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第43話 お茶の時間
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王妃様からお茶に招かれ、部屋へ帰り着いても落ち着かない私。
「リナ様、決まったことは仕方がありません。まずはヘアクリームを用意しましょう」
ロナが、クリームの材料を持ってきてくれた。
「うーん、王妃様と王太子妃様、全く同じでいいのかしら?ドーラはおふたりの好きな香りを知ってる?」
「申し訳ございません。私はお聞きしたことがありません」
シュンと落ち込むドーラ。
彼女も私たちだけの時には、気持ちが表情に現れるようになってきた。
「先程つけていらした香水の香りから推測したのですが、王妃様は清楚な花の香り、王太子妃様は柑橘系の爽やかな香りがお好みなのでは?」
「ロナ、あなた香水の香りまでわかるの?すごいわっ!!確かに好きな香りを身につけることが多いはず。香りの基となる材料を変えて配合するわ」
ドーラはまた尊敬の眼差しをロナに向けている。
2人の関係も良好なようだ。
「リナ様が作ったというのはアイデアを出しただけではなく、自ら作業したということですか?」
せっせと作業を始めた私に、ドーラはびっくりしている。
「ええ、私が作ったの」
私のアイデアではなく、以前友達に教えてもらったものなので、作ったことだけ同意する。
「リナ様は放っておくと何でも自分でやってしまう方なんです」
ロナはそんな私をまるで問題児みたいに言う。
確かに貴族令嬢が実際に作業するのは珍しいのかもしれないけれど……私は貴族じゃないもの。
それに任された仕事をしている使用人の方々に私が勝手に作り始めた美容品作りを手伝わせるのはね……
クリームが完成し、あとは小瓶に詰めるだけ。
小瓶はデリーノ伯爵家の女性たちへ配る時に用意したものなので、装飾のないシンプルなものだ。
ジョセフィーヌ様へお渡しする時は、ロナが美しい装飾の瓶を用意してくれていた。
さすがに王妃様と王太子妃様に渡すには……
私が躊躇していると、ドーラがキレイな小瓶を持って戻ってきた。
「ドーラ、その瓶はどうしたの?」
「もらってきました。使い終わった化粧品の瓶は洗って返しているんです。その瓶がいくつかあるんじゃないかと思って……ありました!
担当者に確認したところ、王妃様と王太子妃様の使うものならと、この瓶を出してくれました」
「ドーラ、ありがとう。助かったわ」
複雑にカッティングされた瓶は光にあたるとキラキラ輝き、とてもキレイだ。
この瓶を使わせてもらおう。
「ロナ、洗浄をお願いできる?」
「はい、お任せください」
ロナが洗浄魔法をかけた瓶にクリームを詰める。
瓶を変えただけなのに、手作りのクリームがとても上質なクリームに見える。
包装紙とリボンをドーラが準備してくれ、ロナがとても素敵にラッピングしてくれた。
王妃様用のクリームは赤色のリボン、王太子妃様用のクリームには黄色のリボンをかけてもらった。
ドーラとロナのおかげで、憂鬱だった明日のお茶の時間が楽しみになった。
おふたりが喜んでくださるといいな……
食事会、クリーム作りで疲れた私は夢をみることもなく、ぐっすり眠った。
***
翌日、私たちを呼びに訪れた王妃様付きの使用人に案内されたのは温室。
花が咲き乱れる温室の中には、真っ白な丸テーブルとイスが置かれていた。
ここでお茶を楽しむのだわ。
私が席につくと、待つことなくすぐに王妃様と王太子妃様が現れた。
慌てて立ち上がり、挨拶する。
ドーラがテーブルに持ってきてくれたクリームをお渡しする。
「失礼いたします」と告げた後、1人の男性がクリームが入った瓶を凝視している。
魔法で鑑定でもしているのかな。
その後、それぞれの侍女が香りを確かめ、髪に塗ってみている。
「ごめんなさいね。王族が使うものは、試してから使う決まりなの。ほんのり香りがするわ。とってもいい香り」
アリエラ様が申し訳なさそうに教えてくださった。
クリームの香りは好みに合ったようでよかったわ。
数種のお菓子がのった皿が目の前に置かれた。
どれも美味しそう。
カップに注がれた紅茶からはとてもいい香りの湯気が立ち上る。
「さぁ、お茶を楽しみましょう」
王妃様が声をかけてくださり、お茶の時間が始まった。
「あなた、昨晩の食事中、アリエラと私ばかり見ていたわね。もしかして男性にはあまり興味がないのかしら?
陛下はともかくとして、我が息子たちはみな揃って女性に人気なのよ?あなたのような反応は珍しいわ」
王妃様から問われた内容に焦る。
王子様たちにうっとりしないとまずかったかしら……
たら~っと背中を冷たい汗が伝う。
「興味がないわけでもないのですが、奥様や婚約者のいる男性をあまりジロジロ見るのはよくないんじゃないかと思い、極力見ないように気を付けていました」
アリエラ様がうんうんと軽く頷き、花が咲くようにふわっと微笑む。
「そうなのね。私はそんなあなたが気に入ったわ。だってフィンレー様は私の旦那様なのに……何とか傍にと詰め寄る女性が多くてうんざりしているの。彼もデレッと鼻の下を伸ばしたりして……もーうっまったく!」
アリエラ様、旦那様がモテ過ぎて大変なんですね。
ヤキモチをやいてしまいますよね。
「それに、私には婚約の約束をした方がいるんです」
「あら?そうなの?恋人がいるのに、なぜ王宮へいらしたの?てっきり息子たちとの縁や王宮に出入りする貴族男性との出逢いを求めているものだと思っていたわ」
王妃様が不思議そうに首を傾けた。
「どうも私は珍しい存在らしいです。私は魔法も使えませんし、何の力もないのですが、周りにいる人が幸せになるそうなんです。その為、婚約は保留にされ、しばらく王宮で客人として過ごすようにと王命がありました」
「えっ?何、その何とも掴みどころのない話は……それでどうしてそんな王命が下りたのかしらね」
王妃様は何も聞かされていなかったようだ。
「私にもわかりません。ただ公爵様の助言があったのではないかと……」
「まぁっ!あの狸が陛下を唆したのね!」
王妃様、狸とはラザーニア公爵のことですよね?
「リナ様、決まったことは仕方がありません。まずはヘアクリームを用意しましょう」
ロナが、クリームの材料を持ってきてくれた。
「うーん、王妃様と王太子妃様、全く同じでいいのかしら?ドーラはおふたりの好きな香りを知ってる?」
「申し訳ございません。私はお聞きしたことがありません」
シュンと落ち込むドーラ。
彼女も私たちだけの時には、気持ちが表情に現れるようになってきた。
「先程つけていらした香水の香りから推測したのですが、王妃様は清楚な花の香り、王太子妃様は柑橘系の爽やかな香りがお好みなのでは?」
「ロナ、あなた香水の香りまでわかるの?すごいわっ!!確かに好きな香りを身につけることが多いはず。香りの基となる材料を変えて配合するわ」
ドーラはまた尊敬の眼差しをロナに向けている。
2人の関係も良好なようだ。
「リナ様が作ったというのはアイデアを出しただけではなく、自ら作業したということですか?」
せっせと作業を始めた私に、ドーラはびっくりしている。
「ええ、私が作ったの」
私のアイデアではなく、以前友達に教えてもらったものなので、作ったことだけ同意する。
「リナ様は放っておくと何でも自分でやってしまう方なんです」
ロナはそんな私をまるで問題児みたいに言う。
確かに貴族令嬢が実際に作業するのは珍しいのかもしれないけれど……私は貴族じゃないもの。
それに任された仕事をしている使用人の方々に私が勝手に作り始めた美容品作りを手伝わせるのはね……
クリームが完成し、あとは小瓶に詰めるだけ。
小瓶はデリーノ伯爵家の女性たちへ配る時に用意したものなので、装飾のないシンプルなものだ。
ジョセフィーヌ様へお渡しする時は、ロナが美しい装飾の瓶を用意してくれていた。
さすがに王妃様と王太子妃様に渡すには……
私が躊躇していると、ドーラがキレイな小瓶を持って戻ってきた。
「ドーラ、その瓶はどうしたの?」
「もらってきました。使い終わった化粧品の瓶は洗って返しているんです。その瓶がいくつかあるんじゃないかと思って……ありました!
担当者に確認したところ、王妃様と王太子妃様の使うものならと、この瓶を出してくれました」
「ドーラ、ありがとう。助かったわ」
複雑にカッティングされた瓶は光にあたるとキラキラ輝き、とてもキレイだ。
この瓶を使わせてもらおう。
「ロナ、洗浄をお願いできる?」
「はい、お任せください」
ロナが洗浄魔法をかけた瓶にクリームを詰める。
瓶を変えただけなのに、手作りのクリームがとても上質なクリームに見える。
包装紙とリボンをドーラが準備してくれ、ロナがとても素敵にラッピングしてくれた。
王妃様用のクリームは赤色のリボン、王太子妃様用のクリームには黄色のリボンをかけてもらった。
ドーラとロナのおかげで、憂鬱だった明日のお茶の時間が楽しみになった。
おふたりが喜んでくださるといいな……
食事会、クリーム作りで疲れた私は夢をみることもなく、ぐっすり眠った。
***
翌日、私たちを呼びに訪れた王妃様付きの使用人に案内されたのは温室。
花が咲き乱れる温室の中には、真っ白な丸テーブルとイスが置かれていた。
ここでお茶を楽しむのだわ。
私が席につくと、待つことなくすぐに王妃様と王太子妃様が現れた。
慌てて立ち上がり、挨拶する。
ドーラがテーブルに持ってきてくれたクリームをお渡しする。
「失礼いたします」と告げた後、1人の男性がクリームが入った瓶を凝視している。
魔法で鑑定でもしているのかな。
その後、それぞれの侍女が香りを確かめ、髪に塗ってみている。
「ごめんなさいね。王族が使うものは、試してから使う決まりなの。ほんのり香りがするわ。とってもいい香り」
アリエラ様が申し訳なさそうに教えてくださった。
クリームの香りは好みに合ったようでよかったわ。
数種のお菓子がのった皿が目の前に置かれた。
どれも美味しそう。
カップに注がれた紅茶からはとてもいい香りの湯気が立ち上る。
「さぁ、お茶を楽しみましょう」
王妃様が声をかけてくださり、お茶の時間が始まった。
「あなた、昨晩の食事中、アリエラと私ばかり見ていたわね。もしかして男性にはあまり興味がないのかしら?
陛下はともかくとして、我が息子たちはみな揃って女性に人気なのよ?あなたのような反応は珍しいわ」
王妃様から問われた内容に焦る。
王子様たちにうっとりしないとまずかったかしら……
たら~っと背中を冷たい汗が伝う。
「興味がないわけでもないのですが、奥様や婚約者のいる男性をあまりジロジロ見るのはよくないんじゃないかと思い、極力見ないように気を付けていました」
アリエラ様がうんうんと軽く頷き、花が咲くようにふわっと微笑む。
「そうなのね。私はそんなあなたが気に入ったわ。だってフィンレー様は私の旦那様なのに……何とか傍にと詰め寄る女性が多くてうんざりしているの。彼もデレッと鼻の下を伸ばしたりして……もーうっまったく!」
アリエラ様、旦那様がモテ過ぎて大変なんですね。
ヤキモチをやいてしまいますよね。
「それに、私には婚約の約束をした方がいるんです」
「あら?そうなの?恋人がいるのに、なぜ王宮へいらしたの?てっきり息子たちとの縁や王宮に出入りする貴族男性との出逢いを求めているものだと思っていたわ」
王妃様が不思議そうに首を傾けた。
「どうも私は珍しい存在らしいです。私は魔法も使えませんし、何の力もないのですが、周りにいる人が幸せになるそうなんです。その為、婚約は保留にされ、しばらく王宮で客人として過ごすようにと王命がありました」
「えっ?何、その何とも掴みどころのない話は……それでどうしてそんな王命が下りたのかしらね」
王妃様は何も聞かされていなかったようだ。
「私にもわかりません。ただ公爵様の助言があったのではないかと……」
「まぁっ!あの狸が陛下を唆したのね!」
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