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第5話 私、働きます!

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ケント様は顔色が悪いし、いかにも病人に見えるのだが、病気ではないらしい。
じゃあ、看病は必要ないのかな……

「そうそう確認なのですが、私は何をすればいいですか?ケント様の看病をと考えていたのですが、病気ではないようですし……」

「リナさんは客人として滞在するとみなに伝えているので何もしなくていい。
慣れない場所に突然来てしまったわけだから……
あっ、そうだ、たまに僕の話し相手をしてくれないか?違う世界の話を聞いてみたい」

「話し相手でいいのですか?了解です!」
それなら私でもできそうだと、ほっとして力が抜けた。
やっぱり知らない場所で知らない人に囲まれて、気に入られるように、必要だと思われるように、何か働かないとと気が張り詰めていたようだ。

ケント様との昼食を終えた私は、部屋へと戻ると、バタンとベッドに突っ伏した。
はぁー、疲れた。
でも話し相手でいいのなら、何とかなりそうだ。
食事もすごく美味しかったし、周りの方々も優しい。
なんとか暮らしていけそうだ。

そのままベッドでゴロゴロしていたら、いつの間にか眠っていたようだ。

トントン
「リナ様、もうすぐ夕食の時間になりますので、準備いたしましょう」
ロナさんの声で、目が覚めた。

「んん、はーい、よろしくお願いします」
ロナさんが部屋へ入ってきて、促されるままイスに座り、されるがままに。
ロナさんが優しい手つきで髪を整え、化粧を施してくれる。

人にメイクしてもらうのは、慣れないな。
緊張する。

「リナ様、いかがでしょう?」
鏡にうつる自分を確認する。

「ロナさん、ありがとう」
ロナさんの手にかかると自分がどこか裕福な家庭のお嬢様になったような気分になる。
ふんわりと柔らかいメイクだ。
自分が自分じゃないみたい。

ケント様と夕食をとっていると、使用人たちがバタバタと動き出した。
ん?何かあったのかしら?と思っていると、
「ケント様、アレン様とジョセフィーヌ様がいらっしゃいました」
と報告がきた。

アレン様とジョセフィーヌ様?
お客様が来たからか、食事中にも関わらずケント様が慌てて立ち上がった。

バタンッ

「ケント~、部屋から出たとか本当だったのだな」
「ううっ、よかったわ。ケントが、ケントが……あなたのお陰なのね」
着飾ったすんごい美人さんに両手を握られ、ブンブン振られる。
見た目は淑やかな美人さんなのに、意外と力強いな。

「心配させてすみません」
ケント様がペコリと頭をさげた。

アレン様とジョセフィーヌ様はケント様のご両親?
確かに3人並ぶ姿を見ると、似てるかも。
ケント様はどちらかというとお母さん似なのね。

少しするとアレン様、ジョセフィーヌ様の夕食が運ばれてきて、一緒に食事をすることになった。
とはいっても私とケント様はほとんど食べ終えていたので、デザートをいただく。

ご両親はケント様が部屋から出てきたとの報告を受け、居ても立ってもいられず、離れからやってきたらしい。

食事でお腹が満たされると、気持ちも落ち着いたのか、ジョセフィーヌ様から改めてお礼を言われた。
「リナさん、本当に本当にありがとう。ケントが部屋から出たのは久しぶりなのよ。話を聞いた時は嘘じゃないかと疑ったんだけど、きっと神様があなたを寄越してくださったんだわ。これからケントをよろしくお願いします」

私のことも使用人から報告がいっているのだろう。
私が突然 ケント様の部屋に現れたことも、私の名前も知っているようだ。

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。突然 現れた私を客人として扱っていただいて、ケント様には本当に助けてもらっています。身の回りのモノ、部屋まで準備していただいて……」

「まあまあ、本当にいい子だわ」
ジョセフィーヌ様が微笑んでくれる横で、アレン様が深く頷いていて……
離れで暮らしているというケント様のご両親にも客人として受け入れてもらえたようだ。

食事を終えると、アレン様とジョセフィーヌ様は離れへと帰っていった。

「リナさんは何も聞かないんだな……」
「何も聞かないとは?」
「僕がなぜ部屋から出なくなっていたのかを……」
「確かにどうしてだろうと気にはなりましたが、聞く必要はないのかなって思いました。話す必要があったり話したくなったら、話してくれるでしょう?」
誰にでも触れられたくないことはある。
ましてや知り合ったばかりの私が踏み込んでいいとは思えない。

「そうか、そっか……別に話さなくていいんだね」
「はい、そうです。話したければ話せばいい。話したくなければ話さなくていいんです。それにしても素敵なご両親ですね」

「ああ、ありがとう。両親を誉められると嬉しいものだな。こんなに誰かと話すのは久しぶりだ……」
話の最後のほうは声が小さくてなんとか聞き取れるような独り言ともとれるボソボソとした言葉で……
ケント様は不健康な顔色だし、げっそりと頬がこけていたりするけれど、嬉しそうに笑った彼にありがとうと言われ、嬉しかったし、ほんの少しドキッとした。



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