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第2話 はじまりは
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なぜ、私が魔術師と結婚するしかないと思っていたのか……
なぜ、父さんがブラッドリーを連れ帰って来たのか……それはーー
マドニ-はのどかな田舎町。
都会では一般家庭でも使用が当たり前となっていた便利な魔道具なるものは、一切普及していなかった。
そんな町に、一人の美丈夫が流れ着いた。
その美丈夫こそが、ミルローズの父ロドリー二である。
彼は、魔術師ではあるもののあまり魔力が強くなく、仕事をしながら旅をしている最中だった。
そしてこの町で、母ミリーと恋に落ち、一緒に暮らすようになった。
ロドリーニは、便利な魔道具を持っていた。
便利なものは、あっという間に広がる。
だんだんと魔道具を使用する生活が当たり前となっていった。
魔道具を使用するには、魔力、もしくは魔力を含む魔石が必要だ。
町の人々に請われたロドリーニは、やがて魔石に魔力を込める仕事を始めた。
人々は一度便利な生活を始めると、なかなか元には戻れないもの。
ロドリーニは、この町唯一の魔術師である。
ロドリーニ、ミリー夫婦は、なかなか子供を授からなかった。
長い時を経て、二人の元へやってきた待望の赤ちゃん。
それがミルローズだ。
町の人々はミリーの妊娠に歓喜した。
ミルローズの魔力が開花することを期待した。
しかし成人まであと少しとなっても、彼女の体に魔力が宿ることはなかった。
ミルローズの父ロドリーニは、元々あまり魔力が強くなかった。
年を重ねると、魔石に魔力を込めることが負担となってきた。
そうなると、外から魔術師を連れてくるか、近隣に暮らす魔術師をみつけて頼るしかない。
近隣の町はどこも似たり寄ったり、魔術師不足である。
どこかから呼び寄せても、何も旨味のない田舎町に居ついてくれると期待はできない。
『誰か町娘の婿に魔術師を』
これが町の悲願となる。
王都周辺ならば、魔術師と知り合う機会もあるだろうが……残念なことに、マドニ-は王都から遠く離れている。
そこで、白羽の矢がたったのは、ミルローズであった。
彼女は、父ロドリーニに似て、キメ細やかな白い肌に美しい顔立ち、母ミリーに似たミルクティー色ふわふわとした髪、両親の瞳の色が混ざりあったような赤茶色の切れ長で優しげな瞳。
外見は儚げな美人。
それでいて明るく表情豊か。
マドニ-で指折りの美人に成長した。
いくらミルローズが美人でも、魔術師と出逢う機会がないのではどうしようもない。
そこで、父が縁戚をあたるブラッドリーを連れてきたのだ。
二人が婚約し、ブラッドリーがマドニ-で一人暮らしを始めると、見知らぬ女性たちを見かけるようになった。
そろそろ結婚の日取りを決めようと、ブラッドリーの家族が我が家を訪れた日、約束の時間になっても、ブラッドリーは姿を現さなかった。
ミルローズが、ブラッドリーの部屋へ呼びに行くと、扉が開き、彼が顔を出した。
開いた扉の隙間から見えたのは、テーブルに置かれた二つのマグカップ。
一つは彼のもの。
ミルローズのものであるはずのマグカップを握っているのは、知らない女性。
私は、すぐに踵を返すと、泣きながら家へ戻った。
玄関を開ける前に涙を止めなきゃ。
何度も手の甲で拭うが、悲しくて、悔しくて、涙が止まらない。
そうこうするうちに、玄関ドアが開いた。
すすり泣きが聞こえていたのだろうか。
心配した母が外に出てきたのだ。
う~っ、ヒック、ヒック
母の顔を見たら、また涙が溢れてきた。
「ミルローズ、どうしたの? ブラッドリーくんは一緒じゃないの?」
「母さん、彼の部屋に知らない女性が居た。彼女が私のマグカップを使っていたのよ~」
う~っ、ヒック、ヒック
涙が止まらない私を、母が優しく抱きしめ、背中をさすってくれる。
「ミルローズ、どうしたんだっ!急にやって来たかと思えば、ドロテアに挨拶もなく走り去るなんて失礼じゃないかっ!」
なかなか気持ちが落ち着かず、家に入れずにいると、ブラッドリーが追いかけてきたようだ。
あの穏やかだった彼が怒っている。
なぜ、私が怒られなきゃならないの?
「あの人、ドロテアさんというんだ。ブラッドリーは彼女とはどういった関係?
彼女、私の席で、私のマグカップを使ってた」
「ドロテアはただの友達だ。僕に魔術師としての仕事を紹介してくれるそうなんだ。隣町での仕事になるが、いい話なんだ。
彼女を待たせてるから、今日は帰る。明日にでもちゃんも話をしよう」
「ブラッドリーくん、話し合いはどうするの?」
母さんが彼に問いかけてくれる。
「えっ、うちの両親が来てるんですか?
また勝手に押しかけて……
ご迷惑をおかけしてすみません。今、僕はお客さんを待たせているので、失礼します。では」
ブラッドリーは走って帰っていった。
「ブラッドリーくん、今日の約束を忘れちゃってるのかしらね……とにかく家に入りましょう」
母さんに背を押され、家へ入ると、父さん、彼の両親が、気まずそうにしていた。
狭い家だもん。
玄関前でのやりとりも丸聞こえだよね。
「ミルローズさん、すまない」
「ミルローズさん、ごめんなさいね。約束を忘れるなんて……また日を改めて伺います」
プラッドリーの両親は、そそくさと席を立つと、ペコペコ頭を下げて、帰っていった。
家族だけになると、悔しさが込み上げてくる。
私との約束を忘れて、他の女性と会っていたなんて……
隣町で仕事?
私と結婚して、マドニ-の町で、父さんの仕事を引き継いでくれるんじゃなかったの?
魔術師としての仕事って、父さんの仕事だって立派な仕事なのに。
彼にとっては不満だったの?
なぜ、父さんがブラッドリーを連れ帰って来たのか……それはーー
マドニ-はのどかな田舎町。
都会では一般家庭でも使用が当たり前となっていた便利な魔道具なるものは、一切普及していなかった。
そんな町に、一人の美丈夫が流れ着いた。
その美丈夫こそが、ミルローズの父ロドリー二である。
彼は、魔術師ではあるもののあまり魔力が強くなく、仕事をしながら旅をしている最中だった。
そしてこの町で、母ミリーと恋に落ち、一緒に暮らすようになった。
ロドリーニは、便利な魔道具を持っていた。
便利なものは、あっという間に広がる。
だんだんと魔道具を使用する生活が当たり前となっていった。
魔道具を使用するには、魔力、もしくは魔力を含む魔石が必要だ。
町の人々に請われたロドリーニは、やがて魔石に魔力を込める仕事を始めた。
人々は一度便利な生活を始めると、なかなか元には戻れないもの。
ロドリーニは、この町唯一の魔術師である。
ロドリーニ、ミリー夫婦は、なかなか子供を授からなかった。
長い時を経て、二人の元へやってきた待望の赤ちゃん。
それがミルローズだ。
町の人々はミリーの妊娠に歓喜した。
ミルローズの魔力が開花することを期待した。
しかし成人まであと少しとなっても、彼女の体に魔力が宿ることはなかった。
ミルローズの父ロドリーニは、元々あまり魔力が強くなかった。
年を重ねると、魔石に魔力を込めることが負担となってきた。
そうなると、外から魔術師を連れてくるか、近隣に暮らす魔術師をみつけて頼るしかない。
近隣の町はどこも似たり寄ったり、魔術師不足である。
どこかから呼び寄せても、何も旨味のない田舎町に居ついてくれると期待はできない。
『誰か町娘の婿に魔術師を』
これが町の悲願となる。
王都周辺ならば、魔術師と知り合う機会もあるだろうが……残念なことに、マドニ-は王都から遠く離れている。
そこで、白羽の矢がたったのは、ミルローズであった。
彼女は、父ロドリーニに似て、キメ細やかな白い肌に美しい顔立ち、母ミリーに似たミルクティー色ふわふわとした髪、両親の瞳の色が混ざりあったような赤茶色の切れ長で優しげな瞳。
外見は儚げな美人。
それでいて明るく表情豊か。
マドニ-で指折りの美人に成長した。
いくらミルローズが美人でも、魔術師と出逢う機会がないのではどうしようもない。
そこで、父が縁戚をあたるブラッドリーを連れてきたのだ。
二人が婚約し、ブラッドリーがマドニ-で一人暮らしを始めると、見知らぬ女性たちを見かけるようになった。
そろそろ結婚の日取りを決めようと、ブラッドリーの家族が我が家を訪れた日、約束の時間になっても、ブラッドリーは姿を現さなかった。
ミルローズが、ブラッドリーの部屋へ呼びに行くと、扉が開き、彼が顔を出した。
開いた扉の隙間から見えたのは、テーブルに置かれた二つのマグカップ。
一つは彼のもの。
ミルローズのものであるはずのマグカップを握っているのは、知らない女性。
私は、すぐに踵を返すと、泣きながら家へ戻った。
玄関を開ける前に涙を止めなきゃ。
何度も手の甲で拭うが、悲しくて、悔しくて、涙が止まらない。
そうこうするうちに、玄関ドアが開いた。
すすり泣きが聞こえていたのだろうか。
心配した母が外に出てきたのだ。
う~っ、ヒック、ヒック
母の顔を見たら、また涙が溢れてきた。
「ミルローズ、どうしたの? ブラッドリーくんは一緒じゃないの?」
「母さん、彼の部屋に知らない女性が居た。彼女が私のマグカップを使っていたのよ~」
う~っ、ヒック、ヒック
涙が止まらない私を、母が優しく抱きしめ、背中をさすってくれる。
「ミルローズ、どうしたんだっ!急にやって来たかと思えば、ドロテアに挨拶もなく走り去るなんて失礼じゃないかっ!」
なかなか気持ちが落ち着かず、家に入れずにいると、ブラッドリーが追いかけてきたようだ。
あの穏やかだった彼が怒っている。
なぜ、私が怒られなきゃならないの?
「あの人、ドロテアさんというんだ。ブラッドリーは彼女とはどういった関係?
彼女、私の席で、私のマグカップを使ってた」
「ドロテアはただの友達だ。僕に魔術師としての仕事を紹介してくれるそうなんだ。隣町での仕事になるが、いい話なんだ。
彼女を待たせてるから、今日は帰る。明日にでもちゃんも話をしよう」
「ブラッドリーくん、話し合いはどうするの?」
母さんが彼に問いかけてくれる。
「えっ、うちの両親が来てるんですか?
また勝手に押しかけて……
ご迷惑をおかけしてすみません。今、僕はお客さんを待たせているので、失礼します。では」
ブラッドリーは走って帰っていった。
「ブラッドリーくん、今日の約束を忘れちゃってるのかしらね……とにかく家に入りましょう」
母さんに背を押され、家へ入ると、父さん、彼の両親が、気まずそうにしていた。
狭い家だもん。
玄関前でのやりとりも丸聞こえだよね。
「ミルローズさん、すまない」
「ミルローズさん、ごめんなさいね。約束を忘れるなんて……また日を改めて伺います」
プラッドリーの両親は、そそくさと席を立つと、ペコペコ頭を下げて、帰っていった。
家族だけになると、悔しさが込み上げてくる。
私との約束を忘れて、他の女性と会っていたなんて……
隣町で仕事?
私と結婚して、マドニ-の町で、父さんの仕事を引き継いでくれるんじゃなかったの?
魔術師としての仕事って、父さんの仕事だって立派な仕事なのに。
彼にとっては不満だったの?
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