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第29話 魚を食べよう

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翌朝は茶色の少し堅めのパンに野菜たっぶりのサラダ、スクランブルエッグとベーコンにポタージュスープ。

朝食はデリーノ伯爵家でも食べたようなよくあるメニューだった。

その後、ユリナーテ様にお願いして港の市場へ足を運んだ。
海草、貝類、魚が所狭しと並べられ、活気ある声が飛び交っている。
磯の香りが鼻にガツンとくる。

あれもこれも欲しい。
持ち帰れるものなら持ち帰りたい。
「ケント様、魚介類をデリーノまで持ち帰ることはできますか?」

「帰る直前に購入し、氷水を入れ換えながら急いで帰ればなんとかなるかな……多く持ち帰るのは無理だ」

「そうなんですね。運ぶのは難しいんですね」
うーん、残念だ。
なんとかならないだろうか……

「リナさん、この先に市場で買った食材をその場で焼いて食べられる食堂があるの。食べたいものがあれば買いましょう」
ユリナーテ様から素晴らしい提案があった。
えっ、それってバーベキューだ。
海鮮バーベキューだ!

ユリナーテ様は市場で働くおじさん、おばさんと会話を楽しみながら、おすすめの食材を聞き出し、買っている。
市場によく顔を出しているのだろう。
おじさん、おばさんが彼女をみつめる目がとても温かい。

どんな食材が売られているのかぐるりと見て回り、貝、海老、魚を購入し、市場の端にある食堂へ向かう。

買ったばかりの魚介類を網にのせ、火で炙ると、すぐに香ばしい香りが漂い出す。

「リナさんは何を持って帰りたいの?」

「ワカメでしょ、魚も欲しいです。貝は難しいかな……どうにか持ち帰る方法を考えます!」

私の言葉に、ユリナーテ様が瞳をキラキラと輝かせる。
「もし離れた場所へ運べるようになれば、もっとみんなに魚を食べてもらえるわ」

「魔法で冷やしたり凍らせて運ぶのはどうですか?」

「今は氷魔法持ちの親戚たちが遠方への配送を担当してる。人件費が高いから離れた場所ほど魚の売価が高いのよ。私は魚をもっと安く広く届けて、身近に感じて欲しい」

保存がきくのは干物や塩漬けかな。
あとは醤油漬け、味噌漬けにすれば少しは保存しやすいと思うけど、醤油にも味噌にもまだ出会っていない。
この世界にあるかどうかも不明だ。
〈神贈り人〉が再現してくれていたら……

「焼けたわよ。さぁ食べましょう」
ユリナーテ様の声で現実へと戻ってきた。
網の上に並ぶ魚介に茶色の液体がたらされ、懐かしい香りが鼻に抜ける。

「これ、これって醤油?」

「あら、リナは物知りね。これはショユという我が領に昔から伝わる調味料よ」

「もしかして味噌もありますか?」
向かいに座るユリナーテ様へズイッと前のめりになる。

「えっ、ええ、ミッソという調味料でスープを作ったりするわよ。確かここにもスープが……飲んでみる?」

味噌もあるの?
やった、やったね!
ザブンには味噌も醤油もあるみたい。
きっと昔 この地に現れた〈神贈り人〉が作ったんだ。

「はい、スープ飲みたいです。ミッソスープをください」

「あら、お嬢さんのお友達は好奇心旺盛だねぇ」
おばさんが笑いながらスープを運んできてくれた。
あっ、本当に味噌だ。
ミッソスープにはネギが散らしてあるだけ。
懐かしくて、それなりに美味しいのだが、具だくさんの味噌汁を楽しみたーい。
魚介入りだともっと美味しいのにな。

お腹いっぱい食べた私たちはザブン伯爵邸へと戻る。
調理の邪魔にならない時間に厨房を借りれることになったので、魚介を数点購入し、持ち帰る。

途中、ショユとミッソを取り扱う立ち寄ってもらった。
ショユとミッソは厨房にあるものを使っていいそうだが、デリーノへ持ち帰る用にね。

帰り着くと、ロ二ー様が玄関フロアに現れた。
あっ、来てたんだ。

「デリーノ伯爵令息、リナさん、久しいな。ユリナーテ、これから世話になる。
うっ、うおっ、なんだこの香りは……」
ロニー様が私たちから距離をとる。

「先程、市場でバーベキューをしてきましたの。魚介も持ち帰ったのよ。食欲を刺激する香りでしょう?」
ユリナーテ様の顔が怖い、目がつり上がった気がする。

「あっ、ああっ、うんっ」

「では、エスコートしてくださる?」

「おっ、おおっ、もちろんだ」
ロニー様は息を止めている?
顔が赤い。
そっぼを向いて息を吸い込んではまた息を止めている。
そんなに香りが苦手なの?

ケント様のエスコートで後ろに続く私には丸見えだ。
その行為に何か意味ある?
磯の香り、魚介の香りからは逃れられないと思う。

一旦部屋へ戻り、各自湯浴みを済ませ、食堂へ向かう。
今夜は野菜サラダにコンソメスープ、メインは白い塊が出てきた。
目の前で、ハンマーが振り下ろされ、中から現れた魚が切り分けられる。

ロニー様、ケント様はハンマーが出てきて驚いたようだ。
後ろに下がろうとして、イスがガタッと音をたてた。

これ、これって塩釜焼きじゃない?
私たちを歓迎して、用意してくださったんだわ。
実は私も知識として知っているだけで、初めて口にする。
塩辛いかと思っていたけれど、想像しといたほどではない。
魚のくさみもなく、身がふっくらしっとりしていて、とっても美味しい。
男性陣は微妙な顔をしている。

「ケント様、これは縁起のよい料理ですよ。苦手ですか?」

「ああ、気持ちはありがたいんだが、さっばりしすぎていてね。僕は肉のようにこってりしたものが好みだ」

「君もそうか?気が合うじゃないか。俺ももっとこってりしたものが食べたい」

なるほどね。
魚を食べ慣れない彼らは、こってりが好き。
ふむふむ。

「ユリナーテ様、明日の昼食は私が作ってもいいですか?」

「ええ、もちろん」
ユリナーテ様が厨房へかけあってくれ、厨房を使えることになった。
少し遅めの昼食になる予定だ。







    
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