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第1話 通勤電車の貴公子
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私、結城 環奈(ゆうき かんな)には、ずっと気になっている人がいる。
『通勤電車の貴公子』
彼の容貌や雰囲気から、私か勝手につけた呼び名だ。
名前も年齢も、住所、勤め先。
私は全く彼のことを知らない。
毎朝の通勤電車で、同じ車両に乗ってくる彼。
少しでも近くで観察したいところだが、彼のほうが後で乗ってくる為、近くにいる時もあれば、遠くなる時もあるのだ。
彼との距離が近いと、嬉しくなる。
遠いと、あー今日は終わったと、元気をなくす私。
彼は、私の働く会社の基準だとギリギリセーフで通用するくらいの暗めの茶髪をゆるく左右に流している。
柔らかそうな髪質で、近いとつい触りたくなる。
もちろん触ったりはしないけれど。
いつもピシッとしたセンスいいスーツ姿。ネクタイの柄もいい。
そんな格好が、スラッと背の高い彼によく似合っている。
高い鼻筋、涼やかな目元、薄い唇の端正な顔。
まるで、マネキンのようだと私は思っている。
マネキン、褒め言葉としてどうかと思うが、一応 私なりに誉めている。
本当にかっこいいのだ。
つり革につかまった手の甲に、血管が浮き出ている。
あのつり革につかまる腕に抱き締められたい、なんて不埒なことを考えてしまうほどに。
彼は私と同じ駅で降りていく。
改札までは一緒だが、改札を出た所で左右に別れる。
毎朝、ここでお別れ。
彼が颯爽と歩いていく後ろ姿に、私は心の中で、いってらっしゃいと言うのだ。
これが、私のルーティーン。
この話を友人にすると、「うわっ、こわっ。」と言われる。
確かにこんなことを知られたらヤバイ。
私が同じことを誰かにされたら、怖いと思う。
だが、私は彼に近づいたり、話しかけたりしない。
たまに、こっそり観察するだけ。
半年前に彼をみつけてから、退屈だった通勤電車で過ごす時間が楽しみになった。
彼は、私のことなど気にかけてもいないだろう。
毎朝の風景の端っこに、私がチラッとうつるだけ。いやうつってもいないかもしれない。
彼に認識されてないとしても、少しでもかわいい、キレイと思って欲しくて、今まで以上に、身なりに気を使うようになった。
私は毎朝、『通勤電車の貴公子』に会うのを楽しみにしていた。
『通勤電車の貴公子』
彼の容貌や雰囲気から、私か勝手につけた呼び名だ。
名前も年齢も、住所、勤め先。
私は全く彼のことを知らない。
毎朝の通勤電車で、同じ車両に乗ってくる彼。
少しでも近くで観察したいところだが、彼のほうが後で乗ってくる為、近くにいる時もあれば、遠くなる時もあるのだ。
彼との距離が近いと、嬉しくなる。
遠いと、あー今日は終わったと、元気をなくす私。
彼は、私の働く会社の基準だとギリギリセーフで通用するくらいの暗めの茶髪をゆるく左右に流している。
柔らかそうな髪質で、近いとつい触りたくなる。
もちろん触ったりはしないけれど。
いつもピシッとしたセンスいいスーツ姿。ネクタイの柄もいい。
そんな格好が、スラッと背の高い彼によく似合っている。
高い鼻筋、涼やかな目元、薄い唇の端正な顔。
まるで、マネキンのようだと私は思っている。
マネキン、褒め言葉としてどうかと思うが、一応 私なりに誉めている。
本当にかっこいいのだ。
つり革につかまった手の甲に、血管が浮き出ている。
あのつり革につかまる腕に抱き締められたい、なんて不埒なことを考えてしまうほどに。
彼は私と同じ駅で降りていく。
改札までは一緒だが、改札を出た所で左右に別れる。
毎朝、ここでお別れ。
彼が颯爽と歩いていく後ろ姿に、私は心の中で、いってらっしゃいと言うのだ。
これが、私のルーティーン。
この話を友人にすると、「うわっ、こわっ。」と言われる。
確かにこんなことを知られたらヤバイ。
私が同じことを誰かにされたら、怖いと思う。
だが、私は彼に近づいたり、話しかけたりしない。
たまに、こっそり観察するだけ。
半年前に彼をみつけてから、退屈だった通勤電車で過ごす時間が楽しみになった。
彼は、私のことなど気にかけてもいないだろう。
毎朝の風景の端っこに、私がチラッとうつるだけ。いやうつってもいないかもしれない。
彼に認識されてないとしても、少しでもかわいい、キレイと思って欲しくて、今まで以上に、身なりに気を使うようになった。
私は毎朝、『通勤電車の貴公子』に会うのを楽しみにしていた。
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