上 下
37 / 49

第37話 私の未来

しおりを挟む
第三王子がカツカツと近づいてくる。
嫌だ、私のほうに来ないで。

ジルが耳元で話してきた。
「ごめん、王子の誘いは断れない。一曲だけ我慢してくれ。絶対に君を取り返すから。」

嫌だけど、確かに一曲は踊らないと断れない。
願わくば、別の令嬢を迎えに行って欲しい。

あーあー、来ないで、来ないて。
私の願いは叶わず、カツン
私の前で、足音が止まる。
「お嬢さん、私と踊っていただけますか?」

「はい。」
と答えて、差し出された王子の手に、チョンっと自分の手をのせる。
できるだけ触れる面積を少なくね。

すると、腰に手を回され、グイグイ引き寄せられた。
近くない? 近すぎて嫌悪感がわいてくる。
第三王子 ウィリアム様は、金髪に青い瞳の誰もが見惚れるイケメンだ。

普通の女性は見惚れるだろう。
わたしはナルシストが苦手。
見合いしたセドリック様にもそういった仕草が見てとれた。
ウィリアム王子もそうだ。
容姿端麗、しかも王族。
さぞかしチヤホヤされているのだろう。

踊りながら、やたらと話しかけてくる。
「はい。」と「いいえ。」で会話を打ち切り、何とか一曲踊り終えた。

疲れた。早く帰りたい。
ところが、ウィリアム王子は手を腰を離してくれない。
力業で離れるのは失礼よね…
どうしよう、二曲目が始まっちゃう。

「ツムギ、次は僕と踊っていただけますか?」
ジルが来てくれた。
安心して、嬉しくて…
「はい、喜んで。」
満面の笑みで、ジルの手に私の手を伸ばす。

えっ、離して。
ウィリアム王子が私の手をギュッと強く握りなおした。
こんなのあり? 


「ウィリアム王子、申し訳ありません。次は私の順番ですので、彼女を離していただけますか? 彼女は私の婚約者です。」

ん? ジル? 今、婚約者って?
私は聞いてないんですけど!

どういうことだと、ジルをみつめる。
「ツムギはまだ聞いてなかった? 先日 ラウンド家からキリノ家へ正式に婚約の申し入れを行い、了承されたんだ。今は王家の承認待ちだけど、反対されることはないはずだよ。」

ウィリアム王子がググっと拳を握る。

辺境伯と賢者が決めたこと。
たとえ王家であっても蔑ろにはできない。


王家の承認待ちってことは、第三王子は知っていて、婚約者とのファーストダンスを邪魔したの?

私たちの会話が聞こえる範囲に立つ貴族の顔が険しいぞ。
さすがにそれは…といった感じ?


ウィリアム王子は私の手を離して、どこかへ行ってしまった。

よかった…

止まっていた音楽が再開、二曲目が始まる。

ジルに優しく腰を引き寄せれ、彼のリードで踊る。
やはり彼の傍は安心する。

二曲目が終わっても、別の男性が声をかけてくることはなかった。

「ウィリアム王子はいい仕事をしてくれた。これで他の貴族も近寄れまい。」

ジルの笑顔が若干黒いような…
さては、こうなるとわかってた?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

処理中です...