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襲来

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午後は一度お昼寝に入ったルノ。公爵が用意した簡易ベッドで丸くなって眠る様子を使用人は幸せそうに眺めた。

「尻尾を噛まれるのは癖なのかしら?」

「いつもは公爵様の腕に抱きついているそうよ。」

「じゃあきっと寂しい時の癖なのね...。」

「ああ...寝息すら愛らしいわ。報告書は一枚じゃ足りないわね。」

「それルノ様の観察日記になってない?」

「同じ事よ。」

そんな穏やかなお昼寝タイムの最中、事件は起こった。


「め、メイド長!大変です!」

「ルノ様が起きてしまうでしょうっ。静かにしなさいっ。」

「すみません...!」

「それで?何があったの?」

「それが、



____バーキンス伯爵姉妹がいらっしゃいましたっ。」

その言葉にメイド長は眉間に皺を寄せる。

「なんですって...?事前連絡もなしに、何を考えているの?」

「おそらく公爵様のいない時間を狙っての事でしょうね。」

「というとはルノ様を狙ってる可能性が高いわね。最近どこかから噂が漏れたようだし...。...レイン、ケイト、あなた達は隠れてルノ様の護衛を。私が令嬢の相手をするわ。ミル、ライカ、あなたはすぐにウェーゲル様に連絡をお願い。


____ルノ様に何かあったら私たちの首は飛ぶと思いなさい。」






こうしてまだ夢の中に居るルノの知らないところで、緊急任務が実行に移された。


















「バーキンス・レイラ様、バーキンス・シャルロッテ様。今日は何のご用件で?」

玄関ホールで、騎士を二人とメイドを二人連れながら立っている姉妹の令嬢に向かってメイド長はそう問いかけた。

「あら、歓迎の言葉がないなんて酷いメイドね。公爵家の教育はどうなっているのかしら?」

「私たちは伯爵よ?それなりの礼儀を持ってもらわなければ困るわ。」

「事前に連絡がなかったものですので、何も準備ができていません。公爵様も家を出られておりますので、今日のところはお帰りください。」

貴族らしい傲慢な態度を崩さない伯爵姉妹にメイド長が恭しく頭を下げる。それでも二人は引く気がないようだ。

「だったら公爵様をお待ちするわ。この前の事業で父がお世話になったから、お礼の品を持って来たの。」

姉のレイラの方がメイドの持っている袋へ視線を流す。

「公爵様の許可がなければ、お通しする事はできません。」

「...あら、貴方、フェードルイ辺境伯出身だって言うメイド長じゃない?随分老けたわね。」

「あら本当。辺境伯はあの何も実らない痩せた土地で今もしぶとく生き残っているそうね?そんな貴方がなに?筆頭貴族の私たちに口答えでもするつもり?」

「...家のことは、関係ありませんので。」

家を捨てるように出て長く経つメイド長は、冷めた声でそう返す。

「そうね、関係ないわ。...だから、私達がお父様に“フェードルイ辺境伯の女に侮辱された”と言うのも、関係ないわよね?」

「っ...侮辱など...。」

「確かにされたわよ?


___伯爵家の私達に、肯定以外を述べたんだもの。」

「あら、丁度いいところに花瓶があるわね。」

妹の方のシャルロッテは近くにあった花瓶を手に取るとその花を床に投げ捨て踏み潰し、中に入っていた水をメイド長の上でひっくり返した。

ばしゃばしゃ、と髪の毛をつたった水が地面に落ちる。
ぎゅっと、唇を噛み締め、メイド長はその嫌がらせに耐えた。

それをいよいよ見かねた執事の一人が言葉を挟む。


「では、お二人を応接間にお連れします。」

「あら、話のわかる人間がいるじゃない。」

「この歳のいった老女は即刻解雇した方がいいわよ?とぉっても耳が遠いみたいだから。」


執事に招き入れられた二人は上機嫌になり、階段を登って行った。





貴族では年齢や性別よりもその身分が最優先される。
だから、主人のいない今の状況では伯爵を追い出せるような身分の人間は、この屋敷に居ないのだ。


一体どうしたら...と考え込むメイド長が途方に暮れる玄関ホールに、小さな足音が響く。
それは躊躇いがちにメイド長へ近づき、止まった。




「...だいじょうぶ、ですか?」



「っ...ぇ....ルノ、様...?」





びしょ濡れで一人残されたメイド長は目の前に現れた存在に顔を上げる。
そこには初めて間近で見るルノが、いつものように虎のぬいぐるみを抱いて立っていた。














ピクリと耳が揺れ、なにか“知らない気配”を感じて目を覚ます。しばらく眠い目を擦って辺りを見渡すが、いつも通りのお昼寝スポットで、そばには虎くんもいた。
時計は2時45分を指していた。おやつにはまだ少し早い時間だ。

しかしもう一度眠る気にもなれなかったため、部屋の中をうろうろする。今食堂に行ってもまだおやつはないだろう。でも、もしかしたらあるかもしれない。

そう思ったら、いてもたってもいられなくなり、虎くんを抱いて部屋を出る。
そして食堂へ向かう途中、誰かの声が聞こえた気がした。
すっと、耳をすませてみると、それは女の人の声だった。


「...だれか、きてる?」


ジル様がいないのに...?
あ、じゃあ今“お留守番”している僕が、ジル様は居ませんって言いに行かなきゃ!
話しかけていい人間様かどうかはわからないが、とりあえず様子を見るために声のする方へ足を動かした。





しかし向かった先には、なぜか水をかけられてる女の人がいた。

水をかけているのはキラキラした服を着た人。...おそらく貴族様だ。
貴族様が、見たことのない別の人間様に水をかけていた。


「(なんで...?)」


...まったく状況が理解できない。


なんでそんな酷いことするんだろう?それに、あの水をかけられた人は多分、。...なんというか、慣れた気配を感じる。それに対して貴族様の女の人とその後ろの人達は初めての気配だ。

ジル様以外の貴族様を初めて見て、得体のしれない存在が怖かったのでしばらく息を潜めて見守っていると、もう一人の慣れた気配の人が貴族様達を連れて行った。

残ったのはびしょ濡れの女の人だった。




慣れた気配であったため、多少警戒を時ながら、それでも恐る恐る近づいて声をかけてみる。だってそのままじゃとても寒いだろうから。

僕はタオルの場所を知っているから、案内できる。




「...だいじょうぶ、ですか?」


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