛めるそぶりもなく地上に降り立つと、手に持っていた何かを結子に向かって放り投げる。
条件反射で結子はそれを受け取った。
花?
受け取ったのはきれいに咲いた花束だった。
ただし、花屋で買ったような綺麗な包装はない。それどころか切り取られた部分は
切り取ったと言うよりどこかぶちきった、そういう感じにちぎった感があった。
「これ、どこから盗んできたの?」
「盗んできたとは不敬だな。ここは一体俺のための庭だ。綺麗に咲いていたからお前にと思って
摘んできたのだ。」
そう、たぶん庭師に断りもしていないだろう。さめざめと泣く庭師が思い浮かぶ。
丹精こめて育てた庭師が気の毒だ。
「なんだ…喜ばないのか?」
不服げなウィルに結子の方がむっとする。
「こんなに綺麗に咲いているのを無断でつんでこないでよ。可哀想でしょ」
「女は花をやれば喜ぶだろう?」
「それは盗んできた花じゃないでしょう?!」
「俺の庭だと言っている」
はー、と結子はウィルと言い争ってその不毛さに頭を痛め会話を打ち切る。
こいつにはやったらダメだとか、誰かが困るとか、配慮とかそういう一般的なことが欠如している。
なんというかねっからのお坊ちゃん思考。俺様で他人を中心に考えるのに慣れていないのだろう。
しかし、それではいい大人に慣れはしない。と、どっかの世話焼きなおばちゃんのような考えになるが、またダメだと結子は頭を振る。
なに、こんな敵対する奴と慣れ親しもうとしてるの!私。
こいつは悪い奴で、失礼で…。
「なに百面相をしている。平凡な顔が更にひどい不細工になっているぞ?」
「うるさいっそこ!っていうか馴れ馴れしいのよ!王様っ」
そうなのだ。これが一番いけない。会った時は怖い威圧感のある王様だと思ったのに!
今も外見は恐ろしいほど相手に威圧感を与える大柄な偉丈夫で尊大だけど
声も大きくて低くてなんだか聞くだけで重圧がある気がする重い声だけど
そういう外見だけ残して中身は冷酷だった第一印象をどっかに忘れて別人になったような
態度で結子に接してくるのだ。
その態度だけみれば外見の俺様感一杯な圧迫するような王様っていう外見より
どこかの悪がき、ガキ大将のような子供にも見えるような屈託のなさで
親しげに話しかけられて結子は面食らう。
はじめてそう接してこられた時は間抜けにも大口をあげて呆けてしまったほどだ。
どうした稀代の愚王。悪辣を忘れているぞ、と。
言葉もなんだか柔らかい。それに調子を狂わされる。
お前、初対面でごみ虫を見る目で私を見たの忘れているのか?と結子は突っ込みたい。
この何を考えているんだか分からないバカ王より大人だから結子は突っ込まないけど。
正直、勘弁して欲しい。
仲良くなんてできるわけないのに…。
城内がご神木の兆しでお祝いムードながら騒がしく対応で神官長やルイが結子に会う機会が
減る中で増える、いらない奴の襲来。迷惑以外の何者でもなかった…。
「フン、聖女様とは他の女よりずっと気難しいのだな」
うるせーよ!
つい口が悪く、語気が荒くなる。そして気難しいのではなく、王様を危険視して避けているんで
気難しいわけではない。
馴れ馴れしくされても敵だと思っているので喜ばないのだ。
内心誰かに目撃されないか、ヒヤヒヤしているのだ。
わかれお前。そう結子は心の中で叫ぶ。大人なので口には出さないが。
「とにかく、貴方に何をされても嬉しくないからっ。もう放っといて!」
それを捨て台詞に、負け犬が逃走する勢いでウィルの前から逃げたのは結子だった。
すでに気持ちで結子の方が負けていた。
今日は木の上にいたらしい。葉っぱで一見してはその姿が確認できない場所に赤い髪がちらりと見える。あの体格を乗せて折れない木だからまあまあの高さがある大木だ。
その体が横になって寝そべっているのが、渡り廊下から上を向くと伺える。
結子が見上げてウィルと目が合うと二階の高さくらいある枝からウィルがやすやすと飛び降りる。
それなりの高さがあるものだから結子は驚いて短い悲鳴を上げるが当人はなんともないらしい。
足を痛めるそぶりもなく地上に降り立つと、手に持っていた何かを結子に向かって放り投げる。
条件反射で結子はそれを受け取った。
花?
受け取ったのはきれいに咲いた花束だった。
ただし、花屋で買ったような綺麗な包装はない。それどころか切り取られた部分は
切り取ったと言うよりどこかぶちきった、そういう感じにちぎった感があった。
「これ、どこから盗んできたの?」
「盗んできたとは不敬だな。ここは一体俺のための庭だ。綺麗に咲いていたからお前にと思って
摘んできたのだ。」
そう、たぶん庭師に断りもしていないだろう。さめざめと泣く庭師が思い浮かぶ。
丹精こめて育てた庭師が気の毒だ。
「なんだ…喜ばないのか?」
不服げなウィルに結子の方がむっとする。
「こんなに綺麗に咲いているのを無断でつんでこないでよ。可哀想でしょ」
「女は花をやれば喜ぶだろう?」
「それは盗んできた花じゃないでしょう?!」
「俺の庭だと言っている」
はー、と結子はウィルと言い争ってその不毛さに頭を痛め会話を打ち切る。
こいつにはやったらダメだとか、誰かが困るとか、配慮とかそういう一般的なことが欠如している。
なんというかねっからのお坊ちゃん思考。俺様で他人を中心に考えるのに慣れていないのだろう。
しかし、それではいい大人に慣れはしない。と、どっかの世話焼きなおばちゃんのような考えになるが、またダメだと結子は頭を振る。
なに、こんな敵対する奴と慣れ親しもうとしてるの!私。
こいつは悪い奴で、失礼で…。
「なに百面相をしている。平凡な顔が更にひどい不細工になっているぞ?」
「うるさいっそこ!っていうか馴れ馴れしいのよ!王様っ」
そうなのだ。これが一番いけない。会った時は怖い威圧感のある王様だと思ったのに!
今も外見は恐ろしいほど相手に威圧感を与える大柄な偉丈夫で尊大だけど
声も大きくて低くてなんだか聞くだけで重圧がある気がする重い声だけど
そういう外見だけ残して中身は冷酷だった第一印象をどっかに忘れて別人になったような
態度で結子に接してくるのだ。
その態度だけみれば外見の俺様感一杯な圧迫するような王様っていう外見より
どこかの悪がき、ガキ大将のような子供にも見えるような屈託のなさで
親しげに話しかけられて結子は面食らう。
はじめてそう接してこられた時は間抜けにも大口をあげて呆けてしまったほどだ。
どうした稀代の愚王。悪辣を忘れているぞ、と。
言葉もなんだか柔らかい。それに調子を狂わされる。
お前、初対面でごみ虫を見る目で私を見たの忘れているのか?と結子は突っ込みたい。
この何を考えているんだか分からないバカ王より大人だから結子は突っ込まないけど。
正直、勘弁して欲しい。
仲良くなんてできるわけないのに…。
城内がご神木の兆しでお祝いムードながら騒がしく対応で神官長やルイが結子に会う機会が
減る中で増える、いらない奴の襲来。迷惑以外の何者でもなかった…。
「フン、聖女様とは他の女よりずっと気難しいのだな」
うるせーよ!
つい口が悪く、語気が荒くなる。そして気難しいのではなく、王様を危険視して避けているんで
気難しいわけではない。
馴れ馴れしくされても敵だと思っているので喜ばないのだ。
内心誰かに目撃されないか、ヒヤヒヤしているのだ。
わかれお前。そう結子は心の中で叫ぶ。大人なので口には出さないが。
「とにかく、貴方に何をされても嬉しくないからっ。もう放っといて!」
それを捨て台詞に、負け犬が逃走する勢いでウィルの前から逃げたのは結子だった。
すでに気持ちで結子の方が負けていた。
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