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第53話 好奇心に
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私とケント様の会話にモリーヌ様が入ってきた。
「ケント、ここでの生活に不満などあるわけないじゃない……だってここは王宮なのよ?王宮に部屋を与えられるなんて……リナさんには分不相応だわよ。今の立場を手放すわけないわ。もう彼女のことなんて忘れて。あなたには私が、私がいるじゃない」
私の気持ちを勝手に決めつけないでと思う。
私は王宮ではなく、デリーノ邸で暮らしたいのに……
ギュッと拳を握りしめ、力説するモリーヌ様。
かわいらしい彼女に、『あなたには、私がいるじゃない』なんて、一生懸命言われたら……
不安でケント様をみつめる。
デレッとしたりしてないでしょうね?
彼は……
「リナを忘れろ? 彼女を忘れるなんてできるわけないっ。僕にとって彼女は特別なんだ。早くデリーノへ帰ってきて欲しいと願ってる」
彼は、そう、そう思ってくれてるんだ。
嬉しい、嬉しいよ~。
「ケント様」
「リナ」
甘い雰囲気に包まれたところで、
「えっ、えへんっ」
ロナの口から不自然な咳払いが。
ん?
ケント様から視線をはずし、ロナのほうを見ると……
開かれたドアの前には、王妃様と王太子妃様???
どうして……
私の心を読んだかのような絶妙なタイミングで、
「リナの想い人を一目見たいと、お義母様とこっそりきちゃったわ……邪魔しちゃったわね」
アリエラ様が私にだけ聞こえるくらいの小声で言った。
あっあー、私がお茶の時間に、ケント様がダンスパートナーとして来るかもしれないと話していたから……
すぐにケント様が礼を取り、私も続く。
モリーヌ様も私たちに続けばよかったものを
「あなたたち、私がケント様と話しているのに邪魔しないでよねっ!」
プンプンかわいらしく怒っている。
本気で怒っているわけじゃなく、怒ってるアピールだ。
でも、彼女、ステラ様、アリエラ様に気づいてないの?
王妃様と王太子妃様だよ?
早く、早く、私たちと同じように礼を取ればいいのに……
「そこのあなたはどなた?」
とうとうステラ様が彼女に声をかけてしまったわ。
これってまずいのではない?
「私はラザーニア公爵家長女のモリーヌよ。私に名乗らせるなんて、あなたこそ誰よ?」
えっ……
ダンスホールにいたみなが固まる。
うそ、うそでしょ?
本当に王妃様だと気づいてないの?
ピーンと張り詰めた空気が流れる。
「まぁ、なんて礼儀がなってない娘なのかしら?義弟にはもっときちんと教育しておくよう注意をしなければね」
「義弟?義弟って誰よ?まっ……まさか……お父様?お父様を義弟と呼ぶ人なんて……まさか……」
ようやく自分がつっかかった相手が誰であるか理解したようだ。
みるみる顔色が青ざめていく。
「もっ……申し訳ございません。伯母様」
「あなたが私の姪だと?私にはあなたみたいに礼儀のなっていない姪などいません。私の顔だって覚えていないのでしょう?絶対に認めることなどできない。義弟には強く抗議しておくので、覚悟しておくように!」
いつも私の前では穏やかな笑みを浮かべているステラ様が本気で怒っている。
王妃様って、怒ると怖いのね……
そりゃそうか、そのくらいでなきゃ、王妃なんて務まらないだろう。
「申し訳ございません。どうかお許しください。父に、父にだけは言わないでください。私、外国に嫁がされてしまいます~」
しくしくと涙を流すモリーヌ様。
「まぁ、涙まで流して……演技がうまいこと。でも私は騙されませんよ。不愉快だわ」
ますます圧が強くなるステラ様。
モリーヌ様は、どこかへ連れて行かれるようだ。
「おばさま、おばさま、お願いよ。許して……私を許してくださいっ」
泣き叫ぶモリーヌ様。
彼女の願いが王妃様の心へ届くことはなかった。
ケント様に付きまとっていたモリーヌ様がいなくなった。
彼女は公爵令嬢なわけで、伯爵令息のケント様もあまり無下にはできないし、言葉で気持ちを伝えるのが精一杯で……
でも早く解放されたかったのよね。
王妃様、王太子妃様の私の想い人を一目見たいという好奇心に助けられたわ。
「はーっ、スッキリしたわね。お義母様」
「そうね、ふふふっ」
いつものステラ様に戻った。
ピンと張り詰めていた空気が、穏やかなものに変わる。
「あなたがリナさんの……」
アリエラ様が呟く。
高貴なおふたりの視線を一身に浴びたケント様は、どうしていいかわからず、硬直している。
「デリーノ伯爵令息、このたびは陛下が2人の仲を引き裂くような命を下して、迷惑をかけましたね……リナさんはもう少しここに滞在して学ぶと言ってくれました。あと少しだけ我慢して。そしたら、陛下へ彼女がデリーノへ戻れるよう働きかけますからね」
「「王妃様、ありがとうございます」」
ケント様と私の声が重なる。
ステラ様はケント様へ話をされたのに、つい嬉しくなって私もお礼を……
「ふふっ、2人は仲がいいのね。こんな恋人を引き裂くなんて、陛下はなんて悪い人なのかしら」
王妃様の瞳に剣呑なものを感じる。
その言葉をいただけただけで充分です。
決して夫婦喧嘩などしないでくださいね。
「リナさんはいずれ帰ってしまうのね……寂しいわ。それまではまたお茶を楽しみましょうね」
王太子妃様は私との別れを惜しんでくださっている。
「はい、アリエラ様」
私が王宮を去るまでには、もう少し時間があるようなので、いっぱいお話しましょうね。
「ふたりの逢瀬を邪魔しちゃ悪いわ。アリエラ、帰りましょう」
「はい、お義母様。ではリナさんまたね!」
王妃様、王太子妃様は行ってしまった。
今度こそ、ケント様とふたりきりになる。
もちろんロナや他の使用人もいるのだが……
「ケント、ここでの生活に不満などあるわけないじゃない……だってここは王宮なのよ?王宮に部屋を与えられるなんて……リナさんには分不相応だわよ。今の立場を手放すわけないわ。もう彼女のことなんて忘れて。あなたには私が、私がいるじゃない」
私の気持ちを勝手に決めつけないでと思う。
私は王宮ではなく、デリーノ邸で暮らしたいのに……
ギュッと拳を握りしめ、力説するモリーヌ様。
かわいらしい彼女に、『あなたには、私がいるじゃない』なんて、一生懸命言われたら……
不安でケント様をみつめる。
デレッとしたりしてないでしょうね?
彼は……
「リナを忘れろ? 彼女を忘れるなんてできるわけないっ。僕にとって彼女は特別なんだ。早くデリーノへ帰ってきて欲しいと願ってる」
彼は、そう、そう思ってくれてるんだ。
嬉しい、嬉しいよ~。
「ケント様」
「リナ」
甘い雰囲気に包まれたところで、
「えっ、えへんっ」
ロナの口から不自然な咳払いが。
ん?
ケント様から視線をはずし、ロナのほうを見ると……
開かれたドアの前には、王妃様と王太子妃様???
どうして……
私の心を読んだかのような絶妙なタイミングで、
「リナの想い人を一目見たいと、お義母様とこっそりきちゃったわ……邪魔しちゃったわね」
アリエラ様が私にだけ聞こえるくらいの小声で言った。
あっあー、私がお茶の時間に、ケント様がダンスパートナーとして来るかもしれないと話していたから……
すぐにケント様が礼を取り、私も続く。
モリーヌ様も私たちに続けばよかったものを
「あなたたち、私がケント様と話しているのに邪魔しないでよねっ!」
プンプンかわいらしく怒っている。
本気で怒っているわけじゃなく、怒ってるアピールだ。
でも、彼女、ステラ様、アリエラ様に気づいてないの?
王妃様と王太子妃様だよ?
早く、早く、私たちと同じように礼を取ればいいのに……
「そこのあなたはどなた?」
とうとうステラ様が彼女に声をかけてしまったわ。
これってまずいのではない?
「私はラザーニア公爵家長女のモリーヌよ。私に名乗らせるなんて、あなたこそ誰よ?」
えっ……
ダンスホールにいたみなが固まる。
うそ、うそでしょ?
本当に王妃様だと気づいてないの?
ピーンと張り詰めた空気が流れる。
「まぁ、なんて礼儀がなってない娘なのかしら?義弟にはもっときちんと教育しておくよう注意をしなければね」
「義弟?義弟って誰よ?まっ……まさか……お父様?お父様を義弟と呼ぶ人なんて……まさか……」
ようやく自分がつっかかった相手が誰であるか理解したようだ。
みるみる顔色が青ざめていく。
「もっ……申し訳ございません。伯母様」
「あなたが私の姪だと?私にはあなたみたいに礼儀のなっていない姪などいません。私の顔だって覚えていないのでしょう?絶対に認めることなどできない。義弟には強く抗議しておくので、覚悟しておくように!」
いつも私の前では穏やかな笑みを浮かべているステラ様が本気で怒っている。
王妃様って、怒ると怖いのね……
そりゃそうか、そのくらいでなきゃ、王妃なんて務まらないだろう。
「申し訳ございません。どうかお許しください。父に、父にだけは言わないでください。私、外国に嫁がされてしまいます~」
しくしくと涙を流すモリーヌ様。
「まぁ、涙まで流して……演技がうまいこと。でも私は騙されませんよ。不愉快だわ」
ますます圧が強くなるステラ様。
モリーヌ様は、どこかへ連れて行かれるようだ。
「おばさま、おばさま、お願いよ。許して……私を許してくださいっ」
泣き叫ぶモリーヌ様。
彼女の願いが王妃様の心へ届くことはなかった。
ケント様に付きまとっていたモリーヌ様がいなくなった。
彼女は公爵令嬢なわけで、伯爵令息のケント様もあまり無下にはできないし、言葉で気持ちを伝えるのが精一杯で……
でも早く解放されたかったのよね。
王妃様、王太子妃様の私の想い人を一目見たいという好奇心に助けられたわ。
「はーっ、スッキリしたわね。お義母様」
「そうね、ふふふっ」
いつものステラ様に戻った。
ピンと張り詰めていた空気が、穏やかなものに変わる。
「あなたがリナさんの……」
アリエラ様が呟く。
高貴なおふたりの視線を一身に浴びたケント様は、どうしていいかわからず、硬直している。
「デリーノ伯爵令息、このたびは陛下が2人の仲を引き裂くような命を下して、迷惑をかけましたね……リナさんはもう少しここに滞在して学ぶと言ってくれました。あと少しだけ我慢して。そしたら、陛下へ彼女がデリーノへ戻れるよう働きかけますからね」
「「王妃様、ありがとうございます」」
ケント様と私の声が重なる。
ステラ様はケント様へ話をされたのに、つい嬉しくなって私もお礼を……
「ふふっ、2人は仲がいいのね。こんな恋人を引き裂くなんて、陛下はなんて悪い人なのかしら」
王妃様の瞳に剣呑なものを感じる。
その言葉をいただけただけで充分です。
決して夫婦喧嘩などしないでくださいね。
「リナさんはいずれ帰ってしまうのね……寂しいわ。それまではまたお茶を楽しみましょうね」
王太子妃様は私との別れを惜しんでくださっている。
「はい、アリエラ様」
私が王宮を去るまでには、もう少し時間があるようなので、いっぱいお話しましょうね。
「ふたりの逢瀬を邪魔しちゃ悪いわ。アリエラ、帰りましょう」
「はい、お義母様。ではリナさんまたね!」
王妃様、王太子妃様は行ってしまった。
今度こそ、ケント様とふたりきりになる。
もちろんロナや他の使用人もいるのだが……
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