59 / 70
第59話 工場視察
しおりを挟む
金属加工の工場へやってきた。
気分が悪くなり、馬車で休んでいた王太子妃様も体調が回復したようだ。
すぐ回復されたことから、おそらくは何かしら魔法で対処したのだと思われる。
火を扱うから部屋の中はもわっと熱い。
カーン、カンカン、カーン
職人が金属を叩く音で耳が痛くなる。
「本当にこんな場所を視察なさるので?早く移動しましょう!」
公爵は早く移動したくて仕方がないようだ。
首元にダラダラと流れる汗を拭きながら、顔をしかめている。
「ああ、もちろんだ。現場を見て回る機会などなかなかないからな」
王太子様は額から汗を流しながらも、あちこち熱心に見ている。
王太子妃様はドレス姿であるし、なかなかきついのではないかと思うのだが、彼女も汗をハンカチで押さえながら職人の手元を真剣に見ている。
火花が散る為、火花が届かないように王太子夫妻の辺りにうっすらと水の膜がはられている。
水の膜は熱さも和らげているのかしら……
やはり魔法はすごいなと思う。
私にも同じように魔法をかけてもらい、臭いと熱さはかなり楽になった。
公爵は……かなり辛そうだ。
魔法で何か対処をしないんだろうか。
ふらふらしている。
「もういいですかな?限界だ。早く帰りましょう」と何度もしつこい。
「公爵は先に帰るといい。私たちはもう少し見て帰るよ」
「では、お先に失礼いたします」
公爵は逃げるように小走りで退散していった。
これで確認しやすくなったわ。
早速 工場長を捕まえ、質問責めにする。
「工場長、加工に使った水や金属クズはどう処理していますか?」
「水はこの樽に貯めて川へ流しています」
「流す前に、何か処理していますか?」
「ギート様が定期的に樽に魔法をかけていましたが……しばらくいらしてないんです」
公爵家の跡取りであったギート様がどういった状態なのか、工場長は知らないようだ。
私にもよくわからず、言葉が止まる。
すると、代わりに王太子様が話してくれた。
「ギートはしばらく来ない。彼がどんな魔法を施していたかわかるか?」
「いえ、わしらに魔法のことはわかりません。ただギート様が来なくなってから、街に変な臭いがするようになったんで、見に来て欲しいと要望していました」
「見に来たのか?」
「いいえ、誰も……今日 ようやく来てくださったと……何とかなりませんか?」
工場長もどうしたらいいのかわからず困っているようだ。
「汚れた水から不純物を取り除き、キレイな元の水に戻せるような魔法はありますか?」
魔法のことは私にはよくわからない。
王太子様の指示で、側近の1人が樽に手をかざし、何か唱えている。
どんな魔法が使われたのかはわからないが、鑑定魔法で確認した結果、とりあえずはキレイにできたようだ。
「街の臭いはどうすればいいのだ?」
「川の水を先ほど樽の水のようにキレイにすれば、改善されると思われます。」
「それは厳しいな。範囲が広すぎだ」
「工場の水を流す場所を数ヵ所に決めて、何らかの浄化装置を設置するか浄化できる魔法を施すことは可能ですか?」
「うむ、考えてみるか。それにしてもそなた、水の汚染は工場が原因だとよくわかったな。あとは私たちが何とかする」
王太子様が請け負ってくださったから、もう安心ね。
「しばらく汚染された水が生活水として使われていた可能性が高いです。これから健康被害が出るかもしれません。領民の健康観察が必要です」
「ほう、そういうものか。わかった。手配しておく」
王太子様の言葉に、側近の方々がメモを取ったり、動き出している。
「リナさんは物知りなのね……」
王太子妃様に尊敬の眼差しを向けられ、居たたまれない。
「以前、そういった被害の話を聞いたことがありましたので、もしかしたらと思ったんです。その話を知らなければ、思いつくこともなかったと思います」
「そなたの知識は我が国の宝となることだろう。今後も力を貸してくれ」
王太子様にそう言われ、ひぇ~、ムリムリと逃げたくなる。
「リナさん、お願いよ。私たちに力を貸して」
アリエラ様に頼まれたら……断れない。
「わかりました。でも期待しないでくださいね。私の知識はかなり偏りがあると思いますから」
「ええ、もちろんよ。あなたに責任を押し付けるつもりはないわ。わかる範囲で教えてもらえると助かるわ」
私はケント様とこの国で暮らしていくつもりだ。
この国の王太子夫妻が、きちんと周りの意見を聞き、民のことを考えてくださる方々でよかった……
すぐ領民の健康を守る為、医師と薬師を常駐させるよう手配されていた。
工場に置かれた使用済みの水を浄化して回るように手配され、川の水についても可能な範囲で浄化をと……
テキパキ手配される王太子様に、この国の明るい未来が見えた気がした。
街の視察を終え、公爵邸へ戻ってきた。
すぐに公爵が出てきた。
「どうでしたかな?とても長居できる場所ではないでしょうに……」
「ああ、そうだな。酷い状態だった。そなたは、いったい何をみて、何をしてきたのか?そなたが長居できないと言った場所で民が暮らし、働いているのだぞ。何もせずに放置したそなたは領主の役割を果たしていない。おまけに法律で定められた税率よりも高い税率を課して民から絞れるだけ絞り、国には嘘の申告をすることで浮いた金で私腹を肥やしている。言い逃れはできないぞ。既に調べはついている」
「公爵を連れていけっ!」
「「「「「はっ」」」」」
ヘナヘナと床に座り込んでいた公爵は両脇を抱えられ、馬車へ連れられていく。
後からやってきた数人の役人が証拠書類を次々と運んでいく。
私はテレビで見たガサ入れのようだなと思いながら、その光景を眺めていた。
気分が悪くなり、馬車で休んでいた王太子妃様も体調が回復したようだ。
すぐ回復されたことから、おそらくは何かしら魔法で対処したのだと思われる。
火を扱うから部屋の中はもわっと熱い。
カーン、カンカン、カーン
職人が金属を叩く音で耳が痛くなる。
「本当にこんな場所を視察なさるので?早く移動しましょう!」
公爵は早く移動したくて仕方がないようだ。
首元にダラダラと流れる汗を拭きながら、顔をしかめている。
「ああ、もちろんだ。現場を見て回る機会などなかなかないからな」
王太子様は額から汗を流しながらも、あちこち熱心に見ている。
王太子妃様はドレス姿であるし、なかなかきついのではないかと思うのだが、彼女も汗をハンカチで押さえながら職人の手元を真剣に見ている。
火花が散る為、火花が届かないように王太子夫妻の辺りにうっすらと水の膜がはられている。
水の膜は熱さも和らげているのかしら……
やはり魔法はすごいなと思う。
私にも同じように魔法をかけてもらい、臭いと熱さはかなり楽になった。
公爵は……かなり辛そうだ。
魔法で何か対処をしないんだろうか。
ふらふらしている。
「もういいですかな?限界だ。早く帰りましょう」と何度もしつこい。
「公爵は先に帰るといい。私たちはもう少し見て帰るよ」
「では、お先に失礼いたします」
公爵は逃げるように小走りで退散していった。
これで確認しやすくなったわ。
早速 工場長を捕まえ、質問責めにする。
「工場長、加工に使った水や金属クズはどう処理していますか?」
「水はこの樽に貯めて川へ流しています」
「流す前に、何か処理していますか?」
「ギート様が定期的に樽に魔法をかけていましたが……しばらくいらしてないんです」
公爵家の跡取りであったギート様がどういった状態なのか、工場長は知らないようだ。
私にもよくわからず、言葉が止まる。
すると、代わりに王太子様が話してくれた。
「ギートはしばらく来ない。彼がどんな魔法を施していたかわかるか?」
「いえ、わしらに魔法のことはわかりません。ただギート様が来なくなってから、街に変な臭いがするようになったんで、見に来て欲しいと要望していました」
「見に来たのか?」
「いいえ、誰も……今日 ようやく来てくださったと……何とかなりませんか?」
工場長もどうしたらいいのかわからず困っているようだ。
「汚れた水から不純物を取り除き、キレイな元の水に戻せるような魔法はありますか?」
魔法のことは私にはよくわからない。
王太子様の指示で、側近の1人が樽に手をかざし、何か唱えている。
どんな魔法が使われたのかはわからないが、鑑定魔法で確認した結果、とりあえずはキレイにできたようだ。
「街の臭いはどうすればいいのだ?」
「川の水を先ほど樽の水のようにキレイにすれば、改善されると思われます。」
「それは厳しいな。範囲が広すぎだ」
「工場の水を流す場所を数ヵ所に決めて、何らかの浄化装置を設置するか浄化できる魔法を施すことは可能ですか?」
「うむ、考えてみるか。それにしてもそなた、水の汚染は工場が原因だとよくわかったな。あとは私たちが何とかする」
王太子様が請け負ってくださったから、もう安心ね。
「しばらく汚染された水が生活水として使われていた可能性が高いです。これから健康被害が出るかもしれません。領民の健康観察が必要です」
「ほう、そういうものか。わかった。手配しておく」
王太子様の言葉に、側近の方々がメモを取ったり、動き出している。
「リナさんは物知りなのね……」
王太子妃様に尊敬の眼差しを向けられ、居たたまれない。
「以前、そういった被害の話を聞いたことがありましたので、もしかしたらと思ったんです。その話を知らなければ、思いつくこともなかったと思います」
「そなたの知識は我が国の宝となることだろう。今後も力を貸してくれ」
王太子様にそう言われ、ひぇ~、ムリムリと逃げたくなる。
「リナさん、お願いよ。私たちに力を貸して」
アリエラ様に頼まれたら……断れない。
「わかりました。でも期待しないでくださいね。私の知識はかなり偏りがあると思いますから」
「ええ、もちろんよ。あなたに責任を押し付けるつもりはないわ。わかる範囲で教えてもらえると助かるわ」
私はケント様とこの国で暮らしていくつもりだ。
この国の王太子夫妻が、きちんと周りの意見を聞き、民のことを考えてくださる方々でよかった……
すぐ領民の健康を守る為、医師と薬師を常駐させるよう手配されていた。
工場に置かれた使用済みの水を浄化して回るように手配され、川の水についても可能な範囲で浄化をと……
テキパキ手配される王太子様に、この国の明るい未来が見えた気がした。
街の視察を終え、公爵邸へ戻ってきた。
すぐに公爵が出てきた。
「どうでしたかな?とても長居できる場所ではないでしょうに……」
「ああ、そうだな。酷い状態だった。そなたは、いったい何をみて、何をしてきたのか?そなたが長居できないと言った場所で民が暮らし、働いているのだぞ。何もせずに放置したそなたは領主の役割を果たしていない。おまけに法律で定められた税率よりも高い税率を課して民から絞れるだけ絞り、国には嘘の申告をすることで浮いた金で私腹を肥やしている。言い逃れはできないぞ。既に調べはついている」
「公爵を連れていけっ!」
「「「「「はっ」」」」」
ヘナヘナと床に座り込んでいた公爵は両脇を抱えられ、馬車へ連れられていく。
後からやってきた数人の役人が証拠書類を次々と運んでいく。
私はテレビで見たガサ入れのようだなと思いながら、その光景を眺めていた。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにしませんか
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢ナターシャの婚約者は自由奔放な公爵ボリスだった。頭はいいけど人格は破綻。でも、両親が決めた婚約だから仕方がなかった。
「ナターシャ!!!お前はいつも不細工だな!!!」
ボリスはナターシャに会うと、いつもそう言っていた。そして、男前なボリスには他にも婚約者がいるとの噂が広まっていき……。
本編終了しました。続きは「気まぐれな婚約者に振り回されるのはいやなので、もう終わりにします」となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる